事業活動報告No.5

平成24年度 短期大学教育改革ICT戦略会議 開催報告

 平成24年度の本会議は、9月5日にアルカディア市ヶ谷(東京、私学会館)にて、「連携による就業力の向上を目指して」をテーマに開催した。参加者は昨年より増加し44名(31短期大学)であった。
 昨年度は、社会や企業から強く要請され、また短期大学教育の重要課題である「コミュニケーション力」に焦点をあてて、「社会で通用するコミュニケーション能力の育成を目指して」をテーマに開催し、企業の人事担当者から提起された社会・企業が求める能力や、全体討議での短大における今後の課題を確認した。
 今年度は昨年度テーマに関連して、これまで各短期大学が取り組んできた就業力の育成は社会や企業から求められている能力と齟齬はないのか、また卒業生は学習した内容で社会生活に通用しているのかを明らかにするための方策について検討することにした。まず、就業力育成のうちキャリア教育に関する各短大の取り組みをシラバスや学校案内から把握し、問題点の有無や解決の緒を探った。その中で多くの共通項を見つけることができ、大学間の連携が実現すれば、より実効性のある教育プログラムの作成が可能になるとの感触を得た(後掲)。
 そこで、会議では教員間、現役学生と卒業生、大学間、大学と産業界の連携を図りながら就業力育成を推進している3短大にその取り組み方、成果、課題などを事例紹介いただいた。さらに、短大共通の課題を解決する契機として、大学間でどのような連携できるか、その方法など、本協会から問題解決に向けての支援のあり方を提案した。詳細は以下のとおりである。

事例紹介1

「就業意識向上と持続的就業のための教育カリキュラムと支援体制」

聖徳大学短期大学部 野中 博史氏

 平成18年度から実施した「人間力を養成するユニット別キャリア教育」を点検し、「実学・実践によるコンピテンシーの育成 -キャリアの自己管理から就業能力の向上へ-」と展開した。
 人間力育成への取り組み結果は、基礎学力・人間力は向上したが、就職意欲や就職率は上昇していなかった。そこで、就業意欲・就職率の向上を阻むものの分析と考察を経て、社会性(コンピテンシー=仕事力)の育成へと転換し、実学的教育カリキュラムと実践的教育カリキュラムを核としたプログラムを編成した。「気づきノート」の編集作成、全教員によるキャリアアドバイス体制構築のための研修の受講を実施している。産業界との連携として千葉県産食材を利用した「千産千商事業」に協賛し、昨年度からは就業力持続的支援情報システム(学生・卒業生と教員・キャリア支援室が双方向通信)が稼働している。

事例紹介2

「卒業5年までの一人ひとりに応じた就業力育成」

千葉明徳短期大学 石井 章仁氏

 保育者養成の単科短期大学における入学前、入学後、卒業後まで8年間に亘る就業力育成支援に取り組んでいる。
 入学前には、公開授業や卒業生との交流、25歳までのキャリアデザインの作成、「スタートアップカレッジ」、高校生向け保育体験プログラムを実施している。入学後は2年間の学びの過程で体験から学ぶことや共に学ぶことを実現し、教科間の連携を通して各自が定期的に振り返るようにしている。卒業後は、卒業生の職場に教員が訪問し面談することで職場と育成について連携を図っている。また、卒業生センターを設置して交流の場を提供するとともに、学びの機会の設定や情報発信も行っている。
 取り組みの成果として、高校生の職業意識の醸成、学習意欲の向上、教科間の連携は「学びの成果発表会」で実現した。卒業生の来校が増え、現場との連携の足掛かりができたなど成果を挙げているが、教員の意識改革や教員間の連携などの課題もある。

事例紹介3

「地域・産業界との連携による就業力と支援力育成の取り組み」

金城大学短期大学部 藤元 宏一氏

 これまでの「キャンパス内におけるキャリア教育」から、地域産業界の協力、就業支援力の向上を目指した「就業力育成バージョンアップ・プロジェクト」へと発展させた。
 平成16年度から始めた「キャンパス内におけるキャリア教育」を進化させ、地域産業界の協力の下、「産学連携就業力育成研究会」を設立し、企業の人事担当者や卒業生から学生へのアドバイスを受け、インターンシップを実施している。考察力や発信力を養成するため、学内に「学会」を設立してゼミで研究活動を行い、その成果を年次大会で発表している。教員が自らインターンシップに参加することで就業支援力の向上を図り、保護者には就業支援力へのバックアップとして、インターネットの活用による情報提供を行うなど、その成果が期待される。

全体討議

「連携による就業力の向上を目指して」

 はじめに戸高敏之運営委員会委員長より、今年度の提案に至る経緯を次のように説明があった。昨年度、キャリア教育の実施状況をメールで調査したところ、60件程度の回答があった。このうち、キャリア教育の教材・資料等コンテンツを他短大と共有できるか質問したところ、全体的に難しい旨の回答状況であった。また、企業との連携には関心が高いことがわかったが、短大の教育の改善と直接的に結び付けるためには、卒業生からの具体的なフィードバックが重要であると考えた。そこで今回は、社会との連携については卒業生との連携として提案することとなったので、ぜひご理解いただきたい。
 次に、司会の三ツ木丈浩委員より、趣旨説明を行った。4年制大学、専門学校の狭間に立たされた短大の意義を考え、社会は短大に何を求めているのか整理していく必要がある。そのためには、学部の声や卒業生の声を集めて短大の教育に反映していくことが重要と考えた。そこで、本委員会では各大学よりシラバス等の資料をお送りいただき、短大のキャリア教育の状況をまとめたので報告する。また、就業力と個々の授業科目の体系化や、社会で求められる能力に関する企業・卒業生からの情報収集について事例を紹介する。

1.キャリア教育実施状況に関する調査結果報告

運営委員 小棹 理子氏(湘北短期大学)

 湘北短期大学で独自に調査したものと今回の調査結果を合わせて61短期大学より回答を得た。実施されているキャリア教育は、専門教育以外の教養系の科目を対象としているものの、キャリアデザインといったようなキャリアを標榜した科目が増えている。そこで、こうしたキャリア科目の分類を行ったところ、望ましい職業観を得るための科目(狭義のキャリア教育科目)、スキルを養成するための科目(就職試験対策を含む)、それらの内容が混合した科目の三つに大別されることがわかった。また、それぞれの実践内容では、対人コミュニケーション力の育成や、社会人となった卒業生からのアドバイス、および就職に関する情報を得る機会を取り入れるなどの共通項が見られ、大学間の連携が実現すれば、効率の良い、効果的なプログラムとなる可能性があることがわかった。

2.事例報告

運営委員 豊田 雄彦氏(自由が丘産能短期大学)

(1)全学一丸となった初年次教育の実施

 就業力育成は担当している教員だけの負担になりがちであるが、自由が丘産能短期大学では科目間や教員が連携とりながら教育を実施している。また、実践力を高めるために体験学習を重視し、授業マニュアルの整備、複数の教員による1クラス担当制、クラスを超えた学習成果の合同発表会の実施など工夫を行っている。

(2)就業力調査の実施について

 就業力を高める上で、社会で必要とされている能力を把握するため、就業力調査システムを構築・運用している。就職先企業と卒業生に調査を実施したところ、就職先企業が求める能力と本学の卒業生が持っている能力はほぼ合致しているが、パソコンスキル、ビジネスマナーなどは両者に乖離があることがわかった。

3.短期大学連携のための就業力コンソーシアム構想の提案について

 豊田委員より次のような提案を行った。Webを利用した卒業生に対するアンケート調査・集計結果と、学生の動機づけを目的とした卒業生インタビューの音声ファイルを本協会のポータルサイトに掲載し、各短大で共有する仕組みを考えた。卒業生調査は、調査対象者の属性情報(性別、業種、業務内容など)と実務能力の調査になっている。実務能力については、職場で必要とされる能力、活用されている能力、不足している能力などを想定しているが、細かな項目は参加予定校の要望も踏まえて今後検討したい。実施はASPを利用することで費用負担が大きくならないようにするが、郵送での案内などでかかる費用は各短大で負担していただく必要がある。

短期大学就業力コンソーシアム

参加短期大学一覧

短期大学就業力データベース

学生向け就業力支援情報

コンソーシアム活用効果のフィードバック

図 ポータルサイトのイメージ

 次に、戸高委員長より、調査項目は共通部分を基本として、さらに各大学で追加できるように考えている。第三者評価でもこうした調査は求められているので、各大学でも有意義な試みであり、企業側の意見だけでなく卒業生の意見も照合することは重要であるとして、コンソーシアム構想の意義を強調された。
 その後に行った会場との質疑応答や寄せられた意見は次の通り。

【Q&A】

Q:
実施の開始時期はどれくらいになるのか。
A:
数校が参加を希望すれば、運営委員で検討し、今年度内に準備を終えるようにしたい。
Q:
各学科(短大)の教育内容を反映してアンケート項目は変更できるのか。
A:
項目を増やすことが可能。集計結果と自校を比較するための共通項目は固定とする。
Q:
どの程度の回収率を想定しているか。
A:
自由が丘産能短期大学で卒業生(卒後2〜3年目)に往復はがきで実施した際は12〜3%程度の回収率だった。Webでの回収は本年度初めて実施するが1割程度を想定している。回収率は普段からの学生のつながり具合が左右すると思う。
Q:
なりすましの防止策はあるのか。
A:
卒業生への案内メールやはがきに記載するURLから回答してもらうことで、なりすましを防止できると考えている。

【主な意見】

文責:短期大学会議教育改革ICT運営委員会


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