大学教職員の職能開発 No.4

平成22年度 短期大学教育改革ICT戦略会議 開催報告

 私立短期大学卒業生の16%がニート・フリータである。卒業しても定職につけない若者が依然として多い。総じて卒業生に対する信頼性が低下してきており、卒業生に自立できる就業力が求められている。このような中で、文部科学省は、学生がそれぞれの専門分野の知識・技能とともに、職業を通じて社会とどのように関わっていくのか、明確な課題意識と具体的な目標を持ち、それを実現するための能力を身につけられるようにするため、「社会的・職業的自立に関する指導等(キャリアガイダンス)」を大学設置基準に規定し、義務化する予定としている。
 そこで本協会としては、短期大学の社会的役割をより強固なものとするため、地域に必要な人材養成、地域の教育ニーズに対応した多様な教育プログラムの構築などの課題を探求するため、短期大学間との連携、地域社会との連携を踏まえた教育戦略を考察することにした。
 今年度の会議は、これらの課題を探求するため、湘北短期大学、山梨学院短期大学の事例紹介と短期大学コンソーシアム九州の取り組みを軸に討議を行うことにし、「教育改革ICT戦略大会」と併催し、平成22年9月2日(水)にアルカディア市ヶ谷(東京、私学会館)にて開催した。参加者は昨年より若干少ない37名(34短期大学)であった。

事例紹介

「社会的・職業的自立を目指した教育の実践例」

湘北短期大学
情報メディア学科教授 小棹 理子氏

 早期に進学先が決まった高校生の学習習慣を継続させ学習意欲の低下を防ぎ、短期大学での学習へスムーズに移行できるようにするため、入学前教育プログラムの構築に高等学校・短期大学・企業の3者が連携して取り組んだ画期的な事例である。なお、高大連携の地域教育ネットワークには神奈川県下の高等学校27校が参加しており、高校教育に同様の悩みがあり、問題意識を共有できることが伺える。
 高校で充分に身に付かなかった力、社会人に必要な基礎能力を短期大学で育成するために、入学前教育プログラムを構築している。これは全学的組織であるリベラルアーツセンター主導で、高−大−産連絡協議で講演会やフォーラムを開催し、高校教員との意見交換やアンケート調査、キャリアに対する意識改革、卒業生による高校・大学での教育の振り返り等を精査し、検討を重ねて作られた。結果、コミュニケーション・リテラシーとして「メモの取り方」「アイデアの出し方」「話す技術」「書く技術」「問題の発見」「情報の分析と問題解決」「図書館の活用と検索」「Ms-Office群の活用」「ビジネスツールとしてのE-mail」からなるコースウェアを設置し、90分/コマで15回の入学前教育を行っている。
 当初は、高大連携校からの入学予定者のうち希望者を対象としていたが、同連携校からの入学予定者全員に拡大した。入学前教育の受講者にアンケートをとったところ好評であり、全入学者にさらに拡大する計画である、との報告があった。
 参加者からは、同短大は以前から関心のある取り組みであり、自大学に持ち帰り参考にさせてもらいたいなどの意見が多く見れられた。

事例紹介

「ICT活用による人間力獲得のためのシステム」

山梨学院短期大学
保育学科准教授
野中 弘敏氏
栄養食物学科講師
本長 健介氏

 学生の学ぶ意欲、社会への使命感、探究心、基礎学力、対人関係能力など、専門基礎を支えるリテラシーを概念化し、教育課程を構造化した上で、それらを可視化する。そのことにより、「どのようなリテラシーを得てほしいか」「教育活動の中でどのように進めていくか」「蓄えたリテラシーをどのように確かめるか」が学生・教員の双方にとって明確になり、学生の学習意欲を喚起することができる。「風林火山」になぞらえて四つの指標に整理している。「風」:主体的に課題を発見し、解決のために自ら行動する力、「林」:思考力の深化と知識の定着に努め、それを言語化する力、「火」:社会性を身につけ、積極的に人や社会に関わろうとする力、「山」:将来的・社会的視野を持った責任感・使命感の醸成、である。知識定着のための自学自習システムを構築し、学内LAN下での利用を実現している。さらに、リテラシート・サーバーと呼ばれる一種のポートフォリオ・システムを構築し、学生のリテラシー獲得の様子を把握するとともに、結果を学生にフィードバックし、指導の一助としている、との報告であった。
 参加者からは自大学でも同じような取り組みをしており、多いに参考になった等の意見が多く見られた。

全体討議

「連携の中で問題解決を図る〜教育戦略の探求〜」

(1)課題提起 「短期大学コンソーシアム九州の発足経緯と活動方針」

東海大学福岡短期大学
学長補佐 真下 仁氏

 「短期大学コンソーシアム九州」(Junior College Consortium Kyusyu:以下JCCK)はCC研(Community College研究会=短大の将来構想に関する研究会)として2002年に活動を開始し、2009年9月に「地域の人材育成に貢献する短期大学の役割と機能の強化のための戦略的短大連携事業」により連携GPを獲得したのを期に、JCCKを設立する。連携校は佐賀女子短期大学、精華女子短期大学、東海大学福岡短期大学、長崎女子短期大学、長崎短期大学、西九州大学短期大学部、福岡工業大学短期大学部、福岡女子短期大学である。
 JCCK設立の趣旨は戦略的パートナーの強化、教育・研究機能の点検・評価と改善、地域社会への貢献の三つであり、短大は生き残れるのか?という危機感を共有することであった。それが近隣のしかも類似の学科を有する短大、すなわち学生募集において競合する短大の連携というJCCKの特色ともなっている。
 JCCKは四つの目標と八つの推進事業に取り組んでいるが、各事業を主担当1校と副担当2校で担う複数担当制をとることにより、主担当校の単独事業とならないように連携と協働関係の維持・強化を図っている。
 JCCKの今後の課題は単位互換など連携のあり方を具体化することであり、今後の取り組みとしては、地域の短期大学コンソーシアムのモデル化とノウハウの提供などを想定している。

(2)提案「短期大学連携によるリメディアル教育の提案」

短期大学会議教育改革ICT運営委員会
三ツ木丈浩氏(埼玉女子短期大学)

 一般に短大は2年間という限られた時間で教育を行わざるを得ず、就職活動までは1年足らずと考えることもできる。一方で入学者の基礎学力の低下は多くの学校で見られるのではないか。また昨今の不況下での就職状況を考えると、短い学習期間の後にいきなり厳しい競争を強いられることになる。このような状況下で、様々な各短大の事情がある中でも短大間の連携による問題解決の可能性について模索したい。運営委員会ではリメディアル教育を短大間の連携により行うことを提案したいので、まずはリメディアル教育の実情について3校より事例の発表をしていただき、その後で会場を交えた意見交換を行いたい旨、趣旨説明を行った。

(3)紹介「リメディアル教育の現状」

自由が丘産能短期大学
能率科教授 豊田 雄彦氏

 レポートの書き方の基礎となる文章作成についてのリメディアル教育を入学前教育として実施している。学生の文章作成能力は年々低下しており、段落前の字下げというような原稿用紙の使い方といった部分でも再教育が必要である。本学では体験授業を教育のコアに据えているために、学習体験の振り返りを言語化する能力は必須と考えている。入学前教育は第T部担当教員が全員で行い、できない学生には再学習を行うことによって水準の向上に努めている。

聖徳大学短期大学部
総合文化学科教授 不破 章夫氏

 リメディアル教育として自然科学総合講義を実施しており、算数が中心となった講義である。小数、分数の計算ができない学生が見受けられる中で、そうした学生の教育にあたるために「実践的総合キャリア教育の推進」(平成18年度現代GP)で体制を整備し、キャリア導入ユニットと呼ばれる科目群のなかで基礎学力の向上を図っている。

湘北短期大学
情報メディア学科教授 小棹 理子氏

 リメディアル教育と銘打っての教育は、かつては行われていたが現在では行われていない。基礎学力については各学科の中で保証するようになっている。入学前教育としてコミュニケーションリテラシーという科目を実施しており、それがリメディアル的な教育としての位置づけとなっている。この中でノートのとり方、時事問題や計算力などの教育を行っている。

(4)全体討議

 運営委員会の三ツ木丈浩氏より、運営委員会から提案する短期大学間の連携によるリメディアル教育について、以下の通り説明し、質疑応答が行われた。
 現在は個人ベースで行われることの多いリメディアル教育であるが、基礎学力の確保という課題は各大学で共通の問題であろう。リメディアル教育のためのコンテンツ、ノウハウなどを各大学で共有できれば、短期大学教育の質保証につながり、専門学校等の差別化につながるのではないだろうか。この連携を本協会の資源を活用して実現できないかという提案である。質問や意見をぜひ伺いたい。

Q.
短大間の連携において、連携を阻害するものはあるのか、またどのようにそれをクリアしたらよいか。
A.
すべての教職員に連携の意義が波及するには時間がかかる。売りにしているものは隠したいという気持ちはあるが、会議を重ねることで、情報が共有できるようになる。
Q.
リメディアル教育で連携するメリットはあるか。
A.
短大の教員は学生に近いところで活動している。そうした教員が連携して汎用的な教材をつくることには意義がある。
Q.
リメディアル教育に対するモチベーションをどのように維持するのか。
A.
数学は大方の学生は嫌いである。ただ就職に結びつくと理解させると姿勢が変わる。ガイダンスなどにおける意識付けが大切である。
Q.
学科全体でリメディアル教育に対応できればよいが、学生の現状を考えると今の対応では限界がある。他校の事例を参考にできればと思う。
A.
基礎学力テストを実施して補習授業を行っている。苦手な分野の授業にのみ出席すればよい。出欠状況はプレゼミ担当(担任)の教員が管理している。
Q.
リメディアル教育の効果は、どの程度出ているのか。
A.
学力が伸びているデータはあるが、それが直接就職等に役立っているかはまだ調査していない。

 最後に戸高敏之運営委員長より、当面はリメディアル教育に関する悩みでも相談するというスタンスでも、また個人的にでも、こうしたネットワークをつくることに興味のある方は本協会に連絡をとってほしいということで締めくくった。
 なお、参加者のアンケートから、概ねコンソーシアムに対しては賛成で、「リメディアル教育のとらえ方や実施についてヒントを得ることができた」、「リメディアル教材の共有、短大間の連携というアイディアは個人的には新鮮だった。時間はかかるかもしれないが、自大学でも展開できたらよい」、「相互に助け合える部分も多くあることがわかり、今後の相互協力に期待している」など意見があったが、全体討議については、「リメディアル教育については学生の程度が低いために発言し難かった」、「グループディスカッション形態のほうがよかった」などの意見が寄せられた。
 これらの全体討議での意見やアンケートを踏まえて、今後、運営委員会では短期大学の連携について継続して検討していくことにしている。

文責:
短期大学会議教育改革ICT運営委員会

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