大学教職員の職能開発

教育改革FD/IT理事長・学長等会議開かれる


 去る、平成21年8月8日(土)上智大学の10号館講堂を会場に106大学4短期大学より189名の理事長、学長、学部長等が参加して開催。
 今年度は、「学士力を担保する大学の教育力強化を考える」として、その戦略を学内、高校、他大学、地域社会・企業との連携を含め探求する場とした。会は、向殿政男会長(明治大学)より「大学連携、高大連携、産学連携の中で日本全体として叡知を結集し、人材育成の役割を分担する中で国内外に通用する人材作りに協同していくことが望まれる」と開催趣旨の説明があり、次いで会場校を代表して、学校法人上智学院の高祖敏明理事長より「メディアによる教育の改革、教育の質保証に向けての自主的な取り組みの推進、取り組みを促進する大学団体、学術会議等の役割の重要性と団体への国の支援が必要」との挨拶があった。会は、引き続き講演、全体討議、関連情報に入った。以下に会議の概要を紹介する。


1.講演

「日本学術会議における大学教育の分野別質保証の検討状況」

 北原和夫氏(日本学術会議分野別質保証検討委員会委員長、国際基督教大学教授)より、次のような説明があった。

1) 文部科学省の中央教育審議会での学士課程の答申を受け、20年9月に分野別質保証の在り方について、各専攻分野における学びの本質は何であるか、審議依頼があった。21年1月から「質保証の枠組み検討分科会」、「教養教育・共通教育検討分科会」、「大学教育と職業の接続検討分科会」を設置し、検討を進めている。また、学位が500から600あるので、分野の選定についても検討することにしている。
2) ここでは、現在まとまりつつある分野別質保証の枠組みについて報告する。基本的な考え方として、21世紀は単なる個別の知識、技能の蓄積ではなく、違う分野・階層の人達と協働して世界的な課題に挑戦していく教育、いわゆる「協働する知性」を考える必要がある。それには、戦略性、手続きが大事で、かつ論理を共有し、コミュニケ−ションに正確さと豊かさ、違う立場の人達を理解する、目に見えないメカニズムをイメージする力が大学における学習成果として求められて来ているのではないか。
3) 世界のすべての人が本質的な豊かさを求められるよう、我々は何をすべきかという認識は、1999年の「世界科学会議」、1948年の「世界人権宣言」、「日本国憲法」の中でも明言されているので、質保証の参照基準に取り入れることを考えている。
4) 分野別質保証の検討にあたり、何に重点をおくべきか。大学評価機構等のように細かい評価項目を作るのではなく、大学が自己点検する際の参照や新たな教育プログラムを作るときの参照となるものを考えている。
5) 参照基準とは、学生に身に付けてほしい知識・技能を列挙するのではなく、それぞれの分野に固有な学びの核心を提示する。それは二つの要素からなっていて、それぞれの分野に固有な「世界認識の仕方」を身に付けることと、それを通して「世界への関与の仕方」をそれぞれの分野で検討したいと考えている。いわゆる世界の課題に挑戦する力で、学士課程を超えて教育全体に波及するものと考えている。
6) このような参照基準として、英国の高等教育質保証機構(QAA)は、分野別参照基準を提示している。例えば、歴史学では歴史的な事実の中で、人の動きの背後にある思想や社会の動きを総合的に思い描く力、時代の動きに共感できるかどうかなど、歴史をどう観るかというようなところに重点をおいている。評価はそのような能力をつけさせるために、教材や教育プログラムの作成は各大学の自主性に任されており、各大学が同じものをやるということにならない仕組みを考えてきた。一方、英国と日本の違いは、英国は専門教育に対し、日本は専門教育と教養教育が複合しており、専門分野以外の学びができるようになっている。教養教育・共通教育がなぜ必要かも含めて評価指標を作っていく必要がある。また、独自の建学精神を担う私立大学が多数あり、その役割を再確認する必要もある。
7) 分野の選定は、現状の学問の枠組み、学科の枠組みでよいのか。学問、教育の将来像と大きく関わってくる非常に大きな問題である。学際的あるいは断片化した専攻分野が、何を目指しているのか、大きくまとめて検討したい。分野分けすることで、断片化した「知」を再統合することになる。例えば、物理学の分野別質保証では、物理学固有の方法論、視点等を検討することになる。しかし、それをもっと広げて物質からなる世界の理解という目的をたてると、物質の起源・構造・機能・変換を含めると、宇宙物理学、化学、生化学など多岐に亘るところで、物質の世界の全体像を求めるような枠組みを提案できるのではないか。断片化した各分野が自己主張するのではなく、次世代の育成という視点で共通のゴール、概念を見出す努力をすることが重要と考える。
参照基準と各大学での教育課程編成
参照基準と各大学での教育課程編成
【質 疑】
[質問1]
地球市民と言っても学生の現状を見ると無理がある。エリート教育を目指す大学なら世界に挑戦する教育を否定しない。しかし、その前に一般常識や日本人としての道徳や教養の教育を考えるべきではないのか。
[回答]
  共に働く知性を持っているかどうかが重要。エリートであっても、例えば、自分が考えていることを他者に伝えることができないとか、わずかな知識を持った者でも知識を結び付けていく力があればよいのではないか。量的には違いがあっても同じ思考、感性を持ち得るのではないか。そういうものが一番大切ではないかと思う。そのような多様性の中でも、やはりある共通のゴールを共有しているのだ、というところにもっていきたい。
[質問2]
  参照基準について正式に報告するのはいつになるのか。23年度から始まる認証評価に間に合わせるつもりか。
[回答]
  9月、10月にくらいにシンポジュームがあるので、それまでに完成したい。様々な批判を浴びながら作っていきたい。評価による質保証に対峠して、大学コミュニテイ、学協会、社会とともに作り、自立的に質保証していく力をつけたい。
[質問3]
  「協働の知」が達成できたかどうか、評価をどのように考えているか。入学試験で目標を出してあげなければ、高校生は我々が望む方向に向かってこない。そういうことに興味のない学生が入ってくる。そのへん戦略は考えているか。
[回答]
  大学卒業時に学生に自信をもって卒業できるとか、学びはこれだけだがおそらく働けるのではないか、という感覚を調査する方法がある。解のない問題に挑戦しなければいけないときに、どのような戦略、手続きでやれば解に近づけるのか、というものが力として認識してきたら、入学試験の方法も変わってくるのではないか。
[質問4]
  分野別で参照基準を作るときに高校生にアピールするために、キャッチな学科名を設けているが、そういう領域はどうされるのか。
[回答]
  学科名が膨大にあるが、何か共通点があるような気もしている。例えば、人間学科、コミュニケーション学科、メディア学科では、人と人との関係の理解を深めるという共通のゴールのもとに、理解するためにどのような認識の仕方があって、それをもって世界がどう変わるかというところで、参照基準を作ることになると思う。
[質問5]
  理系、医学系、栄養系などは、国家試験があり、それは国際的な学会で基準がある。詰め込み教育でも何でもなく、応用ができなければ他学科、他の職種の人達と連携しなければできない。そういった話が出てくることを期待したが、全然出てこなかった。
[回答]
  職業の資格と結びつく専門職は、ゴールが明確なので質保証できている。医学、歯学、教育、教員養成は検討の外においている。学士力のところでつながっていなければいけないものがあると思うが、それは教養教育、共通教育のところで議論して何らかの結論を出したい。


2.講演

「大学の教育力強化を支えるfd活動と学習支援活動」

 関田一彦氏(創価大学教育・学習支援センター長)より、次のような説明があった。

1) 創価大学では、教員向け研修と情報提供の教育支援活動と正課外の学習支援活動の両方をCETLで実施している。全学的FD機関として参加を教員に求めてきた従来のアプローチから、学部が自主的に企画するFD計画に研修メニュー群の提供と、学部主導の支援・協働という新しいアプローチに切り替えようとしている。
2) これまでの教育支援としては、一つは、「授業公開」を学部FD活動の一環として積極的に取り入れるようになり、2007年度に全学部で授業公開が実施されるようになった。いつでも教員は自由に見学できるようになった。二つは、「FD講演会」と「授業法ワークショップ」を実施。講演会の後に実際の授業に使える技法レベルのワークショップをセットにして実施している。特に、学生参加型の授業作りとして、協同学習に関する様々なワークショップを継続的に学内行事の合間をぬって実施してきた。三つは、「教育サロン」で日常的な教育課題の共有を意図した教職員の交換の場を学期を2回を目安に設けている。
3) CETLの運営は、2008年から各学部長から構成する全学FD委員会ができて、その構成員としてこれまで以上に積極的に支援している。教学担当副学長を中心に、年間計画、予算、人事を行う「運営委員会」と学部間の情報交流、CETLセンター長を中心に、学部ニーズの企画支援とFDの実施等を「センター委員会」で運営している。
4) こうした実績を踏まえて、全学ならびに学部FDを支援するファシリテータとしての役割を強化している。一つは、学部FDのパーツを提供し、学部の活動を支援している。教員の技能向上に資するFDセミナーの開催計画を立て、学部FDのスケジュールに組み込みやすくしている。二つは、共同企画の推進で、互いの取り組みを学部間で共有し合う中で、新たな学部FDの企画の具体化を支援している。企画は学部だけではなく、図書館、キャリアセンター、教務委員会などの部局との連携を積極化し、学習支援を展開。
5) 学習支援としては、個別の学習相談、学習法セミナー、数学のリメディアル講習(「マスマス・キャンペーン」)、書評講習会、レポート診断などがある。「マスマス・キャンペーン」は、数学のプレスメントテストで中2以下の学力の学生を対象にeメールで補習を案内し、10週間でeラーニングで学習させ、ポストテストで成果を確認し、上位者には図書カードを進呈している。チュータの支援を付けていくと数学が全く苦手な学生の3割が最後まで学びをした。学生の意思で数学の補習に取り組むことで100人、150人がブラッシュアップできる。また、この経験を踏まえて、就職活動に役立つ学習支援ということで、グループディスカッションのスキル講習会をFD講習プログラムとして作ることに発展した。
6) 「書評講習会」は、読書力の向上を認定する手段として、図書館と教員が共同して書評の講習を3回、4回と短い期間で指導している。初年次で読書力や文章力の現状を把握することができ、かつレポート診断にまで活用し、プログラムの精度が上っている。CETLにとっては、授業における読書課題や作文指導の方法を探るために有益な機会としている。
7) 学部をFDの実施主体に育てることが、組織的FDの大きな目標である。学内にFDを推進する機関がない時代には、全学のFDをリードする役割を追わなければならなかったが、学部レベルでのFDの推進時代に入り、組織的なFDファシリテータとして、学部との共同企画を通じて学部FDのニーズに応えられるよう、新たな教育支援活動を展開していきたい。
【質 疑】
[質問]
学習支援でついていけない学生への対応はどうしているか。
[回答]
  3年前からアドバイザー制を設け、かなり個別の学習支援を展開している。3回呼び出しがあると退学勧告の対象になることから、22年に向けて厳しい学生を意識したリメディアルとしてのオアシスプログラムを準備している。


3.全体討議

「学士力を担保する大学の教育力強化の戦略」

 向殿政男座長(明治大学)より、最初に、産学連携による教育力向上の教育戦略を考えるため、一つの事例としてキャリア形成支援教育をNHKと連携して、「プロジェクトX」の番組を授業に取り入れ、動機づけ、複眼的視点の獲得に効果をあげている京都産業大学の取り組みを紹介するとして、佐々木利廣氏(経営学部教授)より、次のような事例発表があった。

1) 7年前からNHKの「プロジェクトX」の番組をもとに、学内の様々な部署、NHK、プロジェクトの企業、団体との共同・連携の中で、「チャレンジ精神の源流」というキャリア形成支援科目を実施してきた。
2) 発展のステージとしては、最初は、危機意識と課題の明確化で、進路センターの事務部長による発想がきっかけ。ガイダンスに熱心でない、挑戦する意欲のない学生に「プロジェクトX」見せることで意識の高いガイダンスができるようになった。次に、教員と職員による将来ビジョンの共有で、これを教員サイドから経営学部の授業で活用を検討した。そして、実行と定着化で、キャリア教育研究開発センターの支援、学内部署との協働、外部機関との連携、MoodleなどITの積極的活用、講師インタビューとケースブックの作成を展開した。
3) 授業の到達目標は、一つは、「気づきとやる気」を目指して、新しい課題に挑戦したり、夢中になることを発見する手掛かりを提供する。二つは、複眼的な視点で考えることの重要性を訴え続ける。三つは、番組で登場するキャリアヒストリーから、自分のキャリアデザインを考えるヒントを提供すること。四つは、IT活用による双方向コミュニケ−ションを重視。
4) 授業のシナリオは、教員による「ケース分析入門」講義を半期で数回行う。その後、45分間「プロジェクトX」を放映し、内容の確認をその場で確認シートを書かせて回収する。その後で、番組に登場した企業のリーダに45分程度話をしていただく。授業はビデオ録画し、学内にストーリーミング放送する。学生は掲示板に感想、意見質問を書き込む。8割程度の書き込みに講師からフィードバックして掲示板に紹介する。その上で、学生からの考え、行動の様子などミニプレゼンを行う。1年から4年まで対象に2回、3回のレポート評価、内容確認シート、掲示板への書き込み、ミニプレゼンを総合的に評価し、成績評価としている。
5) 授業効果は、学生の9割以上が授業に満足している。複眼的な視点については、「かなりできた」が3割、「少しできた」を含めて8割から9割。挑戦しようという意欲、夢中になれるものを見つけることは、7割、6割と目的が達せられた。
6) 今後の課題は、授業コンテンツとしての活用を積極化する。他大学での利用が困難なので、大学連携で共有化できればと思う。また、教員や外部講師とのコミュニケーションはできているが、学内での学生同士による意見交換の仕組みが部分的で、議論の促進が望まれる。

【問題提起:産学連携人材育成ニーズ交流会】

 次いで、向殿座長より以下の発言がなされた。大学の教育を社会や産業界の協力を得て教育プログラムを充実することが極めて有益である。大学には理論はあるが、現場情報などエビデンスがない。教育プログラムの開発などにも大学からの要請があれば支援いただけることがわかった。しかし、このような支援を受けられるのは一部の大学に限られるのではないか。産業界、地域社会から教育の支援を受けられるような仕組みを考えられないか。いきなり支援の要請をしても、要請された企業は教育支援の重要性がわからない。双方意識合わせすることが得策ではないか。大学と産業界・地域社会の関係者が人材育成について意見交流する場を設ける必要があるのではないか。
 そこで、教育での産学連携を進めるため、本協会として、『産学連携人材育成ニーズ交流会』の構想をとりまとめたため、井端正臣事務局長より以下の通り紹介した。
 私情協で産学連携による人材ニーズ交流会の構想について、経済・経営系、工学系、情報系の三つの分野で約3,400名の先生方を対象に1割前後の回答をいただいた。9割が「人材教育のマッチングをやる必要がある」、6割が「すぐにでも参加したい」、残りの3割は物理的な理由などであった。例えば、経済・経営、会計では、「産業界も大学も適切な人材育成の目標を見失っている。こうした協働の出会いは時宜を得た提案として高く評価する」、「経営学部の先生方は実社会を知らないことが多く、産業界が望む人材を十分に育成しているとは思えない。学術機関、大学の良さを活かしつつ産業界の具体的知見を取り込んでゆくことが必要になろう」。情報系では、「大学の情報教育が、現代のいろいろなシステムからかけ離れて見受けられる。教員のキャリアによる部分もあるけれども、大学教育の目標にもおおいに問題がある」。ニーズ交流会の役割・目標は、人材育成に対する大学と産業界での役割分担を整理し、その中で大学側から学士力の紹介、教育改善を図る上での社会・企業への支援の要請を提言し、大学教育において改善すべき点、企業において改善すべき点、連携の中で課題を整理しながら、新しい教育機関としての産学連携事業を試行的に作れるようなプログラムを取りまとめたい。
 産学連携事業の発展的なイメージは、教員のインターンシップを考えている。希望する教員に社会の現場で授業がどのように活用されているか、現場を見ていただく。キャリア形成支援の実際を産業界で学び、指導に生かす。特定の分野を対象に新しい知識、技術を学び直す。また、教育環境の整備に対する支援で、エビデンスを使った動機付けの授業、実践教育、人間力を高めるための教養講座、専門家による学習成果の講評・助言、教育プログラムの共同開発など考えている。


【討議:人材育成ニーズ交流会の構想について】

 以下に主な意見を紹介する。

[意見1]
賛成する。ぜひ進めていただきたい。地方の私学は中小企業、零細企業に就職が圧倒的に多いので、大企業だけでなく商工会議所など、中小企業に目配りをする必要があるのではないだろうか。
[回答]
  実験なので大企業から始めてみるが、日本商工会議所などとも相談して、やがては中小企業も含めたい。実験後は私立大学連盟、日本私立大学協会など参加できるようにしたい。
[意見2]
  こういうプログラムはぜひやっていただきたい。個人的にも商工会議所等々へ行って教員の側から積極的に働きかけないといけない。人文学系での企業とのマッチングをどのように見つけていくのかが大きな課題。いずれプログラミングに乗せていただけるとありがたい。
[回答]
  1年前のアンケートでは、歴史、人文系として多くの要望がある。仕組みを作って効果を確認することが先決なので、経験を積む中で多くの分野に参画できるようにしたい。
[意見3]
  できるところからやるということで大変結構だと思うが、私は三つの団体が一緒になって文科省に圧力かけるくらいでないと、どうにもならないと思う。力を一つにしてという考え方をしているのかどうか、伺いたい。
[回答]
  ニーズ交流会をとりあえずしたのは、将来は私学全体でやらないとできるような問題でないので、提案をしていきながら私学全体の動きにしていくというのが最終目標。文部科学省とも以前協議した。地域社会、企業が協力をしてくれるためにはインセンティブが必要で、例えば協力してくれる人に「教育貢献者」とか「教育貢献企業」とか、社会のメダルを文部科学省として考えられないか打診した。構想による効果のエビデンスがあれば検討することになろう、ということで実験をすることにした。
[意見4]
  研究所と工場は違いがあるので、企業のどこに送り込むのか設計が必要。また、教員は企業における製品、特性、コスト計算を知っておく必要がある。

 以上の意見を踏まえて、「人材育成ニーズ交流会」をとりあえず始めてみたい。いろいろ注意すべきことはあると思うが、協力願いたい。


【課題整理:大学ガバナンスに求められる戦略】

 次に、大学のガバナンスという意味からも、教育戦略を考えるべき点があると思い、大学内部で対応すべき課題、産業界も含め、高校、大学と連携をどうすべきかという問題を事務局で整理してみたので紹介する。
 教育改革に求められる戦略の中で、理事会と大学が一体となって取り組むことが、優先される課題がいくつかある。
 まず、入口の課題として、最初に「入学前教育の工夫」がある。一つは、高校側に基礎学力の学習を伝える必要がある。二つは、出前教育または入学前教育の強化。三つは、高校退職教員によるリメディアル教育の支援。2番目は「初年次教育の強化」で、学内の工夫として、キャンパス就業体験の導入でインターンシップを受けさせる前に、学内の外注などの仕事の一部を教育的なプログラムとして実施し、学生に働くことの楽しさ、達成感を事前経験させる。大学連携では、初年次教育の特徴あるプログラムの相互乗り入れが必要。
 次に、中味の課題として、学資力の明確化・オ−プン化の工夫として、学内では、学士力検討の合意プロセスの構築、役割分担の明確化、教職員による教育プログラムのシステム化が必要。大学連携では、ミニマム・リクワイアメントのレベルとグローバル・スタンダードのレベルの両方を大学連携の中で研究していく。教育プログラムの充実としては、教養と専門の統合教育の教育プログラムの開発。座学と体験を組み合わせた参加型教育の導入と教育学習支援の体制作りが重要。大学連携では、プログラムのモデル開発と検証、分野別教育の学習成果を発表させる場の構築が必要。産学連携では、地域社会も含めたエビデンスを使った動機付け教育の実現が考えられないか。
 出口の課題として、学士力の質保証システムの構築では、学習成果の測定基準の明確化、多元的な評価の統一、学習ポートフォリオによる自己点検と大学としての個別支援の体制作りが必要。また、教員の指導力の強化として、教員の使命感、職務の規範を理事会中心に作る必要がある。さらに、教員の教育充実計画を踏まえた教育政策作りなどの工夫がある、FDについては、FDのテーマ別拠点校化が必要。同じくSDに関しても、教職協働できる能力のミニマム・リクワイアメントを考えないといけないであろう。


【課題コメント】

 以上について大学からの意見として、関西大学の小西靖洋常務理事から学校法人の立場で次のようなコメントがあった。
 教学と法人が一体化して、力を合わせて取り組まない限り、教育改革等々含め不可能ではないだろうか。そういう点で大学のガバナンスが重要となる。私立学校法の改正のもっとも大きな点は、最終決定機関は理事会となっている。教授会は重要な事項を審議するというが、重要な事項というのはどの範囲のものなのか、整理して教学と法人がどうしたら一体化できるかを真剣に考える必要がある。理事会として短期、中期、長期のビジョンを示せないようでは、理事会の責任を果たしたことにはならない。
 SDの問題は、事務職員の能力、資質がもっとも問われている。事務職の資質を向上しない限りは、本当の協働にはならない。事務職員の研修制度を充実させていかなければならない。FDは、先生方の教育方法だけが改善されたらFDが終了したという問題ではない。大学が社会全体に対して義務を負うという、学校法人全体の問題なのだということで理事会等々についても、徹底的にサポートしていただきたい。そうしない限りは、社会から評価を受けるようなFD活動はできないであろう。
 企業におけるインターンシップも先生方の意識改革において非常に大事な点であろう思っている。もっと大事なことは、FDで成績のよくない先生のための研修の仕組みを大学連携の中で地域別に作る必要がある。それぞれの大学がFDのすべてを担当するのではなく、得意な分野のプログラムを作って他大学の先生を受け入れる仕組みを私情協として考えるべきではないか。関西経済連合会での会合では、大学に対して非常に熱い視線を送ってきている。先生方のインターンシップ等々についても、必ずや受け入れてもらえるであろう。そういう可能性というのは非常に大きいのではないかと考えている。

 次いで向殿会長より、教育改革というのは、教職員の意識改革も大事だが、理事会と教授会の一致結束による人材育成、基盤体制作りが極めて重要であるということが確認された。私情協はICTを使った教育と質の向上が目的だが、やはり教育そのものに関与していかざるを得ないということで、ガバナンスとしての課題をリストアップしたので、参考にしていただければと思う。
 なお、関連情報として、「本協会による分野別学士力の検討状況」、「大学教育を支える情報環境武装の方向性」は、第53回臨時総会に掲載したので割愛する。また、「教育の情報化投資の実態と補助金の活用法」については、時間の関係で以下の表の資料に替えた報告を中心に説明があった。

表 大学規模別 教育研究部門の情報投資額
表 大学規模別 教育研究部門の情報投資額

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