特集 教学マネジメントの試み

大学教育の質的転換促進の工夫
〜創価大学AP事業の試み〜

関田 一彦(創価大学 教育・学習支援センター長)

1.はじめに

 本学では、アクティブ・ラーニングの実施率も授業外学修時間量もある程度高い状態にあります。けれど、学修目標を意識し、その達成のために自らの学びを律していく、真に能動的な学修が促されている授業ばかりではありません。その点に関する質的向上(良質なアクティブ・ラーニング科目の増加)が、本学の課題と認識しております。そこで、学修成果の把握と、それに基づく振り返り(自己評価)を奨励することで、この課題に対処したいと考え、昨年度から図1のようなAP事業に取り組み始めました。
 以下、学修成果の可視化を中心に、この取り組みについて説明します。

図1 AP事業の概念図

2.学修成果の把握

 学修成果の把握については、アクティブ・ラーニングで伸ばす学生の汎用的能力を学修成果と捉え、その可視化を行います。そこで、全学共通に伸ばしたい汎用的能力を自己評価するルーブリックを用意し、学年進行に応じて卒業までに3回、自己点検する機会を設けます。自己点検のための学修活動と振り返りの時間を確保したアセスメント科目を学部ごとに設定し、それらの履修を義務づけます。そして、ルーブリック評価によって可視化された結果を学生、教員それぞれが検討することで、自らの取り組み改善を促します。

3.二つの相互評価の仕組み

 まず学生側の自己評価を促す工夫です。アセスメント科目では、学生には学期始めに目標設定させ、その達成に向けた取り組みを意識させます。そして、学期半ばと終わりに、その取り組みの成果を振り返る機会を設けます。振り返りのワークシートを用意し、そのワークシートを使ってグループの仲間に自らの取り組みを説明させます。仲間はそれに対して、承認と提案による評価コメントを返します。このような相互評価を繰り返すことで、望ましい自己評価の仕方を練習させます。その際、必要に応じてコーチングの研修を受けた先輩学生(シニアSA)を配し、適切な相互評価活動を支援します。振り返りの結果は学修ポートフォリオに記録され、最終的に自己成長目標シートにまとめられ、自己成長記録データベースに保管されます(図2)。

図2 二つの相互評価と学修成果の可視化

 次に教員側の相互評価を促す工夫です。本取り組みでは、学生の自己評価を教員が自らの授業評価の材料として参照します。アクティブ・ラーニングを導入した授業が、学生の汎用的能力育成に有効だったのかどうか、授業ポートフォリオに取り組みをまとめ、それを同僚会議で仲間の教員に説明するのです。この会議(一種の相互評価の機会です)を生産的に進めるために、“質問会議”などファシリテーションの訓練を受けたメンター教員(ALマスター)を養成します。また、授業評価を裏付けるために必要な情報収集は、随時、観察・聞取りの訓練を受けた学生ボランティア(ピア・アセスメント・サポート・スタッフ:以下、PASS)が支援します。

4.三つのアセスメントゲートの考え方

 初年次教育として展開している各学部の基礎演習、もしくは共通科目の共通基礎演習を最初のアセスメントゲートとします(図3)。ここでは、大学での学業の基礎となる技能や態度を可視化します。その結果を学生が自己評価し、その後の学生生活の目標設定に役立てます。

図3 三つのアセスメントゲートと学修の流れ

 次いで、2年次から3年次には、汎用的能力の伸長を点検します。このときに、本学学生の中で、学業に限らず社会活動などで高い評価を受けた者たちの特徴を分析し、ハイパフォーマー指標を用意します。それを評価指標の一つに用いることで、学生たちは先輩が示すレベルを目標に、自らの汎用的能力を評価することができます。そして、3年次から4年次には、卒業に向けて、社会で活躍する先輩を目標とした自己評価を行います。そのために、卒業生調査に基づいた汎用的能力のルーブリックを作成します。
 このように学年進行で学生たちは汎用的能力の自己評価を行っていきますが、教員に対して二つお願いしていることがあります。一つは、アセスメント科目の中で、実際に学生の汎用的能力が発揮されるような課題や活動を用意することです。学生はその科目の中でアクティブ・ラーニングを体験し、自身の汎用的能力を意識します。もう一つは、アセスメント科目の中の体験だけが汎用的能力の向上に影響しているわけではない、という認識を持つことです。学生は1学期に4〜10科目を履修していますから、様々な科目の中でアクティブ・ラーニングを行い、少しずつ成長しているはずです。言い換えれば、学生は学部あるいは大学が用意したカリキュラムの上を歩いて卒業していきます。入学時には高校までの、二年次の時には1年次の学修経験が、汎用的能力のレベルに影響を与えているはずです。したがって、アセスメント科目は、カリキュラムの教育成果を測るための観測地点と考えていただく必要があるのです。

5.FDの実施

 本学のAP事業を円滑に進めるには、そのためのFDが必須です。毎年、対象学部を増やしながら、学部全員の参加を前提とした授業設計ワークショップを2日間集中で行っています。ここでは自身の授業シラバス更新を兼ねて、アクティブ・ラーニングを組み入れた授業方法やその評価方法について学び合います。既に3学部が対象となっていますので、今年度末には本学教員の3割以上がワークショップに参加し、授業設計の基礎を学ぶことになります。これにより、授業改善に関する共通認識が学部内に生まれてきます。
 もう一つ力を入れているのは、ALマスターと呼ばれるAP事業を中心的に進める教員を学部ごとに育成する取り組みです。立教大学の経営学部で大きな成果を生んでいる質問会議(Action Learning)の手法を、教員間の振り返りの場である同僚会議に用いようとしています。そのために、2日間集中の外部の研修会に教員を派遣しています。この他、種々のファシリテーション研修を用意し、学部のアクティブ・ラーニング推進の中核になっていただく教員を各学部に数名ずつ養成していきます。

6.先輩学生の参与

 アセスメント科目を中心に学内に導入する相互評価を支援するために、二つの学生参与を期待しています。一つは、学生同士で評価し合う際、ルーブリックなどの基準に基づいて、きちんとした評価コメントを交わし合うモデルになるシニアSAです。正課内外でリーダーシップトレーニングの機会を用意し、そのプログラムの中で、SPACe(総合学習支援センター)が中心になってピア・メンタリングの訓練も行います。もう一つは、学生の取り組みを学生目線でモニタするPASSです。PASSは教員が求める情報を授業観察やフォーカスグループインタビューなどを通じて収集し、担当教員にフィードバックします。そうした情報収集のスキルトレーニングはCETL(教育・学習支援センター)が行います。

7.おわりに

 創価大学では、精緻なアセスメントシステムは求めません。学生は日々成長変化するものですから、その日その時、どれほど正確に測ろうとも、明日には変化・向上しているかもしれないのです。本学では、正確な測定より、それを契機に成長しようと思う「意欲の喚起」あるいは「成長への気づき」を大切にします。そのため、アセスメントツールの精度をあげることも大切ですが、それ以上に、アセスメントを通じて学生の成長を促す教員の指導力向上を重視しています。


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