人材育成のための授業紹介:看護学

看護学生の学習意欲向上を目指した
Web教材導入による看護技術教育の取り組み

中山 栄純(北里大学看護学部准教授)

城戸 滋里(北里大学看護学部教授)

1.はじめに

 日本看護協会の発表では、新卒看護師の離職率は年間約10%であり、職業継続上の悩みとして「基本的な看護技術が身についていない」を挙げる者が数多く存在します。また、「看護基本技術に関する実態調査」では、新卒看護師の70%以上が、「入職時に一人でできる」と認識している看護技術は、わずか数項目にすぎなかったとの報告もあります。
 一方、厚生労働省は、臨地実習において学生が行う基本的な看護技術の水準を示しましたが、学生が臨床の場で実際に体験できる看護技術は限られているのが現状です。学生時代に患者に実施できる看護技術項目が少ないまま卒業せざるを得ないこと、つまり実際の患者に実施する経験の不足が、この看護技術の自信のなさに影響していると考えます。
 その状況を解決するためには、繰り返し看護技術を反復練習することが重要と考えます。しかしながら、2年生の臨地実習直前の学生の看護技術に対する自己学習の実態について調査した我々の研究では、技術の不安がそのまま自己学習のモチベーションを上げる要因につながらないことが明らかになりました。多くの学生は自己の看護技術に不安を抱えながらも、自分だけじゃないという思いから危機感が薄れ、また、実習グループの誰かの練習を傍観することで、自分も練習して理解したつもりになる傾向がありました。
 このような状況を打開するには、学生の受動的な姿勢を能動的で主体的姿勢に変えるべく、学習意欲を向上させることが必要と考えました。従来の看護技術の演習は、最初に教員によるデモンストレーションを見学し、その後で方法を模倣しながら演習していくというスタイルでした。このスタイルを大きく変えて、看護技術の演習にWeb教材を活用することで、学生の学習意欲向上に向けての一つの方向性を得ることができましたので、紹介させていただきます。

2.本校における基礎看護技術演習

 北里大学看護学部では、1〜2年生を通して段階を踏んで、基礎的な看護技術の方法についての演習とその根拠となる授業を受講しながら看護技術を学んでいくことになります。また、日常生活の援助に関する看護技術演習を終えた2年生の9月には、初めて患者1名を5日間受け持つ臨地実習が開講されます。この実習で、学生は看護過程を展開しながら、はじめて自分達が学んできた看護技術を、本格的に患者に実施する貴重な経験をします。実習後には、採血や注射など診療の補助に関する看護技術を演習して、3、4年生のより専門的な看護技術へとつなげています。このように演習と臨地実習を効果的に織り交ぜながら、そして各項目を関連付けながら授業展開しています。

3.Web教材の構成、看護技術演習への導入

 Web教材は、北里大学高等教育センターがサポートしているMoodleのシステムを活用しています。演習で実施するほとんどの看護技術項目は、教員が実施して動画に起こしたものを掲載し、学生が学内のみならず自宅からでもいつでも閲覧できるように配慮しました(写真1)。

写真1 自宅での
Moodleの確認

 実施には、学生がIDとパスワードで北里大学Moodleにアクセスし、該当科目をクリックすると最初にトピックアウトラインの表示が現れます。ここでは、教員から学生へのメッセージなどを定期的に掲載しています(図1)。さらに、Moodleを使用して学習していく上での注意点を掲載し、ただ動画を見るだけでなく、最初にテキストに目を通し、各看護技術項目のポイント、根拠などを理解した上で見るように強調しています(図2)。また、テキストや資料もMoodle上に掲載して、学生がいつでも自由に印刷できるようにしています。

図1 トピックアウトライン
 
図2 使用上の注意点

 その後、各単元のテキスト、看護技術項目の動画リストが現れ(図3)、学生が見たい看護技術項目を選択すると、該当の動画が閲覧できます。動画では、その技術を実施する際に注意すべきポイントをテロップで強調し、学生の理解が深まるように配慮しています(図4)。
 また、教員が個々の学生のアクセス状況を把握できる機能もあります。この機能により、どの学生が予習をして授業に臨んでいるのかを把握した上で演習を進めることができます。その他にも、小テストの取り組み状況や点数が一覧で確認できる機能、学生への一斉お知らせメール送信機能、学生からのレポート提出をメール通知する機能などがあり、教員も用途に合わせて各機能を活用しています。

図3 見たい動画リスト
図4 技術の注意点に流れるテロップ

4.実際の授業での活用例

 演習は基本的に週2コマで3コマ目は自己練習またはスキルチェックに用います。1年生で初めて実施する「環境の調整」の単元を例に、教材の活用例について説明します。まず、学生は演習前にこの単元の進行スケジュールを配布され、演習の進め方について説明されます。「環境の調整」では、1週目に講義、2週目にベッドメイキング、リネン交換、毎朝のベッド環境の調整などの学生演習と発表、3週目にリネン交換のスキルチェックを企画しました。学生には、発表の時間に誰が発表者になってもよいように、Moodleで事前に予習をして授業に臨むように説明しました。1年生が初めて本格的な技術演習に取り組むことを考慮して、何事も最初が肝心と心がけ、演習最初は学生同士で予習してきた技術を披露し合い、その後は皆で意見交換を行う場、教員がチェックする場、および、学生の予習や演習で生じた疑問を解消する場としました。1年生は教員のデモンストレーションから入る従来のスタイルで授業を受けた経験がないため、比較的スムーズに導入は図れたと思います。
 後の事項で詳細に述べますが、この説明の後、演習前の講義の前日、当日の授業開始前までに、多くの学生がWeb教材にアクセスしていました。どのようなWeb教材を作るかだけでなく、いかに学生に導入を図るか、そしてきちんとその意図を伝えることの大切さを、当前ではありますが、改めて実感することにもなりました。

5.Web教材導入の効果

 Web教材を導入したことの効果について考えてみたいと思います。「環境の調整」の単元における、学生のMoodle教材の活用状況を示します(図5)。図からも、授業の前日、当日のアクセス数が突出していることが窺えます。以前は、演習当日に教員のデモンストレーションを見てから実施できるとの安心感から、予習をしてくる学生数は少数であったのが現状でした。しかしながら、今回のように演習の開始前にこのように多くの学生が教材にアクセスし、動画を閲覧した後に参加していることは大きな効果の一つであると考えます。また、この単元ではスキルチェックを導入しましたが、スキルの習熟度は例年より高いという結果が得られました。

図5 「環境の調整」アクセス数の推移

 学生からの意見として、1年生の授業評価の自由記載欄に書かれた学生の教材に関連したコメントの抜粋を示します。

学生による授業評価(自由記載欄より抜粋)

 従来の演習では、このような前向きな発言が書かれることは少なく、この点も今回の教材の導入が効果的であった一つの証明になると考えます。
 ただその一方で、いくつかの課題も見えてきました。まずは、このようも授業スタイルを変えたにもかかわらず、予習してこない学生が少なからず存在する事実です。また、学生には予習の際には動画を見る前に必ずテキストを併用し、方法の根拠などを確認するように指導し、Moodle上でも告知していますが、実際は動画のみしか見てきておらず、演習中に技術の根拠を尋ねると理解していない学生がいることも事実です。
 もう一つの課題は、この教材の利用が予習に比べて、復習で明らかに少ないとのことです。今回の教材は復習でも活用できるように意図して作成しました。演習で得た学びをさらに深めてほしいと期待していますが、なかなかそこまではつなげられていません。学生の学習環境を整えるためにも、これらの課題については今後も検討を続けていき、新たな挑戦をしていきたいと担当教員一同考えています。

6.おわりに

 今回のWeb教材は、いくつかの課題はあるものの、学生の学習意欲向上において大変効果的な媒体になることが明らかになりました。今後もさらなる教材の改善、開発を進めていきたいと思います。


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