特集 アクティブ・ラーニングの実質化に向けて

創価大学経営学部のアクティブ・ラーニングの展開と課題

1.創価大学におけるアクティブ・ラーニング実施の背景

 本学は、学生の能動的学修を促す教育方法の普及と環境整備に努めてきた。全学のFD活動の一環として、過去10年間に全教員の半数以上が協同学修あるいは学生参加型学修の講習に参加し、学生の能動的な学びを促す教授法を体験している。特に、LTD(Learning Through Discussion:話し合い学修)と呼ばれる協同学修法は複数の学部で標準的な指導法となっており、多くの新入生に他者の多様性を自らの理解深長の糧にする学修体験の機会を提供している。
 その過程の中で、制度上の改革と教学マネージメント改革も進めてきた。例えば、GPA制度(卒業要件化)やCAP制の導入、コアカリキュラム導入やナンバリングによる体系的な教育課程の編成など、中教審答申、政府方針への対応は概ね完了している。加えて、教学マネージメント改革として、諸会議を整理して「大学教育研究評議会」等を設置し、意思決定の迅速化を図った。これにより教授会等の機能・役割が明確化され、学長のリーダーシップによる実効性のあるガバナンスを実現できている。またIR室を設置し、学長が必要とする定量的なデータを集め、エビデンスに基づく大学改革を推進している。
 本学では、アクティブ・ラーニング(以下、ALと略す)を「学生の能動的な学びを促進する教育方法を用い、教員と学生とが意思疎通を図りつつ、学生が相互に刺激しあう機会を設けている授業」として、これまでの約15年間の教育改革を通じて広く普及している。昨年度の授業アンケートによると、対象科目(1,868科目)の8割を超える1,513科目で能動的な学修の機会が提供されていた。また、経営学部の専任教員の全員が、ALを導入済みであることが教員へのアンケート調査によりわかっている。具体的には、LTDや協同教育の導入から始め、PBL(Project Based Learning)、TBL(Team Based Learning)の導入が現在では完了している。

2.経営学部ALのねらい

 経営学部では、教育理念と目標として、1)『人間力の陶冶』人間主義経営演習やゼミ教育を通して自立した一人の人間として力強く生きる力を養う、2)『国際力の錬磨』英語で学ぶ多彩な科目群と研修プログラを通して語学力とグローバルセンスを磨く 、3)『専門力の養成(錬成)』 社会に必要価値を創造するために必要な専門科目とゼミ教育を通じて専門を培う 、4)『問題解決力の醸成』 各学年に配置された少人数教育科目群を通して問題を発見し、解決する力を身につける、を掲げている。
 また、人間主義経営の理念を基盤に置き、国際力、専門力、問題解決/発見能力を磨いた人材によるビジネスを「SOKAビジネス」と表象化し、学部内で目指すべき人材像の共有化を図っている。
 この人材像の実現には、「答えのない問題」に最善解を導くことができる能力を涵養するため、思考を鍛える双方向の課題解決型の主体的な授業への転換 (文部科学省)が必要となる。これには、教員が一方的に知識を伝達する授業形態ではなく、能動的に学修する意識を促す授業であるALが有効である。
 経営学部では、教育効果を狙い10年前よりLTD(経営基礎演習)を導入し、また近年ではPBL型授業(グループ演習、専門演習など)を実施するなど、ALを積極的に導入してきた。2014年度新カリキュラム作りにあたっては、カリキュラムの体系化と教育方法の改善として専門教育におけるコース制とクラスターの導入とともにALの強化を図った。特に、深い学びに導くAL(高次のAL)では、クラスターなど専門教育にPBLを拡大していることを特徴とする(図1参照)。これは社会において「知識」を「智慧」に転換する人材を育成する学修効果を狙っている。

図1 深い学びに導くアクティブ・ラーニング(高次のアクティブ・ラーニング)

 経営学部を志望する学生は、公認会計士・税理士を目指す学生以外では、英語を集中的に勉強する、教育者になる、法曹界や公務員を目指すといった目的を持たない場合も多い。そのような学生に対して、将来の方向性を考えるキャリアデザインを促すと同時に、社会的課題や事象に問題意識を持たせるために、質の高いALを導入することは非常に意義があり、効果も高い。つまり、将来の目標を明確に持った学生達は、専門教育の面白さに気づき、積極的かつ自発的に授業で得た知識を他の諸問題に応用していくことができる。その結果としてAL型授業の推進力となる。
 文部科学省による「汎用的技能(ジェネリックスキル)」や「統合的な学修経験と創造的思考力」である「学士力」、また経済産業省の「社会人基礎力」を育成するためにも、基本的アカデミックスキルを磨くことは前提である。その上で、問題発見と仮説の構築・検証といった一連の作業を自分の頭で考え、身につけることは、大学で専門(経営学)を学ぶ意義への認識、ひいては社会で必要とされる知識を応用する力の涵養につながると考えられる。

3.経営学部の各専門科目におけるALの実施状況と今後の方向性

 2012年に発表された『報告:大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準−経営学分野』(日本学術会議、大学の分野別質保証推進委員会、経営学分野の参照基準検討分科会)において、経営学は、営利・非営利のあらゆる「継続的事業体」における組織活動の企画・運営に関する科学的知識の体系であると定義された。その分野は経営管理論、会計学、商学、経営工学、経営情報学に広がり、経営を分析するために、経済学、社会学、心理学、数学、統計学などの多様なアプローチをとる「総合科学」としての性格を持つとも指摘されている。そして、学修方法として、講義・講読に加え、各種演習や実習・現場教育など多様な教育方法を組み合わせるべきであるとの方向性も打ち出されている。
 経営学部では、この観点から図1にあるように4年間全学年に少人数教育の演習を配置し、切れ目なく、ALの流れを確保してきた。初年度の経営基礎演習、1年次から2年次へのグループ演習(新カリキュラムでは人間主義経営演習に統合)を必修とし、2年次でのプレゼミにあたる専門基礎演習は選択で設定するものの、3年次4年次の演習を必修としている。
 専門基礎演習でのTBLを用いたALの展開は次節で紹介するが、ここでは1年次の基礎演習と、1年後期と2年前期に行われているグループ演習の特徴について紹介する。
 基礎演習では、大学での学びに必要な基礎的スキルの習得とともに、図書館研修や美術館研修というゼミごとの訪問授業が学生に好評である。特に美術館から出張授業を受けて次の週以降に行われる美術館訪問授業では、鑑賞トレーニング・ワークシートと鉛筆を手にしながら、展示作品の鑑賞ポイントのみならず、展示方法や付帯施設などをチェックし、コメントを書き込んで学修するようになっている。大学に隣接する東京富士美術館の学芸員の方との綿密な打ち合わせを通して、学修内容や鑑賞の仕方など毎年改善をしている。
 グループ演習では、一つの研究プロジェクトを企画し、その成果を発表して学生と教員の協同評価によりコンテストをするというものであるが(写真1)、ここでも予習復習を含めた毎回の成果を演習ワークシートに書き込み、のちに振り返りができるようにしている(写真2)。各シートの書き込みを教員が評価し、それを学生に返却し、その累積点(演習ポートフォリオ)が成績になるので、成績評価を学生にも「見える化」している。

写真1 4人程度の小グループでのディスカッションで相互学修
写真2 各個人で各種シートの書き込みを通じた振り返り

 これら演習のすべてにSAを配置し活用している。それぞれのゼミには、先輩のSAがつき、毎回アドバイスやサポートにあたる。また、評価シートの採点の集計など教員のサポートも行う。SAは単なるサポート役ではなく、それぞれの学生とともに先輩としての力量も問われるリーダーシップの実践の場ともなっている。
 それ以外の科目にもALの導入は進んでいる。昨年度の学部教員調査においては、演習を除いたALを導入した科目は70科目中62科目(88.6%)、ALを行う専任教員数は、19名中17名(89.5%)、学生の一人当たりAL科目受講数は2.7科目(受講科目数3,237、在籍者数1,205名)となっている。また、創価大学はグローバル人材育成事業に採択され、各学部ともに英語力の引き上げと、英語授業の拡充と充実、短期から長期の留学生の送り出し数の増加に努力している。経営学部は2004年からグローバル・プログラムという英語による教育プログラムを立ち上げているが、サービス・ラーニングにも通じる海外体験学修授業として、グローバル・プログラム・ミッションという授業を実施している。これは、夏期休暇と春季休暇を利用して2週間、「地球市民としての企業」を統一テーマとして、毎回サブテーマを設定し、それを基礎として学ぶべきことを、ミッションとして示し、出発前、海外研修中、帰国後を通じて常に意識し、振り返りの機会を持っている。
 また、グローバル人材への「変容学修」と位置づけ、帰国後、変容プロセスシートを用いながら、研修中に体験的に学んだ知識と経験を振り返り、現実とのギャップを明らかにした上で、自己の変容のための行動計画を作成するという仕組みを取り入れている。今後、海外インターンシップの拡充と充実と併せ、学部のALの大きな柱になるようにしたい。

4.ALのさらなる展開

 創価大学のキャンパス文化の中に、「対話」がビルトインされている。学生たちは、授業以外のクラブ活動や寮の運営、学内行事のあらゆる機会に「対話」の機会を持つことが慣例化されている。このことは、教育プログラムにおいてALをスムーズに導入し展開する上で、非常に大きな基盤になっている。
 この「対話」の重要性は、大学教育の質保証を考える上でも重要であることが確認されている。例えば、2010年7月22日に発表された日本学術会議の『回答 大学教育の分野別質保証の在り方について』には、「他者との協働の能力を向上させることこそがコミュニケーション教育の目的」であるとし、「対話とは、それを通じて自らの意見や感覚が変容する可能性を秘めた営みであり、他者と出会い、違和感の経験こそが対話の出発点である」と指摘している。対話の目的は、ディベートのように勝ち負けをはっきりさせることではなく、他者への理解の深まりと自己反省をもたらすものであるとする。そして、このような対話を通じて、他者との協同を現実に実行するための「賢慮」を育むものであることを示唆している。
 本学部では、このようなキャンパス文化が教育上の持続的競争優位を持つものであると捉え、一層ALを促進していきたい。第一の課題は、学修成果をもっと可視化するためにアセスメントを充実させることである。ラーニングアウトカムズに基づき、初年度、2年次終了後、そして3・4年次とそれぞれの段階に合わせ、アセスメント科目を指定し、評価ルーブリックを作成して学修成果の測定につなげ、ALのPDCAサイクルが良循環になるようにしたい。
 第二の課題は、各科目間、各教員間の相互調整である。経営学部の各科目がPBLなどの手法を取り入れているため、学修の重複と過剰の危険性が出てきている。本年度から専門科目を科目の近似性によって3科目程度のクラスターとして学生に示し、担当教員間の学修内容の調整や、共通テーマを設定して違った観点から分析していき、クラスターごとに連携してラーニングアウトカムの測定をすることを計画している。先述したように経営学は様々な学問分野を活用する「総合科学」として成り立っているので、ゼミの専門の学修に偏重しすぎないようにしたい。

 第三の課題は、教員のALの質向上とピアサポートの一層の充実があげられる。創価大学には教員の研修のために教育・学習支援センター(CETL)、また、学生のAL推進者を養成する支援を総合学習支援センター(SPACe)があり、これらと連携してALと成長志向の評価文化を醸成していきたい。

5.TBL導入授業実践例

(1)TBLの位置づけ

 一口にALといっても様々な方法があり、単に学生を主体的に学修させる教育方法と捉えるだけでは不十分である。個別のALにおける特徴、教育効果の狙いを把握して適切に授業デザインを設計しなければならない。
 大学初年次の学生は、高校までに自学自習の習慣が形成されていない場合が大半である。このような学生に対しては、AL実施前の予習(文献の読み方、考えのまとめ方など)を具体的に細かく要求する教育方法が望まれる。学修法としては前述のLTD学修法である。PBLでは、課題解決に向けて、必要な情報収集や具体的な課題遂行を学修者グループ自らが行い、教員は講義などの一方的な情報提示を避け、学修者に有機的な知識構築を行うことを期待するものである。それまで養成されてきた専門知識を統合して課題解決するものであり、高学年の学生に適した教育方法である。
 以上のAL の特徴を要約すれば次の二つである。

1)学生の学びの対象が教員の指示により決定されるもの
2)学生自らが、取得した知識を自分のものとして深化させ、それを統合、応用する能力を身につけるもの。

 LTDは1)を目的としたグループ・ワークであり、2)の実践までには至らない。PBLはもっぱら2)に集中し1)は必ずしも教員のコントロール下にない。このように見てくると、大学初年次学生に向けたALと高学年の学生に適したALの間をつなぐALが不足していることに気がつく。そこで今回これらの間に位置づけられるALとしてTBLを試行した。このTBLは、オクラホマ州立大学のミッチェルセンが開発した協同学修の一つであり、日本では医療系の大学教育で実績のある方法であるが[1]、社会科学系では筆者の知る限り実施例は知らない。TBLは上述の1)、2)を目的とした教育効果が期待できる。以下はこのALを本学部に定着すべく行った試行の報告である。

(2)試行実践

 一般的なTBLは、複数回の授業に亘って一つの単元やトピックを学ぶ授業方法である。通常、学生を6名前後のチームに分け、個人ワークとグループワークの両方を組み合わせている。TBLの授業前に教員は、教材(教科書、ビデオなど)を指定し予習を課す。授業は、Readiness Assurance Processと呼ばれる予習度確認作業と、Application Activitiesと呼ばれる応用問題に取り組む二つのパートから構成される。Readiness Assurance Processは事前学修の度合いを確かめる個別テスト(individual readiness assurance test、IRAT)とチームテスト(team readiness assurance test、TRAT)、そのテストに関する質疑(appeals)、補足の講義(mini-lecture)から構成される。予習範囲に関する学生たちの理解度を確認後、Application Activitiesでは、そこで学んだ事柄を活用して解く応用課題を与え、チームで取り組ませる。結果はクラス全体でプレゼンテーションされ、チーム間で評価し合う。
 今回、TBLを導入した授業は、専門科目である「専門基礎演習」であり、履修学生49名、学年2〜4年次に亘り、演習科目としては大きな授業である。演習テーマは社会貢献企業のビジネスプランの作成である。内容は、授業前半にビジネスを通して行う社会貢献のあるべき姿などを本学部の理念と結び付けて学び、後半でビジネスプランを作成させるというものである。TBLを導入したのは前半の部分であり、後半はPBLとして行った。
 表1に掲げたのは今回実施した授業例である。この実施例では1単元が2週間に亘っているが、応用課題によっては、1コマ完結のTBLであってもよい。発表については同時プレゼンテーションを行うために、ポスタープレゼンテーションとした。7グループのポスター張り出しの後、他グループのプレゼンテーションについて評価を行った。

表1 TBL時間スケジュール
  TBL内容 時間(分)
事前 予習(課外学習)  
1週目 IRAT 15
TRAT 20
教員からのフィードバック、アピール 10
応用課題 40
2週目 応用課題 20
発表資料作成 30
発表と評価 40
  ピアレビュー  

(3)TBL実践の事後評価

 TBLについて6週間の試行終了時点で学生アンケートを取った。回答は49名中43名、回答率88%である。

1)選択肢回答部分について

 図2は選択肢部分のアンケート結果の集計である。「学修方法は理解できたか」は、「どちらかと言えばそう思う」まで含めると80%を超えているが、記述式の回答を見ると本当に理解しているかどうか疑問のところがある。以後の項目も「どちらかと言えばそう思う」まで含めての判断を述べる。

図2 選択肢アンケート部分の集計結果

 項目「積極的に予習したか」、「グループ内討論で貢献できたか」、「ポスタープレゼンテーションでチームの考えを表現できたか」は70%を超えており、授業において積極的な姿勢であったことが認められる。「講義に比べて負担が大きいか」も70%を超えているが、予想した通りの反応であり、課外での学修活動も誘発している点では、学生側からすると否定的であっても、我々教員側からは肯定的に受け取っても良い結果ではないかと考えている。
 一方、「講義に比べて学修意欲は湧いたか」と「TBLをまた行いたいか」は50%弱である。これは前問の「講義に比べて負担が大きいか」と関連しているかもしれないが、特に、「講義に比べて学修意欲は湧いたか」の項目が50%を割っていることについては、解決すべき課題が多数ある。今後さらなる実績の積み重ねによる、TBLに関する適切な知見の形成が必要であろうと思う。

2)記述式回答部分について

 記述式部分についても、43名中36名の回答者が何らかの意見を寄せている。以下、項目別に多数意見、TBL実施上で問題となる意見を抜粋して記すことにする。
 まず「予習」については、「予習に頼りすぎていると思う。予習のダイジェストみたいなものを講義としてもやるべきだと思う」など知識の獲得ステップにおいて教員による講義を要求する意見が複数あった。「IRAT・TRAT」については、「個人とグループ2回やる必要はあるのかな?と思いました。どちらか一つにしてはどうですか」など、同じ問題をチームでも考えさせるTRATの意味が理解できていない意見が複数あった。
 項目「ポスタープレゼンテーション」及び「評価」では、「意見をまとめポスターにするのが大変。評価に個人の好みが出過ぎる」など、作成時間の不足、評価時間の不足、ポスターを読み込み評価する作業の困難さ、ポスターの評価の仕方などについての指摘が目立った。応用課題の発表方法や評価の方法については、今後様々な実績を積み上げて改善を要すると思われる。

(4)課題の整理

 6週間のみの試行であったが、今回の実践から見えてきたTBL実施上の課題を整理してみたい。

1)予習について

 TBLでは、新知識の付与は予習に拠っている。 ところがTBLではどの程度の予習をさせるかの仕組みについては作られていない。例えばLTDでは、予習の仕方について事細かく指示があり、「語彙を調べる」、「著者の主張をまとめる」、「話題をまとめる」、「他の知識と関連づける」、「自己と関連づける」、「著者の主張を評価する」 という六つのステップを指示し、メモにまとめ授業時に持参することになっている。TBLでは、 このような仕組みを作っていない。
 また、TBLでは授業内でIRAT、TRATがあり、予習の度合いはテストで確認され、それが評価点として成績に反映される。したがって、学生は予習を欠かさず行ってくるであろうと推測されたが、実際は、図2で明らかなように、RATがあることを承知していても10%弱の学生は、余り予習をしてきていない。「全く予習しなかった」の回答はゼロであったので、「余り予習してこなかった」の回答がどの程度の予習かは把握できないが、このことは、どのようなALを行っても存在する問題であり、これらの集団をどうするかは、授業外学修の増進を目指すすべての教員の課題であろう。このTBL試行で問題としたいのは、むしろ予習してきた学生がどの程度の読み方をしてきたかである。アンケートでは見えないが、資料を一通り一度、目を通してきたというのが大半ではなかろうか。どのくらい深く読んできたか、行間まで読み込んできたか、資料の理解に加えて自分の考えを整理してきたか、このような読み込みの程度の差がメンバー間で大きいと、チームでの討論のときに対等な議論ができず、TRATに意味がなくなるのではないかと危惧する。

2)IRAT、TRATについて

 IRAT、TRATはTBLで学修意欲を向上させる柱の一つであると捉えている。ところが、担当教員が適切な設問をつくるノウハウを持たない限り、この部分で逆に履修生の学修意欲を削いでしまうというTBL成功の鍵を握っているステップある。
 教員は、IRATで予習の程度に応じた得点を確実にあげさせ、TRATでは十分討論させて、さらに得点の向上を目指すという問題を作成しなければならない。これは、教員側に十分な実績とノウハウを有していないと対応ができない課題である。
 TBLで要求される議論は、自分が正しいと思った意見を開陳し、他のメンバーの意見と異なるときは、自分の意見の正当性を論理的に説明し、他のメンバーを説得することを目指す議論である。ALとしてLTDやディベートで議論になれている学生にとっても、この種の議論は最も高度なディスカッションであり、訓練を要するものと考えられる。

3)発表及びその評価について

 TBLでは応用課題のプレゼンテーションは一斉であるべきとの指摘がある。そこで、本試行ではポスタープレゼンテーションの形式をとったが、これが最善であるとは言えない。このようなアナログ方式が良い方法とも限らない。ポスター作製にはかなりの時間を要する。この段階で効率的なICTの利用を導入することが可能かもしれないと考えている。
 評価については、「評価の観点」を評価シートに記したが、それが有効であったとは結論できない。学生にとっては、評価するということは難しい作業であり、困惑している学生が多数存在した。アンケートで「見た目で決まってしまう印象だった」という意見があったが、ポスターをしっかり読み込まなければ、各チームの主張内容の差を理解できず、この意見のような評価になってしまっていることは明らかであった。

4)ピア評価と成績評価について

 ピア評価については、メンバーに同点をつけるなどまったく評価ができない学生もおり、ピア評価は学生には最も苦手とする部分である。しかし一方で、このピア評価を繰り返して実施していくと、評価能力を育成するツールになるのではないかとの期待も持てる。ただし、本試行のように用紙に記入させる場合には、他のメンバーの目が気になるなどの指摘もあり、この部分もICTを有効に活用できる余地があると考えている。
 成績評価については、TBLでは、チームの得点を即時フィードバックすることによって、チームのやる気を引き出し、学修意欲を増すとされている。

参考文献
[1] 私立大学情報教育協会: 「大学教育への提言」―未知の時代を切り拓く教育とICT活用. pp.230-238, 2012.
文責: 創価大学
教育・学習支援センター(CETL)
副センター長、経営学部教授 望月 雅光
経営学部副学部長 中村みゆき
経営学部長 栗山 直樹
経営学部教授 山中  馨
(執筆順)

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