事業活動報告No.4

平成24年度 教育改革ICT戦略大会 開催報告

 本大会は、教育の社会的責任を共通認識する中で、大学改革を着実に進めていくための戦略について、大学関係者で意識合わせし、具体的に取り組むための教育課程の体系化・総合化、質的転換を可能にする学修の仕組み、ICT活用を含めた教育・学習環境などについて課題を整理し、解決策を探究することを目的として、講演、事例紹介、討議を実施し理解を深めることにしている。
 今年度は9月4日から6日までの3日間、アルカディア市ヶ谷(東京、私学会館)で、「質保証を目指した教育改革」を開催テーマに実施した。3日間の参加者総数は、309名(147大学、15短期大学、賛助会員10社)で、昨年度と同程度の結果となった。
 初日の全体会は、向殿政男会長(明治大学)の開会挨拶の後、主体的な学修を実現するための課題、学修の基本問題を実現するための教学マネジメントに関する講演、教育課程の体系化・順次性、予習を徹底した話し合い学習法、LMS導入による効果的な事前・事後学修の取り組み紹介を行い、学修の質的転換を図るための課題や具体的な手法について情報の共有化を図った。2日目は分科会形式でのテーマ別自由討議を実施し、初日のテーマをもとにした教育現場の個別の課題として「A:学習意欲を引き出す学びの仕掛け」、「B:大学における情報リテラシー教育の方向性と高校教育との接続」、「C:ICTを活用した課題解決型の能動的学修」、「D:クリッカー技術を始めとした双方向授業」の4テーマを設定して参加者を交えた討議を行い、問題や課題の共有とその解決策の模索を行った。分科会終了後には、参加者のコミュニケーションの場として情報交流会も行った。3日目はA〜Eの五つの会場で、教育や支援環境へのICT活用について65件の公募による発表を同時進行で進めた。また、2日目の午後から3日目まで、大学・企業共同のICT導入・活用の紹介として、賛助会員の企業と導入大学によるポスターセッションを実施した。

第1日目(9月4日)

全体会

講演:主体的な学修を実現するための課題

中央教育審議会大学分科会大学教育部会専門委員
学校法人上智学院理事長 高祖 敏明氏

 学修の質的転換を図るための課題について、中央教育審議会大学文科会大学教育部会の答申を踏まえ、教員の意識改革、学士課程教育の体系化等の視点から整理された。
 はじめに、中教審の審議のまとめ「予測困難な時代において、生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ」(3月26日)の概要とその全体像について紹介され、学生本位の授業の体系化を観点として、学生の思考力や表現力を引き出し、知性を鍛える双方向の課題解決型の能動的授業を中心に、質の高い学士課程教育へと大学が質的転換すべきことが確認された。その後、中教審の審議まとめや大学改革自体の動向に対するメディアからの批判的な考察など社会の反応を紹介された。

 次に平成24年を大学改革元年と位置づけ文部科学省より発表された「大学改革実行プラン(社会の変革のエンジンとなる大学づくり)」(6月5日)について紹介された。プランには大学機能の再構築とガバナンスの充実・強化という全体像があり、平成24年から29年までの取り組みの工程では、24年度は大学ビジョンの策定、29年度は大学改革の取り組みの評価・検証、進化・発展が計画されていること、その他に中教審の考え方との相互関連性なども示された。
 そして、中教審の「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて(生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ)答申」(8月28日)の趣旨や基本的な視点について紹介された。少子高齢化・知識基盤社会・グローバル化などが進展する成熟社会における大学の責務としては、学修時間の実質的確保、大学の改革努力、学士課程教育の認識、学修支援環境の整備、高等教育と初等中等教育の接続、大学と地域社会や企業等の接続が課題であることが示された。また、学修時間の実質的確保に向けて教育課程の体系化、組織的な教育の実施、授業計画(シラバス)の充実、全学的な教学マネジメントの改善を実施していく必要性があることが確認された。
最後に、大学教育の分野別質保証として、日本学術会議が取り組んでいる「参照基準」について、その主な構成要素や具体的な策定状況と今後の対応、参照基準の活用の仕方について紹介され、経営学、言語・文学、法律学は分野は平成24年10月頃を目途に完成する予定で、策定予定の全分野の参照基準が平成26年9月までに完成される予定であることが確認された。
 講演後の質疑応答では、中堅大学としてのグローバル化への具体的な対応の在り方、個々の教員自身の意識改革、大学だけでは解決できない社会側の課題など会場から質問が寄せられた。
 大学運営・ガバナンスや教学マネジメントの確立の難しさの中で、教育・研究に携わる個々の教員への強いメッセージとして、学生を中心に据えた教育改革を進めるポイントや学修に対する組織的展開について改めて考察することができた。

講演:学修の基本問題を実現するための教学マネジメントの考察

中央教育審議会大学分科会大学教育部会専門委員
学校法人早稲田大学理事 田中 愛治氏

 学士課程教育の質的転換を図るための基本的課題を踏まえ、教学マネジメントとして対処すべき課題として、学士課程教育の体系化・順次性をもたせた教育プログラムの必要性、授業科目間の調整、教員相互によるシラバスの内容点検・調整、効果的な事前・事後学修のあり方など具体的に掘り下げ、国際基督教大学、早稲田大学での例を交えて紹介された。
 大学改革とは大学経営者のためや大学教員のためではない改革、「学生のための改革」であり、学生の能力を高め、人類社会をより住みやすくするために貢献することにある。ただし教員の研究環境の向上や大学の経営基盤の向上は、教育の質向上に繋がるものであるとした。
 教育の質向上を図るため、教育に関する教員間の合意形成を目指しつつ、教育の体系化のための様々な仕組み(シラバス、コースナンバリング、GPA制、授業評価等)への対応、FD推進・教育の可視化、とりわけ教育内容の透明性への工夫、教員一人当たりの1科目へ投入するエネルギーの増加を通じて学修時間の増加が必要であることが確認された。
 教育の質を向上させるための教学マネジメントにおいては、「学科目は教員の私有物ではなく、学生にとっての公共財」であるという、教員間の価値観の共有を図るコミュニケーションやカリキュラム全体の体系化が重要性であることを認識した。また、全学的ガバナンスの強化策として、教員一人ひとりによる教育改革の意識共有は学長が促すことが重要で、教員採用は研究業績だけの審査に止まらず、試し期間を設け教育・研究に貢献する人物か否かを判断するテニュア・トラック制度の導入が効果的であることも確認された。
 最後に、早稲田大学における教育体系の再構築としてクォーター制の導入や全学基盤教育(WASEDA式アカデミックリテラシー)の取り組み事例を紹介され、クォーター制の導入により、短期間での集中的な学びによる学習効果の向上、教員の負担軽減と研究充実、より多くの学生によるサマープログラムへの参加、海外からの留学生受入れと早稲田大学からの海外留学促進などが可能になることが示された。また、教養教育の見直しにより、全学基盤教育(WASEDA式アカデミックリテラシー)として、英語コミュニケーション力、文章作成力、数学的思考力に関する科目をチュートリアルやオンデマンド等で全学的に展開し、学問を学ぶための必須スキル修得を目指していることが確認された。

事例紹介:教育課程の体系化・順次性への取り組み

国際基督教大学学務副学長 森本あんり氏

 日本の高等教育がドイツの学部を中心とした学問探求型から、アメリカのリベラルアーツ教育課程型に質的変換する中で、国際基督教大学は秋入学も含め教育課程の体系化に積極的に取り組まれ、日本の教育改革のモデル校となっている。教育課程の体系化を支えるものが3学期制や70分授業時間の単位制、2年生でのメジャー選択制や科目番号制、厳格なGPA運用、学修時間の確保へ授業の取り組みや学習管理システム等となっている。その中で、特にGPA、科目番号制、授業外の学修時間確保等について実例や統計資料を用いて紹介された。
 まず、GPAは成績評価のバラツキの解消や、過去の評価との比較が可能であり、学生の主体的修学管理や学修の動機づけにもなることが確認された。海外で指摘される日本のGPAの形骸化した運用も、同大学では開学以来の運用蓄積と教員間の情報公開で克服してきており、GPAに伴う学生の留年については、4年で必ず卒業しなければならない固定概念がないため、むしろ、成績が優秀な学生が留年していることも紹介された。
 次に、科目番号制は、系統的な履修指導や開講科目の学修の階層化、大学間単位互換等に役立つため、教育上不可欠になっていることや、同大学の学生の課外学修時間は日本の平均より上回り、米国の水準に近づいていること、Moodle等のICT活用による教育支援も授業外の学生の主体的学びに有効なことが確認された。同大学の取り組みを通じて、大学が真摯に教育に向き合い努力することで、実績を上げられることを再認識した。

事例紹介:予習を徹底した話し合い学習法

神戸女学院大学文学部教授 古庄 高氏

 教師が一方的に教える画一授業の再検討が様々なところで始まり、大学の質保証が問われている中で、同氏が3年前から1、2、3年生のゼミで導入しているLTD(Learning Through Discussion:討議を通じて学ぶ授業法)について、質を伴う学修時間の確保としての一つの方法として紹介された。
 LTDは、予習による事前ノート作成と、実際の授業による話し合い学習の二つの構成からなるが、討議対象となるテーマ選択が非常に重要で、教材は学生が関心を持ち、内容も論理的でわかりやすく、身に付くものが選別されること、LTDは完全マニュアル化しているため、初めての教員でも利便性が高いことが確認された。また、授業の運用面で、学生の予習のバラツキや討議への参加度、各学生の人柄(積極・消極的等)について注意が必要であることが示された。
 予習を積んだ学生が授業で発表・討議することで白熱した授業が展開されるが、同氏の経験や学生の授業評価によれば、教育効果は教師の予想を超えており、学生はLTDの授業を1週間の学修活動の基軸に置いていることがわかった。今後の課題として、教員の課題選別や予習ノートへのコメントの負担増、棒読みがちな発表の是正があげられた。教員と学生が労徒を厭わずチャレンジするところに成果が現れることを改めて認識できた。
(関連情報は本誌2011年度No.3を参照下さい)

事例紹介:LMS導入による効果的な事前・事後学修

名古屋学院大学経済学部教授 児島 完二氏

 問題解決型授業を目指すには、学生の学修時間の確保が必要である。現代の教育環境の変化にいち早く対応した経済学部を中心に開発された自学自習システムの10年間の課題とその克服の軌跡が紹介された。学修管理にはLMSが有効であるが、2002年にスタートした旧CCSは、各教員レベルの裁量での利用であったため、学生の利用度やその普及には限界があった。熱心な一部の教員に依存するのではなく、組織全体で対応する必要を痛感し、LMSを利用しての予習や復習時間を学部全体で管理する教学マネジメントへの意識転換を図った。
 2004年経済学部全体の組織として「経済学基礎知識1000題」を完成させ、特色GPにも選ばれた。学生と教員がLMSを利用して相互に高めあうことで、現在学生が年間平均200回のアクセスをするシステムに成長した。この10年間の取り組みを経てCCC.2.0の開発に至り、さらに学生に浸透させるためにゲーム機感覚の画面、ポイント制や全体ランキング、表彰状画面やキャラクター登場など学修の動機づけを意識して利用者志向を高めた。
 現在は、「学生に強いる自学自習」から「学生が好んで自ら論理思考」を磨くため日常の生活の問題に置き換え、経済マインドを育成させるコンテンツを開発している。教育改革には、全学あげて学生が楽しみながら潜在能力をいかに磨けるかが重要で、そのためにLMSは非常に役立つが、何よりも教員の熱意や他教員との連携が不可欠であることを認識した。

第2日目(9月5日)

テーマ別自由討議

分科会A:学習意欲を引き出す学びの仕掛け

<課題提起>

西南学院大学法学部教授
毛利 康俊氏
武蔵大学経済学部教授
松島 桂樹氏

 学生が自ら学習意欲を引き出すようにするためには、学びに対する動機付けが必要で、そのためには、学びに必要な学習スキル修得のための支援や助言が求められる。本分科会では、学習意欲の喚起を促す学びの仕掛けについて考察した。はじめに課題提起として、西南学院大学より、授業で理解できない部分を教室外で学生目線で相談・助言する、上級生によるアドバイザー制度導入の事例と、武蔵大学より、「振り返りシート」を用いた社会人基礎力のベンチマーキングによる事例の紹介があった。
 西南学院大学では、大規模授業の多い法学部で上級生による学習アドバイス制度を導入している。学習アドバイスの役割に上級生をSA(スチューデント・アシスタント)として活用することにより、時間外のサポートを可能としている。
 SAは「基礎演習」と「法律学の基礎」の入門科目、「民法1」と「憲法1」の基幹的専門科目のサポートを行っている。基礎演習では3〜4名の学生に1名のSAがつき、授業時間外のグループワークやディベートの指導をすることにより、論理的思考力の養成に効果をもたらした。また、入門科目ではレポートの添削、専門科目においては自主勉強会のサポートをSAが行い、高い教育効果をあげている。今後の課題としては、実施科目や規模の拡大に伴いSAの質のばらつきの発生が現われてきたこと、また彼らの更なる質の向上をどのように図っていくかという問題点があげられた。
 武蔵大学では、経済学科において少人数のゼミ教育における教育効果を高めるために、学生個々人が「振り返りシート」を導入した。ゼミはプロジェクトベースの教育、学生主体の教育、グループワーク、ICTの活用などの側面に亘って実施しており、これらのゼミ活動の中で、「将来の夢」、「大学で学びたいこと」、「自分の強み」、「自分の弱点」、「今年の目標」などを自ら振り返るように記述させている。また、今後の目標として、現状分析や問題解決能力、社会対応、ストレス耐性などに対する「自立力」、コミュニケーション能力としての「対話力」、そして目標達成のための「実践力」の育成について記述する「振り返りシート」を活用している。このシート導入の効果として、学生が自ら目標の設定と成果の確認をするようになり、ゼミに積極的に関わるようになることなどがあげられた。今後の課題として、こうした個人情報を、ゼミの教育のみに留めるのか、将来はキャリア支援や就職活動にまで役立つポートフォリオとして活用するのか、その際の運用や管理をどうするのかという点が挙げられた。
 課題提起とその後の討議を通じて、講義形式の授業は知識を伝達するだけに終わりがちであるが、こまめに学習成果をアウトプットし、SA等を活用したアドバイスなどフィードバックを行うことで教育効果を高めることができること、また、学生自身による目標設定や問題解決能力、対話力、実践力などを視点とした成果の振り返りは、教育効果の確認と問題点の発見に役立つことが確認できた。

分科会B:大学における情報リテラシー教育の方向性と高校教育との接続

<課題提起>

私立大学情報教育協会 情報教育研究委員会

副委員長
斎藤 信男氏(文教大学客員教授)
委      員
渡辺美智子氏(慶應義塾大学大学院教授)
  〃  
大原 茂之氏(東海大学専門職大学教授)

情報リテラシー・情報倫理分科会主査

玉田 和恵氏(江戸川大学教授)

大学入試小委員会委員

筧  捷彦氏(早稲田大学理工学術院教授)

東京都立小石川中等教育学校教員

天良 和男氏

 学士力の汎用的技能の一部として求められている学問分野共通の情報活用能力の知識・技能・態度について、本協会でまとめた「情報リテラシー教育ガイドライン」(http://www.juce.jp/edu-kenkyu/pdf/lit_gide.pdf)で掲げた到達目標を紹介し、参加者の反応を伺った他、組織的に教育を展開していくための課題についても考察した。また、大学の情報リテラシーにも影響のある高校での情報科教育が普及・進展していくための戦略など、関係者の理解を深めるための意見交換を行った。
 まず、本協会の情報リテラシー・情報倫理分科会から、本分科会でまとめた「情報リテラシー教育のガイドライン」の説明を行った。情報リテラシー教育はすべての学問分野で共通に必要な能力であるため、本協会の31の学問分野別委員会で求められる情報活用能力をあげ、それを集約して学問共通の能力として「情報リテラシーのガイドライン」をまとめた。ガイドラインでは、「情報を読み解き安全性や他者に配慮し情報を扱うことができる」、「問題解決に情報を活用できる」、「問題解決にモデル化やシミュレーションを活用できる」の三つの視点から到達目標を掲げた。
 特に本モデルの重要なポイントは、全学問分野において問題解決のために必要なモデル化とシミュレーション(仮説と検証)とした。本協会が実施した大学における情報リテラシー教育の実施状況アンケートでは、情報センターによる初年次教育としての実施が約7割、内容はモデル化、シミュレーションについては2割程度に留まっており、カリキュラム上で情報リテラシー教育が各分野に系統的に組み込まれている事例はほとんど見られなかったことが紹介された。
 その後、情報教育研究委員会から、社会科学系と工学系の分野において必要とされる情報活用能力の紹介を通じてモデル化、シミュレーションの重要性が強調された。
 次に高校での情報科教育の現状と課題について紹介があり、高校情報科の履修状況は半分程度が実施時間が不足しており、基礎的な学習の達成度測定のために入試科目に情報科目を入れることが望ましい。新学習指導要領のもとで実施される「社会と情報」と「情報の科学」は大学入試に十分耐えうる内容となっており、入試へは他教科と情報の組み合わせや内容の融合で出題できることの紹介があった。また、生徒の意思で情報科目を選択できる選択制の導入、次期改訂時の科目構成案、高校情報科の履修状況の調査、入試の試作問題の作成、多くの大学での出題を課題としてあげられた。

 参加者を交えた討議を通じて、ガイドラインについてはほぼ賛同は得られたが、実際の授業展開を想定して戸惑う声もあり、さらなる具体化が望まれていることが確認できた。
 その他、情報を読み解く力が重要で、メディアリテラシーとしてマスメディア情報も吟味して考えることが必要とされることや、特定言語でのプログラミング教育が目的ではなく、作成したものが正しく動くかどうかを理解することが重要なことも確認した。
 なお、ガイドラインは大学全体での4年間の取り組みとして想定しており、今回提案したものは通過点であり、今後ICTの進歩などで更新の必要性があると委員会で認識している旨を補足した。

分科会C:ICTを活用した課題解決型の能動的学修

<課題提起>

筑波大学システム情報系社会工学域教授

学長補佐・教育企画室長
石田 東生氏

玉川大学経営学部教授

教学部長
菊池 重雄氏氏

 本分科会では、主体的に考える力を持たせるための能動的学修を実現するために必要な工夫についてICT活用も含めて考察した。
 まず、事前事後学修などを取り入れた教育の仕組み、学内体制・支援組織、eラーニング等ICTの導入、現状での教育成果、今後の課題などについて、2大学から事例の紹介があった。
 筑波大学では、大学が設定した筑波スタンダードを通して、学生が主体的な学修に取り組むための取り組みを、人(組織と個人、教員・職員・学生)とICT活用などの総合的な連携で考えている。
 学生の自律的な学修時間を充分に確保しながら、教育の質保証を実現していくために、従来の教師中心、知識中心、専門分化型、教え込み型の教育から、学生中心、問題解決型、統合型、知識構築型・双方向型という「アクティブラーニング型」の教育への転換を目指している。そのためには、授業コンテンツの検討、カリキュラムの体系化や履修指導の強化、クラス内での学生の学修態度の分析、グループ学修など、学生が安心して学修できる環境構築が必要であり、TAの組織化による実践活用の有効性も実際に確認されている。また、クリッカーやMoodleなどのICT 活用による学修支援も活用している。この他、教育インフラ整備という面からのFD研修会、TA研修会での個人の研鑽は、教育改革を進めるためには必須であると示された。
 玉川大学からは、教学マネジメントシステムの改革を立案し、学生が主体的な学修に取り組むための教育システムを具現化する事例が紹介された。能動的学修を促進する教学マネジメントシステムで学生の主体的な学びを実現するためには、授業のための事前準備、授業内、授業後で学生同士、学生と教員間の相互協力が必要である。また、自学自習による学生の主体的な学びの実現のためには、学修内容を学生が把握し、学修の目標を確認できるような全学共通カリキュラムの整備が必要で、そこではじめて、学生が汎用的なコンピテンシーを身につけることが可能になる。加えて、玉川大学を卒業する学生の質の保証を社会的にも認知してもらえるように、124単位取得+累積GPA2.00以上を卒業基準とした。さらに、eポートフォリオを活用することで、学修内容の確認、自己評価などによる主体的な学修参加を可能とした。こうした中で、学士課程教育の質的転換は、主体的に考える力をもった人材の育成であり、そのためには課題解決型のアクティブラーニングの実現が必要である。授業改善を中心とした大学FDの推進、ICT活用による学生・教員の連携、授業の事前事後学修へのTAの関与なども今後の課題である。なお、玉川大学を含む8大学で申請された「教学評価体制(IRネットワーク)による学士課程教育の質保証」は、平成24年度『大学間連携共同教育推進事業』に選定されており、他大学との共同作業を通して、日本の学生の能動的な学修環境を再検証する機会を手にしたと考えていると紹介された。
 課題提起や討議を通じて、学生主体の能動的な学修を可能にする教育システム「アクティブラーニング、ラーニングコモンズ」を日本の大学に定着させるためには、単位の実質化を具現することが重要で、そのことで学生が選択した一つひとつの履修科目をじっくり学修でき、学生自身が学びの汎用性を身につけることにも繋がると考えられており、そうした環境の実現には、各大学でFDの取り組みに積極的に向き合うことが極めて重要であるということも確認された。

分科会:D クリッカー技術を始めとした双方向授業

<課題提起>

立正大学副学長、経済学部教授
今井  賢氏
東京理科大学基礎工学部准教授
村上  学氏

 学生の授業時での理解度を、リアルタイムで客観的に把握できるツールの一つにクリッカー技術がある。理解度の状況に応じて授業のシナリオを柔軟に変更できるので、一方通行的な授業から学生が授業に積極的に参加できる授業を実現するためのツールとして注目されている。本分科会では、文系および理系学部での導入例を取り上げ、学部・学科を通じた組織的な取り組みや、学生の関心や考え方に応じた授業展開を試みている使い方について事例を紹介し、クリッカー技術の導入と他の授業方法とを組み合わせた新たな双方向授業について考察した。
 立正大学では、文系の授業の現状と問題点に触れ、教育制度上の改善と質保証の必要性を強調された。文系大学ではコア科目の授業が大教室での知識伝達型の講義になる傾向が強く、その結果、出席率や学習意欲の低下、平常点の正確な評価の困難性などの問題がある。半期15コマの授業数という授業の量的確保は重要課題の一つであるが、それだけでは授業への集中度を高めることにはならない。質の向上のためには、出欠管理の徹底と同時に、小テスト・アンケートなどの理解度チェックをリアルタイムで実施することが必要になる。同学部では、穴埋め式講義ファイル、携帯電話、クリッカーなどの授業利用を導入してきたことが紹介された。
 東京理科大学基礎工学部では、授業でのクリッカーの具体的な使用法を紹介された。当初、キャンパスが長万部という遠隔地にあり教員数の制約も大きいことから、遠隔授業の展開を試みたが効果が小さかったことを例に上げ、各大学の問題に適応したICTの選択が重要であると強調された。1年間の寮生活のため、通学制に比べて学生のコミュニケーションの下地があることがその特徴である。寮は一部屋4人、4部屋で1クラスターを構成し、その中には3学科の学生が混在するようにしている。このような環境で、学科横断型授業、実験実習クラス、少人数のクラスなど様々な形態のクラスを設けている。クリッカーを選択した理由は、「投票ボタン」の機能が、大人数授業での教育効果を上げる仕掛けとして有用であると判断したためで、クリッカーは全員に貸与するが、全員寮生であるゆえ管理が容易になったことも利点になったことが紹介された。
 2大学からの課題提起の後、討議行った。システム導入費用に関しては、クリッカー1台につき5〜7千円程度、PCにソフトウェアアンテナを加えて約百万円、その他保守に年数十万円かかることがわかった。クイズ形式などクリッカーに参加させるための工夫、不正使用への厳罰主義による対応、複数回計測による誤信号への対応などが必要であることが確認された。また、リアルタイムでの高頻度の受信により、履修登録の自動化に展開できる可能性などの議論も展開された。教育改善のためには、「アナログとデジタルの連携」が重要であるとの認識を強くした。

第3日目(9月6日)

大会発表(65件)

A-1 発表辞退
A-2 PBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)科目におけるSNS活用
京都光華女子大学 吉田 咲子

 グループ活動の活性化と情報共有を目的として、SNSを活用したネットディスカッションを促す実践を行った。時間と場所に束縛されない意見交換、情報共有などの効果を確認できた。より定量的な教育効果測定が今後の課題である。

A-3 コミュニケーションスキルを育成する実践的なカリキュラム開発
関西大学 田上 正範、山本 敏幸

 コミュニケーションスキルの育成と画一的な講義時間の課題を解決するために、「交渉学」をベースとしたカリキュラムを開発し、良いコミュニケーション関係を育成する実践的な学習環境を提供することができた。今後はよりわかりやすい教材を充実させていく。

A-4 教育支援システムとミニツペーパを活用した授業改善サイクル
東海大学 高山 秀造

 マルチメディア教材を提供できる教育環境を整備し、ミニツペーパーによる授業アンケート評価を導入し一週毎に授業改善できたかを確認する授業サイクルを実行した。マルチメディア教材によって理解が向上し、迅速な授業改善が可能となった。

A-5 国内外の教師交流ネットワークを活用した日本語学習コンテンツの開発と評価
東京農工大学 加藤 由香里

 日本語教師養成プログラムの一環として、国内外で活動する卒業生をネットワークを通じて参加を呼びかけ、実際の教育場面でどのように作成したコンテンツが役立つのかを受講生と議論してもらうことを試みた。現場の教師との交流によって、受講生が教材作成に対する「自信」を深められる可能性を確認できた。

A-6 クラウド型グループウエアを利用した自己調整学習のための学習環境デザイン
愛知学泉短期大学 神谷 良夫

 クラウドコンピューティング時代における、自己調整学習・協調学習の先行事例的な基本概念の構築、学習環境デザインを試みた。メンバー同士の情報共有、情報の可視化、相互評価によるモチベーションの向上などの効果が期待できる。

A-7 iPadとオンラインストレージを利用したグループ学習における情報共有の試み
東海大学 広川 美津雄、宮地 泰造、岡田 工

 グループ学習が中心の授業に、iPadならびにDropboxやEvernoteなどのオンラインストレージを導入することによって、授業改善や新たな授業の可能性を検証した。一般教室における情報環境の向上、情報共有・在宅授業などによる学生同士の対話の促進、授業内即時相互評価によるモチベーションの向上などの効果が期待できる。

A-8 社会調査の実習教育におけるwikiを用いたグループワークの実践
立教大学 廣瀬 毅士

 wikiエンジンを用いた議論の内容の記録、構造的な整理によって、グループワークを活発化させ、社会調査に関する実践知識の定着を目指した。グループワークでの議論が活発化し、グループワークに取り組む授業時間外の学習時間の増進、受講生の意欲の向上を見込むことができる。

A-9 iPadを利用したグループワークについて
東海大学 岡田 工、堀本麻由子、広川美津雄、尾崎 由佳、園田由紀子、崔 一火華、大塚 滋

 コミュニケーション能力、問題可決能力、プロジェクト管理能力などの習得を目的にして、一般教室でのiPadを利用したグループワーク授業を展開している。全学部・全学科・全学年を対象として開講している授業で、授業支援システムとの連動やiCloudの利用によるデータ管理の導入も試みた。

A-10 ウエブベースツールを活用したプロジェクトマネジメント学習
九州情報大学 岸川 洋、合田 和正、平田 毅

 全学生が個人所有のパソコンを利用する環境で、プロジェクトマネジメント学習の効果を上げる目的のために、グーグルドキュメントなどのウエブベースツールを活用するクラスを実践した。従来の学内LLAN同様の機能に加え、グループ作業支援機能も有することが検証できた。

A-11  OSSを活用したゼミナール学習の質向上への試み
東海大学 田中 真

 OSS(Open Source Software)のプロジェクト管理ソフトウェアの代表格であるRedmineを活用し、ゼミナール学習の質向上を目指してきた。特に、この中のバグ管理システム(BTS:Bug Tracking System)をゼミナール学習用にカスタマイズし、追跡機能の仕組みを使って、ゼミの問題点などへのアドバイスなどを試みた。

A-12 ビジネススクールの社会科学論文作成におけるICT教育の重要性
立教大学 松本 和幸

 「統計学基礎」の科目で、経済データ・産業データ・企業データについて、データのダウンロード、グラフ化、基本統計量の算出、回帰分析までの習得を目指している。一般教室での講義とパソコン教室での演習を併用し、また学生の習熟度を絶えず観察する工夫も併用している。

A-13 インターネットを活用したタスク型TOEIC対策
東京理科大学 西口 純代

 TOEIC試験では実生活シーンを題材とする出題が多い。アパート探し、航空・鉄道便、ホテル等の予約、レストランでの注文、就職ポストへの応募などである。それらのシナリオに基づき実在するWebサイトをリンクした学習支援システムを開発した。これによりTOEICの成績が飛躍的に向上した。

B-1 海外派遣留学における家庭-大学恊働教育のICT活用と支援
東海大学 千葉 雅史、藤田 泰裕、田中 滋樹、生方 香代、田熊 偉良

 インマルサット衛星回線(256kbps)のような狭帯域回線の環境下において、動画を含むリアルタイム双方向配信により、南太平洋上において遠隔医療を実施展開するための基盤システムを構築することに成功した。さらに、Facebookを利用して学生の家庭との連絡も可能になった。

B-2 2箇所のコンピューター教室を利用した双方向性連携授業環境の構築とその応用
獨協医科大学 坂田 信裕、山下 真幸、上西 秀和、蓼沼 隆、冨士山千晶、大橋 和也、梅村 博子

 「教養演習I」の冊子の中で「振り返りページ」を記録することにより、自己PR文をeポートフォリオに蓄積していくようにした。それ以外にも、長期目標と短期目標とその達成方法を記入させるが、これらも合わせてeポートフォリオに蓄積し、達成度を自己評価して記録できるようにした。

B-3 看護学大学院生と海外講師との双方向遠隔講義システム活用による発表討論の実践
東京医科歯科大学 高橋 琢理、丸 光惠、前田 留美、若松 秀俊、

 遠隔講義システムを導入し運用することで、米国の看護研究専門家から質疑応答を通じて、リアルタイムでの討論による指導を受けることが可能となった。講師招聘の替わりにシステム活用することで、学生が直接的指導を受けることが可能となり、国際感覚涵養にも繋がった。

B-4 物理学科推薦入学者のための入学前教育の開発
成蹊大学 勝野 喜以子
学習院大学 勝野 弘康、真野 博史、入澤 寿美

 入学前教育として既存の学習管理システムと自作のe-Learning教材により、高校教員側への負担や受講者への金銭的な負担をかけずに、教材の難易度の変更など、きめ細やかな教育が可能になった。学習習慣の維持や学習意欲の向上(大学に対する意識)などに貢献していることが分かった。

B-5 Moodleを用いた入学前教育とその効果
東洋大学 澤口 隆、児玉 俊介

 158名の推薦入学生は、指定校推薦、AO推薦、附属校推薦、スポーツ優秀選手推薦と区分され、それぞれの生徒の、事前教育の取り組み姿勢と成績との相関分析を行った。すべての学生は入学時に、数学やTOEIC のテストを受験しており、事前教育結果との比較で入学前教育の効果を測定することができた。

B-6 初年次キャリア教育科目と連動させたeポートフォリオの2年目の運用
甲子園大学 梶木 克則、西川 真理子、増田 将伸

 「教養演習I」の冊子の中で「振り返りページ」を記録することにより、自己PR文をeポートフォリオに蓄積していくようにした。それ以外にも、長期目標と短期目標とその達成方法を記入させるが、これらも合わせてeポートフォリオに蓄積し、達成度を自己評価して記録できるようにした。

B-7 学生活動記録システム(HIT-STUDENT)の開発とその効果
広島工業大学 鬼追 一雅、永田 武

 学生自身の目標管理のため、個人別に大学活動記録を蓄積できる情報処理システムを学生活動記録システムとして開発した。大学入学時から入学目的を明確にさせ、学習と生活についての目標を明確にし、その実績を入力させることにより、大学での活動を可視化した。

B-8 学生カルテ・ポートフォリオシステムを用いた全学的な修学支援の試み
大阪経済法科大学 朴 恵一

 学生の学習課題の蓄積、教職員による面談記録等を蓄積した学生カルテ・ポートフォリオシステムで、新入生には、入学前の志望理由書、新学期の面談内容、自己紹介等、多様な情報が蓄積されており、学生一人ひとりの個性や大学生活の様子が可視化されるようになった。

B-9 オープンソースを活用した人間力形成支援学生ポートフォリオの構築
至学館大学 前野 博

 「人間力の形成」の具体的方略として学生ポートフォリオを構築し、学生自らが行う活動の記録・評価、教員が行うコメント・評価を通した人間力形成の支援について、中間的検証を行った。

B-10 キャリア教育支援のためのeポートフォリオの実証開発
千歳科学技術大学 山川 広人、立野 仁、小松川 浩

 キャリア教育での講座の振り返り、自己・他者評価、テスト結果、主体的な学習履歴を反映し、学生が取組経過と評価の比較を確認できるeポートフォリオを開発した。利用検証から、学生が履歴を残しやすい仕組み作りと、他者評価の充実の必要性が示唆された。

B-11 学生の活動体験ポートフォリオによる就業力育成支援
亜細亜大学 石塚 隆男、原 仁司、金子 国彦、五味 敏雄、青島 勉

 仕事人へのインタビュー実践を通じ、就業力のきっかけを与え、さらに大学生活における様々ンな活動体験を登録することにより、学生自身の人間基礎力を確認できる就業力認定マイレージシステムを開発した。運用を通じて学生への認知を高める必要性が確認された。

B-12 ICTを利用した就職活動を支援するキャリア教育科目の開設
北海道情報大学 藤井 敏史、冨士 隆、安倍 隆、前田 真人

 就職活動における筆記試験(SPI)の合格率向上を図るため、eラーニングを用いたキャリア教育科目を開設した。その効果をプリテストとポストテストの成績比較、および数年来の模擬試験(6万人規模)結果との比較で確認することができた。

B-13 「就職活動体験記」によるキャリア形成支援プログラム
自由が丘産能短期大学 豊田 雄彦、竹内 美香、石嶺 ちづる

 「体験の後輩への伝承」などを目的として、1、2年生の交流を伴う「学びのサポート」科目において「就職活動体験記」の検討演習を実施している。5年間の記述内容を主題の比率の変化で把握した結果、キャリア教育改善の情報源としての役割を確認した。

B-14 豪州モナシュ大学で創始された画期的な研究者養成プログラム-プロフェショナル・ディスプテーションについて-
北陸先端科学技術大学院大学 中川 武夫、飯田 弘之、川西 俊吾

 豪州モナシュ大学・機械航空学科では、プロフェッショナル・ディスプテーションが修士課程以上必修科目となっている。ディスプテーションの練度評価を徹底することで、学位取得者の質を保証するとともに、国際高等教育評価機構から世界一との評価を得られた。

C-1 大教室型講義における双方向性授業へのICT追加導入について
名城大学 田口 忠緒

 授業の課題や疑問点を記す講義カードとその掲示に効果があることを確認した。講義ボードを電子ホワイトボード化し、WebClassと有機的に組み合わせ運用したところ、講義ボードのアクセスに関する場所・時間の制限がなくなり、学生の授業満足度が上がった。

C-2 教員のタブレット型端末利用による個別対応支援システム
東京情報大学 山口 崇志、花田 真樹、永井 保夫

 授業中の学生対応のツールとして、講師やTAにタブレット型Android端末を利用した。学生の教室での位置把握や質問受付、出席管理や学生の学学習履歴を参照する機能などを有するアプリケーションを開発し、当該端末にインストールし活用している。

C-3 数学の授業におけるスキャナーを用いた予習・復習の確認演習の実施
金沢工業大学 北庄司 信之

 授業時間中に教室にスキャナーを持込み、出席者全員の答案を読み込み、その一部をスクリーン上に投影し、添削しアドバイスを行った。アンケートによれば、およそ7割の学生が自分や他人の解答の添削・解説が役に立ったと回答した。

C-4 スマートフォンを用いた授業内での学習者フィードバック収集の試み
愛知教育大学 鎌田 敏之
法政大学    児玉 靖司、寺脇 由

 Educational Data Mining(EDM)概要を解説し、スマートフォンによる授業内の学生の心的状態変化の収集手法を提案した。また、学習者への適切なフォローを行うためのモデルとシステムに必要な要件を検討した。

C-5 「学生主導型授業評価」を支援するアンケート作成システムの構築:R言語によるモジュール開発
南山大学 梅村 信夫、河野 浩之、沢田 篤史

 学生が自分自身で授業評価項目を立案する「学習主導型授業評価」手法を支援するために、R言語を用いたモジュールを開発した。本モジュールにより類似の評価項目を集約することができる。実行速度や精度の改善が今後の課題である。

C-6 IC学生証を活用した出席管理システムによる休退学者減少への取り組み
広島工業大学 小川 英邦、荒木 智行、久保川 淳司、伊藤 雅

 学生証をICカード化し、出席管理システムを構築した。今までは個別科目ごとの出欠の確認しかできなかったが、本システムにより、学生個人ごとの履修科目すべての出欠の把握、長期欠席者の傾向分析ができ、その結果早期の対応が可能となった。

C-7 オープン・エデュケーション促進手法の検討
実践女子大学 犬塚 潤一郎、谷口 浩二

 オープンエデュケーションを促進すべく講義の録画・配信方法に関し、インタラクティブ・ホワイトボード、リモート・デスクトップ、スクリーンキャストなど例に取り検討した。その結果、ホワイトボード/スクリーンキャスト方式は大きな可能性を持つことがわかった。

C-8 壁面電子黒板とモバイル端末の連携によるインタラクティブな一斉授業環境の構築と実践
東洋英和女学院大学 柳沢 昌義

 教室の壁一面に仮想的な黒板を投影したり、学生の携帯でのメッセージを流したり、資料を提示することでダイナミックな授業を展開している。また、教師にはスポットライトが当てられ、プロジェクターの映像を飛ばすなどの工夫がされている。

C-9 音声入力を用いた発想技法支援システムの構築
近畿大学 鞆 大輔、矢野 芳人

 双方向の演習を限られた時間内で効率的に行うため、途中経過の保持や再開が容易でデータ作成を省力化できる補助ツールとして、タブレットPCに音声入力機能を実装したシステムを使い、双方向授業を試みた。

C-10 講師を講義スライドの背後にリアルタイム没入表示できる映像作成システム
東京工科大学 板宮 朋基、飯沼 瑞穂、千代倉 弘明

 教室のICT環境の充実に伴い、講義の録画・配信システムの研究開発が盛んであるが、これらシステムでは、講師の画像、板書、スライドが独立のウィンドウで示されるものが殆どであるため、資料スライドの背景に演者を配置する安価なシステムを利用した。

C-11 マルチタッチ・ディスプレイを採用した52型タブレット端末による次世代型
東海大学 高橋 隆男、合田(日向寺)祥子、白澤 秀剛、内田 理、原田 渡、宮城 枝里

 大学における情報機器操作教育はほぼ達成され、情報教育は情報機器を利用した応用力の育成へとシフトしつつあり、その教育・学習環境は多様化している中で、大型のマルチタッチ・ディスプレイテーブルを使用したシステムを構築した。

C-12 情報教育学習システムにおける3DCGの有益性の基礎検討
日本女子大学 加々見 薫、吉井 彰

 PCの高性能化に伴い、3次元コンピュータグラフックスがストレスなく描写できる環境が整ってきた。3DCGを教材として使用した際のユーザーインターフェースの違いとPC操作習熟度の関係及び教育効果について検証した。

C-13 日本舞踊におけるモーションキャプチャ利用のフィードバック・ループの検討
日本大学     丸茂美惠子、三戸 勇気、小沢 徹、篠田 之孝
横浜国立大学  竹田 陽子
一橋大学     渡沼 玲史

 日本舞踊を学ぶ上で重要な「腰を入れる」と表現される一連の体の使い方について、学習者が自分の舞のどこを修正すれば良いのか解りやすくするため、学習者の動きをモーションキャプチャーにより解析し、その学習効果を検証した。

C-14 基本的臨床技能実習「乳房診察」の教育開発、実践、評価
東京慈恵会医科大学 柵山 年和、塩原 憲治、小松 一祐

 乳癌の約80%は触診により発見できるが、日本の医療教育現場ではボランティアの不足など、学生に触診の経験を積ませる機会はほんどないため、乳房診察のシミュレーション教育とeラーニングをブレンドして実習を行い、その教育効果を検証した。

D-1 データセンターを利用したクラウド型演習室の構築
千葉工業大学 福山 達也、中村 直人

 理工系におけるIT関連授業において、CAD、イラスト、画像処理などの高付加なソフトウェアを使って教育を行うべく、仮想デスクトップ環境を構築した。クラウドの一つであるDaaSを用い、データセンタを用いて演習室を構築し、管理・運用の軽減、学習環境へのサービスを図った。

D-2 クラウド環境を用いた大学情報センターのサービス利用について
名城大学 高橋 友一、加藤 敏彦、名取 昭正

 情報処理関係の環境として、1教室(100台分のPC)相当を仮想計算機環境(VCL:Virtual Computing Lab.)をクラウド上に構築した。その結果、学生が多種多様なPC環境から統合ポータルサイト経由で、講義時間以外の時間・場所で学習できるサポート形態を提供した。

D-3 クラウドサービスとBYODによる「コンピュータ教室」を廃したICT教育環境
嘉悦大学 遠山 緑生、白鳥 成彦、田尻慎太郎、清水 智公、細江 哲志

 学生のノートPCやスマートフォンなどICT機器の持ち込み(BYOD)を推奨し、これらを基本端末として利用でき、大学環境に特化しない一般的なクラウドサービス環境を整備した。専門性の高い高額なソフトウェアなどを提供する体制作りが、今後の課題である。

D-4 歴史的電子音楽資料データベースとその21世紀音楽教育への応用
大阪芸術大学 石上 和也、泉川 秀文、竹内 明彦、志村 哲

 初期電子音楽資料は、電子音楽、ミュージック・コンクレート、コンピュータ音楽の研究・教育に不可欠な教材である。これらの機器類や資料の調査・分析を行い、デジタル化・ドキュメンテーション、データベース化に着手した結果、電子音楽の諸様式における体系的把握が可能となった。

D-5 AFP通信社の報道機関向けオンラインデータベースを利用した教育・研究の可能性
文化学園大学 田中 岳生

 AFP通信社のオンラインデータベースには、ニュース素材以外に膨大なアーカイブ(写真、映像、記事)が収蔵されている。教育・学術利用目的で教育機関に配信されるサービスを複数大学の教育で利用した実践を通じて、既存のデータベースにはない次代の教育の方向性として提案できることを確認した。

D-6 iPadを用いたコンピュータリテラシー教育
北海道工業大学 藤田 勝康、獅子原 学

 iPADを用いてコンピュータリテラシー教育(Web、メール、iWorks、neuNote、Dropboxなど)を行った。平成23年度における内容の過多、共通アプリのインストール・バージョンアップ、AppleIDの取得など管理運用上の問題に対して、本年度は改善して進めている。

D-7 能力別クラスわけによる「情報リテラシ」教育の学習効果について
広島女学院大学 中田 美喜子

 情報に関するテストを入学時にタイプ測定と知識測定により行い、能力別に二つのクラスに分け、教養必修科目「情報リテラシ」の講義を実施した。これまでに集計した年度別の結果から、学習を進めていくにつれ、基礎知識についてはクラスの差が減少する可能性がわかった。

D-8 情報リテラシー教育のための教科書とiPad導入の教育効果の検証
大谷大学 高橋 真、生田 敦司、山城 稔暢、柴田みゆき、池田 佳和、福田 洋一、松川 節、宮下 晴輝、山本 貴子、箕浦 暁雄、三宅伸一郎、釋 晃、酒井 恵光

 入学時のアンケートに基づき、四つのクラスに分けて情報リテラシー教育(1年次)を行った結果、習熟度クラスや統一教科書の導入(2009年度から)はICT基礎知識の定着をもたらし、2011年度はiPADの導入の効果により総合成績が上昇した。

D-9 全学的な情報処理技能向上を志向した必修・選択科目の連携
広島修道大学 記谷 康之、竹井 光子、脇谷 直子

 全学共通の1年次必修科目「情報処理入門」に続く選択科目として「情報処理基礎」を開講した。「情報処理基礎」の全学的な情報処理技能向上への寄与について検証を行い、「情報処理入門」から「情報処理基礎」、そして資格試験受験へと続く情報処理技能向上のための道筋を確認することができた。

D-10 基礎教養教育科目「情報リテラシー」の授業補助にもとめられる資質能力について
江戸川大学 波多野 和彦、中村 佐里

 技能や知識等にバラツキがある学生を対象とした基礎教養教育段階における情報教育の授業に必要な授業補助者の育成方法、授業補助で陥りやすい諸問題等を検討した。授業実施前の研修は、講義形式だけでなく、具体的な場面を想定し必要な知識や技能を活用体験させる等の工夫が必要なことがわかった。

D-11 ポータブルサーバ機能を利用したネットショップサイト構築演習の試み
大阪商業大学 樽磨 和幸、佐藤 仁

 社会科学系学部の情報系ゼミにおいて、学生の利用経験率も高く、学習動機を保ちやすいネットショップを題材にサイト構築の演習を行った結果、システム構築全体を総合的に体験学習しつつ、関連する知識の習得を目的とする授業を実施する上での知見を得ることができた。

D-12 リンクを意識したポジショニングマップの作品制作とそのアプローチ
兵庫大学 森下 博

 プログラミング(C言語とグラフィックスライブラリ)を手段としたグラフィカルな作品を創り上げる過程を通じて、表現や技術習得の学習意欲向上を試みた。さらに、異なる手段としてHTML、JavaScript、CSSを用いて、同じ系統・動作を含む作品を創り上げることで、アプローチの違いを感じ取らせることも期待した。

D-13 Web環境を利用したプログラミング教育支援システムの開発
いわき明星大学 高山 文雄

 Web環境を利用したプログラムの作成、編集、実行ができるプログラミング教育支援システムを構築し利用した。システムはCGを重視し、言語はJavaベースのprocessingを使った。CGやアニメーションを簡単にプログラム化できるため、初心者のアルゴリズム・プログラミング学習に有効と考えている。

D-14 地域と連携した実践的ソフトウェア開発教育の試みとその効果
日本工業大学 粂野 文洋、辻村 泰寛、大木 幹雄、山地 秀美、石原 次郎、松田 洋

 実践的IT人材育成が社会的要請となっており、PBL(Project Based Learning)はその効果的な手法として注目されている中で、地域連携に基づいて、実ユーザ(教員以外のステークホルダ)対象のソフトウェア開発を行うPBLに取り組み、その効果と課題を確認した。

E-1 Moodleを用いたビジネスゲーム学習教材としての経営分析小テストの実践
大阪国際大学 田窪 美葉、韓 尚秀、市川 直樹

 ビジネスゲームにおいて、学生の理解度確認と向上のために経営分析の小テストを作成した。内容を理解させるために、何度でも受験でき、助け合いも可能な仕組みにした結果、学生の知識の向上には役立ったが、学生のゲーム内での役割によって知識に差が見られることがわかった。

E-2 GoogleFormを利用したオンライン小テストシステム
熊本学園大学 堤 豊

 アンケート作成・集計ツールのGoogleFormを利用して小テストを実施したいが、そのままでは学籍番号の入力や問題文の表現力などの問題が生じるため、GoogleFormで作成したものを小テスト形式に変換するツールを作成した。それによってLMSよりも手軽に利用できるようになった。

E-3 「e-learningコンテンツ制作を通じた協調学習」による社会人資質の向上
名古屋学芸大学短期大学部 山本 恵、梅村 信夫

 制作者としてのコミュニケーション能力の向上や、成果の公開によって責任感・達成感を高めることを狙いとして、e-learning教材を学生に制作させる授業を行ったところ、授業評価の記述には社会人資質に関わる言葉の出現頻度が高くなり、良好な結果が得られた。

E-4 歯科医学教育における教員を対象とするICTワークショップの取り組み
日本歯科大学 割田 幸恵、新井 一仁、鹿野 千賀、南雲 保、宮坂 平、秋山 仁志、柵木 寿男、高橋 幸裕、山瀬 勝、高田 清美、小倉 陽子、長谷川 充、伊藤 菜穂

 試験問題を作成するため視覚素材が必要であるが、教員によってICT利活用力に格差があるため、FDの一環として画像処理に関するワークショップを開催した。受講後アンケートでは「価値がある」と答えた者が多く、教員の教育力に対する意識の向上にも貢献できた。

E-5 ICT活用指導力向上のための教員研修カリキュラムと実践
目白大学 内橋 美佳、原 克彦

 ICT環境を授業で十分に活用できるよう、ICT活用指導力向上のために教員向けの研修会を実施した。カリキュラムは四つの分野に分け、それぞれ3段階のレベルを設けたところ、予想以上の反響があり、アンケートの満足度も高く、ICT活用に対する関心が高いことがわかった。

E-6 対話エージェントを利用したe-learningガイドの開発
青山学院大学 長谷川 大、佐久田 博司

 既存の学習コンテンツを変更することなく、e-learningの課題であった学習者の意欲・動機付けの維持向上を図るために、様々な教育システムで効果が確認されている、インタラクティブに学習コンテンツをガイドする対話エージェントを用いてe-learningシステムを開発した。

E-7 アンチ・ユビキタス・ラーニング-ICTによる学習支援のパラダイムシフト-
岡山大学 天野 憲樹

 ユビキタス(いつでも、どこでも、誰でも)とは対極のアンチ・ユビキタス(特定の時刻に、特定の場所で、特定の個人が)の概念に基づいてICTによる学習支援を行ったところ、適度な緊張感と主体的な学習態度および規則的な学習習慣を学習者が身につけ、学習効果が高いことが確認できた。

E-8 LMSの全学的な導入とその活性化の原因分析
関西学院大学 西谷 滋人、内田 啓太郎

 関西学院大学で2010年9月より全学に供用を開始した、BlackboardLearnをカスタマイズしたLUNAは、1年余りで全学生の8割以上が利用するなど、短期間での普及に成功した。この成功は主に、LUNAと併存するシステムがなく、全学一斉導入が可能であったことと、それに伴う体制整備によってもたらされた。

E-9 LETUS(理科大版Moodle)を用いた理工系授業実践報告
東京理科大学 佐藤 喜一郎

 理工系の講義・演習・実験の3形式の授業においてLETUSを利用した授業支援を行った。とりわけ講義形式の授業において、TeXのタグが使えるLETUSは、数式表現に有用で、コミュニケーションツールとしてもLETUSは外部のSNSより優れていることがわかった。

E-10 機関が提供するeラーニング教材のゼミクラスにおける活用と教職協働による運営
大阪学院大学 中嶌 康二、南 智幸、神谷 善弘

 情報リテラシー教育のeラーニング教材を、学内機関(ITセンター)のみで、汎用性の高いHTMLを用いて開発した。これをゼミクラスで教材として活用したところ、学生は自己成長を実感する効果が得られた。また、教職協同での運営により、ICTの有効活用と学習効果向上に向けて相補的に協同することができた。

E-11 Moodle 2.2 への updateの実施と教訓
大阪国際大学 石川 高行、矢島 彰

 Moodle 1.9を2.2へupdateした際に判明した、データ変換における注意点と移行方法、Moodleの構成の再検討項目、contributed moduleの取り扱いとPHP sourceの改造など、Moodle 2.2にupdateするために避けられない問題とその解決方法に関する情報を発信し共有した。

文責:教育改革ICT戦略大会運営委員会


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