特集 連携で学生を創る

産業界との連携を中心とした教育の取り組み
〜大学コンソーシアム石川「プレ・インターンシップ」と金沢星稜大学の取り組みを中心に〜

奥村 実樹(金沢星稜大学経済学部准教授)


1.はじめに

 キャリア教育を巡る環境は、ここ10年、文部科学省、経済産業省、厚生労働省といった行政、並びに、日本経団連を初めとする経済団体、日本労働組合総連合会を初めとする労働団体といった、異なる関係者が揃ってその必要性を強く訴える状況となっています。
 これらの動きの背景には、フリーター、ニートといった若年学卒未就職者の増加と彼らに対する再教育の必要性、その問題の根底にあると考えられる就業意識・職業意識の希薄さがあります。もちろん、それは、在学中の大学生等にも当てはまる問題です。キャリア教育は、その性格上、産官との協力体制が必要になる場合が多く、それら外部関係者の、教育に対する更なる協力体制への追い風にもなっているようです。そのような状況の中、産業界と連携した取り組みとして、私が担当教員の一人であるプレ・インターンシップと、所属する金沢星稜大学の事例について、取り上げていきたいと思います。


2.働くってどういうこと?〜プレ・インターンシップ〜

 当授業は、高まるキャリア教育への要望に応えるために、コンソーシアム石川(旧いしかわ大学連携促進協議会)において、当時、いしかわ大学連携促進協議会の企画調整部会委員長であった金沢大学の田中一郎教授を中心に、同協議会が運営するシティカレッジによる単位互換授業として2006年度から始まりました。その詳細は、金沢大学HP内「日本海学シンポジウム 高等教育段階におけるキャリア教育の在り方について−石川で学ぶ石川から巣立つ」(http://www.kanazawa-u.ac.jp/faculty/kiko/gp/jpsea.pdf)をご覧下さい。
 当科目の最大の目的は、キャリア教育が手薄となりやすい1・2年次の学生に対し、その就業意識の向上や社会人基礎能力の習得を目指しつつ、3・4年次の専門課程における主体的な学習を促すことです。授業形式は、企業取材を含むため、変則的な夏期集中講義の形式を取っています(履修単位は2単位)。担当教員は、先の金沢大学の田中一郎教授と私が初年度から務めていますが、その実際の授業運営に当たっては、テキストとして用いる資料作成から、自己分析やビジネスマナーの指導を初め、その多くを、大学生のキャリア教育に対して多くの実績を持つジョブカフェ石川ジョブサポーターの方々に担当いただいています。
 授業は、大きく次のように構成されています。まず、8月上旬の3日間に集中講義形式で、インターンシップとは、自己分析、業界・職種研究(複数の企業から若手社員・人事担当者を招き)、ビジネスマナーの順に学びます。次に、そこで学んだことを活かして、グループごとに石川県の企業数社へ出向き、企業訪問並びに若手社員への取材を行います。最後に、その取材内容を、自身の職業観も踏まえ各自レポートにまとめ(優秀作はジョブカフェ石川のHP内に掲載)、それを盛り込みながら9月下旬に、グループごとにパワーポイントを用いプレゼンテーションを行います。実際の企業取材はもちろん、企業の選択、アポイントメント、写真撮影等、可能な限り学生達に行わせています。
 企画・主催する側が、いくら期待を込めても受講する側に響かなければ、意味がありません。特に、このような、明確な一定の目的を持った授業であれば尚更です。昨年度の授業評価アンケートから同授業の目的と関連する項目の評価を取り上げると(回答者13人)、『働くということに対するイメージが得られましたか』との問に、6人が「得られた」、7人が「まあまあ得られた」で、「どちらとも言えない」「あまり得られなかった」「得られなかった」は0人でした。また、『卒業後の進路(就職)を考える上で有益でしたか』との問に、8人が「有益である」、5人が「まあまあ有益である」と回答し、「どちらとも言えない」「あまり有益ではない」「有益ではない」は0人でした。また、『受講したことで卒業までの勉学についての目標が得られましたか』との問には、5人が「得られた」、同じく5人が「まあまあ得られた」で、「どちらとも言えない」「あまり得られなかった」「得られなかった」との回答がそれぞれ1人でしたが、その理由は、「元々今年就職する気がないので」「結局自分の人生」と個人的なもので、幸い肯定的な評価が大半を占めました。
 また、自由記述型の感想では、「企業の内面を実際に見ることができて、自分の想像やイメージを良い意味で壊すことができた」「いろいろな今まで会ったことのない方々と話し、意見を聞けたことは、今後また他人と関わるとき、また、大学で授業を聞くときにも活かしていけると思う」「働くということに対しての不安が少し消えて、自信につながった」といった声が挙がりました。これらからも、企画・主催側の当初の目的を、一応果たすことができたのではと、一担当者として安堵しています。


3.金沢星稜大学における取り組み

 私が所属する金沢星稜大学は、同じ稲置学園に属する星稜女子短期大学とともに、その設立から、産業界を中心に地域との結びつきを重視してきました。ここでは、本学並びに短期大学で、比較的新しく実施され、継続性のある地元産業界と関係した教育について、いくつか紹介していきたいと思います。

(1)お松の経営指南
 学生に、地元企業に関心を持ち、業界・企業選びなど就職の際に役立ててもらうと同時に、ケーススタディとして経営学も学んでもらおうと、本学事務局が日刊する学内紙『星稜TODAY』にて週一回連載している教材です。監修する山崎泉講師が女性であり、また学生に親しんでもらうことも目的に、加賀藩主前田利家の妻お松がキャラクターとして紙面に登場し、地元企業ならびにその事業に関連する経営用語・経営理論を解説する形を取っています。
 1企業につき4週(4回)にわたって扱い、1週目に企業の概要、2・3週目に特色のある企業活動とそれに絡む経営用語・理論の解説、4週目に企業の北陸に対する愛着や思い(学生のインタビューによる)という構成です。現在までに予定分を含め15社を扱っています。取り上げる企業は、幅広い業界から、特色のある経営を行い、本学学生の就職実績があるという点を重視しています。また、経営用語・理論に関しましては、会計学を担当する監修の山崎講師と経営学を担当する私とで議論し、とりまとめています。
 インタビューを担当する学生は、主に、山崎講師のゼミナール3年生を中心に行っていますが、そのインタビューを経験した彼らの感想は、先に取り上げたプレ・インターンシップの感想と同様、就業意識や職業意識を高めるものでした。

(2)金沢若人もれしゃん塾
 産業界を直接の対象とする活動ではありませんが、本学の澤信俊教授が、多彩な才能を発揮されているフランス人のフランソワーズ・モレシャン女史とで立ち上げ現在まで続く、地域貢献型学生組織です。現在までの活動において、地元の伝統産業を考えるというテーマも持っており、一昨年は、日本的にも著名な金沢市の和傘職人である松田弘さんの協力を得て、幼稚園児とともに和傘を制作する活動を通し、大学生はもちろん、より幅広い層に石川県の伝統産業を見直してもらうという活動を展開しました。
 当活動は、授業としてではなく、自主的な学生の活動として運営されていますが、現在まで度々、地方紙・テレビを中心にその活動が紹介されるなど、一定の評価を確立しています。また、結成から6年目となる今年度は、キリン福祉財団から「地域エコ交流プロジェクト」として支援もいただいています。

(3)セミナーコミュニティ(星稜女子短期大学)
 2006年度から始まった体験型少人数教育で、4単位必修のクラス制という形式をとっています。開始当初から「教育学習方法の改善」のテーマで、私学事業団より特別補助をいただいています。そのクラスの一つに、安藤信雄准教授が、コンビニエンスストアを展開するサークルKサンクスと共同で立ち上げた、地元食材を使ったコンビニ弁当の企画開発があります。期間限定ですが、実際の同社系列コンビニエンスストアで販売されます。地元マスメディアに毎年取り上げられるなど反響は大きく、現在では他の大学も参加し、コンペ形式で発売権利を得た各大学の特色を出した弁当が販売されています。

(4)寄付講座
 本年度2009年に、地元石川県の信用金庫である金沢信用金庫から、「実践・地域金融論」の名称で、寄付講座を受けました(担当教員:吉川顕麿教授)。同金庫役職員に、全15回中11回分、講師として担当していただきました。本学学生の希望就職先としても人気の高い同金庫の実際の話を、学生が聞ける貴重な機会として本学が得られる一方、同金庫も、社会貢献の一環として、この機会を「地域密着型金融の取組み」と位置づけ、広報を行っています。相互にメリットがあるということは、産学相互交流をしていく上で重要な視点だと思われます。

(5)ゼミナール活動
 本学は、特に近年、地域貢献型運営ゼミの意義を認識し後押ししていることもあり、各ゼミナール担当教員が、それぞれの専門を活かした活動を行っています。その中には、地元企業・団体の経営について調査・検討するゼミナールもあります。


4.おわりに

 今回、私が関わった、あるいは直接見聞きした活動を取り上げてきました。担当していても、その教育効果の高さに驚かされることもしばしばです。しかし、今後の課題と改めて感じたことを最後に付け加えたいと思います。高い教育効果を持たせるためには、学生一人ひとりが主体的に授業・学外活動に関わることが必要になります。教育形態としては、少人数制が適切です。しかし、「就業意識・職業意識の向上」は、大なり小なり学生皆が必要なことです。一方、そのような授業・学外活動は、学習課題や自主的な行動が多く必要とされるため、あえて避けて選択しない学生も多く存在します。そのため、今後は、いかにそれら個々の取り組みを組織として可能な範囲で、より多くの学生に学習効果が上がる形で提供できるか模索する必要があるかと思われます。非常に困難を伴う課題ですが、その実現が、「大学の個性」を形作る大きな要素となるように感じています。


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