人材育成のための授業紹介・被服学

デジタル教材を活用した被服教育

末弘由佳理(武庫川女子大学生活環境学部講師)

1.はじめに

 武庫川女子大学では、教員の授業と学生の学習活動を活性化させるため、電子教材作成ツールMmoa(モア:Mukogawa Multimedia Original Annotation)および学習支援システムμCam(ミューキャン)を活用し、動画を含む教育用コンテンツのデジタル教材開発に取り組んできました。本稿ではMmoaを利用して作成した課外の予習・復習にも役立つ被服構成学分野における製図教材を紹介いたします。

2.被服教育デジタル教材作成の背景

 現大学生が既履修の平成15年4月施行の高等学校学習指導要領[1]では、家庭科において2単位科目の「家庭基礎」、4単位科目の「家庭総合」、「生活技術」の3科目から1科目を選択必須する形となっています。「家庭基礎」には被服製作分野が含まれておらず、高等学校で被服製作を履修せずに被服系の学部・学科に入学している大学生も少なくない状況です。また、アパレル産業において大量生産大量消費が一般化した現在、いわゆる「針離れ」が浸透しているのが現状です。このような現状の中でも、本学の生活環境学科、短期大学部生活造形学科にはアパレルへの興味・関心の高い学生が毎年入学してきています。高等学校までの既習の内容との照合から教材変更等を検討してはいますが、大学として一定のレベルを確保することは必要であり、そのためにはeラーニング教材を充実させ、学生の理解を促す支援をする必要があると言えます。

3.被服構成学教育および情報教育

 武庫川女子大学生活環境学部生活環境学科では、被服構成学実習の基礎科目として、生活デザイン・アパレル・建築デザインコースともに2年生前期に「アパレルコンストラクション実習」が開講されています。アパレスコースにおいて2年生後期には、「ドラフティング実習」、「ドレーピング実習」、3年生前期には、「アパレル生産実習A」、「ファッションデザイン演習」、3年生後期には「アパレル生産実習B」、4年生前期には「創作デザイン実習」が開講されています。短期大学部生活造形学科アパレルコースでは、1年生前期に「アパレルコンストラクション実習I」、「パターンメイキング演習I」、1年生後期には、「アパレルコンストラクション実習II」、「パターンメイキング演習II」、「アパレル生産実習I」、2年生前期には「アパレル生産実習II」、「ドレーピング実習」、2年生後期には「クリエイティブデザイニング実習」が開講されています。
 以上のように、本学科のカリキュラムにおいて大学、短大ともに基礎から応用へと系統的に展開して開講されています。しかしながら、ここ数年、系統的に履修する学生が減少傾向にあり、その理由として昨今の体験不足による被服構成学実習に対する「苦手意識」が一因ではないかと考えています。小・中・高等学校の家庭科の授業時間数は減少の一途を辿り、また、衣服事情の移り変わりも併せて、現在の大学生はこの分野において著しい体験不足と言えます。しかし、補助教材等教員の工夫次第で克服することが可能であると考えています。
 また、本学の情報教育においては、1年生前期に必須科目として「情報活用の基礎」関連科目などが全学的に開講されています。応用科目としては、CGやCADに関する科目を学科で開講しており、共通教育科目においては、情報リテラシー科目を複数開講し、学生の興味・関心に応じて履修することが可能なカリキュラムを設けています。

4.製図教材のデジタル化

 Mmoaは、平成14年度から情報教育研究センターと三菱電機株式会社が共同開発に取り組み、平成15年度からいくつかのコンテンツの開発とそれを利用した授業を実施してきました。Mmoaは、映像や他のプレゼン資料を統合した教材を、比較的簡単に作成できるソフトウェアです。Mmoaで作成した教材は、全学共用コンピュータ実習室および学科のコンピュータ実習室等学内のネットワーク環境から閲覧することができます。
 製図デジタル教材作成にあたり、表1に示す三つのソフトを使用しました。製図はアパレルCADソフトを用い、完成したデータをグラフィックソフトにエクスポートして、加工しています。加工した製図をPPTに貼り付け、適宜アニメーションを加えて動画教材へと発展させました。

表1 製図デジタル教材の作成に用いたソフト

 PPT上では、線に色をつけたり、図1の右図のように、拡大図を準備することで詳細な箇所の説明が可能となります。また、PPTの特性上、アニメーションを用いて線や点を点滅させることも可能であり、繰り返しの説明を求められた際には、戻って反復説明をすることが容易です。

図1 PPT上の製図(左:身頃原型、右:パンツ)

 以上が、本稿で報告するMmoa教材の基となった教材データです。このPPTによるデジタル教材を用いて、授業を展開したところ、75%の学生が「分かりやすい」と回答し、製図学習におけるデジタル教材は、学生の理解を促す効果が高く、有効な教材であることが確認できています[2]
 PPTによるデジタル教材を用いた授業を受講した学生から「(自分は作業が遅く)ついていけなかった」との意見があり、PPTデータを基にeラーニング教材へと発展させるため、電子教材作成ツールMmoaを用いた教材を情報教育研究センター協力の下に作成しました。前述のPPTを基に制作した動画に、音声、各部の名称や拡大図、計算方法の解説を加えたものです。
 図2は、Mmoa製図教材の画面の一部です。INDEXを設けることで、学生自身が見たい箇所からの再生ができます。また、動画は一時停止ボタンがあり、考える時間や停止して製図する時間をとることが可能です。各部の名称は、製図する上で専門用語が度々登場するため、都度の確認ができるように挿入しています。右側には、説明箇所の全体図と説明語を入れ、必要に応じて拡大図を入れ、右下には、計算例を示し、分数や四捨五入等が復習・確認できるよう配慮しています。

図2 Mmoa製図eラーニング教材の画面

 さらに、必要に応じて早見表を挿入しています。図3は、身頃原型の各部寸法の早見表[3]およびウエストダーツ寸法の早見表[4]です。左図に示す検索画面でバスト寸法を選択すると、製図をする際に必要な各部の寸法が右図に示す別窓に表示される仕組みです。ウエストダーツ寸法に関しては左図の検索画面で、バスト・ウエスト寸法を選択すると下段に自動計算した結果が表示されます。また、次ページ図4はパンツの着装シミュレーション画面です。製図の説明が終了した後に、着装シミュレーションを挿入し、完成した平面のパターンが立体化した際の形状を確認することができます。Mmoa上では、動画として挿入しているため、イラストが回転し、前後左右一周を確認することができます。

図3 Mmoa製図 早見表の画面
(左:検索画面 右:身頃原型の各部寸法早見表)
図4 Mmoa製図 着装シミュレーション(パンツ)

5.Mmoaを用いた製図デジタル教材の効果

(1)調査方法および調査対象

 武庫川女子大学短期大学部生活造形学科アパレルコース1年生75名を対象にMmoaを用いた身頃原型製図のeラーニング教材を使用して、各自で身頃原型の製図を行い、上記学生を対象として製図学習におけるeラーニング教材の効果に関するアンケート調査を実施しました。回答方法は、Mmoa上での電子形式であり、実施時期は2012年6月です。

(2)調査結果および考察

1)「本教材を使用することで製図への理解が深まったか」との問に対して、「理解が深まった」と回答した学生は全体の58.6%であり、「理解が深まらなかった」と回答したのは10.6%でした(表2)。自由記述には、「映像は本と違って動くのでとても分かりやすい」、「教科書では理解が難しかった箇所もこの教材を使えばとても分かりやすい」等の意見が挙げられました。

表2 製図に対する理解度
非常に深まった 5.3%
深まった 53.3%
深まらなかった 9.3%
まったく深まらなかった 1.3%
どちらでもない 30.7%

2)「本教材は繰り返し使用することができるが、使用したいと思うか」との問に対して、半数以上が繰り返し利用したいと回答しています(表3)。1)で「(理解が)深まらなかった」と回答した9.3%の学生は、2)の問に対して、約70%が「どちらでもない」、約30%が「(使用したいと)思わない」と答えています。

表3 繰り返し使用への意欲
非常に思う 9.3%
思う 44.0%
思わない 8.0%
まったく思わない 1.3%
どちらでもない 37.3%

3)「何回繰り返すと確実に身に付いたと言えるか」との問に対して、2回以上と答えた学生が93.3%であり(表4)、授業中の解説だけでなく、eラーニング教材を用いて反復することの必要性を示唆する回答が得られ、eラーニング教材の魅力が発揮できる教材と言えます。1)で「(理解が)深まらなかった」と回答した9.3%の学生は、3)の問に対して、全員が2回以上と答えています。内訳として、5回が約40%、2回、3回がそれぞれ約30%でした。

表4 確実に身につけるための使用回数
5回 16.0%
4回 16.0%
3回 44.0%
2回 17.3%
1回 6.7%

6.終わりに

 Mmoaの学習環境は、上述したように学内LANでのみ閲覧可能という状態ですが、学外からのアクセス希望について学生に設問したところ、学外からも閲覧したいという意見が85.3%でした。システム上、μCamのサーバにアップすれば、学外から閲覧することができます。現在、Mmoaの後継ソフトとして平成25年度より導入したコンテンツ作成ソフトへ教材を移行し、学外からの閲覧が可能となりました。本格施行は平成26年度前期以降です。学外からの閲覧が可能になれば、利用率が上がることが予測でき、学習環境整備により学生の理解および学習意欲の向上が期待できます。
 本学の電子教材作成ツール、学習支援システムは非常に優れたシステムと言えます。この優れたプラットフォームに見合う学習教材の提供・推進を図ることが教員の任務であり、e-Educationの力を存分に発揮できる教材の提供に寄与していきたいと思っています。

謝辞

 Mmoaによるデジタル教材作成にご協力下さいました武庫川女子大学情報教育研究センター教材開発支援室の岡田由紀子助手、田坂雅美教務助手、植田愛美教務助手、三菱電機株式会社の相川純子さんに深謝致します。

参考文献
[1] 文部科学省:高等学校学習指導要領解説 家庭編. 開隆堂出版, 東京, 2005.
[2] 末弘由佳理:デジタル教材を用いた製図学習の効果. 日本家政学会関西支部第32回研究発表会研究発表要旨集, p.24, 2010.
[3] 文化ファッション大系改訂版・服飾造形の基礎. 文化出版局, 東京, p.90, 2009.
[4] 文化ファッション大系改訂版・服飾造形の基礎. 文化出版局, 東京, p.87, 2009.

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