教育・学習支援への取り組み

中央学院大学におけるe-Learningの活用

1.はじめに

 中央学院大学は、商学部・法学部の2学部と大学院の商学研究科からなる千葉県我孫子市にある大学です。1966年(昭和41年)に「中央学院大学」として商学部・商学科の単科大学として設立されました。1985年には法学部・法学科が設置せれ、2006年(平成18年)には大学院が設置されています。
 大学の前身は1900年(明治33年)東京都中央区日本橋に設立された「日本橋簡易商業夜学校」にまで遡り、その2年後(1902年)には「中央商業学校」が開校されています。その設立の趣旨として商業教育に求められていた「高い見識と人間性を持った人材の育成」は、大学の建学精神である「公平な倫理観・社会観の涵養」にも引き継がれています。
 戦後の新学制の実施に伴い1948年(昭和23年)には旧制中学部と商業学校を廃止して、新制「中央学院高等学校」が設立され、1951年(昭和26年)には「中央商科短期大学」が設立されています(短期大学は2001年に廃止)。
 現在、中央学院大学の商学部・法学部ともコース制を採用しており、商学部は、会計・経営・経済・情報・商学総合・国際ビジネス・スポーツキャリヤの7コースが、法学部は、司法・行政・現代社会と法・ビジネスと法・スポーツシステムの5コースが設けられています。
 学生数は4月1日現在、商学部2,005人、法学部1,506人、商学研究科は39人という大学としては、比較的小規模な文科系の大学です。それ故に雰囲気も「アットホーム」で明るく、緑豊かな落ち着いたキャンパスと言えます。

2.e-Learningへの取り組み

 現在、本学のe-Learningシステムには、情報関係の授業を中心に利用されている「WebClass」、英語の授業で利用されている「DynEd」、「モバイルアカデミー」、独自に開発した「Web学習システム」などがあります。
 大学としてe-Learningシステムの導入を検討し始めたのは、FD委員会が中心となって取り組んだ「IT機器を活用した授業」と情報倫理教育を全学生に均質に学ばせることを目指したことが発端となっています。
 しかし実際にe-Learningに取組む契機となったのは、「心理学」担当の教員が授業をマルチメディア化しようとした試みに始まると言えます。心理学の授業では、「認知」や「錯視」など図形や写真を用いて解説する場面がしばしばあります。そこで教材をコンピュータで提示できるようにマルチメディア化した教材(CD)を作成しました(1995年)。
 これに対して情報コースの教員が、2001年度に学生の演習テーマとして、このCD化した教材をPowerPointに変換し、2002年度には「心理学」のWeb学習システムを作成したことに端を発します。
 実際に2003年には「心理学」のWeb学習システムが授業の中で使用され、2005年には同様な手法で「教育心理学」、2006年には学部共通科目である「商学部入門講座」などでWeb学習システムが作成され利用されてきました。
 2007年9月には本格的なe-LearningシステムとしてWebClassが導入され、情報リテラシーを始めとする情報処理教育の授業を中心に利用されています。また、2005年には英会話を中心とした授業でDynEdが、2008年にはリーディング・ライティングを中心とした授業で携帯を利用したモバイルアカデミーが導入されています。
 その他にも教員のWebページを拡張して、携帯からも利用できるサイトを開設し、学生とのコミュニケーションや課題提出・講義関連情報の提供などの学習支援に活用している例もあります。
 さらにプログラミングの授業でも独自に開発し、Web学習システムを利用している例もあります。
 そこで、本学ではどのように活用されているかを紹介してみます。

3.WebClass・InterCLASSの活用

 WebClassはデータパシフィック社が提供するe-Learningの代表的なシステムで、様々な授業で教材作成や自学自習などのために活用されています。またコンピュータ教室には、チエル社のInterCLASSも導入されており、リアルタイムでの学習支援も可能となっています(図1参照)。

図1 講義・自主学習支援システム
図1 講義・自主学習支援システム

 WebClassの特徴は、講義支援と自主学習支援の機能が充実しているところにあります。また、学外からアクセスして教材や問題が作成できるため、コンピュータ教室を利用する授業を中心に多くの授業で利用できます。
 WebClassの共通コンテンツとして「INFOSS情報倫理」「初級システムアドミニストレータ試験(21年ITパスポート試験を含む)」のプレテスト、分野別問題、過去問題が全学的に利用可能となっています(図2参照)。

図2 WebClassの共通コンテンツ
図2 WebClassの共通コンテンツ

 現在WebClassに登録されている授業科目は、商学部で15、商法共通は2、法学部1となっています。しかし情報リテラシーやプログラミングなど複数の教員が担当しているため、講義コマ数では30以上の授業で利用されています。
 WebClassの講義や演習などでは様々な利用形態で使用されており、学習支援ツールとして、学生の補習や復習として活用されています。
 情報リテラシーの授業などでは、教材や問題の提示、解説だけではなく、学生への資料(ファイル形式)の配布、学生が作成したWordやExcelのファイルの収集を行っており、さらに出欠席の管理も行っています。
 InterCLASSはコンピュータ教室の機種更新とOSをWindows Vistaに更新した際に導入されたもので、コンピュータ教室におけるクラス管理の機能に優れており、学生画面に直接介入して操作補助が可能となっています。そこで、情報リテラシーやプログラミングなどの実習を伴う授業では、課題やその解説をWebClassで行い、リアルタイムで学生の学習支援(学生画面管理・操作補助)をこのInterCLASSによって行っています。使い方によってはTA(ティーチング・アシスタント)を一人付けた程度の効率的な授業展開を実現することができます。
 情報関連の講義や演習ではWebClassを利用して学生に学習コンテンツの作成方法を経験させています。情報ネットワークの理解の一助ともなりますし、学生が作成した問題やコンテンツをクラスの中で公開することで、授業に真剣に取り組む姿勢や思考力も養われます。学習コンテンツの作成を経験することで、学習へのモチベーションも高まることが確認されました。
 この他にも、1年生のプロゼミなどの授業でビジネス文書の書き方や大学でのレポートの書き方などをWbClassで解説し、ビジネス文書の様式、用語、常識などを学ばせています。実際には、封書の表書き、はがき、あいさつ文、レポートの様式などのサンプルを提示し、これを参考に文書を書くなどの授業がなされています。
 学習への動機づけや教材の作成効率、学習意欲の向上、効果的な授業展開がWebClassを利用することで、一部ではありますが実現できていると言っていいでしょう。

4.英語教育におけるe-Learning

 本学では、英語教育における会話スキルや基礎単語力の向上、さらには学習への動機づけの手段として、「DynEd」や「モバイルアカデミー」といったe-Learningシステムを利用しています。ここでは、この二つのシステムの利用方法について紹介します。

(1)DynEd(Dynamic Education)
 自主学習による会話スキルの習得を念頭に、世界40ヶ国以上で利用されている英語学習ソフトDynEdを導入して、1年生の必修科目(リスニング・スピーキング)で利用、さらに上級英語、総合英語、アクティブセンターでの社会人コース、海外語学研修における事前研修などでも利用しています。
 DynEdは音声認識と解答に対する瞬時的フィードバック機能に優れており、特に英会話教育に有効であると思われます。解答を即時的に求められるので、1回の授業時間内で、すべての学習者が英語を処理する回数は、従来の対面授業での処理回数よりもはるかに多くなっています。
 フィードバックがすぐに得られ、補習につながる瞬時的反応力、さらには学習習慣やICTの能力も養われることが期待できます。
 レコードマネージャの機能により、学習者の学習履歴を細かく把握することができるため、正確な評価も可能となります。学生も自宅での学習が可能であるため、夏季休暇中や休日など授業のないときでも学習が継続的にできる利点があります。
 DynEdを利用している授業には次のような利用形態を推奨しています。

 DynEdを利用した授業では、1回目の授業で最初のプレースメントテストを履修者全員に受けてもらいます。その結果により学習モジュール1から8までのどれかが決定され、該当のレッスンが自動的に開かれます。同じクラスには習熟度の差は多く見られますが、学習者が自分に合ったレベルから始められる点は、学習への動機付けとして効果はかなりあるものと考えられます。
 なお、授業時間内にe-Learningと対面学習を交互に行う混合学習も取り入れることもできます。例えば、DynEdで学んだ内容を各自の経験や事情に即した発表と、それに関するディスカッションをするといった形式での授業です。

(2)モバイルアカデミー
 モバイルアカデミーは携帯で「英単語」や「漢字検定」の学習ができるアルク社によって開発されたe-Learningシステムです。
 本学でも英語の基礎単語力の低い学生の存在が問題となっています。しかし週1回の英語の授業だけでは語彙能力を向上させることは難しく、またリメディアルばかりの授業では学生の学習意欲を低下させかねません。
 そこで、携帯という現在の学生には非常に親しみ易いハンディなツールで、好きなときに無理なくゲーム感覚で学習でき、学習への動機付けにも効果があると考え、モバイルアカデミーを導入しました。
 このモバイルアカデミーのシステムは、中学1年次レベルの初級単語からTOEICの900点レベルの上級単語まで12段階に分かれているため、当面の目標である「最低レベルの単語力の確保」が可能であるだけでなく、上級クラスの学生のさらなるレベルアップにも役立つと考えました。
 1日の課題量は3問(4選択肢)と少ない量ですが、意欲のある学生は先に進むことも可能であり、その無理のなさが自発的かつ継続的な学習につながると期待できます。また間違えた問題は再度挑戦できるので、学生の能力に応じて学習もでき、かなり高い学習効果があると思われます。
 モバイルアカデミーに登録すると毎日メールが届き、そこから問題サイトに移り問題を解くため、継続的な学習習慣をつける効果もあると思われます。
 モバイルアカデミーを1年次の英語必修科目「英語リーティング・ライティング」において授業外の課題として必修化することにしました。学生の進捗状況を評価に反映し、定期試験で学習範囲の単語を出題するなど、自主学習への意欲を高める工夫をし、その効果も期待しています。
 携帯だけでなくPCからもアクセス可能なので、携帯を所持していない学生や、携帯の料金に不安な学生にも配慮したものとなっています。

5.Web学習システム・携帯サイト利用

 心理学ではWebClassにより1回の授業ごとに、その日の授業内容についての復習問題(5問、合格点60点)を出題しています。
 学期のはじめ、3回程度は、授業の最後の20分〜30分を使用し授業中に学習しますが、それ以降は課題として授業時間外に、大学内あるいは自宅からアクセスして解くようにしています。なお、問題にアクセスできる期間は2週間程度の制限を設けておきます。
 また、同時に前述(「2.e-Leaningへの取り組み」)の心理学のWeb学習システムも授業の進度に応じて学習できるようにしてあります。このWeb学習システムは、学内からだけではなく学外からも実行できるため、定期試験前を中心に履修者の多くによって利用されています。
 Web学習システムとはその主旨を異にしますが、法学部の教員による携帯サイトを活用して学生の学習意欲を向上させようとする試みがなされています。携帯サイトを「研究室502号室」と命名し、授業情報・定期試験情報などの教員と学生のコミュニケーション・ツールとして活用しようという研究室単位での取り組みです。
 携帯サイトでの学生のための講義関連情報の提供を始めたことを皮切りに、授業に関する質問や課題の提出などへと拡張されています。この取り組みの狙いは、学生が馴染みやすい携帯を利用することで講義や研究に関心を持ってもらおうと試みたものでもあります。
 なお、詳細については「携帯サイトを活用した学習意欲向上の試み」として昨年の9月に開催された私立大学情報教育協会IT戦略大会で報告されています。

6.今後の課題

 今後の課題は、WebClassのコンテンツの開発が中心ですが、その手始めとして、留学生のためのコンテンツ開発を考えています。
 昨年度から設置された本学の留学生センターとも連携し、まず比較的留学生の数が多い中国からの留学生をターゲットとした「留学生のためのe-Learning」を考えています。構想の段階ではありますが、コンテンツに「生活編」や「キャンパス編」といったカテゴリーを設け、中国語と日本語を交えた内容のものを構想しています。
 また、英語のモバイルアカデミーの利用を法学部にも拡大することや、AO入試の受験生などにもその一部を開放することも課題です。
 さらに、現在WebClassで教員が開発したコンテンツは共有されていませんが、コンテンツによっては共有あるいは共用化できるものもあり、これらを推進することもe-Learningの一つの課題であると考えられます。

7.おわりに

 本稿の執筆にあたって本学のe-Learningに携わる教員にご協力をいただきました。
 商学部の加藤良子教授、ジョン・ドーラン准教授、富田雄一郎准教授、田村謙次講師、および法学部の大村芳昭教授に深く感謝いたします。

文責:
中央学院大学情報システム運営委員長
教授 大島 直廣

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