特集 教育情報の公表

文教大学における情報公開への取り組み

若林 一平(文教大学 国際学部教授)

1.大学の社会的責任への自発的対応として

 学校法人文教大学学園(渡辺孝理事長、本部:東京都品川区旗の台)は「本学園が公教育の担い手として、法人の運営や教育研究の諸事業等の社会的説明責任を果たす必要があることに鑑み、学園として体制を整えて事業を展開していくために、学園が保有する情報の公開等について今般必要な手続き等を定めた規定を制定すること」(平成23年3月15日、経営企画局)として「学校法人文教大学学園情報公開規程」を平成23年4月1日より施行しました。
 これまで事業計画や事業報告を各大学の判断で実施していたのを私立大学団体連合会の答申(『大学法人の財務・経営情報の公開について 中間報告』、2010年7月20日)に基づいて進めてみようとの考えで、学園の情報公開のためのプロジェクトチームが発足したのが2010年12月です。理事長方針を受けて教学と経営を横断する全学的なプロジェクトとして取り組まれ、2011年3月に「情報公開規程」の制定に至ったのです。
 文教大学の情報公開は大学の社会的責任活動の一環であり、既に企業社会ではほぼすべての企業が取り組み公表しているCSR(Corporate Social Responsibility、企業の社会的責任)活動に相当する活動に大学人として自発的に取り組んだ点に特徴があると言えましょう。

2.教育情報の公開

 大学版のCSRとしては教育情報の公開が重要です。文部科学省の「学校教育法施行規則等の一部を改正する省令」(平成23年4月1日から施行)に詳細な記述があります。文教大学の情報公開規程では「第4条(4)教育研究に関する情報」において「ア 大学の学則」から「シ 研究倫理、研究活動規範等に関する規定」まで12項目にわたって列挙されています。
 現場教員サイドから見た新学年からの目に見える変化の一例を挙げておきます。それは文教大学(大橋ゆか子学長、校舎は埼玉県越谷市および神奈川県茅ヶ崎市)のシラバスの書式の変化です。具体的には、各科目の各成績ランクについて「評価基準」を明示するという大学の方針です。ある点でシラバスの「書式」変更のみであるとも見なせるかもしれませんが、公開される「書式」による本学の教育理念を実現するための教育の具現化についての情報公開であるとも解釈できるのでないかと考えます。この「書式」変更により、学生も科目の位置づけと獲得すべき知的能力を理解できます。具体的な例として筆者が担当する「情報と社会」を挙げます。筆者が担当する「情報と社会」の例です。

事実(ファクト)の把握そして自分の意見(オピニオン)を展開することは共に大切です。しっかりしたファクトの裏付けがまず優先します。
AA   設定した主題に関してファクト把握とオピニオン展開がともに十分にできている。
A   設定した主題に関してファクト把握とオピニオン展開がともにできている
B   設定した主題に関してファクト把握とオピニオン展開が不十分ながら共にできている。
C   設定した主題に関してひととおりファクトの把握ができている。
D   設定した主題に関してファクトの把握ができていない。

 財務情報然り、教育情報然り。情報公開の要点は個別の業務現場での情報作成においてしっかりした「書式」が遵守されていなければならないということです。これにより、初めて情報公開に「互換性」という社会的意味が付与されます。また、このような情報公開が、学生自身の学習計画シナリオ作成やその実現に寄与すると考えます。
 要点は大学が各科目の「各成績ランク」について「評価基準」を設けるようにしたということです。これが最低限の「書式」です。

3.情報公開のICTによる展開

 文教大学の情報公開は始まりました。情報開示請求の方法も含めて情報公開規程はWebに掲載されています。また、実施の一例としてのシラバスは新書式のもとで全面公開されています。ICTの助けを借りて、個別の現場での公開情報が大学間で比較され検証され、そして累積されて資産化されるとき、情報公開は豊かな果実をもたらしてくれるでしょう。


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