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学習とMOOC:ELIフォーカスセッションの報告
Learning and the Massive Open Online Course
A Report on the ELI Focus Session

Veronica Diaz(EDUCAUSE ELI 副ディレクター)
Malcolm Brown(EDUCAUSE ELI ディレクター)
Stephen Pelletier(Pelletier 編集主幹)
ELI Paper 2: 2013年5月

 本稿は、EDUCAUSEの許可を受けて本協会の事業普及委員会翻訳分科会で翻訳したものです。

原文 https://net.educause.edu/ir/library/pdf/ELI3029.pdf

*ELI(EDUCAUSE Learning Initiative)は、教育の情報化を目指す高等教育機関等の協議会。
http://www.educause.edu/eli/

概要

 2013年4月3〜4日、ELIに属する教育団体が集まり、学習とMOOC(大規模オンライン公開講義)に関するオンラインでのフォーカスセッションを開いた。
 本報告は、セッションの中で鍵を握るアイデア、テーマ、概念をまとめたもので、セッションで扱った教材、記録、関連資料(URL)も含んでいる。これらは、教育機関として新しい学習モデルを探る際に留意すべき重要事項をとりまとめたものでもある。

MOOC:流行か破壊か?

 MOOCは、高等教育が提供するものの中では極めて小さな割合を占めるに過ぎないが、その出現がきっかけとなり、教育方法、アクセス法、学習成果、単位認定、コスト、学習コミュニティなど、活発な議論が沸き起こっている。
 懐疑論者は、MOOCは教育における一つの流行に過ぎないのではないかと考えるが、多くの人は高等教育において重大な変化につながる破壊的な力があると主張している。Clayton Christensenによる破壊的なイノベーションの理論によれば、イノベーションとは、ある組織が既存の文化の外に踏み出し、試作品を作成したり実験を行い、それを教訓として次の進歩へとつなげていく際に起こるという。
 この意味でMOOCは、現在の教育モデルと実践に再考を促し、教育を提供するための新しい方法を描くために、これまでの境界線を越えて考えるよう私達を導くという、建設的に見れば破壊的な力を持っていることが既に判明している。
 セッションはMOOCの様々な局面について検討した。その一つは、最高品質の学習内容を、事実上すべての科目に統合できるよう作成された、開かれたチャネルである。コースには対面型、オンライン型、また両者の混合型がある。選ばれた大学において、選ばれた学生だけが受講できていた授業内容が、MOOCによって、謂わば「民主化」され、場所を問わずすべてのタイプの学生に公開されるのである。
 実際、MOOCの事例には、公開されたコンテンツを対面型授業の反転学習と組み合せて使用した際に、従来主流でなかった学生の成長が示されているものがある。このような使い方をすると、MOOCはアクティブ・ラーニングをサポートする優れた手段として、文字、ビデオ、シミュレーションなど、様々なメディアを駆使するオープンな教科書として、豊富なコンテンツ供給源になると考えられる。

陪審員はまだ不在

 総じて、MOOCのインパクトと価値に関する研究は初期の段階にある。教育や学習に対するMOOCの役割などを私達はさらに深く理解する必要がある。MOOCのメリットの一つは、時には数千人にも及ぶ受講者がイノベーションの実験台にもなって、受講状況を分析するデータマイニングに大量の材料を提供してくれることである。また、この分析結果をMOOCで利用するだけでなく、他の教育形態にも利用することで、その改善を可能としている。
 MOOCは大変なスピードで進化している。MOOCという略語を構成する言葉は一つの基本的な形を指しているが、実際には、規模、オープン性、配信形式などの面で様々な選択肢が出現しつつある。MOOCのこういった側面に関する議論は、この新しいモデルを理解するための一部ではあるが、解決法を探るのに役立つというよりも、教授法、アクセス法、学習への関与の仕方など、教育・学習上の問題を再検討する上で役立つという点が重要である。
 もう一つの問題は、MOOCの資金面での持続可能性である。MOOCは大変安価な、あるいは無料の教育を提供する可能性を秘めている。しかし、コンテンツの開発や配信に高いコストがかかる場合、大学や組織にとってのMOOCの価値とは何だろうか?
 また、MOOCでは法的問題もあげられる。例えば、MOOCのコンテンツは誰が所有するのか?コンテンツ使用にはどの法律を適用するのか?学生がMOOCの一部のコンテンツを開発した場合、それは誰が所有するのか?教職員の立場から見て、MOOCの世界は、従来の教育出版に関する常識をどの程度変えてしまうのだろうか?
 MOOCは、大学の単位認定に関する問題も内包している。多くの学生はMOOCのコースで単位を取得しないが、認定を希望した場合、どの程度、またどうやって他大学に単位を移行することができるのだろうか?MOOCは卒業所要単位を満たすのに、どういう形で役立つのだろうか?これらの疑問は、MOOCを履修する学生の動機や行動様式とも密接に関係しているのである。
 MOOCはしばしば、修了率が低いと批判される。実際、多くのコースの修了率は5%以下である。しかしMOOCは、なぜ学生が履修しようとするのか、その理由を私達に教えてくれる。MOOCは、学生にとって「タイムリーに学ぶ」道具であって、ここぞと思うときにコースに参加し、目標を達成したらやめることができるのである。同時に、学生がコースを受講し続ける動機となる学習の活動・内容・デザインがどのようなものなのかも、MOOCは教えてくれる。
 さらに重要なのは、コース提供者側が説明責任を果たしながら、学習目標に対して学生がどれほど首尾よく学んだか測定する方法を、MOOCがよりわかりやすくしてくれることだ。すなわち、ここでの測定システムは、学位授与や修了書発行に必要な課程を修了したか否かを見るよりも、もっときめの細かいものが必要なのだ。

分解と変革

 MOOCは、教授法、学習設計、学生の経験という三つの局面で変革をもたらしている。基本的に、コース設計や配信方法は従来のアプローチとはまったく異なる。これらは、コースの規模が異なるために必要な変更と言える。そもそもコースとは何か、コースの一部とは何か、特に誰がそれを開発し認証するのかという問いに対して、私達が長年抱いてきた前提そのものにも、疑問を投げかける。また、コースに付与される単位に関する前提にも疑問を投げかける。MOOCの最も優れた提供者は、実は大学ではないという事実がある。このことによって私達は、そもそも大学改革を主導する権威や能力は誰が持っているのかを再考するよう迫られているのである。
 高等教育の改革の多くは、その性格上、徐々に徐々に起こるものである。しかし、技術革新のスピードのように、時に力がかかると変革が加速する場合がある。高等教育の課題は、次に何が起きるかを見定めることである。フォーカスセッションで発表したMindWires社の教育工学コンサルタント Michael Feldstein氏 によると、MOOCは、大学教育や学習の使命に対する「私達の構想力を再覚醒」させる。そのような意識のもと、ELIプログラムは次の4種類の幅広いテーマについて検討した。

 本報告は、セッションの中で鍵を握るアイデア、テーマ、概念をまとめたもので、セッションで扱った教材、記録、関連資料(URL)も含んでいる。また、教育機関である私達がMOOCを学習の道具として詳細に検討する際に留意すべき重要事項をとりまとめたものでもある。

MOOCに関するあなたの知識は間違っているかもしれない

 セッションは、Michael Feldstein 氏とPhil Hill氏 の二人の教育工学コンサルタントのプレゼンで始まった。彼らはMOOCに関して、高い次元での議論を行い、他の発表を理解するのに必要な情報を提供してくれた。
 MOOCが比較的新しく、かつ急速に変化を続ける社会現象だと考えるなら、どうすればMOOCをフィクションやインチキと区別することができるだろうか?例えば、MOOCは大規模であり、誰でも受講可能で、オンラインで提供されるコースであると私達は認識している。しかし、このモデルを異なるニーズや、異なる組織に対応させ始めた場合、どういうことが起こるだろうか?MOOCは、どの程度「大規模」である必要があるのか?どの程度「オープン」であるべきか?完全にオンラインである必要があるのか?そもそもコースである必要があるのか?
 Michael Feldstein氏とPhil Hill氏は、高等教育が新しいモデルに門戸を広げることにMOOCが役立っていることをあげた上で、そのMOOCを定義する境界線は常にシフトし、進化し続けていると指摘する(図1)。この変化のペースそのものが特筆に価する。なぜならば、MOOCにおけるベンチャーキャピタルや他の営利団体の増大によって、高等教育がかつて経験したことがないほどの急速なペースでMOOCを取り巻く環境が変化し、変革が起こっているからである。

図1 教育の配信モデル

 MOOCの近年の流れには、Connectivism(結合主義)、いわゆるcMOOCと呼ばれているものがある。これは2008年頃にカナダで始まったもので、従来の教育から外れた領域でオンライン・コミュニティを形成し、相互に関心のある問題に取り組んでいる。さらに最近の話題では、スタンフォード大学や関連の専門家、CourseraやUdacity(ユダシティ)のような企業、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学(以下、MIT)のedX(エデックス)イニシアティブが、xMOOCと呼ばれるものを開発し、大学教員のような中核となる情報源からコンテンツを配信する道筋ができ上がっている。xMOOCに関係する教員やシステムの開発業者は、自分達のモデルがどうすれば収益を生み出し、持続可能なものになるのか、学生がどうすれば単位を習得できるのか、何名程度の学生がMOOCのコースを修了できるのか、コースの受講者を認証する方法など、様々な問題に熱心に取り組んでいるのである。
 一方、MOOCは以下の点でも急速に進化を続けている。

● 受講者が小規模な“OOCs”

 ハーバード大学はコースの質を維持するため、著作権に関するオンラインコースの受講生数に制限を設けた。また、MOOCのコースには「大規模向け」のものもあれば、そうでないものもあると考え始めた大学もある。例えば、サンノゼ州立大学では、教室でのグループ学習を対象に、MOOCに対面型の要素を付加したパイロット授業を始めている。

● オープンでない”MOCs”

 コンテンツがクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(自由利用など著作権者の意思表示)のもとで提供されていないため、MOOCの大部分はオープンにされていない。テキストの購入を奨めるMOOCもあれば、将来有料となる可能性のあるMOOCもある。サイトへのアクセスは自由でも、MOOCの受講には料金を徴収されることもあるのだ。「オープン」の一貫した意味は誰でも自由にアクセスできることだが、それは無料という意味ではない。

● オンラインでない”MOCs”

 対面とオンラインを組み合わせた反転授業を支援するために、一種のMOOCを用いている大学もある。適切なネットワーク環境を持つキャンパスでは、理論上では、このような形式の学習を体験させる機会があると言える。

● クラスがないMOOC

 MOOCは必ずしもコースである必要はない。プロジェクト型のオンライン上のコミュニティであってもよい。例として、大学がオンラインでのクラスを継続して提供しなかった際、初回を受講した学生同士が集まって、学びを継続させるためのコミュニティを組織したケースがある。

 コースのコンテンツは、次のように考えることもできる。すなわち、講師がコースの完成を目指して、オンラインでアップしていく断片的なコンテンツの連続体だと。MOOCは学内発信型のコースウェアという方向に進化し、従来の出版社が提供していたものと直接的に競合していくかもしれない。
 以上を導入部として、フォーカスセッションはMOOCに関する局面について、以降の発表および議論を展開した。

フォーカスセッションの関連資料

●MindWires社 教育工学コンサルタント・アナリスト Michael Feldstein & Phil Hill「MOOCに関するあなたの知識は間違っているかもしれない」
セッション全体のビデオ記録とプレゼン資料は、以下のURLを参照
http://educause.adobeconnect.com/p85jn6fb0qc/

MOOCの本格的利用開始:準備すべきこと
人文科学のコースにおける教員の体験談

 Peter T. Struck氏は、Courseraのコース「ギリシャとローマ神話」の体験談を披露してくれた。彼は、過去10年以上に亘って教えてきた対面形式による学生よりも多くの学生を対象にコースを担当し、そこからMOOCに関する様々な教訓を導き出した。例えば、彼はMOOCによるオンライン学習は、本当に思考などの知的作業に適しているか懐疑的である。オンラインによる環境は、短時間に集中した学びには効果的であるという知見は得たものの、正解のない問題を前にして、長期に亘ってアイデアを練るような活動にMOOCがどの程度適しているか、彼は疑念を抱く。彼はClifford Naas氏の「マルチタスキングという言葉は『気が散ること』を体よく表現し直したものである」という言葉を引用しながら、「人文科学において最も価値があると私が考えているものは、この(オンラインという)新しいメディアでは生き残れないかもしれない」と語っている。
 彼はまた、オンラインの環境下で教育することの限界を述べている。例えば、記述式でなく択一式の問題を提供する必要性が増すと、学生が文章を作成する機会がなくなってしまう。特定の応用テーマではピアレビューによる作文は適切かもしれないが、評価を厳密に行う課題には適していない。さらに彼は、オンライン学習が講義型授業に及ぼす影響についても検討している。50分の講義を、オンラインメディアに合わせるために12分以下に圧縮する必要があるのだ。オンライン学習の良し悪しの判断はまだつかないのが実情である。
 とは言うものの、彼は、オンライン環境での経験を通して、自らの教育法が変わったとも述べている。教授法へのアプローチを問い直すきっかけを与えてくれたからである。「自分は正しい方法で教えているのか考え、修正し、分析し、問い直すきっかけになった」という。彼によると、オンライン学習が、あらゆることへの問い直しと、教育を熟考するきっかけとなったわけで、それは素晴らしいことなのだ。MOOC型の教育は「私達にとっては有用なチャレンジになる」と彼は付け加える。

フォーカスセッションの関連資料

●ペンシルバニア大学古典研究科准教授、ベンジャミン・フランクリン・スカラーズのディレクター Peter T. Struck「人にギリシャ・ローマ神話を教える」
セッション全体のビデオ記録とプレゼン資料は、以下のURLを参照
http://educause.adobeconnect.com/p8ib1cqolmb/

学生の学びを最大化させるMOOCの設計と実施

 Amy Collier氏 は、MOOCはコース設計に対して特有の課題を提起すると言う。すなわち、MOOCを受講する学生はキャンパスにいる学生よりも、教育、職業、言語、文化の各方面で幅広い経歴を有していることだ。コースを履修する動機も異なっているかもしない。例えば、彼らは学位取得を目指す連続した道のりの一部としてではなく、1回1回独立したオンライン学習の機会としてMOOCを捉えている。
 Seth Anderson氏が報告しているように、デューク大学はMOOCを利用して教育するための教員向けリソースを開発した。これによると、最初は従来と同じく、学習目標の設定のようなコース設計に関する原理から始まる。しかしMOOCでは、大量の学生が様々な経歴や期待を持つといった(MOOCの)独特な事情にも目を向ける必要もある。また教員は、非同期型の学習環境において、まとまりのある学習コミュニティをいかに形成するかを考える必要もある。さらに、小さな失敗であっても、それが大きな影響を及ぼす可能性があるというように、大規模オンラインコース構築で実際に起こり得る予期せぬ結果にも配慮しなければならない。例えば、議論のため学生にGoogle Documentへの参加を促しても、クラスの学生全員が対応するわけではないといったケースである。
 MOOCのコースを設計するには、一般的に次の三つの戦略が有効である。

 Cassandra Horii 氏は、組織や運営方法の課題の観点から、MOOCの設計に際して共同で支援する方法を述べている。彼女によると、MOOCに関わるプロセスやオフィスでは、従来のキャンパスのそれとは異なり、キャンパスをまたぐワークフローが必要になる。また、設計プロセスは従来のコース設計より早い段階から必要になる。MOOCのコースに学生を参加させる方法を策定するために、教員は従来よりも多くの時間が必要になる。様々な実践がなされている中で、カリフォルニア工科大学では、MOOCを設計する部署と実行する部署が互いに連携すると効果的であると考えている。

フォーカスセッションの関連資料

●デューク大学大学技術コンサルタント Seth Anderson、スタンフォード大学オンライン学習部副部長兼技術教育ディレクター Amy Collier、カリフォルニア工科大学教育学習プログラムディレクターCassandra Volpe Horii「学生の学習を最大化させるMOOCの設計と実施」
セッション全体のビデオ記録とプレゼン資料は、以下のURLを参照
http://educause.adobeconnect.com/p5qcgcbtuwf/

MOOCを大学の授業に織り込む
単位取得のためのMOOCの現状

 米国教育評議会(American Council on Education: ACE)は、長年に亘ってコースの見直しや取得単位の推薦サービスを行っている。これは通常、大学のキャンパスで行われない正規学習(公的機関で実施されるもの)に適用される。ACEは、この既存のサービスをMOOCに適用する試験プロジェクトを完了し、5種類のMOOCコースを単位取得の推薦対象として認定した。Cathy Sandeen氏 は、ACEの最近の成果として、MOOCにおける学習成果を公式に認めようとするACEの計画について説明している。
 またSandeen氏は、単位習得を顕彰する様々なアプローチを挙げている。例えば、期末試験や学生のポートフォリオレビューなど新しい形式のコースレビュー、学生の特定の資格を顕彰するデジタルバッジなどである。米国では、より多くの学生を卒業させる必要があるため、資格認定に着目することは重要だと示唆している。
 ACEはBill & Melinda Gates 財団から助成を受け、5種類のCourseraの単位認定レビューについて、パイロット的な試験も含め資格認定の業務を実施した。これは後に、他のCourseraやUdacityのコースにも広く適用された。このレビューの期間中、オンライン教育のノウハウを有するコンテンツ専門家や心理測定学者が、コースのカリキュラム、学習成果、演習や評価、学生の対話行動や授業への関与の度合い、学生の参加状況の認証など評価基準を観察した。五つのうち、四つのコースが学部レベルの単位として、さらに残り一つのコースは大学入学前レベルの単位として、それぞれ推薦された。この単位を他大学が認定するか否かは、他の単位互換と同様に、導入大学の裁量に委ねられる。

フォーカスセッションの関連資料

●ACE教育達成とイノベーション担当副会長 Cathy Sandeen「単位取得のためのMOOCの現状」
セッション全体のビデオ記録とプレゼン資料は、以下のURLを参照
http://educause.adobeconnect.com/p6d15jbk59m

MOOC実施によるキャンパスの授業への利点

 大学は、キャンパスの授業やコース開発プロセスに役立つように、MOOCをどのように活用できるのだろうか。Jason Mock 氏は、MOOCは教育の改革や改善をもたらすことができると指摘する。6種類のCourseraのコースを立ち上げた経験から、イリノイ大学 Urbana-Champaign校では、大学ブランド力の強化、教育改善に取り組む機会、コミュニティへの貢献活動を通じて世界を変革する意欲までも含む、様々な動機付けがMOOCによりもたらされると考えている(図2参照)。

図2 MOOCの動機

 Mock氏は、MOOCが通常授業の学習設計を実験する際の有力な環境となると同時に、対面型のコースとオンラインによるコースの提供、それぞれに関する仮説を比較する機会も提供しうると指摘している。イリノイ大学では、この実験が様々な形で行われている。例えば、Courseraを授業に取り入れている他大学との共同実験もあれば、コースの中で、一人の教員が学内の教員と連携して、MOOC用にオープンテキストを作成し、これを伝統的な(対面型)コースでも提供して比較するといったような実験もある。MOOCのコース教材として作成されたビデオを、従来型授業の時間外の教材として学生が視聴し、授業では議論により多くの時間を割くという実験もある。
 MOOCから学んだ事柄は、従来型の授業にも適用可能である。Mock氏は、MOOCの実験を通して学ぶことができるばかりか、欠点を迅速に是正できると指摘する。MOOCを設計する唯一の道はなく、良い結果を導くためには複数のアプローチがあることを大学は認識すべきである。同様に、MOOCのコース設計者は、MOOCの受講者が様々な理由で受講していることも認識する必要がある。MOOCは、従来型の授業を単にコピーしたものと考えるべきではない。イリノイ大学では、クラウドソーシング(インターネットを介して募り、必要なサービス、アイデア、コンテンツなどを取得すること)から得られるアイデアや、MOOCの受講生から提供されるその他情報の潜在力についても重要と考えている。そのような学生からの情報提供により、教員はコースの中で特にどこを注視すべきか、手掛かりを得ることができるのである。

フォーカスセッションの関連資料

●イリノイ大学 Urbana-Champain校 教養学部 インストラクショナル・デザイナー  Jason Mock:「MOOC実施によるキャンパス授業への利点」
セッション全体のビデオ記録とプレゼン資料は、以下のURLを参照
http://educause.adobeconnect.com/p2q8d9yz5wt/

キャンパスと世界規模の学習コミュニティをつなぐ:私達の学生は誰なのか?

 MOOCは、学習コミュニティに関する私達の認識を変えようとしている。例えば、ヴァンダービルト大学が2013年3月に2種類のMOOCを開講した際、17,000名以上の学生が大学コミュニティに参加した。Derek Bruff氏は、学内に物理的に設定されている学習コミュニティが、開講したMOOCのグローバルな学習コミュニティと、どのようにして相互作用し、そこから学び、そこへ貢献するかを議論している。このインタラクションと実験は、いくつか異なった形で行われている。

● 授業をMOOCで「包み込む」

 大学院で機械学習の授業を担当する教員が反転授業を実施した。すなわち、関連するスタンフォード大学のMOOCコースを10週に亘って学生に受講させ、これを毎週の対面型授業と追加購読により補完したのである。そして、最後の4週間を使って実践的なプロジェクトに集中させた。

● MOOCのミーティングを主催する

 大学のコミュニティとグローバルな学習コミュニティがつながるよう、大学はキャンパスでのMOOCミーティングを実験的に開催し、大学の学生とオンライン・コミュニティの連携を図った。

● MOOCを学部生と大学院生の職業能力の開発に利用する

 大学では、MOOCの一般的な利用方法について学生に調査・報告させる実験を行っている。例えば、リソースガイドを開発したり、コンピュータ・サイエンスの学生が、MOOCでの経験に関するデータマイニングを行ったりするなどである。
 ヴァンダービルト大学のMOOCの学生は、大学が従来実施してきたコースに参加した学生よりも 人数が多い。彼らは、授業料は払わないが、その存在そのものが重要なのである。大学のミッションを、従来のように入学してきた学生に単位を与えることから、もっと広く捉えられるという考え方が芽生えており、これについては現在も検討が続いている。

フォーカスセッションの関連資料

●ヴァンダービルト大学数学科上級講師、教育センター ディレクター Derek Bruff:「我々の学生は誰か?キャンパスと世界規模の学習コミュニティをつなぐ」
セッション全体のビデオ記録とプレゼン資料は、以下のURLを参照。
http://educause.adobeconnect.com/p22u5an6law/

オンラインの学習目標に適したオープンソースプラットフォームの使用:Class2Goの導入

 大学がオンライン学習やMOOCに深く関わるようになると、オンライン学習の目標を達成するために、プラットフォームはどんな役割を演じ得るだろうか?複雑なマルチプラットフォーム戦略の一部として、スタンフォード大学がオープンソースで開発し使用しているClass2Goは、オンライン学習の新しい可能性を引き出し、様々なオンライン学習モデルを自由に試せる機会を提供していることがわかった。スタンフォード大学は、edXと協働して、オンライン学習のためのオープンソースによるWebプラットフォーム開発に移行する実験から教訓を得た。このような中で大学は、オンラインプラットフォームを単独とするのか他と連携するのか決定を下すように、Class2Goの経験からいくつかの知見を得ることになる。
 オープンソースのフレームワークは、大学のオンライン学習ツールに様々な意見を取り入れるきっかけとなる。この結果、大学のブランド力強化、教員からの授業設計ニーズに応えられる機能の追加、MOOCも含めた学習用コンテンツの他大学との共有などが可能となるのである。
 Courseraのようなプロバイダに登録することは、学生を自大学に呼びこむことに役立つ。これにより、明確な形で宣伝を行うよりも、遥かに簡単に履修者を増やすことができる。
 しかし、営利目的のプラットフォームは、独自のオンラインユーザのコミュニティを創ることに強い関心を持っており、これは大学にとってはデメリットでもある。例えば、オープンソースのプラットフォーム上でコースを履修する学生は、キャンパスの学生ほど大学に対する親しみは感じないかもしれない。したがって、オンラインプラットフォームという状況下では、学生との関わりの主導権を持つことによって、大学はより安定した地位を確保できると言える。コンテンツの収益化の面では、オープンソースのプラットフォームは、大学の収入のシェアを拡大させる可能性がある。

フォーカスセッションの関連資料

●スタンフォード大学オンライン学習担当副学長オフィス技術&教育ディレクター Amy Collier、スタンフォード大学 オンライン学習担当副学長オフィス プラットフォームディレクター兼Class2Go所有者 Jane Manning「オンラインの学習目標に適したオープンソースプラットフォームの使用:Class2Goの導入」
セッション全体のビデオ記録とプレゼン資料は、以下のURLを参照。
http://educause.adobeconnect.com/p6ajts936fg/

MOOCの質保証と分析
MOOC受講者の背景と学習行動、および教員にとっての意味

 2012年の春に、最初のMITのedXのMOOCコース「電子回路とエレクトロニクス」 (6.002x)が世界中の学生に公開された。教員とコース設計者によるMOOC改良と大学授業でのオンライン教材の利用強化を支援するため、MITとハーバード大学の研究者が、NSF(National Science Foundation:全米科学財団)の助成金を活用して、課題、実習、試験の成績、議論用の掲示板への投稿、コースを修了した学生への調査結果を含む、コースによって生成されたデータ全体の解析を実施した。
 一つの鍵となる発見は、MOOCの受講者の多様性についてであり、これは将来への課題でもありチャンスでもある。前例のない規模で、しかも多様な学生のグループから構成されており、最初のedXを提供した国は194カ国を数えた。それらは、言語もかなり多様であることに加えて、教育的背景、コースへの知識や専門知識のレベルでも注目すべき多様性を見せている。この多様な学生は、それぞれ異なったスピードで授業教材を見るし、あるいは、様々な形式の教材にアクセスする。学生は非常に異なる背景をもった仲間とつながる方法を見つけることも考えられる。
 教員は、時間帯(タイムゾーン)の違い、クラスへの参加に対する社会的基準の違い、言語によって学生のグループ分けを考えるなど、通常よりも増幅された形で配慮が求められる。他にも課題として、授業の準備程度にかなり幅のある学生に対して、教材をどのように構成するかといった問題も含まれる。MOOCを作成するのに教員一人当たり100時間掛かるとの見積りがあり、もっと多くの時間が掛かるとの見方もある。MOOCは類似するキャンパスの授業内容にどの程度対応するものなのか、 MOOCの実施に際して人員の配置はどうなるのか、 MOOCの技術の相対的な強みと弱み、MOOCを利用する学生の多様性にどの程度対応できるか、 そして、どのようにして学生の成績を評価できるか、こういった問題を、MOOCに興味のある教員は考えることが求められる。

フォーカスセッションの関連資料

●ハーバード大学ハーバード教育学研究科准教授 Andrew Ho、MITスローン・マネージメントスクール上級講師、MIT教育・学習研究所ディレクター Lori Breslow、ハーバード大学・MIT教育・学習研究所教育研究ポスト・ドクトラル・アソシエイト Jennifer DeBoer「MOOC参加者の経歴と行動、およびそれらが教員に意味すること」
セッション全体のビデオ記録とプレゼン資料は、以下のURLを参照。
http://educause.adobeconnect.com/p6ickgishnd/

サンノゼ州立大学でのMOOC環境への取り組みから得られた多くの教訓

 サンノゼ州立大学は、従来の授業内容をさらに充実させるために、MOOC教材を用いる取り組みを試みた。Ellen Junn氏は、電子回路とエレクトロニクスの反転授業において、大学がedXとどのように連携したかについて詳細を語っている。反転授業では、サンノゼ州立大学の教員と協議して作成され、edXにより供給されたオンライン教材が80%含まれ、小グループの学生による1週間に2回、75分の対面のクラスで授業が補強されたのである。コースでは、学生の学習に劇的な改善が見られた。学生の合格率は、典型的な大講義形式の59%から反転授業では90%に上がった。Junn氏によると、主な成果は「アクティブ・ラーニングとして多く実施されている反転授業と連携し、MOOC提供者からの高品質の教材を組み合わせると、学生のパフォーマンスが飛躍的に改善する」とのことである。
 サンノゼ州立大学はUdacityと連携し、Bill & Melinda Gates財団から援助を受け、大学教員に数学、代数、統計の三つのMOOC教材を作成させた。いずれも、学生の中には難解とされる内容である。教材作成の目標は、MOOCの単位化を試みることである。コースへの登録は大勢ではなく、むしろ100名の学生に限定し、受講料は有料としたが、150ドルと抑えた金額に設定した。
 サンノゼ州立大学は、他の授業の場合と同じように、先験的な判断や評価を取り込む形で、同じ学生の学習成果を調査に用いた。コース開発が確実にうまくいくよう、大学はMOOC形式に移行するコースをどれにするか慎重に決め、コース開発に関する明瞭なプロセスと意思疎通のチャンネルを用意し、教員に対してはトレーニングと報酬を与えた。
 サンノゼ州立大学は、新しいコースにおける主な目的を明らかし、対面型授業、オンライン授業、MOOCの違いを理解するようになった。そのプロセスでは、すべての利害関係者(ステークホルダー)を考慮に入れつつ、大学が持つ資源の配置を行った。新しいコースに対するビジネス戦略と、持続性を保証する計画を明確にすることが重要であり、同時に、関連する法的問題や、市場やMOOCの配信にかかる通信上の問題にも配慮することが重要である。

フォーカスセッションの関連資料

●サンノゼ大学教務担当副学長 Ellen Junn「サンノゼ州立大でのMOOC環境への取り組みから得られた多くの教訓」
セッション全体のビデオ記録とプレゼン資料は、以下のURLを参照。
http://educause.adobeconnect.com/p2kk6zum6s6/

MOOC熱を徹底解剖する:鍵となる研究課題とアプローチ法

 学習にとってMOOCは良いツールになるのか? MOOCは初期の段階にあり、それらについて学ぶべきことはまだ多い。にもかかわらずMOOCは、大学の見解、例えば、教育の質、アクセス法、説明責任、教育・学習について、あるいは、高等教育自身の未来について、学内の議論を引き起こす絶好の機会を生み出していることは明白である。Bill & Melinda Gates財団は、この分野の鍵を握る研究課題が何であるかを定義し、これに答える作業に取り組んでいる。
 変化を引き起こす要素はMOOCであると見ているGates財団は、入門及び補習レベルの教材と、そのレベルの能力開発のために、段階別にMOOCの採用を推進することに関心を持っている。また、MOOCが収入の少ない若者にどういう形で役立つか、MOOCの効用に関する研究への援助、高等教育の質改善、教育法の改善、及び編集・統合支援の改善に向けたMOOCの進化を推進することにも関心を持っている。
 財団はまた、学生の学習成果、学習設計、費用対効果と学習分析、ポリシーとシステムが与える影響、MOOC様式の代替形あるいは拡張形という五つの広い研究分野にも関心を持っている。いくつかの調査方針の中で、財団は鍵を握ると思われる以下の質問の答えを探っている。

 財団は、MOOC研究プログラムに対する支援について近く公表を計画しており、MOOCに関するデータをより幅広く入手できる方策についても検討中である。

フォーカスセッションの関連資料

●Bill & Melinda Gates財団中等後教育の研究チーム上級プログラム研究員 Anh Nguyen、Bill & Melinda Gates財団中等後教育の研究チーム上級プログラム研究員 Stacy Clawson「MOOC熱を徹底解剖する:鍵となる研究課題とアプローチ法」
セッション全体のビデオ記録とプレゼン資料は、以下のURLを参照。
http://educause.adobeconnect.com/p4cd5ura6cm/

ハイブリッド型の教育法における第三者によるMOOC効果の評価

 MOOCは、従来は手に入れようのなかった多くの教材と学習資源を生み出している。MOOC教材を活用したコースを通じて、学生の学びをこれまで同様あるいは前にも増して徹底させることができるという証拠、そしてこのようなコースがコスト削減にもなる証拠が次々にあがっている。同時に、大学のMOOC管理者や教員は、そのようなコースに利用可能な高品質の教材は充分供給できると思っていないし、品質を保証するシステムが整っているとも思っていない。この現実が、MOOC教材を用いたハイブリッド型講座の幅広い活用を阻む障壁となっているのである。Rebecca J. Griffiths氏は、これらの問題を詳しく検討するために、現在進行中の研究について議論を展開している。
 MOOCはもともと、大学という環境におけるハイブリッド型講座を想定してではなく、一般の聴衆を想定して設計された。Bill & Melinda Gates財団からの支援により、ITHAKA S+R(高等教育の非営利団体事業Strategic Consulting + Research)はメリーランド大学と提携して、MOOCを大学のハイブリッド型講座にどのように利用できるか調査した。この研究課題は、次の通り単純明快である。すなわち、MOOCは学生の学習成果を改善するために利用できるのか?採用にあたってどのようなモデルが存在し、各モデルの潜在的なメリットと課題は何か?実践にあたって取り組むべき課題は何なのか?コスト削減についてどんなことがわかるのか?
 これらの問題に答えるため、ITHAKA S+Rは、メリーランド大学の全システムを巻き込んで、MOOCをハイブリッド型講座に組み入れる実験を行っている。半分は、ハイブリッド型と対面型を並べて比較できる大規模な入門コースを対象とした対照実験である。例えば、フロストバーグ州立大学の哲学の講座では、エジンバラ大学の哲学入門コースから提供された教材を組み入れている。残りの半分では、登録者の少ないコースにおいて、教員と学生の体験を記録化した人類学のケーススタディである。コスト分析については、今回設計された研究の両集団にまたがって実施される予定である。

フォーカスセッションの関連資料

●ITHAKA S+R オンライン学習 プログラム ディレクター Rebecca J. Griffiths「ハイブリッド型の教育法 における第三者によるMOOC効果の評価」
セッション全体のビデオ記録とプレゼン資料は、以下のURLを参照
http://educause.adobeconnect.com/p5ae7n8qs98

国際的な全体像:MOOC型学習とキャンパス型学習

 物理的な場所を構えている大学にとって、MOOCへの授業配信は、キャンパスの学習環境に関する調査をどのような形で促進するのだろうか?Phillip D. Long氏は、クイーンズランド大学から、この問題に関する考え方を広く発信している。
 これまでのところ、クイーンズランド大学はMOOCを用いたブレンド型オンライン学習において、ほとんど大きな足跡は残していない。しかし、オーストラリアの教育関係者は、MOOC技術が高等教育の環境を変え、教育の裾野を広げ、教育のメディア及びデータの広がりが学習傾向の抽出にも役立つと認識しつつ、牽引力を高め始めたMOOCに強い関心の目を向けている。MOOCの価値は、教育学上で質の高い学習を導くだけでなく、再利用可能な学習デザイン様式を活用できる豊富なメディアと、モジュール形式で使えるツールの開発にあると言える。
 クイーンズランド大学は、万人に対してオンライン環境を提供することに関心はなく、むしろ反転授業モデルにおいて、キャンパスの学生が世界中の学生と共に得る経験をどのように活用するかに関心をもっている。このことは、大学がキャンパスにおける物理的空間の利用方法を変えることを意味する。クイーンズランド大学は、MOOCから得られた価値観を反映する空間デザインの実験を始めており、大講義形式のクラスから、学生に受け入れられるような学習者に優しい環境へと移行しつつある。また大学はMOOCを通じて、edXとの連携を開始した。Long氏によれば、このような方策を通じて、キャンパスでの学習方法が見直され、オンラインでの学習デザインにより多くの精力が注がれるようになり、教室とは教員が生み出すべき「一つの小さな入れ物」という概念から脱皮し、基本的に「プロの実践の場」という概念へと拡大していくという。

フォーカスセッションの関連資料

●オーストラリア クィーンズランド大学教育改革&技術センターディレクター Phillip D. Long「国際的な全体 像:MOOC型学習とキャンパス型学習」
セッション全体のビデオ記録とプレゼン資料は、以下のURLを参照
http://educause.adobeconnect.com/p8b7ti2l8gi/

MOOCの配信方法を探る
MOOC提供者によるパネル・ディスカッション:Coursera、 Academic Partnerships、 Instructure、 edX

 MOOCの主要な提供者とオンライン教育サービスの代表が、MOOCの状況に対する考えを披露するとともに、フォーカス・セッションの参加者が優先順位をつけた鍵となる問題に回答し、今後MOOCがどのように進化するかを述べた。

今後の2年でMOOCはどのように発展すると考えるか?

 MOOCはまだ発展段階にあり、実験的なフェーズにあるので、この問いに答えることは難しいというのが共通の見解である。多くの大学がMOOCを中心に、独自の戦略を練りながら進んでいくことは間違いないだろう。しかし、MOOCが拡大した先に目を向けたとき、教育・学習に関する幅広い話し合いは進展している。例えば、ディスカッション・フォーラムに参加することが、学習にどのような影響を与えるのか?学生にインストラクターの役割を与えることは学習にどのように影響するのか? そもそも、「クラスとは何か」といったような、より幅広い文化的問題までも登場する可能性がある。さらに、技術的な変革がもっと起こるかもしれないし、学習コミュニティを動かす新しいツールが現れるかもしれない。

MOOCがオンライン学習や他の様式の授業モデルをどのように変えていくと考えるか?

 MOOCは、教育方法と学習について関係者の対話を後押ししている。教員は、MOOCを活用していかに上手く教え、また非常に多様な受講者にどうすれば役立つのか、そして、対面型授業へMOOC教材をいかに統合していくべきか、考えを深め始めている。オンライン上の最も優れた教育方法や学習方法とはどのようなものかに多くの関心が寄せられている。MOOCを用いた状況では、学習コミュニティがどのように相互作用し合うのかという問題も注目されている。さらに視野を広げると、学生の立場から、教育へのアクセス、成功、学位取得率におけるMOOCの役割とは何か、あるいは大学管理者の立場から、大学の経費抑制におけるMOOCの役割は何か、といったよう大学という組織の抱える問題そのものの中心になっているのがMOOCなのである。

MOOCの提供を通じて、コース内容を大学が相互利用している現実を踏まえて、知的財産権や所有権についてどのように進化していくと考えるか?

 MOOCは教育内容や方法の共有に対して、よりオープンで柔軟に門戸を開いたと言える。しかし、どこの大学にも独自の風土があるので、大学はMOOC教材の共有について、自身のポリシーと慣例を定めることを迫られるだろう。一般的に教材の所有権については、今後も引き続き交渉が必要となるだろう。誰が教材を所有しているのか?連邦政府の法律に影響されるか?研究への利用も許されるのか? 学生が作り出したコンテンツをどう扱うかも関連する話題であり、これは、そもそも大学が今まで予想もしなかった問題でもある。

授業において、学生の成果が彼ら自身のものであることをどのようにして保証するのか?この懸念に対応できるように、授業を組み立てる方法はあるのか?

 すべてのMOOCにおいて、始めから教育機関のルールを明確にしておく必要性は変わらない。このことは学生の成果物に関して特に重要である。大学の単位を認めるMOOCにおいては、もっと大きな問題となるであろう。ベンダーはこの問題に対応するための技術的ツールを試みている。例えば、Courseraは、ウェブカメラ写真とキーストロークを組み合わせて、コースを利用している学生が本人であることを認証する「署名の軌跡(signature track)」と呼ばれる証明書の試作にとりかかっている。

入学を許可された学生は、大学図書館を100%活用することができる。MOOCに登録された何千人もの学生で、コースの提供大学に登録されていない大半の学生に、どのようにすればキャンパスの学生と同等の支援を提供できるのか?

 MOOCの中には出版業者と協力し、教材を丸ごと購入する仕組みとともに、教材の一部を無料で提供するサービスを試行的に行っているものがある。図書館としての役割もあるが、図書館の蔵書を無料で提供する方法はイメージしにくいものがある。部分的な解決策として、大学コンソーシアムが図書館司書と協働して、コンソーシアム間で提供できるものを探ることが考えられる。その道筋では、図書館がもっと直接的な形でMOOCと関わりをもつことも考えられる。

MOOCで行われる学習は対面型授業と同等であると考えるか?

 これはリンゴとみかんを比較するようなものである。そもそも問われるべきは、学生が授業をなぜ取っているかである。MOOCでは、学生はしばしば学習したいがために学習をしている。大学の授業ではオンラインの授業でさえ、ある種の単位を取得するためというのが主流である。学習とは、様々な状況で行われ得るものである。オンライン学習と教室での学習は、それぞれ強みを持っている。例えば、オンライン学習は何かを習得するための学習に向いている。

批判的な見方をする人の中には、MOOCは古い伝達型授業モデルへの「回帰」であると指摘する人がいる。授業をデザインする立場から、この批判にどう応えるか?

 学生は様々に異なった方法で学ぶことができる。伝達型モデル、すわなち、大講義室で教員が一方的に話し、学生が受け身でノートを取る方法と比較したとき、短いビデオ、作業、クイズ、ディスカッション・フォーラムでの様々なやり取り、さらには対面での集まりを織り交ぜたMOOCのほうが、相互作用の度合いが遥かに高い。MOOCでは、学生も教員も高いレベルの対話性を求めており、単なる情報の受け手あるいは伝達者となることを望んではいない。MOOCのベンダーは、学生が講義を見ること以上の何かに取り組む方策を模索している。例えば、edXコースの特徴の一つとして、非常に短いセッションの要所要所に問題や視覚に訴える実験が散りばめられ、学生からの直接的なフィードバックを得るチャンネルが確保されている点があげられる。

MOOCの提供者の中には、学生の成果物を学生がピアレビューすることは、教員あるいはTAのような専門家からのフィードバックに十分置き換え得るものと考えている。これに賛成か?

 端的に言えば「賛成」である。MOOCのピアレビューは十分に機能していると言える。ピアレビューの取り組みを通して、学生は自ら課題をまとめる機会を得るだけでなく、他の学生が作成したものも読むことができる。この方法では、学生がある分野の内容に熟知している必要がある。しかし、ここで一つ問わなければならないことがある。そもそもピアレビューをしているのは、学生が学ぶためなのか、それとも形式的な評価を行うためなのか。前者は是であるが、後者は疑問の余地が残る。
 ピアレビューについての曲者の一つは状況である。ピアレビューは何が目的なのか? ピアレビューは、学生に誤用され、学生を困惑させる可能性がある。ピアレビューの目的は何であるのか、学生が理解できるよう手を差し伸べることが重要である。このことは、異文化的な背景においては特に重要である。大半の教員はこれまでピア評価を行ったことがないので、ルーブリックを書くといったような新たな課題への留意が求められる。そのためには、かなり入念な枠組みを作ることが必要で、ベンダーの中には、その取り組みを進めているところもある。

現在の学習ツールはMOOCを支援するのに十分と考えるか?

 これは難しい問いである。これまでの技術はMOOCのうねりを起こすには十分であったことは紛れもない事実だ。しかし、たゆまぬ革新は必要とされるであろう。そして、これらの革新は、教育と学習に重きを置くことによってもたらされると保証することが重要である。ある意味で、革新には終りがない。明らかに、ツールに関しては今より良いものができる可能性があり、実際そうなるであろう。クラウドソーシング(インターネットを介して募り、必要なサービス、アイデア、コンテンツなどを取得すること)は、そのようなツールの設計に大きな役割を演じる可能性がある。

MOOCに対する資金モデルについて何か思うことはあるか? どなたからでも、考えを伺えれば

 ベンダーは様々なモデルを実験している。学生の本人照合に50〜60ドルを請求し、学生と企業をマッチさせる経歴サービスの提供を始めたところがある。あるいは、教材の再利用に対して料金の請求を考えているところもある。さらには、パートナーの大学と収入分与の契約を計画しているところもある。教育の質を高めつつ、授業料を抑制あるいは軽減できるモデルを見つけることが理想ではある。

フォーカスセッションの関連資料

●アカデミック・パートナーシップ社学習テクノロジー部門副社長 Barbara Truman、edXコンテンツ開発部門リサーチ・ディレクター Rebecca Petersen、インストラクチャー社学習と研究部門ディレクター Maria H. Andersen「MOOC提供者によるパネル・ディスカッション:Coursera, Academic Partnerships, Instructure, edX」

大学のMOOC戦略の計画:キャンパスにおける対話に関する質問

 今日、多くの大学はMOOCへの理解を深めようとしている。教育プログラムにMOOCを取り込む戦略を描こうとしている大学も多い。フォーカスセッションのプレゼンテーションに対する以下の質問は、各大学がMOOCの議論を進める上での枠組みになればと考えたものである。

全体像を理解する

MOOCを立ち上げる:配置すべきもの

MOOCを大学の授業実践に織り込む

MOOCの質保証と分析

MOOCの配信方法を探る

フォーカスセッションの内容と関連資料

 ELIフォーカスセッション(http://www.educause.edu/eli/events)からは、各テーマに基づいて沢山のコンテンツが生まれている。このコンテンツには、ディスカッションでの質問、テーマに関するシナリオ、発表の録音資料、大学でのイベントを実施・促進するための読み物が含まれており、ぜひこれを再利用していただきたい。
 2013年学習とMOOCに関する春季オンライン・フォーカスセッションの内容は、以下のURLを参照のこと。http://www.educause.edu/eli/events/eli-online-spring-focus-session
 また、以下は、文献目録やディスカッションのためのガイドを含め、さらに有用な資料情報である。


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