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講義録画システムとYouTubeの活用
〜東京工科大学メディア学部の試み〜

飯沼  瑞穂(東京工科大学メディア学部講師)
板宮  朋基(東京工科大学デザイン学部助教)
千代倉弘明(東京工科大学メディア学部教授)

1.はじめに

 東京工科大学は、生活の質の向上と文化の発信に貢献する人材を育成することを基本理念とし、その実現のために、実社会に役立つ専門の学理と技術の教育、先端的研究教育とその研究成果の社会的還元、そして理想的な教育と研究を行うための理想的な環境整備の三つの具体的理念を掲げています。また本学は、1999年に国内で初めてメディア学部、メディア学科を設置し常にメディア学のパイオニア的な存在であり続けてきました。メディア学部ではメディアを多角的に捉え、基本理念の実現のために、メディアをとりまく技術や、ビジネスや社会環境、そしてメディアコンテンツの創作などの専門コースを中心にカリキュラムを構成しており、学生は、社会で必要なスキルを修得しています。
 このようなカリキュラムの特性や教員の研究活動を幅広く、高校生や新入生に知ってもらうために、東京工科大学法人の広報課と協力体制を取り新しいメディア技術を取り入れた、広報活動の試みを行っています。
 近年、メディア技術の発達によりインターネットをより効果的に活用した学部の情報公開が注目されています。例えば、ホームページを使って情報提供のみならず、ブログやTwitterなどのソーシャル・メディアを活用した活動が期待をされています。本学では、我々が独自に開発をした講義録画システムを活用し、学部の情報公開の活動を行っています。本稿では、メディア学部における新しい広報活動の方法として行っている、教員によるショート・レクチャービデオとYouTubeでの配信の取り組みについて触れたいと思います。教員による研究紹介ビデオのインターネット配信をどのように行っているかを紹介します。

2.研究背景

 現在、数多くの講義録画システムおよび講義コンテンツ作成システムが開発・利用されており、複数の企業より数多く製品も販売されていますが、多くのシステムの価格が1台約250万円以上と高価なため、複数教室への導入は困難です。講義コンテンツ作成システムにより録画されたコンテンツの多くはYouTubeなどで公開されており、その数は増加する一方ですが、これらのコンテンツの多くが、教員が独自に録画したものは少なく、多くは外部の製作会社などにより製作されたものです。
 それに対し、本学では、低コストで構築可能な講義自動録画システムを活用し、教員が一人でも簡単に自分の研究内容の説明ビデオを作成できるシステムを導入しています。本システムで作成する録画ビデオは教員のPCを用いた講義を対象に録画ができます。3DCGや映像を含めた講義用PC上のあらゆる教材を講師映像とともに高画質・高フレームレートで録画できることを本システムの必要要件として設定して開発しています。教員の負担軽減のため、事前・事後の作業を一切必要とせずに講義ビデオが自動的に配信可能になることと、講義用PCには新たなソフトウェアのインストールを必要としないことを要件としています。また、教育現場への導入を一セットあたりの構築費用を20万円程度にすることも要件として導入を行いました。

3.システム概要

 今回使用したシステムは、教員用のノートPCを録画専用のPCとネットワークカメラに接続し、教員用のノートPCに出力された映像と教員の話す姿を同時に録画ができます。講義用PCの外部モニタ出力映像と講師映像を専用のPCでキャプチャし、リアルタイムに合成録画を行いました。録画された動画ファイルの解像度は1536×768ピクセルであり、形式はWMV (Windows Media Video)です。動画ファイルのうち、講義用PC画面の領域は1024×768ピクセルであり、講師画面の領域は512×384ピクセルです。構築費用を抑えるために、廉価なRGBキャプチャデバイスと入手が容易なフリーソフトを活用しています。このように、画面合成を行った動画ファイルを瞬時にウェブサーバーにアップロードすることが可能であり、YouTube用の映像に変換することも可能です。

4.研究内容

 本手法により構築したシステムを東京工科大学メディア学部の研究棟の一室に設置し、教員が授業内容の紹介や研究会の紹介を10分程度で行う、ショート・レクチャーの録画を行いました。ショート・レクチャービデオでは、教員の発表資料と教員の話す姿が、合成された映像で構成されており、レクチャーの内容は教員の研究紹介や授業紹介です。東京工科大学メディア学部の教員36名によるショート・レクチャー、大学院生4名、学部生1名による研究発表の録画を本システムで行い、それらのビデオをインターネットで配信することを試みました。これらの試みは学部の広報活動の一環として2010年度春学期に行いました。講義用PCでは録画に関するソフトウェアは作動しておらず、余分な負担を一切かけないため、講師は安心して講義の進行ができます。講義用PCの画面を解像度の劣化なくキャプチャしているため、講義資料上の細かい文字も判読可能です。録画終了後直ちにストリーミングサーバにアップロードされ、講義終了後の約10分後に配信を開始できました。本システムは、講義用PC上の動作をすべて動画としてキャプチャするため、講義資料として3DCGを用いた場合にも対応できます。3DCGを用いて作成された講義ビデオの例を図1に示しています。

図1 作成された講義ビデオの例
図1 作成された講義ビデオの例

 教員と大学院生によるショート・レクチャー動画ビデオは、学部のホームページからWindows Mediaを再生することにより閲覧ができるように設定しました。東京工科大学広報部の協力をもとに、大学の正式なホームページに「映像でメディア学部を知ろう!」と題した項目を作成し公開しています。図2にて東京工科大学メディア学部ホームページでの動画の表示を示します。

図2 ホームページ内の講義ビデオ
図2 ホームページ内の講義ビデオ

 さらに、ショート・レクチャー動画はYouTubeでもインターネット上の公開を行いました。ショート・レクチャー動画を作成した36名中15名の講師、4名の大学院生からYouTubeでの講義動画の公開許可を得て、これらのYouTube動画ビデオは学部のホームページとYouTubeの検索エンジンの双方からアクセスできるように配慮しました。本システムを使用することにより、Microsoft Power Pointなどで作成した発表資料を、講義用PC画面の領域に表示させ、講師の話す姿を講師画面の領域に、一括して表示させることが可能です。これは、YouTubeの動画再生の環境においても発表資料の細かい文字も鮮明に見ることができます。これらのショート・レクチャー動画は、従来の授業の様子を録画している動画教材に比べると、講義内容と発表資料の進行が映像により動機して見ることができるため、講義内容が把握し易いと考えています。図3にてYouTubeでの動画の表示例を示しています。

図3 YouTube内の講義ビデオ
図3 YouTube内の講義ビデオ

5.学内の評価

 本システムを用いたショート・レクチャー動画の作成と広報における活用は、非常に良い評価を得ています。その結果、今後はメディア学部の卒業研究科目において従来のシラバスと平行して学生がビデオ閲覧し履修の際に利用できるようにしていくことが決定しています。今回の試みの結果、本システムを活用し遠隔録画が可能となるよう、講義教室の一室にネットワークカメラと本録画システムを常備設置しています。このため、今後は授業での講義ビデオの録画配信が容易になります。さらに、YouTubeで公開したビデオも、人気のある講義ビデオは閲覧数が1,000回を超えるなど一定の効果が伺えます。

6.おわりに

 本研究では、画面合成型自動講義録画システムの特質を生かし、インターネットを活用した大学の情報公開と広報活動を目指した試みを行いました。本システムは廉価で、教室や研究室など設置しやすい上、講師に余分な負担をかけずに録画を行うことができます。さらに講師のPC上のあらゆる教材と講師映像と共に高画質で録画できるため、3DCGや映像など多岐に亘る講義ビデオの作成が可能です。本研究においては、大学学部の広報活動の一環として、講師のショート・レクチャーの講義ビデオを作成し、学部ホームページ、およびYouTubeで公開しました。今後は、本学において、従来は構築費用の面から講義録画システムの導入に消極的であった教育現場での更なる普及と活用を促進させたいと考えています。またこのような廉価で講師に負担をかけずに授業の録画を行い、インターネット上で公開をすることにより、より大学が開かれた教育の場になることを願っています。

謝辞

 映像のホームページを作成された学校法人片柳学園出版広報課大田丈裕さんならびに研究全体に支援いただいた東京工科大学メディア学部飯田仁学部長に深く感謝いたします。

参考文献および関連URL
[1] 東京工科大学メディア学部“映像でメディア学部を知ろう!”2010年8月16日
http://www.teu.ac.jp/gakubu/media/018332.html
[2] 板宮 朋基, 飯沼 瑞穂, 千代倉 弘明:講師に負担を強いない高画質講義自動録画・配信システムの開発と活用. 教育システム情報学会誌 Vol.26 No.1, 2009,pp.89-99.
[3] 板宮朋基、千代倉弘明:廉価に実現可能な高画質講義自動録画システムの構築手法−全教室への配備を目指して. コンピュータ&エデュケーション. Vol.28, 2010,pp.79-84


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