事業活動報告

平成23年度 FDのための情報技術講習会 開催報告

1.はじめに

 本講習会は情報通信技術を授業に使用することにより、大学教員の教育の質の向上を目的としている。具体的には、情報通信技術を取り入れた教材の作成、授業設計、授業運営を行うことで、学生に対し刺激的な授業の展開、学生の授業への参加・学習意欲の向上を目指している。
 今年度は平成24年3月1日〜3日にかけて、大阪経済大学において、57名(40大学、3短期大学)が参加し開催された。初日午前中には、共通講義として4大学から授業事例の紹介があった。
 共通講義の実施にあたっては、発表内容について事前に講師と運営委員会で詳細な打ち合わせを行い、受講者が所属大学で応用できる内容に特化した話題を提供いただくようにした。その結果、受講者のインパクトは想像以上に大きかったように思われる。今回のようなスタイルの共通講義を今後も継続していくことは意義があるであろう。
 1日目の共通講義終了後、三つのコースに分かれ講習会が行われた。
 さらに3日目の午前中には、参加者全員を対象に、高等教育における著作物の利用法についての講演を行った。

2.講習内容

 本年度は、授業シナリオに基づいた教材作成と効果的な授業構成法の習得を目指した「プレゼンテーションコース」、知識の理解と定着を効果的に促進するためにビジュアルプレゼンテーション技法の習得を目指した「プレゼンテーションアドバンスドコース」、授業マネージメントの観点から授業デザインの構築に必要な基本知識・技能の理解を深めることを目指した「授業デザインコー ス」の3コースを実施した。いずれのコースにおいても、授業シナリオの作成が基本となっている。
 効果的な授業を展開するには1回の授業を演劇に例え、まずは、1回分のシナリオを作成する。この中に視覚情報、学生への問いかけ、学生同士での議論等を効果的に盛り込むことができれば、効果的な授業を展開することが可能となる。これに情報通信技術を利用すれば、さらに効果的な授業の展開が可能となるはずである。本講習会の目標はここにある。また、ある教員が、自分で行っている講義、講演、研究発表の内容について第三者から忌憚のない意見を聞く機会は非常に少ないはずである。この講習会では、いずれのコースにおいても、講習の内容を参加者が自分の授業に取り入れて作成したものについて、模擬授業を行い、お互いの授業を評価する時間を設けている(ピア・レビュー)。これにより、自分の授業を客観的に評価できるという点が、本講習会のもう一つの特徴である。

(1)プレゼンテーションコース

 プレゼンテーション技術を基礎から再学習し、授業計画・授業シナリオの中で、効果的に用いることを目指して、PowerPoint を用いたプレゼンテーションの講習と作成を行った。基礎の再学習として、メニューの再確認、PowerPointの機能として準備されているアニメーションの使い方、一つのプレゼンテーション内や別のプレゼンテーションへのジャンプ、Webページ参照のハイパーリンクの利用方法など、やや高度なプレゼンテーション作成を目指した。
 本コースでは、受講者のスキルレベルを均一にするため、昨年から用意されたPowerPointのe -Lear ningサイト(http://www.el-labo.jp/juce/2012/el.html)で、受講者が講習会前に基礎的なスキルを学習することを課しておいた。講習では、普段なかなか利用しない機能を含め、様々なメニューを各自使ったり、授業内におけるプレゼンテーションの効果的な位置付けを再確認するような課題設定を行った。
 実習では、講習した技術を利用して、受講者自身の授業で使うプレゼンテーションを作成し、受講者が互いに発表し、受講者同士でのピア・レビューを行った。今回の講習では、PowerPointは単に資料を電子的に提示する装置ではなく、授業シラバスの中で効果的に使うことを強調した。
 授業の中でコンテンツをいかに効果的に 活かすかはまだまだ工夫の余地がある。今後、プレゼンテーション技術を、教育目的に合った授業技術の一つとして用いる方法を講習することが必要と考えている。

(2)プレゼンテーションアドバンスドコース

 本コースは、受講者の注意を引きつけるようなプレゼンテーションを展開するため、画像や動的表現を用いたプレゼンテーション技術の習得を目指した。よって、参加対象は、PowerPoint等によるプレゼンテーションを日常的に利用できる技術をもった方とした。プレゼンテーションの録画、配信、電子書籍化等を予習・復習に活用できる方法についても触れ、学習全体での情報通信技術の利用方法をとりあげた。講習ではクラウドサービスを利用し、講習によって習得した技能が利用者の実環境に依存しないよう配慮した。
 今年度の本コースは、技能の習得に注力してデザインしたことから目標が明確となり、受講内容、受講者の受講目的とのマッチングが高かった。ただし、技術はあくまでも授業を補助するためのものであり、それを活かすためには、授業設計に基づいたシナリオの作成は不可欠である。プレゼンテーションコース、授業デザインコースとの相互の関連性を考慮しつつ、ピア・レビュー等を通した活用方法の検討等も再度講習内容として検討する必要があろう。また、情報通信技術の教育現場への浸透を鑑み、プレゼンテーション技法にとらわれず、情報通信技術をどのように授業に活用していくのか、またそのためにはどのように授業を設計すればよいのか等、内容の再検討が必要と思われる。ただし、より実践的な内容とした場合、利用者が各人の大学で利用できる環境の差を考慮しなければならず、実施方法等について十分検討する必要がある。

(3)授業デザインコース

 本コースでは、情報通信技術を活用して、効果的な授業の設計と授業の進行の仕方について、授業設計の立場から、有効な授業の在り方について学習するものである。授業が進行する上で必要な情報通信技術をいかに活用できるかについて、参加者が自らの授業を省みて修正していくかが主題である。そのため、本コースでは、学生に興味・関心・記憶にとどめる感心を持たせること、関連する領域を学ぶように意欲が湧かせるような授業をデザインすることを目指した。
 受講者は各自の授業の資料を持参し、1回分の授業を進行させるために、まず原点に戻り、授業を再認識することから始めた。まず、新たにエスキスの概念を用いて要点と構造の関係を明確にすること、要点間の関係と構造の有意性を確認し、時間軸を加えながら有効な授業進行を図ること、問題点や理解に対して不明確なところをどのようにフォローできるかを同時に加えることが必要であった。
 授業シナリオは、ある種の意味では極めて有効な手段であり、その意味において、フォーマットも従来提供してきた。しかし、教育目標が柔軟性のある発想教育とそれに必要な知識教育を意味するのか、初等中等教育のように確実に知識を埋め込んでいく知識教育を意味するのかによって、学習シナリオを異にする可能性がある。グループ内のピア・レビューを通して、多彩なTIPsを活用し、過多な内容を整合化した事例や、討議を繰り返してより洗練性を持った内容へ変化された事例が多く、多くの参加者から役に立ったとの評価を得たことは喜ばしいことであった。

3.今後の講習会

 講習会終了後回収したアンケートによれば、参加者の講習会に対する印象は良く、今後も参加したいとの希望が多かった。
 数年前に比べると情報通信技術に対する大学教員のリタラシーは格段に進歩している。しかし、プレゼンテーションソフトにより、膨大なスライドを垂れ流して授業を行っている教員がいるのも事実である。本講習会の前身である「授業情報技術講習会」のときは、プレゼンテーションソフトをいかに上手に使用して授業を行うかに終始していた。これを、「FDのための情報技術講習会」としたのは、当初の目的は達成されたと判断し、次のステップ、即ち情報通信技術を使うことで、学生の学習に対する動機づけ等、学生が自ら進んで事前・事後学習を行う授業を教員に展開していただくためである。今後も、情報通信技術を活用した授業をどのように展開すれば学習効果が上がるのかをこの講習会で発信していきたい。
 今年度行った講習前の参加者全員への共通講義の事例紹介は有意義であった。今後もタイムリーでかつ各参加者が設備投資や人的支援がなくても実現可能な事例を紹介していくことが重要であろう。
 その他、医・歯・薬系の授業に特化した講習会を開催する必要があることを痛感した。これらの分野では、国家試験が最終的には課されるため、授業で教えなければならない内容が多く、結果として、大量のスライドをプレゼンテーションソフトで垂れ流しているというのが現状のようである。単に知識として必要なものは、e-Learningにより事前事後学習させ、教員が教えるべき内容を厳選し、学生達との対話を重視した授業を展開する必要があるであろう。

文責: FD情報技術講習会運営委員会
委員長 田宮 徹

【目次へ戻る】 【バックナンバー 一覧へ戻る】