人材育成のための授業紹介:機械工学

日本工業大学における3次元CAD教育の試み

長坂 保美(日本工業大学 工学部機械工学科教授)

1.はじめに

 3次元CADシステムは、ものづくり現場の生産性向上に必要不可欠なツールで、教育現場でも3次元CADシステムを導入し、設計製図教育の中で実践的な教育を実施するようになってきた。
 図1は、従来のCAD教育(モデリング技法の習得)の授業体制を示したものである。一般にCAD教育は、講義、演習、評価、指導の順で行い、多くの学生を数名の教員で担当する例が多い。そのため、以下のような課題を抱えている。

 著者らは、独自で学べる環境(システム)のもとでCAD教育を行えば、学生自らが学習し、学習意欲の向上に繋がり、上記課題が解決できると考えた。そのためには、システム側がモデリング技法の講義を行い、学生の能力に適した演習課題を出題し、その課題を評価(自動採点)する。さらに、これらの内容を自動的に記録する機能により、教員はこの記録内容をもとに各学生にきめ細やかな指導が可能となると考えた。
 そこで、著者らはCAI(Computer Assisted In-struction)の考え方を取り入れた3次元CAD教育システムを開発、これを実用化し、学生の学習意欲の向上・改善を図ってきた。本報告は、3次元CAD教育システムの概要、およびその実用例と効果について述べる。

図1 従来のCAD教育の授業体制

2.3次元CAD教育システムの概要

 図2は、3次元CAD教育システムによる授業体制を示したものである。本教育システムは後述する方法で、システム側が講義、演習、評価を担当する。そのため、学生は独自のペースで何度でも学習でき、正確なモデリング技法を学習できる。一方、教員はその内容(学習履歴)をもとに適切な指導が行える。さらに、本学のような工業高校出身者(経験者)と普通科出身者(初心者)が共存する50名以上の多人数の授業でも、教員1名で授業が行えるといった特徴を有している。

図2 3次元CAD教育システムによる授業体制

(1)動画マニュアルによる講義

 図3は、講義で使用する3次元CAD動画マニュアル(SolidWorks)の例(図左下)を示したものである。図1中の講義の場合、一般に教員は教材(マニュアル)に沿って、モデリング技法(操作手順)を教授する。しかし、従来の紙面上の教材では、学生が学んでいる操作手順をシステム側が自動的に把握することができない。そこで、マニュアルを動画化することで、システム側が学生の操作手順を誘導することを可能にした。さらに、学生の操作手順が誤っている場合、その誤り箇所を指摘し、元の状態に戻す機能(ナビゲーション機能:特許第4755844号)を組み込むことで、学生は独自で操作手順を学ぶことが可能となった。

図3 3次元CAD動画マニュアルの例

(2)能力に適した演習課題による演習

 図4は、本教育システムによる演習課題(基礎編)の例を示したものである。図例左は演習課題一覧、図例右は図例左の丸印(図中2)をクリックした際の具体的な演習課題を示している。
 最初の演習課題(図中1)は、動画マニュアルで行う課題となっている。また、2番目以降の演習課題は、後述の3次元CADチェック機能の結果をもとに学生のモデリング能力に適した演習課題に変更(演習課題作成機能)するので、学生はモデリング技法を確実に習得することができる。

図4 演習課題(基礎編)の例

(3)3次元CADチェック機能による評価

 図5は、本教育システムの3次元CADチェック機能による評価の例(SolidWorks版)を示したものである。本チェック機能は、図4中Bのコマンド(採点)で起動し、3次元CAD上のモデルが図4中のモデル(模範モデル)と形状的に一致しているかを各面要素(部品を構成する面)で判定する。例えば、図例の場合、構成する面(10面)に対し、一致する面(5面)であることを示し、誤り箇所を色違いで表現する。

図5 3次元CADチェック機能による評価の例

(4)学習履歴による指導

 図6は、学習履歴の個人データの例を示したもので、演習課題の進捗状況、各週の授業内容などの情報を自動的に格納する。教員は、図例の学習履歴をもとに学生の指導を行い、その指導結果も学習履歴に書き込むことができる。また、この学習履歴は次年度以降の授業および教育改善にも利用している。

図6 学習履歴の個人データの例

3.3次元CAD教育システムによる実用例とその効果

 図7は、3次元CAD教育システムによる本学科「機械CAD-J」の授業の様子を示したものである。本授業は、3次元CAD(CATIA、SolidWorks)のモデリング技法を学ぶことを目的とする。授業構成は、1〜3週が課題(SolidWorks基礎編)24問で基礎を学び、4〜15週が課題(CATIA部品と組立)5問でモデリング技法を学ぶ。本授業は1年次(約240名:再履修含)必修で、CAD設備の都合上、春・秋学期各2クラス(2コマ/週)を教員1名と数名のTA(大学院生)で担当する。

図7 本学科「機械CAD-J」の授業の様子

(1)教育的効果の検討

 図8は、授業「機械CAD-J」の単位取得率(履修申告者部に対する合格者数の比率)を示したものである。教育的効果を検討する場合、一般に出席率あるいは試験結果等で評価するが、本授業の場合、試験結果に各週の課題の実績も評価対象となっており、単位取得率による評価が最適と考えた。なお、本授業の場合、3次元CAD教育システムによる授業体制で運用を行っており、各学生の学習履歴を自動的に格納しているので、種々の評価検討が可能となっている。
 2009年度秋学期の従来の目視による評価から一括処理による自動採点に切り替えた頃から徐々に向上していることが分かる。そして、2010年度春学期、3次元CADチェック機能の実用化に伴い、更なる向上に繋がっている。また、2012年度秋学期、普通科出身の取得率が著しく減少しているのは、秋学期入学の留学生によるものである。

図8 授業「機械CAD-J」の単位取得率

(2)学生らの学習意欲

 図9は、2010年度秋学期から実施している3次元CAD教育システムに関するアンケート結果の一部「他の演習授業と比較し、本授業(機械CAD-J)は楽しかったですか?」を示したものである。本アンケートは、本授業が1年次必修科目のため、学生全員が楽しく無理なく学ぶには何が問題となっているかを調査するために実施している。そのため、本アンケートは無記名で、最終課題の提出が最終日(15週)となった、本授業を苦手とする学生を対象に実施している。
 本アンケート実施以来、「普通(まあまあ)」より「楽しかった」と回答する学生が非常に多いことが分かる。また、各学期「楽しくなかった」と回答する学生は少なく、演習課題作成機能を実用化した2012年度春学期は1名、秋学期は0名という結果であった。このことから、学生自らの学習が、本授業を楽しくしているものと考える。

図9 アンケート結果の一部

4.おわりに

 本報告は、3次元CAD教育システムの概要、およびその実用例と効果について述べた。本教育システムの一部(講義など)は、他の教育機関(工業高校等)でも既に使用され、高い評価を得ている。また、現在はCADベンダーからの要請で本教育システムの英語版の開発を行っている。さらに、CAM/NC教育システムの実用化、インターネットを用いた授業支援など、同様な教育現場の関係者の一助になれば幸いである。


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