特集 地域連携によるアクティブ・ラーニングの取り組み(1)

“現代の志塾”多摩大学における
プロジェクト型地域学習の進化と今後の展望

酒井 麻衣子(多摩大学 アクティブ・ラーニング支援委員会 副委員長 経営情報学部 准教授)

1.はじめに

 教育現場ではアクティブ・ラーニングへの期待が日増しに高まっています。一般的に“学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法”と定義されるアクティブ・ラーニングですが、多摩大学が長く取り組み、確立してきた「プロジェクト型地域学習」という学修体系は、まさにその先鞭をつけるものであったと考えます。
 本稿では、その取り組みの背景や仕組み、活動の事例をご説明するとともに、今後はフィールドを「地域」にとどめることなく、本学独自の「グローカル(グローバル+ローカル)」へと拡げたアクティブ・ラーニング体系へと発展させていくための展望についても紹介したいと思います[1] [2]

2.教育の仕組み

(1)「現代の志塾」とは

 時が平成に変わった平成元年(1989年)に東京都多摩市に開学した多摩大学は、今年で開学28年を迎えました。緑豊かな多摩丘陵の、静かな住宅街の高台に立つ多摩キャンパスからは街が一望でき、天候に恵まれれば富士山まで見渡せます(写真1)。

写真1 多摩キャンパス

 本学は『国際性』『実際性』『学際性』の3大支柱を基本理念とし、開学当初から社会経験豊富な教員を揃えて「実学」志向の教育を展開してきました。実学志向の教育とは、「社会に出て通用する」人材を育てるということです。それは、すぐに役立つ知識・ノウハウを提供するということではなく、応用のきく論理的思考力、深い知性や教養、人間性や行動力を育むことを指します。そのため、本学で展開されるカリキュラムは、おのずと一方通行の知識教授型のものとは大きく異なるものとなっています。常に学生に問いかけ、考えさせ、自ら行動し問題解決の糸口をつかむことを求めます。
 それを実現する仕組みを端的に表したのが、本学の教育理念である「現代の志塾」であり、  「ゼミ力の多摩大」という特色です。「現代」についての認識を深めさせながら、一人ひとりの「志」を育み、「塾」のように少人数のゼミ体制を中心とした手作りの教育で、懇切丁寧に学生を育てています。

(2)「ゼミ中心大学」として

 本学は、学生全員が4年間ゼミに所属するという体制を基本としています。1年生時は、全専任教員が10数名のクラスを1年間受け持ち、多摩大学での学び方の基礎を身につける「プレゼミ」、2年生からは、卒業までの3年間を同じ教員・仲間と過ごす「ホームゼミ」に所属します。それ以外にも、学外の専門家による「プロジェクトゼミ」、2学部の学生と社会人の大学院生からなる30数名を10名余の多彩な教員により指導する学長直轄の「インターゼミ(社会工学研究会)」など、多様なゼミが展開されています。
 その活動内容は教員の専門性によりさまざまですが、いずれもいわゆる座学のみを中心としたものではありません。知識のインプット、他者とのディスカッション、フィールドに出て社会での実体験を繰り返しながら、問題解決の方策を検討し、それを実現させるべく行動していく…そんな活動が、さまざまな関係主体との協同により、多くのゼミで繰り広げられています。

3.地域連携の仕組み

(1)「地域プロジェクト」の進化

 その中でも、特に地域をフィールドとした活動を「地域プロジェクト」と呼んでいます。平成 21(2009)年度に地域の問題解決を目的に設立された「多摩大学 地域活性化マネジメントセンター」を中心に推進してきた、本学独自のプロジェクト型学修(Project-Based Learning)である「プロジェクト型地域学習」です。
 その学修体系は、大学内の机上の学習にとどまらず、学生が「地域」という学外のフィールドに出て、自らの手と足を動かして活動し、行政・企業・NPO・地域団体・地域住民などの関係主体と連携しながら、地域の問題発見と課題解決を目指すものです。
 初期には個々の教員の人脈により持ち込まれた課題に取り組んでいましたが、徐々にその成果が認知されるにつれ、上述の地域活性化マネジメントセンターや、開学当初から地域産業振興を推進してきた多摩大学総合研究所が窓口となり、地域から寄せられるさまざまな要請に応じて、学内の適切な専門性を持つ教員やゼミとマッチングして、プロジェクト化をサポートするという仕組みが確立していきました。さらには、単年度の活動にとどまらず、学生は入れ替わりながらも同じゼミが何年にもわたり同じプロジェクトに取り組み、発展させていく事例も多く見受けられるようになりました。
 このように「プロジェクト型地域学習」は、大学、学生が関係主体と一緒に試行錯誤を繰り返しながら、何年もかけて少しずつ進化させてきた、本学ならではの取り組みといえるでしょう。

(2)地域プロジェクト発表祭

 地域プロジェクトの活動の成果は、年に一度開催される「地域プロジェクト発表祭(さい)」という成果報告会で、平成21(2009)年度より学内外に向けて公開されてきました。

写真2 発表祭の様子

 発表『祭』という名称には、ただ学内対象に内向きに収める発表会ではなく、また教員主体で無理やりに発表させるものでもなく、学生自身が主体的に盛り上げ、社会に向けて広く発信するイベントとしていきたいという想いが込められています。
 この発表祭のために学生たちは準備を重ね、学外の社会人もたくさんいる大きな会場で、プロジェクトの成果をプレゼンテーションします。発表祭での経験そのものが学生たちの学びの一環であるとともに、そこで受ける学内外からの評価がその後のプロジェクトの質を改善し、またフロアを交えたディスカッションをきっかっけに新たなプロジェクトが生まれるなど、プロジェクト型地域学習のPDCAサイクルを回すために欠かせない貴重な場となってきました。
 平成27(2015)年度からは、その名を「多摩大アクティブ・ラーニング発表祭」に改め、発表プロジェクト数は30余、参加者数は600名を超える報告会となりました。今後、本学におけるアクティブ・ラーニングによる学びの集大成の場として、さらなる発展を目指しています[3]

(3)行政等との連携協定

 また本学は、2学部のキャンパスが所在する自治体等との連携協定を結び、協力体制を構築しています(多摩市・多摩信金・多摩大学3者連携協定;2011年締結、および藤沢市・藤沢市観光協会との協力協定;2015年締結)。地域ではさまざまな関係主体が複雑に入り組んでおり、またそれぞれに強い思いがあります。大きな課題になるほど、その解決にはプロジェクトマネジメントの発想が必要となります。これらの協定のように、大学が中心となって地域のコーディネーター役を担うことで、より包括的な取り組みが可能となることが期待されます。

4.事例紹介

 地域をフィールドとしたアクティブ・ラーニングの取り組みは、産(企業)・官(行政)・学・民(地域団体・住民等)の連携によって可能となります。ここでは代表的な活動事例を三つ紹介します。

(1)産・学連携の事例『志プロジェクト』

 多摩信用金庫・株式会社弘久社・富士ゼロックス株式会社の協力のもと、地域の企業・団体と学生との相互交流を図り、人材育成と地域活性化に資することを目的としたプロジェクトです[4]。学生は多摩地域の「元気で志ある優良企業」を訪問し、経営者や若手社員にインタビューを行い、その内容を自分たちなりに咀嚼して学生向けの会社案内を作成します。
 初めての企業への電話、メールのやりとり、経営者からの熱いお話、身近な若手社員の体験談などから、学生は「生きた経営」を身をもって知ることとなり、社会への目を開くきっかけとなっています。
 2013年度より継続的に実施され、訪問した企業数は延50社を超えました。作成された会社案内は、多摩地域の優良企業を紹介するポータルサイト「TAMAエクセレントカンパニー」[5]に電子ブックとして公開されています(写真3)。

写真3 学生が作成した会社案内

(2)官・学連携の事例『多摩市観光促進プロジェクト』

 2010年度に本学の地域活性化を目指す学生有志団体「TAMAUNI」が、多摩市の観光促進を目的として1万人の笑顔の写真を集めてフォトモザイクアートを制作したプロジェクトです。併せて「せいせき多摩川花火大会」の参加者へのアンケート調査を実施して、一過性のイベントに終わらせないまちのリピーターづくりのための施策提案を行いました。
 笑顔の写真でできたモザイクアートという「ハッピー」な形に残すことで、市民の心にその記憶を刻み、また市外の人には多摩市をふたたび訪れるきっかけにするという学生が提案した企画でした。制作されたモザイクアートは聖蹟桜ヶ丘にある関戸公民館に常設展示されています(写真4)。

写真4 写真撮影の風景とモザイクアート

(3)民・学連携の事例『諏訪小学校と地域の連携づくり』

 梅澤佳子ゼミが2011年度から2014年度にかけて継続的に取り組み、小学校と地域の連携による野菜バザーの仕組みを実現させたプロジェクトです。小学校の農園活動で育てられた野菜は、キャリア教育の一環として主に保護者対象にバザーで販売されていました。学校と近隣地域の交流、また地域と児童や保護者の世代間交流を促進する仕掛けとして、これを学外で開催することを提案し、さまざまな関係主体を巻き込みながら、諏訪名店街、永山公民館・グリナード永山広場(駅前ショッピングセンター)とバザーの場を拡大し、継続的に開催できる仕組みを完成させました(写真5)。
 このような提案が実現に至ったのは、企画に直接関わる農園活動にとどまらず、学生たちが当事者意識を持って小学校や地域のさまざまな活動に携わり、地域への理解を深めつつ、信頼関係を築き上げていったからにほかなりません。彼ら自身も異世代との深い交流を通して、学内の机上だけでは得られない学びを得たことでしょう。本プロジェクトは、公益社団法人学術・文化・産業ネットワーク多摩主催「多摩の大学生まちづくりコンペティション 2014」にて最優秀賞を受賞しました。

写真5 野菜バザー
(グリナード永山広場にて)

5.今後の展望

 紹介したようなプロジェクト型地域学習を基盤としつつも、さらに発展させ、本学独自の「グローカル(グローバル+ローカル)」をベースとしたアクティブ・ラーニング体系を構築していくため、次のような取り組みを展開していきます。

(1)アクティブ・ラーニング支援センターの設置

 2016年度、学生の学びを総合的に支援するための全学的なセンターを開設しました[6]。学修支援、IT支援、図書館サービスなどをワンストップで提供していきます。

(2)アクティブ・ラーニング プログラムの開発

 プロジェクト型地域学習で蓄積されたプロジェクト運営の仕組みをもととして、多様な分野における学内外での実践活動プログラムを開発するとともに、一定の学修成果が認められた場合は単位認定を行うなど、学生の学修促進を図ります。2016年度は海外研修、地域中堅企業研究、日本伝統文化体験、起業準備等の多岐にわたる29のプログラムを展開し、延548名の学生が参加予定です。

(3)全科目へのアクティブ・ラーニングの導入

 ゼミ・演習科目のみならず、一般科目を含めた全科目でのアクティブ・ラーニングの導入を推進します。

(4)アクティブ・ラーニング技法の蓄積と研究開発

 FDおよびSDの一環として、AL技法の蓄積をさらに進めるとともに、その理論的な研究開発に取り組みます。

 開学時より大学教育改革の最前線を切り拓いてきた大学として、これからも時代の一歩先を行くチャレンジを続けて参りたいと思います。

参考文献および関連URL
[1] 多摩大学:『現代の志塾 大学教育改革への挑戦
多摩大学教育25年史』, 2014.
[2] 多摩大学オフィシャルウェブサイト
http://www.tama.ac.jp/index.html
[3] 多摩大学 アクティブ・ラーニング発表祭
http://www.tama.ac.jp/cooperation/managementcenter/2015_ActiveLearning.html
[4] 益川三洋・磨田侑奈:「大学と企業を結び地域人 材を育成する志プロジェクトの取り組み」『富士ゼロックス テクニカルレポート』No.25, pp.14-20, 2016.
[5] TAMAエクセレントカンパニー
http://tama-exc.com/
[6] 多摩大学 アクティブ・ラーニング支援センター ウェブサイト
http://www.tama.ac.jp/activelearning/index.html

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