教育・学習支援への取り組み

関西学院大学におけるICT教育環境を
活用した教育・学習支援への取り組み

1.はじめに

 関西学院大学は約2万3,000人の学生(学部生のみ、2012年5月現在)を抱える私立総合大学であり、2014年に創立125周年を迎えます。開学以来のスクールモットーであります "Mastery for Service" を踏まえながら現代の大学をめぐる社会情勢を鑑みて、本学では2009年度から2018年度に至る10年間を見据えた「新基本構想」を策定しました。その構想ではスクールモットーに基づき「 "Mastery for Service" を体現する世界市民」という人間像と「 <垣根なき学びと探求の共同体(ラーニングコミュニティ)> の実現」という大学像を両軸として六つのビジョンを明示しております。その一つに「KG学士力」の名のもとに学生の質保証を高めていくという目標があります。

 この質保証の向上を実現する施策として「ICTキャンパス」の構築を現在も進めております。この取り組みには、例えば学生・教員にとって充実したICT教育環境を「教育研究システム」として整備していることが挙げられますし、また「教学Web」としてWeb上のシステムを通じて履修登録や時間割の提供など、学生の学習活動の利便性を高めることに努めております。
 さらに、ICTキャンパスの中核をなす学習支援システム(LMS)の運用を2010年度より始めており、続く2011年度には学内の学習支援システムや学務システムをスマートフォンから利用するためのアプリを開発し提供を開始しました。
 「ICTキャンパス」構築の取り組みに対して現在、本学では情報環境機構と教務機構の二つの機構が環境整備や管理・運用を担当しております。具体的には、情報環境機構では「教研システム」や学内LANなどの主にハードウェアとソフトウェアの面での整備および管理・運用を主に担当しております。教務機構では同機構に所属する共通教育センターがICTリテラシーの向上を目的として授業科目「情報科学科目」を提供し、さらに同じ教務機構に所属する高等教育推進センターではLMSの運用を担当しております。

2.ICT教育環境の整備における特徴的な取り組み

(1)LMS「LUNA」の運用

 本学では「LUNA」という名称で米国Black board社のLMS製品である「Blackboard Learn R9.1」を2010年9月より運用しております。
 LUNAで利用されている機能は大きく区別して四つあります。

1)授業で利用する教材を呈示する

2)受講者へ授業に関する連絡を行う

3)オンラインでメッセージを交換する、ブログを書く

4)テストを実施する、成績を管理する

 それでは、ここで示しました機能のいくつかを説明します。
 1)の教材呈示機能は、LUNAを通じて教材やコンテンツを呈示する場所として利用するものです。LUNAではWordやExcel、PDFといった授業でよく利用される形式のファイルを配布することができます。下の図1は初年次向けのプレゼンテーション科目において利用した教材を示したものです。

図1 LMS「LUNA」の教材ページ

 また、ファイルの配布に加えて教員自身がLUNA上でコンテンツを作成することもできます。LUNAでは「ワープロ」風にコンテンツ作成を行うこともできるので、HTMLに詳しくない教員でも問題なくLUNAを利用することができます。また、動画共有サイトの「YouTube」や写真共有サイトの「flickr」、スライド共有サイトの「slideshare」といった外部のWebサイトにあるコンテンツを利用しやすいのもLUNAの特徴と言えます。
 3)のメッセージ交換およびブログ機能ですが、LUNAでは授業中に、あるいは授業時間外に教員と受講者、受講者同士のコミュニケーションを行う場所として掲示板(BBS)機能が利用できます。掲示板ではメッセージの交換だけでなく、ファイルの添付も可能ですので教員によっては授業中の課題や宿題を提出させる場所として利用されている方もいます。メッセージを書き込み、ファイルを添付する操作についても一般的なWebサイトでのやり方を踏襲しており、学生や教員が簡便に操作できるようにインターフェースが工夫されております。
 図2は初年次向けのライティング科目において提出させた課題について受講者とLA(ラーニングアシスタント)のやりとりを示したものです。
 掲示板より頻繁に、かつインタラクティブにメッセージを交換させたい授業ではブログ機能がよく利用されています。このブログ機能もインターフェースの面では一般的なウェブログと比べても簡便な操作が可能なように工夫されております。ブログ機能は文系学部のゼミナールや演習において利用されることが多いようです。また本学の国際学部では他学部・センターと比較してこの機能の利用率が高いのですが、これは外国語教育に関連した科目においてブログのようなコミュニケーションの場所が求められており、その場所としてLUNAのブログ機能がよく利用されていると考えております。

図2 LMS「LUNA」の掲示板におけるコメントのやりとり

 さて、ここまで本学で提供しているLMS「LUNA」の概要(利用できる諸機能)について説明してきました。次にLUNAの利用状況について説明します。2012年度の利用状況データ(学部開講科目のみ、大学院の科目は除く)より言えることは以下の通りになります。

(A) LUNAの機能を一つ以上利用している科目は、全開講科目の35.7%

(B) 一つ以上の科目でLUNAを利用している教員は、全専任教員の60.9%

(C) LUNAを利用したことのある(アクセス したことのある)学生は、全学生の89%

 このように利用状況のデータを見ますと、本学でのLUNAの利用状況はLMSを導入している他の大学に比べてかなり高いものではないでしょうか。この状況に至った理由について、私見ではありますが考えを述べたいと思います。
 本学では2010年9月にLUNAの運用を開始するまでに「授業連絡ボード」という名称でWeb掲示板を運用しており、教員・学生が熱心に利用していたという実績がありました。またこれは現在でも利用可能なのですが、学内ではファイルサーバも授業利用に対して提供されておりました。これらのWeb掲示板とファイルサーバの利用、という過去の資産がそのままLUNAに引き継がれた結果、運用開始から高い利用率を維持していたと言えるでしょう。つまりLUNAを導入する時点で本学ではWebやファイルサーバといったICTの利用が、教員の授業実践や学生の学習活動の中に日常的に位置づけられていたと言えるわけです。
 さらに本学では、LUNAの導入開始時から教員と学生に対するサポート体制を構築しました。これは高等教育推進センターが中心となり「LUNAサポート」の名称で活動しております。活動内容はLUNAの操作マニュアルの発行、FAQや教員の活用事例をセンターのニュースレターやWebサイト上で発信する、という告知活動と教職員や学生を対象として定期的に講習会を開いたり、ゼミナールや演習科目における出張サポート活動など多岐に亘っております。このようにサポート体制の充実に努めてきたことも高い利用率を示すことができている要因の一つだと言えます。

(2)スマートフォン用アプリ「KGPortal」の提供

 LUNAや「教学Web」の内容が充実し、その利用率が向上するにしたがって、学生からはキャンパス内の「PC教室」や大学図書館に設置されているPCの台数には限りがあることと、広いキャンパス内の移動に時間を取られるため、授業のある日中にもっと簡便な方法で学内の各システムを利用できないかという声が多く挙がってきました。このような状況の中で、高等教育推進センターではLUNAや「教学Web」といった学生の学習活動に必須のシステムの利便性を図る方策を模索していたところ、学内からスマートフォン用アプリの開発を提案され検討を行いました。
 検討の結果、スマートフォン用アプリ「KGPortal」を開発し、最初のバージン(iOS版)を公開したのは2011年10月初旬のことでした(図3参照)。このアプリを利用することにより、LUNAや「教学Web」へのアクセスだけでなく、時間割、成績など学務情報、キャンパス近辺の電車、バスなど交通機関の時刻表、キャンパスマップといった学生の日常の学習活動に必要な情報はほぼすべてスマートフォンから入手できるようになったのです。現在、多くの大学でこのようなスマートフォン用やタブレットPC用アプリは開発、提供されていますが本学の「KGPortal」は他大学に先駆けて開発に成功し、学生への提供を始められたと言えます。

図3 「KGPortal」から「教学Web」にアクセスした様子

 「KGPortal」は最初のバージョンを公開した後も、利用における不具合の改良や新機能の実装など継続的にアップデートを実施しており、2012年3月にはAndroid版を、2012年11月にはiPad対応版をそれぞれ公開しております。「KGPortal」のダウンロード数の推移は図4を参照下さい。また、最新版の「KGPortal」のダウンロード数(有効なユーザ数)から推測すると、本学の半数以上の学生がこのアプリを利用していることがわかります。

図4 「KGPortal」の月間・累計ダウンロード数の推移

 図4からは「KGPortal」のダウンロード数が毎年4月に急増していることがわかります(例えば、2012年および2013年の4月期では前月の2倍以上の実績があります)。これは既に本アプリを利用している学生から新入生へ、その存在が伝えられ、ダウンロード数が急増したと考えられます。また筆者が担当する授業においても、授業中にLUNAへアクセスするために本アプリを利用する姿を多く見かけており、また実際に本アプリの利用を勧めています。
 「KGPortal」がこれほどの利用実績を挙げているのは、アプリの開発初期から学内で運用中の学習支援システムや学務システム、さらには電子メールシステムやキャンパスマップ、バス時刻表も含め、学習活動と学生生活に必要な情報へのアクセスをほぼ網羅しているからだと考えております。利用者へのヒアリングを行った開発者達からも、このことが本アプリの高い利便性として評価されていると聞いています。したがって、「KGPortal」は利用状況および実態を考え、本学では必要不可欠な存在になりつつあると言えます。
 「KGPortal」の開発にあたっては、高等教育推進センターと本学の学生が起業したベンチャー会社とが協力連携しながら進めております。そのため、学生の利用状況や本学のICT教育環境の実態との齟齬をきたすことなく、不具合の修正や新機能の開発がスムーズに進められたという実績があります。このことは、既存の製品を本学に合わせてカスタマイズするよりも低いコストで開発が進められたことを示しております。さらに、本学では現在も高等教育推進センターを中心に共同研究を継続しており、アプリ開発者たちとも連携しながら「KGPortal」の利用率の向上を図っていきます。

3.まとめ

 以上、関西学院大学におけるICT教育環境を活用した教育・学習支援への取り組みについて説明しました。本学では今回紹介したもの以外にも、様々な取り組みを進めております。それらは紙幅の都合で紹介することができませんが、ご興味をもたれました大学教職員の方がおられましたら、ぜひ本学高等教育推進センターまでご連絡をいただければ幸いです。
 最後に本稿を執筆する機会を与えてくださった私立大学情報教育協会に感謝申し上げまして、本稿の結びとします。

文責: 関西学院大学
高等教育推進センター准教授 内田 啓太郎

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