大学の組織的な取り組みの工夫

eポートフォリオを活用した学修支援と
教育改善への取り組み
〜大阪府立大学〜

星野 聡孝(大阪府立大学 高等教育開発センター長 高等教育推進機構教授)

1.はじめに

 大阪府立大学では、2011年に「ICTを活用した教育・学習支援アクションプラン 2011」を策定し[1]、オンライン上での教育・学修環境の整備を進めてきました。このアクションプランでは、「授業支援」、「学習・教育自己改善支援」および「個人に対する支援」の3つの柱を掲げており、その中の「学習・教育自己改善支援」の取り組みとして導入されたのが、eポートフォリオです。
 「学習・教育自己改善支援」という言葉にも示されていますが、本学のeポートフォリオは、学生用の学修ポートフォリオとしてだけでなく、教員にとってのポートフォリオとしても活用できるようになっています。これは、このeポートフォリオが、本学で実施していた「授業アンケート」に端を発していることと深く関係しています[2]
 授業(評価)アンケートは、今では、ほとんどの大学で行われています。本学でも2005年度から実施してきましたが、数年にわたって実施する中で、様々な課題が見えてきました。中でも、それが学生へ直接的なメリットをもたらしていないことが、大きな課題であると認識されたのです。
 そこで、授業評価的な色彩を帯びた従来の「授業アンケート」に代えて、学生の学修自己評価を核としたeポートフォリオを導入することにしました。学生は自らの学びをふり返り、これを蓄積していくことで学修の自己改善に役立てることができます。一方、教員も、学生の学修自己評価を知ることで、授業改善に役立てることができます。このように、学生と教員の双方に直接的なメリットをもたらすことができる仕組みとして、本学のeポートフォリオは構築されました。
 eポートフォリオ導入から4年が経ち、この春、eポートフォリオを利用した最初の学生が本学を卒業していきました。ポートフォリオとしての1周目をようやく終えた今、本学のeポートフォリオについて、その特徴を中心にあらためてご紹介するとともに、これまでの活用状況について、報告します。

2.本学eポートフォリオの特徴

 導入したeポートフォリオは、本学オジナルのものであり、構想段階から多くの教職員の協力を得て、完成にまでこぎ着けました。ここでは、その特徴を中心に、概要を説明します。

(1)在学期間全体を通じての学修ポートフォリオ

 ポートフォリオには様々な種類があります。例えば、1つの授業科目における学修活動とその成果物を記録・蓄積していくタイプのポートフォリオがありますが、この場合には、その授業科目だけでポートフォリオが一つ完結することになります。本学のeポートフォリオは、これとは異なり、学生にとっては、在学期間(4年間ないし6年間)全体を通じてのポートフォリオとなります。その仕組みを図1に示します。

図1 本学eポートフォリオの仕組み

 図1の左半分が、学生を中心とした仕組みを表しています。学生は、半期のはじめに自分自身の半期全体の学修目標を立てて記入します。半期の受講が終わるころには、授業科目ごとに学修のプロセスと達成度について自己評価等を記入します。この部分が、従来の「授業アンケート」に、直接、取って変わった部分です。さらに、成績が発表される半期末には、半期全体をふり返って、自身の立てた学修目標に対するふり返りと、「大阪府立大学学士課程が目指す学修成果」(9項目)[3]に対する自己評価を記入します。
 学生は、このような活動を半期単位で繰り返していくことになります。その際、学生の自己評価や成績などを、経年変化も含めて可視化して提示することで、学生に気付きを促し、学びについてのPDCAサイクルを回す手助けが出来るようになっています。

(2)教員にとってのポートフォリオ

 本学のeポートフォリオの大きな特徴の一つは、それが教員のポートフォリオにもなっている点にあります。
 自分が担当した授業について、学生が入力した学修自己評価の集計データは、成績データなどとともに年度単位、授業クラス単位で蓄積されていきます。さらに、担当している複数の授業について、個々の集計データを並べて比較することができるようになっているため、授業改善の効果を経年で追うといったことが簡単にできるようになっています。
 個々の授業についても、簡単な分析機能を有しているため、教員は、本学のeポートフォリオを活用することで、様々な気付きを得ることができます。その気づきは、図1にも示したように、教育のふり返りとして記録に残せるようになっていますので、授業改善のためのPDCAサイクルを回すのに役立てることができます。

(3)「学習・教育支援サイト」としての運用

 本学のeポートフォリオは、システム的に見ると、もう一つの大きな特徴があります。それは、eポートフォリオが、単なるeポートフォリオとしてではなく、「学習・教育支援サイト」という形で運用されている点にあります。
 本学のeポートフォリオの仕組みでは、学生は、半期の目標とふり返りを記録することがメインとなり、そのままでは授業期間中に利用することはほとんどありません。そうすると、せっかく立てた目標を、普段、学生が目にする機会はなくなってしまいます。また、学内で既に稼働している様々な教育系システムに、もう一つ新たなシステムが加わることで、ユーザの利便性を損なうことにもなりかねません。
 そこで、学修と教育に特化したポータルサイト的な役割を持つ「学習・教育支援サイト」としてシステムを構築することにし、eポートフォリオの機能をその中に埋め込みました。
 図2に、学生のHome画面例を示していますが、ここに見られるように、受講中の科目が並ぶエリアには、科目ごとに「シラバス」「授業支援」「授業ふり返り」のリンクが並べられています。それぞれ、教務学生システム、授業支援システム(本学ではMoodle)、および本eポートフォリオの当該科目へのリンクとなっています。このように、授業単位で各システムが繋がれており、さらに、授業におけるPlan(シラバス)、Do(授業支援)、Check(授業ふり返り)が見渡せるよう工夫されています。
 このような特徴などから、eポートフォリオは、特に、既存の授業支援システム・出席管理システムと一体的に運用しており、本学の高等教育開発センターと学術情報センターが協力して、その任にあたっています。また、教務学生システムを運用している教育推進課とも密に連携を取っています。

図2 学習・教育支援サイトの学生Home画面例

3.活用状況

(1)学生利用状況

 eポートフォリオ(学習・教育支援サイト)導入の大きな目的の一つは、学生の学びを促すことにあります。そこで、まず、学生の利用状況について、いくつかデータをお示しします。
 本eポートフォリオは、2012年度入学生から活用し始めました。学生による、2015年度のシステムアクセス状況を図3に示します。

図3 学習・教育支援サイト
日別ページビュー数推移(学生)

 ここに見られるように、ふり返り記入などの各種イベントで、ページビュー数が大きく増えていることが分かります。また、それだけでなく、日常的にも授業支援システムへの入り口としてアクセスがあることが分かります。
 特にアクセスが多いのが、成績発表日以降の数日間です。そこで、成績発表日以降3日間のページビュー総数を、2012年度から半期ごとにまとめたグラフを図4に示します。

図4 成績発表日以降3日間のページビュー総数
半期推移(学生)

 この4年間は、年度ごとにeポートフォリオを利用する学年(2012年度:1学年→2015年度:4学年)が増えてきましたので、ページビュー数が増えるのは当然ですが、そこから予想される増え方を上回る伸びとなっていることが分かります。このことから、「学習・教育支援サイト」が学生の間に年々浸透してきたことが分かります。
 一方、図5は、本学で行っている「卒業予定者アンケート」(2012年, 2014年, 2015年実施)の中から、シラバス活用状況のデータを示しています。2015年のデータが、eポートフォリオ(学習・教育支援サイト)を最初に活用した学生(2012年度入学生)のデータとなります。ここに示されている通り、2012年度入学生では、それ以前の入学生と比べて、シラバスを「活用していた」学生が 10ポイントほど増えていることが分かります。
 以前はオンラインで検索しなければならなかったシラバスが、学習・教育支援サイトの導入によって、いつでも見られるようになったことが、この伸びにつながったと考えられます。

図5 シラバス活用状況

(2)教員による活用

 eポートフォリオ導入のもう一つの目的は、教員の目を学生の学びへと向け、教育自己改善を促すことにあります。目を向けてもらいたい学びは、自分が担当する授業だけに限りません。他の授業の理解度が、自分の授業の理解度に影響することも考えられますし、他の授業と自分の授業とを比較することで、あらたな気付きが得られることもあります。
 そこで、学生による、授業ごとの学修自己評価の集計データや成績データは、eポートフォリオ上で全ての教員が閲覧できるようにしました。これによって、自分が担当しない授業についても、教員は、学生の学びの状況をある程度把握できるようになりました。
 一方、eポートフォリオ導入に合わせて、学生にも受講科目の成績分布をeポートフォリオ上で公開するようにしました。これにより、教員には、成績評価に対する説明責任が、より強く求められるようになりました。
 また、本学では、共通教育・専門基礎教育に全学教員があたることになっており、その実施組織である高等教育推進機構では、毎年、「機構長教育奨励賞」の授与を行っています。その受賞者の選出に際して、eポートフォリオのデータを活用しており、従来の学生満足度ベースによる選出ではなく、学生がどれだけ学び、理解したのかに焦点をあてた選出を行っています。

(3)教学IRへの活用

 eポートフォリオには、そのデータから大学の教育の現状を把握して、大学全体としての教育改善につなげるという目的もあります。近年盛んになってきた教学IR(IR = Institutional Research)の基礎データの一つとして、本学でも、これを活用しはじめています。
 授業科目ごとに行っている学修自己評価のデータを用いた分析の例については、参考文献[4]に報告しましたので、そちらをご覧いただくことにして、ここでは、半期のふり返りとして学生が行っている、「大阪府立大学学士課程が目指す学修成果」[3]に対する自己評価のデータをお示しします。
 図6は、2012年度入学生が、半期ごとに自己評価した9項目それぞれについての半期平均値を積み上げて棒グラフにしたものです。なお、自己評価は、−2(大きく減った)から+2(大きく増えた)の5段階で行ってもらっています。
 ここで最も大きく増えている「知識1」は、専門分野の知識のことであり、これは当然の結果と言えるでしょう。一方、技能2と技能1の伸びが相対的に低いことが分かります。これらは、それぞれ英語と日本語のスキルに関するものです。特に、英語は、3年次前期の自己評価が低いことが見て取れます(図6中の矢印部分)。この時期に、学生が英語に触れる機会が減っている(あるいは全くない)ことが原因と考えられ、カリキュラム的な対応の必要性を示唆しています。

図6 「大阪府立大学学士課程が目指す学修成果」
自己評価の半期平均累計(2012年度入学生)

4.おわりに

 以上で述べてきたように、2012年度にeポートフォリオを導入して以降、学生・教員・大学全体、それぞれのレベルで、eポートフォリオの活用が少しずつ広がってきました。しかし、本学で行っている様々な学生調査のデータを見る限り、eポートフォリオ導入以降に学生の学修行動や学修成果が大きく変わったとまでは言えません。
 また、手探りで始めたeポートフォリオということもあり、その活用方法を積極的に学生にアピールできなかったという反省もあります。昨年12月に行った「ポートフォリオ成果報告会」[5]の中で、学生の皆さんから寄せられた意見も参考にしつつ、今後、全学での更なる活用が進むよう取り組んでいきたいと考えています。

参考文献および関連URL
[1] 馬野元秀, 小島篤博, 宮本貴朗, 星野聡孝: ICTを活用した教育・学習支援アクションプランについて. 学術情報センター年報 情報, 18, pp.20-29, 2012.
http://www.osakafu-u.ac.jp/data/open/cnt/3/6400/1/joho18_all.pdf
[2] 星野聡孝: 大阪府立大学におけるeポートフォリオを活用した学習・教育支援の取り組み. 大学教育と情報 2013年度 No. 4, pp.6-9, 2013.
[3] 大阪府立大学学士課程が目指す学修成果
http://www.osakafu-u.ac.jp/info/education/result.html
[4] 高橋哲也, 星野聡孝, 溝上慎一: 学生調査・eポートフォリオと成績情報の分析について - 大阪府立大学の教学IR実践から-.
京都大学高等教育研究 第20号 pp.1-15, 2014.
http://www.highedu.kyoto-u.ac.jp/kiyou/data/kiyou20/01_takahashi.pdf
[5] ポートフォリオ成果報告会
http://www.ap.osakafu-u.ac.jp/2015/11/13/1210pf/

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