新しい学びの扉

法政大学
課題を解決すること、そして、課題を設定すること
〜講座最終日に学生へ贈ったメッセージより〜

竹内 淑恵(法政大学経営学部長)

 私は、今でこそ大学で「マーケティング論」を教えていますが、もともとは高校・大学を通じて理系、今風に言うと「リケジョ」です。なぜ理系を選んだのかというと、「答え」があるから取り組みやすいと高校生時代に考えたからです。その私が大学卒業後にライオン(株)に入社し、5年間の研究所勤務を経て、マーケティング本部に異動になり、直面したのはまさに「答えのない、あるいは答えが一つではない仕事にどう向き合うか」という課題でした。日々のOJTの中で体得していくという手探りの数年を過ごして、管理職になった後、改めて「きちんと体系だって勉強して、業務に活かしたい」と考え、勤務の傍ら、社会人大学院に通い、修士と博士の学位を取得しました。25年間の企業勤務、そして、13年目になる大学教員、この両視点から気づいたことと学生に期待することをまとめたいと思います。
 本学経営学部では、ベネッセコーポレーションが事務局をつとめるFuture Skills Project研究会のプラットフォームに基づいて、2014年度からFSP講座を開講し、2015年度は2クラスに拡大して展開しています。対象は入学したばかりの1年生、しかも春学期の開講ですから、まだ高校生までの「学習」と大学での「学び」の違いを理解しないうちに、いきなり大学での「学び」の洗礼を受けることになります。
 なぜ大学での「学び」の大切さを体得する必要があるのでしょうか。大学でいかに学ぶのかを自ら考えて、主体的に取り組むこと、それを身を持って体験することが重要だからです。それは将来、企業で働くときに必要な力を養うためでもあります。学生たちは「この科目は楽勝科目だから取ろう」、「ガチは嫌いだ、面倒だ」、あるいは、「アルバイトの時間に合わせて、残りの時間に取れる科目で時間割を埋めよう」と易きに流れる傾向があります。単位も学位も「与えられる」ものではなく、自ら「取る」ものなのに、そういった認識を持っていません。そのような気持ちで無為に4年間過ごし、就職したらどうなるのでしょうか。私自身が管理職になって部下を持ったときに感じたのが、仕事を与えれば、あるいは、指示を出せば動くのに、自分から進んで課題を見つけて解決する、あるいは、提案することが少ないということでした。与えられた課題の解決もままならない場合もあり、私が30代後半の未熟な上司だったことも原因でしょうが、そういう部下の育成は骨が折れると実感しました。
 重要なのは、なぜその課題に取り組む必要があるのか、より具体的に言うと、その課題はどのような現状、環境の下に設定されているのか、そして、どのような意味を持っているのか等、課題の本質を捉えることではないでしょうか。今回の講座に限って言うと、企業から与えられたMissionに対して、初めての経験ゆえ、なかなかそこまで理解するのは困難だったでしょうが、物事の本質を捉えることが基本であり、スタートであるという認識を持つ必要性を少なからず感じたと思います。課題に取り組む中で、チームワークの重要性やコミュニケーション能力の大切さも実感できたことでしょう。課題を設定できれば解が見つかったも同然だという言い方をされることがあります。何が問題で、何を取り上げる必要があるのかに気づけば、答えは自ずと導かれるという主張です。とは言え、まだこのような思考に慣れていない大学1年生にとっては、課題が与えられても、解を見い出すことは難しかったようです。課題解決能力を培うことに努め、何度も経験を重ね、将来的には自ら課題を設定できるよう、チャレンジしてもらいたいと思います。
 法政大学の田中優子総長は、2015年度の入学式の式辞で、「世界のどこでも生き抜く力を持った学生を育てたい」、「自ら考え、自らの基準をもち、自らの道を選択することのできる『世界市民』を育てたい」と述べています。FSP講座を受講した学生は、主体性を養うことが重要そうだと、入学時のガイダンスを聞いて気づき、自ら志願して本講座を履修したという意味で、すでに主体的であろうとする芽を持っています。現時点で感じている思いを忘れることなく、これからの大学生活4年間を有意義に過ごしてほしいと思います。そして将来、与えられた課題をこなして、解決できるレベルにとどまらず、率先して課題を設定し、新地を開拓できるフロントランナーに育てたい、育ってほしいと切に願っています。大学として、そうした学生を一人でも増やすために、今後も産学連携を一層強化していきたいと考えております。


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