特集 多機能端末の試行的活用

 大学などの高等教育においてICT活用は必須となっている。特に、近年、ICTの技術革新が進む中で、コンピュータに代わる新しい情報手段として多機能携帯端末(いわゆるスマートフォン)が急速に普及し、大学においても学生の大半が利用するようになってきた。そのような中で、大学では受験生への広報対策など学外への情報発信や、教育支援、学生生活支援等のため、試行的に多機能携帯端末の活用に取り組み始めている。これは従来の携帯端末でのメールでの情報配信などではなく、学生や受験生などに向けた大学をより理解するための教育情報の発信であるとも考えられる。
 大学での多機能携帯端末の活用は、まだ取り組み始めたばかりの段階ではあるが、本特集ではその状況について、いくつかの大学から活用のねらい、内容、今後の課題・予定等を紹介していただくことにした。本協会としては、その定着度に応じて今後も企画し、大学における有益な活用方法についてPRしていきたい。

明治大学ユビキタス教育における
携帯端末への情報発信戦略

宮原 俊之(明治大学教育支援部ユビキタス教育推進事務室)

1.変わる!情報提供の仕組み

 明治大学では、2012年3月27日に、「キャンパスライフにいつでもアクセス」を合言葉に携帯端末向けポータルシステムBlackboard MobileTM Central(明治大学名称「iMeiji」[1])を日本で初めて導入しました。これは、全世界で200を超える大学等機関において導入・活用されています。
 iMeijiの導入は、2011年に創立130周年を迎える際に策定された「世界へ−「個」を強め、世界をつなぎ、未来へ」をコンセプトに「世界に開かれた大学」を目指し、教育内容や研究内容、学生への取り組みを、世界的な規模で情報発信していくという本学の大学戦略を踏まえたものです。iMeijiの導入理由について、もう少し具体的に説明するならば、iTunes U導入時と同様に高等教育機関としての社会貢献、各種連携推進(人とつながる、大学とつながる、世界とつながる)、新しい教育方法、広報戦略の四つが大きくあげられます。さらに、iMeijiの導入を携帯端末の大きな可能性へ動き出すきっかけとする狙いもありました。なお、ここでは、携帯端末をiOS端末およびAndroid端末として、iMeijiの話題を中心に、携帯端末向け情報発信の必要性について話を進めていきます。

2.iMeijiとは?

 iMeijiは、明治大学における携帯端末向けポータルシステムとして、明治大学に関わる方、興味をお持ちの方にとって必須のアイテムとなることを目指し、導入しました。iPhone、iPod Touch、iPadなどiOS端末の他、Android端末のネイティブアプリケーションとして動作するため、ほとんどの携帯端末で利用することができます。そのため、iMeijiは、学生に対するサービスはもちろんのこと、受験生、校友、そしてそれ以外の多くの方々に本学の魅力を感じていただくため、有効に活用いただけるツールとして工夫を重ねています。また、留学生をはじめグローバルな世界で活用する・できることを目指して日本語/英語の切り替えも可能です。
 iMeijiの導入は、教育支援部門のユビキタス教育推進事務室が中心となり、情報メディア部門のメディア支援事務室の協力を得て実現したという、本学でも画期的な導入の経緯をたどってきたことも特徴の一つです。
 現在のiMeiji上にあるコンテンツについて紹介します。

1)マップ

 各キャンパスの建物を名前で検索することができます。検索結果をクリックすると、Googleマップ上にピンが表示され、現在地からの距離を示します。

2)ニュース

 明治大学の最新ニュースやホットなイベント情報です。日々新しい情報が公開されています。

3)イベント

 明治大学のスポーツイベントを中心に、スケジュールを公開しています。明大スポーツ新聞部から公開される幅広いジャンルの公式試合情報を、日付や名称から検索したり、カレンダに表示したりできます。スポーツ観戦に役立ちます。

4)iTunes U (iOS端末版のみ対応)

 明治大学で公開している授業や学部情報、そして、様々なイベントの様子をストリーミングやダウンロードで視聴することができます。明治大学の幅広い活動を、臨場感あふれる映像で紹介しています。

5)総合案内

 明治大学代表番号および、各種お問い合わせ窓口へのクイックアクセスです。

起動画面 メニュー画面(英語)
キャンパスマップ ニュース
イベント iTunesUを起動

 メニュー画面から明らかのように、まだまだ、発展途上の段階です。ただ、この段階でもサービスをスタートするそれなりの理由がありました。それは後述としますが、現状においては、コンテンツが不足しており、広報的な役割を担うまでには至っていません。今後、機能改善を行いながらコンテンツの追加を予定しています。シラバス情報、スポーツ速報、図書館システムとの連携、他の付属機関や外部団体との連携を進める他、各イベント向けや期間限定など、本学の魅力を外部の方々に広げるべく戦略を準備しています。もちろん教育学習支援システム「Oh-o!Meiji」など授業に関係するシステムとも連携し、学内外に対する携帯端末のポータルシステムとしての役割を担い、これからの情報発信の中核を目指して、前へ前へ進めていきます。

3.iMeijiから始まる携帯端末向けの新しい情報発信

 2010年にサービスを開始したiTunes Uによって授業公開なども進み、社会貢献の側面からも、開かれた大学に向けて着実に歩みは進んでいます。また、iTunes Uでは、授業教材以外に、広報的要素が強い学校案内なども配信することが可能であり、広報戦略においても有効なツールとして活用しています。ホームページだけでは、もともと明治大学に興味を持っていない、または、存在を知らない人々に対しての広報活動は難しいのですが、iTunes Uで適切な誘導手法をとる効果は計り知れません。実際に、「明治大学 iTunes U」[2]において英語コンテンツのダウンロード件数が、日本語コンテンツを上回ることも度々起こっており、海外からのアクセスを誘導することができています。インターネットが普及し情報氾濫時代となった現在、情報発信の広報戦略においても、一方的な発信から、受け手の求める情報を適切な場所から提供することが求められています。情報過度にならないように留意する一方で、受け手側による情報選択の幅を設けることが重要と考えています。
 iMeijiは、先述のとおりiOS端末およびAndroid端末のネイティブアプリケーションとして動作するBlackboard MobileTM Centralをベースとしたシステムで、動画配信に特化したiTunes Uよりもその導入難易度は高いことが想像されましたが、導入に際して迷うことはありませんでした。なぜならば、ここ数年、大学生になくてはならないツールとしてスマートフォンが定着し始めていたからです。いまや就職活動においてスマートフォンはなくてはならないものという背景もありましたが、この流れは、すぐに高校に伝わり、日本全体に広まっていくということは容易に想像できました。そして、当然、様々な学内外の機関が携帯端末向けサービスを続々と開始します。しかし、携帯端末で情報を得るために、いくつものアプリケーションをホームページをたどるなどしてダウンロードするという手間のかかる仕組みは、大きな弊害になると感じました。これらのことから、ポータルとしても機能が充実している上に、大学に必要な機能やメニューはあらかじめ備わっているBlackboard MobileTM Centralを導入することにしました。また、このような仕組みを最初に構築しておくことで、他の施設や学部のサービスの統合も実現できると考えました。もちろん日本初という話題性による広報的な戦略も十分に検討しました。多少のリスクを背負ったとしても、コンテンツの数が少ないヨチヨチ歩きのスタートだとしても、いち早く導入する必要性が高いと判断するに至りました。
 携帯端末向けのポータルシステムは、パソコンと違い、その機動性を大きく活用することができます。どこにいても気になる情報にアクセスしてもらうことを可能とするだけでなく、気になる場所に行く方法から、その場所に行っての詳細な情報の提供まで、実現することができます。
 携帯端末でもiTunes Uを利用することができるiOS端末は、iTunes Uと連携させることで、iTunes Uの狙いとの相乗効果(明治大学に関係ない人にも知ってもらう)が期待でき、Android端末については、iMeiji自身がストロングツールになると考えています。

4.見えてきた成果と課題

 iMeijiのリリースは、iOS端末版が2012年3月27日、Android端末版が2012年8月1日となりました。iTunes Uのときと同様に、ユビキタス教育[3]の推進にあたっては、そのタイミングとスピードが重要であり、今回のiMeijiも2011年9月のアメリカ視察を踏まえて2012年1月末のリリースを目標にしていました。しかしながら、そこには、携帯端末による情報発信に求める欧米と日本との考え方の違いがあり、大変な生みの苦しみを味わいました。それは、言語の問題です。今本学は、日本語だけでなく英語での提供も最初から念頭にあり、日本語/英語の切り替えは必須であると考えていましたが、この切り替えに起因する障害の対応に、多くの時間を費やすことになりました。ただ、今は、今後導入される大学の役に立てたならば、対応した甲斐はあったと思われます。日本としての土台を作ることができたのは、今後に向けて大きな一歩になったと感じています。
 2012年8月末で、iOS端末版をリリースしてから約5か月、Android端末版をリリースしてから約1か月経ちました。リリース時には、日本初というだけあって反響は大きく、各種メディアで取り上げられ、いくつかの企業からサービス連携の打診も受けています。学内的にも徐々に浸透してきており、連携の話を進めています。大学としての枠組みができたので、連携を含むその中のコンテンツの充実がこれからの大きな重要課題になってきます。
 ダウンロード数の達成という点では、1年目の目標は1万で、現在までのところ約3,000となっています。導入自体が最初の目標でしたので、これからのコンテンツの充実とiMeiji自体の広報活動によっては、十分に目標に達する状況にあると考えています。特にAndroid端末版は、明治大学に興味がない人に使ってもらうには、それ自体の広報活動が重要です。欧米では、ラッピングバスや新聞広告、高速道路の広告、販促発動アイテムの作成(Tシャツなど)が活発に行われているようです。
 もう一つの課題は、今後のiMeijiの運用体制です。iMeijiは、広報戦略のツールのみならず、教育利用という観点も重要であるため、取りまとめ体制は、導入時と同じ教育支援部門のユビキタス教育推進事務室と情報メディア部門のメディア支援事務室との協力により進めることが、スムーズであると考えています。ただし、携帯端末の情報はその新規性が重要な要素ですので、広報戦略という点を考えたとき、広報担当部署との連携強化が今後もっと必要になってくると思っています。さらに、今後、コンテンツが増えるにつれて、連携部署との強力な協力体制の構築は必要となります。その際、ホームページとiMeijiの二重運用は、煩雑さを招く可能性がありますので、ホームページの情報との連携も非常に重要になってくると考えています。
 iMeijiは、図書館システムとの連携を秋に控えていますが、図書館の担当者の工夫により、図書館のホームページでの情報をそのままiMeijiでも見ることができる見込みです。また、既に、スポーツの情報提供において明大スポーツ新聞部の学生に協力をしてもらっていますが、今後、一層学生の参画も増やし、オール明治でiMeijiの活性化を図っていきたいと思います。
 この他、セキュリティについても慎重に対応することが必要だと考えています。携帯端末の利用者向けのセキュリティに対する意識付けなども行い、その価値を上げることにつなげていく予定です。
 ユビキタス教育推進事務室では、世界の高等教育の動きをとらえつつ、本学の高等教育機関としての使命を踏まえた上で、iTunes Uやeラーニングなどを活用した、最適な最新の情報技術を、教育の新しい手段に取り入れてきました。今後も、学内の横のつながりを大切にしながら、世界が明治大学に、そして日本の大学に対して目を向けてもらえるような貢献を継続していきます。

関連URL
[1] iMeiji
http://www.meiji.ac.jp/ubiq/info/2012/6t5h7p00000d7v0w.html
http://www.meiji.ac.jp/ubiq/info/2011/6t5h7p00000awlr9.html
[2] 明治大学 iTunes U
http://www.meiji.ac.jp/ubiq/itunesu/index.html
[3] 明治大学ユビキタス教育
http://www.meiji.ac.jp/ubiq/

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