巻頭言

「人間性教育の重要さと難しさ」

間野 忠明(岐阜医療科学大学・学長)

 岐阜医療科学大学は2006年4月に岐阜県関市に開学し、本年11年目を迎えました。保健医療科学部の中に臨床検査学科、放射線技術学科、看護学科の3学科を含み、2009年には助産学専攻科を開設し、本年4月には大学院保健医療学研究科修士課程を開設しました。本学の前身は1973年に開校された国際医学総合技術学院と、その発展的解消により1983年に開設された岐阜医療技術短期大学です。経営母体は学校法人神野学園で、傘下には本学の他に、中日本自動車短期大学と中日本航空専門学校があります。この3校全てで技術者を養成し、国家資格を取得するための教育を行います。3校に共通する建学の精神は「技術者たる前に良き人間たれ」であり、技術を習得することは当然のこととして、それ以上に人間性の育成を特に重視します。
 本学の開学時に、教育方針として人間性、国際性、学際性の3本の柱を確立することを掲げました。なかでも人間性の確立が最重要であり、同時にグローバル化する社会に貢献できる国際性、自分の専門領域だけでなく広い範囲の専門知識を身に着ける学際性を備え、チーム医療に貢献できる人材を育成しています。重要な位置づけとしている人間性についてですが、人間性とは何か?という疑問も生じます。いろいろな考えがあるかと思いますが、人間性の中で最も大切なことの一つは、お互いに理解し合うコミュニケーション能力と考えます。人間のコミュニケーションでは対面して話し合う、言葉によるものが最もよく用いられます。ジェスチュアや顔の表情も使われます。手紙や電話も用いられますが、近年ではインターネットによる交信もよく用いられます。私たちはまず挨拶の重要性を認識させ、学校内外で誰にでもしっかり挨拶するように指導しています。
 本学では入学初年度に徹底した人間性教育を行い、コミュニケーョンの技術として、社会習慣、マナー技法、カウンセリング技法、ボランティア技法、手話技法、倫理学、心理学、チーム医療などの講義と実習を行います。私も初年度の学生全員を対象とする医学概論の講義を8回担当し、人類の歴史のなかでの医学・医療の変遷、医療と宗教との関わり、医の倫理、生と死の医学など、医学・医療に関わる人間のあり方について講義しています。
 大学での座学も大切ですが、より効果ある人間教育は病院などの実習機関でもなされます。多種類の医療専門家による指導を受けながら、実際の患者さまに接し、接遇の仕方を身に着けます。挨拶の仕方と重要性、清潔な服装、礼儀正しい言葉づかい、にこやかな表情など、病院実習では医療の知識以外に学ぶことが沢山あります。挨拶、態度、言葉づかいなどのコミュニケーションの基本は本来、家庭環境の中、あるいは幼稚園、小学校などの初等教育から育まれるべきものですが、現代社会では難しくなってきています。大学や病院での人間性教育も、それまで受けてきた教育の影響を強く受けますので、どうしても限度があります。
 本学の学生の中にも初志に反して勉強を続けられなくなり、中途退学せざるをえなくなる者もいます。このような学生への対処方としてカウンセラーなどによる学生相談を徹底するとともに、本学では担任制を設け、各学年に複数の担任教員を配し、勉学の進み具合、健康・精神状態、日常生活の問題点などについて、きめ細かく指導しています。勉学についていけなくなる学生に対応するため教育支援センターも設け、教員を配置して勉学上の問題点について指導を受けられるようにしています。学生への効率的な情報発信や講義、学生の状況調査への対応では、情報システムを導入し学生の状況を把握しながら伝えるべきことを伝えるように努力をしています。幸い国家試験の合格率は良好ですが、最終学年の年度末近くなるとパニックとなる学生も現れ、人間性教育の一層の充実が望まれます。


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