人材育成のための授業紹介・歯学

総合学力試験CBTシステムと
Web自己学修の統合型歯学教育支援システム

二瓶 裕之
(北海道医療大学 薬学部・情報センター教授)
谷村 明彦
(北海道医療大学 歯学部教授)
越野  寿
(北海道医療大学 歯学部教授)

1.はじめに

 歯科医師国家試験は歯科医療の質を担保する重要な試験であり、歯科医療に従事することを目指す歯学部学生にとっては合格することが不可欠となります。歯科医師国家試験も制度改善の中で、例えば、患者に対して重大な障害を与える危険性のある誤った知識を持った受験生を識別するための禁忌肢が設定されるようになりました。また、授業科目間の知識を関連させた複合的な問題を解く力や、医療に関わる外科や内科など幅広い知識を問うような領域別基準点も設置されるなど、偏りのない幅広い医療に関する知識を習得することが求められています。このように歯学部の学生が6年間に学修すべき内容は歯科医療技術の進歩とともに膨大となっていますが、学生が習得すべき必要最小限の教育内容を精選したモデル・コア・カリキュラムも歯学教育には導入されています。
 本学の歯学部では、学生が早くからこのような国家試験の考え方を理解できるように、学修内容を歯学教育モデル・コア・カリキュラムの分野単位で集約して、さらに、分野を積み上げることで知識の構造化を図る「積み上げ式」を方針とした体系的な教育を行っています。知識を積み上げるには、一度学んだ事柄に関しては学生自らが主体的に知識として定着させておくことが大切になってきます。そこで、積み上げ式教育における知識の定着を目的として、本学で既に高い教育効果を上げてきた薬学部と看護福祉学部におけるICTを活用した教育手法を、歯学部の積み上げ式教育に対応するように発展的に導入した、総合学力試験のCBTシステムとWeb自己学修システムについて紹介します。

2.総合学力試験と積み上げ式教育

 総合学力試験は歯学部1、2、3、5年次の学生を対象として毎年1月に実施し、その結果は進級判定要因の一つとしています。受験対象となる学生数は、2013年度では、1、2、3、5年次で、各々、54、58、61、67名の合わせて240名でした。また、総合学力試験で対象となる授業科目は1年から5年までのすべての専門教育科目となり、合わせて100科目(180.0単位)。となります。これらの授業科目の内容を、本学の積み上げ式教育ではコアカリキュラムの分野単位で集約して、さらに、表1に示したように分野を積み上げることで、知識を構造的に整理しながら習得できるようにしています。

表1 積み上げ式教育

 本学の積み上げ教育では、学年や分野の枠組みを超えて、縦と横の両方向から構造化された幅広い知識を習得できるようにしています。例えば、4年次に開講される「歯科医学総合講義I」は2、3年次と4年次の一部の授業内容を要約したものであり、同じ分野の中で学年の枠を超えた縦の方向の知識を強められるようにしています。また、「人体構造科学」と「人体機能科学」は、一般基礎科目の生物学と専門基礎科目の解剖学、組織学や生理学、微生物学の授業内容をつなぐ授業内容としていて、異なる分野間の横方向の知識の橋渡しを強められるようにしています。

3.総合学力試験の内容

 積み上げ式教育では、一度学修した事柄を学生が自ら主体的に知識として定着させていくことが重要となりますが、最近の大学進学率の上昇や歯科医師数の過剰問題などによる入学選抜機能の低下から、大学へ入学した後も学修意欲を持てずにいる学生の数が増えてきました。そのため、知識を定着させていても偏りがあったり、不得意な分野の学修を残したまま進級する学生が少なくないのも現状です。
 この問題に対して、いままで授業科目単位で判定してきた学修到達度を、総合学力試験を実施することで分野単位に学修到達度を判定し、積み上げ式教育の構造にしたがって知識を定着させているかを評価できるようにしました。総合学力試験に出題される問題も表1の分野別に分類しています。
 総合学力試験は積み上げ式教育における知識の定着を図るには重要な試験となりますが、対象学生や対象学年などの規模がとても大きなものとなるため、出題される問題数も非常に多くなり教員の負担も問題になってきます。さらに、学生一人ひとりの分野ごとの定着の度合いや不得意科目などを割り出すためには長期間にわたって蓄積した成績を分析していくことが必要となりますが、試験結果も膨大となり、入学時から卒業時まで成績データを蓄積するには従来の紙を使った試験形態では限界があります。
 この問題に対しては、総合学力試験にCBTシステムを導入することで、問題作成から受験・採点・単年度集計・成績単票印刷など試験に関わるすべての過程をコンピュータ化して、試験に関わる業務を大幅に効率化しました。また、学生はパソコンを利用してペーパレスで受験するようにして(写真1)、試験結果も詳細に分析できるようにしました。分析にあたっては、歯科医師国家試験でも問題の適正さを定量化するために導入されている識別指数も算出して、出題された問題のブラッシュアップにも役立てるようにしています。また、学生には、試験が終わった後すぐに成績単票(図1)を配布できるようにしています。成績単票では積み上げ式教育における分野の単位で成績が表示されており、試験の記憶が鮮明なうちに、自分の得意・不得意とする分野に気づけるようにしています。さらに、入学年次から蓄積したデータを総合した学修ポートフォリオ(図2)も作成する機能を作り、定着させている知識の構造が年毎にどのように変化しているのかを学生自身が確認できるようにしています。

写真1 CBTシステムによる受験風景

4.ICT環境

 総合学力試験で導入したCBTシステムはプログラムの作成から運用にいたるまですべて本学が独自に開発したものです。プログラミング言語は主にVisual Basicなどを利用してWindows Server上で稼動しています。また、データベースへのアクセスにはSQLを使用しています。開発に要した期間は1年間ですが、プログラムのサイズは1万5千行の規模となっています。試験実施時にはコンピュータ上に表示された問題(図3)を学生が解いていきますが、受験生からの同時アクセスによるサーバへの負担を軽減するために、5台のサーバにデータベースを分散させて処理を行うようにしています。

図1 成績単票
図2 学修ポートフォリオ

 CBTシステムの開発とともに、もうひとつの教育支援システムを開発しましたが、それがWeb自己学修システムです。Web自己学修システムもCBTシステムと同じ開発環境で制作しましたが、CBTシステムと異なり、毎日の自己学修で利用するシステムですので、利用にあたってはコンピュータのみならずスマートフォンなどの携帯情報端末からも利用できるように設計しています。また、図4に示したようにWeb自己学修システムでは総合学力試験と同じ分野ごとに問題が登録されており、学修ポートフォリオで不得意と判定された分野などを中心とした演習をできるようにしています。さらに、ここでは、分野ごとの学修の進捗状況も視覚的にわかるように、分野ごとに問題を回答した比率も色分けして表示しています。このようにCBTシステムとWeb自己学修システムを、学修ポートフォリオを介して統合することで、学生が主体的に学修して、さらに、その学修の成果を翌年度の総合学力試験で確認するといった学修のサイクルを作り出せるようにしました。

図3 CBTシステムに表示される問題例
図4 Web自己学修システム

5.教育効果

 総合学力試験にCBTシステムを導入したことにより、様々な教育改善効果が認められました。改善効果の範囲は広く、例えば、教務の範囲では、従来の紙ベースでの試験と異なり、歯式など歯学教育特有の表現を含んだ問題も長期間蓄積できるようになり、より精選された問題を作ることもできるようになりました。また、学生の回答も同じ形式で長期間蓄積できるようになったことで、入学から卒業までの学修の履歴を分析するなど、試験の結果を多角的に利用できるようになりました。
 Web自己学修システムも非常に高い利用回数が記録されています。Web自己学修システムは2011年度から運用を開始していますが、2011年度に記録された演習問題の回答送信数が12.5万回、2012年度が11.9万回、そして、2013年度には14.2万回と、毎年、10万題以上を記録しています。これは、総合学力試験で得意・不得意の分野が明らかになることで学修意欲がたかめられ、学生自身が主体的に学修計画を立てられるようになった結果と考えています。
 さらに、総合学力試験とWeb自己学修システムにより作られる学修のサイクルにより、不得意とされた分野の学修についても一定の成果が見られました。図5は、不得意と判定された分野の成績が翌年度にどの程度の変化を見せたのかを示す散布図です。ここでまず、不得意と判定する指標xですが、学生ごとに、分野別成績の総合成績(偏差値)に対する比率xを計算して、指標xが1未満となった分野を不得意分野とします。つまり、学生ごとに、自分の総合成績の偏差値と比較して、それを下回る偏差値であった分野を不得意分野と考えます。例えば、点Aは、指標xが0.6、つまり、総合成績の偏差値の6割しかなかった分野の偏差値が、翌年度、30近くも数値を上げていることをあらわします。図5では不得意x<1とされた551ケースがプロットされていますが、このうちの87%にあたる479ケースで翌年度の偏差値が向上しています。この結果、総合学力試験で不得意と判定されることで、学修到達度の低い分野に対する学修への働きかけがうまれ、その分野を学生が集中的に学修することで翌年度の成績が向上したものと考えられます。

図5 不得分野の成績の変化

 最後に、歯科医師国家試験の合格率の変遷を図6に示しました。本学の合格率は平成16年度までは全国平均を上回る結果を残していましたが、それ以降、全国平均を下回る年度が続きました。ICTを活用した今回の総合学力試験の取り組みを開始したのは平成22年度の5年生からですが、その学生が歯科医師国家試験を受験した結果が平成23年度、それ以降、平成24年度、25年度と今回の取り組みを始めてから合格率が全国平均と比較して顕著に伸びていることがわかります。国家試験の合格率が向上したことは、本学歯学部の教員による様々な取り組みによる成果でありますが、今回のICT活用の取り組みにより学生の主体的学修が促されて、得意科目を解消した幅広い知識が身につくようになったことも、国家試験への対応に寄与したのではないかと考えます。

図6 国家試験合格率の変遷

6.むすび

 本学歯学部で実施している総合学力試験のために独自に開発したCBTシステムとWeb自己学修システムを紹介しました。今回の取り組みでは、まず、CBTシステムを利用した総合学力試験により学生が定着させている知識の構造を確認できるようにして、不得意な分野を気づかせるようにしました。不得意と判定された分野に関しては、Web自己学修システムで学生が主体的に学修することを促し、さらに、その学修の成果を翌年度の総合学力試験で確認できるようにするなど、入学年度から卒業するまでの学修の履歴を学修ポートフォリオで確認できるようにしました。
 今回の取り組みにより教務に関する業務も効率化がされ、問題や回答など様々なデータを分析可能な状態で長期間蓄積できるようになりました。また、Web自己学修システムも1年間に10万回の利用がされるなど、学生の主体的な学修意欲を高める1つの要因となっています。さらに、総合学力試験で不得意と判定された分野に関しては、その分野に対する学修意欲を学生が持つようになり、翌年度の成績が向上するといった結果も得られました。結果、単に、授業科目ごとの知識を定着させるだけではなく、6年間の歯学教育での幅広い分野の知識を構造的に整理して習得できるようになり、そのことが、歯科医師国家試験の合格率の向上という結果にもつながったものと考えています。


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