事業活動報告

平成28年度大学入試センター試験の出題教科・科目等(中間まとめ)に関する意見の提出

 平成23年12月19日付けで大学入試センターは、平成21年3月に新しい高等学校学習指導要領が告示されたことに対応した28年度入試センター試験からの出題教科、科目等の検討状況を中間まとめとして公表し、国大協、公大協、日本私立大学団体連合会等の国公私立大学関係団体等に意見を求めた上で、24年3月頃を目途に一定の結論を得るとした。
 本協会としては、本問題については事業計画で取り上げていないこともあり、24年1月の理事会で情報教育研究委員会の活動計画に追加することの了承を得て、意見のとりまとめに向け、検討を行った。
 中間まとめは、二つの点を検討の対象としている。
 一つは、出題教科に新指導要領に対応し、平成25年4月から高等学校等において実施される教科に関し、平成28年度入試センター試験からは、数学、理科に加えて、必履修教科のうち、国語、地理歴史、公民および外国語の4教科を出題の対象とし、それぞれの教科の必履修科目および選択科目の中から出題する。なお、専門教育を主とする学科における履修科目の出題について、配慮する。また、必履修教科のうち共通教科「情報」の出題については、さらに検討することとする。必履修教科の共通教科「情報」に関しては対象としない虞があること。
 二つは、出題科目等のところで、専門学科に関する科目(「工業数理基礎」、「簿記・会計」および「情報関係基礎」)の出題は、受験者数が極めて少ないものについては慎重に検討するとしており、出題を廃止することが考えられるとのこと。「情報関係基礎」は、「専門教育を主とする農業、工業、商業、水産、家庭、看護、情報および福祉の八つの教科に設定されている情報に関する基礎的科目を出題範囲とする」としており、新学習指導要領の共通教科を対象としたものではなく、専門学科を有する高等学校の基礎的科目から出題するもので、共通教科とは異質なものである。
 そこで、本協会の意見として、次の通り二つの提案を行った。

1.共通教科「情報」を大学入試センター試験の出題教科として新設されるよう、以下の点を考慮して要望した。

1)「知識基盤社会」の中で、情報や情報手段を活用して高い付加価値、新しい価値の創造ができる人材の育成が求められている。

2)日本は成長社会から成熟社会へと変化してきており、これまでの「もの作り」を中心とした産業から、環境、エネルギー、高齢化・介護、情報などを重視した社会システム、サービスを作り出す課題解決型の新成長分野の産業に切り替えていくことが不可避となっており、情報手段を駆使して、新しい成長分野を開拓していく能力が要請されてきている。

3)課題を発見し、課題解決に向けて挑戦する知識・技術が必要で、とりわけ、情報科学それ自身を深く理解した上で、他の領域に応用する力を持つ人材の育成が急がれている。

4)新学習指導要領では、「情報及び情報技術を活用するための知識と技能を習得させ、情報に関する科学的な見方や考え方を養うとともに、社会の中で情報及び情報技術が果たしている役割や影響を理解させ、社会の情報化の進展に主体的に対応できる能力と態度を育てる」として、共通教科「情報」の授業では、情報社会に積極的に参画する態度を育てることを目的とした「社会と情報」、情報社会の発展に主体的に寄与する能力と態度を育てることを目的とした「情報の科学」のいずれかを選択し、情報活用力の確実な定着を図るとしている。現在のところ、「社会と情報」を選択する高校が多数を占めると予想されており、上述した人材育成のために高校で「情報の科学」を学ぶ生徒の増加が望まれる。

5)共通教科「情報」の学習成果の如何が、将来の日本の成長力に影響を及ぼすことにつながることから、大学入試において情報活用能力の到達状況を評価し、大学教育に接続することが重要で、高校の段階で基礎を固めておく必要がある。大学においてさらに深い領域について情報科学を武器として学ぶことが可能となり、現代社会が抱える問題を解決していく人材を確保することが可能になる。

6)大学入試センター試験において、出題教科として共通教科「情報」を新設することで、生徒に情報教育の重要性を認識させるとともに、学習成果の到達度を判定する指標が標準化されることで、教師の指導能力の平準化が可能となる。また、センター入試で試験問題を作成する過程で、世界に通用する到達度評価について判定水準がイメージされる中で、到達度の水準が高まるようになることを期待する。

2.専門学科「情報関係基礎」の出題の取り扱いは、出題教科に共通教科「情報」の新設を前提とするとした。

 平成23年度の受験者が649人と他の科目に比べ少ないとの理由で出題の廃止を検討することには反対である。受験者が少ない背景として考えられることは、「情報関係基礎」が農業、工業、商業、水産、家庭、看護、情報および福祉の8教科に設定されている情報に関する基礎的科目を出題範囲としているため、共通教科「情報」の教員も生徒も関心がないことと、数学、数学Bの試験時間と重なることが考えられること。専門学科の科目でなく、共通教科「情報」を大学入試センターで新設することが本来の姿で、「情報関係基礎」は、共通教科「情報」の代替として機能できるようにすべきとした。

 以上の意見の取り扱いについて私立大学団体連合会とも打ち合わせ、本協会から24年3月23日に大学入試センターの吉本理事長あてに書面で意見を申し入れた。
 新学習指導要領に「情報」がありながら、到達度の試験がないため、普通高校でも関心がなく、教員の確保も減少してきている。このままでは高校の情報教育が形骸化してしまい、日本の情報技術は専門家がいなくなるという危機感がある。「情報の科学」は、数学、物理などの能力をアップすることから、なくてはならない科目だが、教える教員が育っていないこともあり、大学入試センターでの課題と高校側の受け入れ体制の課題がある。
 本協会として24年度から教科「情報」の問題について関係者の理解を図り、打開策を考えることにしている。ぜひ、各大学でも情報関係の教員の方々に周知いただき、活動できるようなネットワークを構築したいと考えている。


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