特集 地域連携によるアクティブ・ラーニングの取り組み(2)

広島修道大学COC事業の取り組み
〜大学生を地域イノベーション人材に〜

田坂 逸朗(広島修道大学人文学部講師 ひろしま未来協創センター)

1.はじめに

 広島修道大学(以下、本学)は、地域社会の強い要請により誕生した大学です[1]。1952年の「修道大学設立期成同盟趣意書」には、「道を修める」の建学の精神に続いて、『地域社会の発展に貢献する人材の養成』『地域社会と連携した人づくり』『地域社会に開かれた大学づくり』という理念が謳われています。現在は、商学部、人文学部、法学部、経済科学部、人間環境学部の5学部を擁する文系総合大学として、在籍学生数約6,000人、これまで6万人を超える卒業生を輩出してきました。
 「イノベーション・ブリッジによるひろしま未来協創プロジェクト(ひろみらプロジェクト)」は、2013年度文部科学省「地(知)の拠点整備事業」(以下、COC事業)として採択を受け、この設置理念をより強く具現化し、それまでの取り組みを強化するものとなりました。ここでは、このCOC事業における教育領域のしくみと地域連携授業の取り組みを紹介します。

2.「イノベーション・ブリッジ」という地域との関わり方

 COC事業「ひろみらプロジェクト」においては、イノベーションを「固有の資源を発掘し磨き、課題から新しい価値を創出し広く発信すること」としています。そのイノベーションを「地域イノベーション」のステージに進展させる人材を「地域イノベーション人材」と呼ぶことにしました。
 地域イノベーションとは、シュンペーターの提唱以降、企業や国家、産業クラスターや起業家が担ってきたイノベーション、すなわち新結合による新価値創造を、単発のイノベーションであるととらえなおし、地域内での連携をしかけながらイノベーション空間を創出することによってイノベーションの連鎖を域内に起こしてゆく「受益の協力体制づくり」を指した語用です。リチャード・フロリダらの都市論で扱われる「都市のイノベーション」では、技術・寛容性・才能誘引が重要であるとされています。地域活性化をイノベーティブに促進するには、地域内連携、才能誘引などの「ブリッジ(つながり・橋渡し)」が重要で、このブリッジを、この事業では地域イノベーション人材が担う、という見立てです。

3.「つくりながら」のコース設置

 ひろみらプロジェクトは、教育領域、研究領域、社会貢献領域で構成されています。ここでいう「地域イノベーション人材」とは、その3つの領域の担い手、大学の機能としての主幹・ひろしま未来協創センター、ひろみらシンクタンク登録教員、学生(履修生、ボランティア活動学生)です。
 大学の主幹機能のために、旧学術交流センターを2014年度、COC事業採択に対応するために組織再編、新たに雇用した職員も含め17名体制とし、さらには時期を合わせて本拠地となる新校舎「協創館(8号館)」(地下1階地上4階建て)を新築しました。
 教育領域においては、地域志向の実践的な教育で地域イノベーション力を涵養する「地域イノベーションコース」(以下、コース)を設置しました。全学部横断、無条件の登録制で、修了者に修了証を発行し、その学修を証する副専攻とみなすものとしました。コースが設置する科目と、コースの単位数に含む所属学部の科目とで構成され、3年次終了時までに修了可能としました(図1)。設置3年3学年で628名がコース登録、学修しています。2017年度後期終了時点で最初の修了生が誕生します。

図1 COC地域イノベーションコースの教育プログラム

 1年目には1年次の授業を、2年目で1年次に加え2年次の授業も、と漸進的に設計・開講してきました。「つくりながら」の進捗は、このひろみらプロジェクトのコンセプトのひとつ、「つくりながら、つながりながら」に相通ずるもので、これは、地域貢献(社会貢献)もイノベーション・ブリッジをなす地域イノベーション人材とステイクホルダー(関係者)との共同作業から未来が「つくられる」活動となるとき、その新価値は大きく創出されるとの確信の体現です(図2)。COC事業で提携する広島の4つの地方公共団体、広島県、広島市、廿日市市、北広島町のみなさんには、この「つくりながら」の過程を情報共有しながら、また、ともに「つながりながら」推進しました。

図2 COC地域イノベーションコースの学びのモデル

 オープンキャンパスなどの広報が奏功し、入試前からこのコースを目指してきたという学生も目立ち始めました。この広報には特に力を注ぎ、年に1度の発表会「ひろみらFES」を開催し参画学生と教職員、地域のみなさんとの交流交歓の場を創出したり、学内のPRs(パブリック・リレーションズ)にも力点を置き、地域で熱心に活動する学生のようすを伝える「ひろみら通信」(2016年9月時点で7号発行)を発行したりしました。コース登録学生が主体となって開催する、コース登録学生どうしの交流の場「イノベーション コミュニティサロン」(2016年10月時点で14回開催)も、学内の学生たちを刺激するものになっています。
 コースから提供された、広島地域における学外のイノベーションアイディアコンテストなどへのエントリー情報をもとに、他流試合的にそれらに参加したりしながら迎えた3年生に、明けた2017年2月、コース修了見込み者の総仕上げとなる米国ポートランド州立大学との提携によるポートランド市をフィールドとするセミナー「グローカル・イノベーション・セミナー」の開催が用意されています。

4.PBLとサービスラーニング

 コースが設置した科目はすべてアクティブラーニング(能動的学習)として、体験学習の文脈に沿って、ワークショップの形をとりました。リフレクション(ふりかえり)を重視し、チームビルディング、ファシリテーション、ダイアログ、デザイン思考、プレゼンテーション、多くの学修を学内と地域とで繰り返します。
 1年次に学内で演習を繰り返した後、2年次で地域実習PBL型授業、3年次でサービスラーニング型授業へとステップを踏みます。これらのステップは独立した専門性を扱うのではなく、いわばリベラルアーツ的教育の側面も加味しながら、学生はそこで発見した自らのテーマや命題をシームレスに持ち上げることができるよう配慮しています。

4−(1)学内での演習(ワークショップ)授業(1年次)

 地域イノベーションや地域におけるコミュニケーション・デザイン、地域情報の発信のためのツール・デザイン、チームビルディング・スキルやファシリテーション・スキル、課題発見スキルやデザイン思考、プレゼンテーション・スキルを、体験学習で学修します。これらは2年次以降の地域実習の準備となるもので、特に大学生が「地域イノベーション人材」として実習地へ出向くときの要諦として、クリステンセンが提唱する「イノベーターの5つの発見力」、キース・ソーヤーが提唱する「グループジーニアス」としてのチーム作業の組み立て、エリック・リースの「リーン思考」の学修を旨としました。さらにはこれらのスキルは、以降本格化する所属学部の専門性の学びを側面支援するものととらえています。
 ここでは特に、学部横断であることが功を奏します。多様な志向性をかけあわせる場づくり「対話の場」の創出は、地域をフィールドとしたときのモデルとなるとともに、多様なステイクホルダーという、高校までとは少し異質な環境を経験します(写真1)。

写真1 1年次科目
「地域イノベーション論」のようす

4−(2)地域実習PBL型授業(2年次)

 PBL(Problem Based Learning:問題基盤型学習)として、地域貢献を優先し、対話から課題解決の糸口を発見し、実題として課題解決に挑みます。大学が提携する3つの市町(広島県広島市・廿日市市・北広島町)に出向きます。この3つのフィールドを地域スタジオ「ちぃスタ」(施設は持たない)と呼称し、対話から始め、総論的な社会問題を表層的にとらえる殻を破り、その地域特有の課題発見、あるいは、地域資源の発掘と、その地域活動の行動化を目論みます。PBLの提唱者ドナルド・ウッズのいう「そこにある問題」のために「自分が何を知るべきかを知る」ことに始まる、自身固有の解決プロセスの獲得を目指して、自己主導型・自己評価型の小グループ活動で、「PBLの8つの課題」のサイクルをなぞります(写真2)。

写真2 2年次科目
「ひろみらプロジェクト」のようす

 具体的には、実習地の属性とテーマを、広島市西区JR西広島駅周辺[都心]=街区ビジョン、広島県廿日市市佐伯 玖島地区・浅原地区[中山間地域]=交流のリデザイン、広島県北広島町 大朝地区[過疎地域]=QoLの維持、と読み、それぞれで、以下のような課題解決活動を行いました(表1)。

表1 「ひろみらプロジェクト」のPBL実習
■都心(広島県広島市西区JR西広島駅周辺)

2015年前期|来街したくなるしかけ

  • 地域の担い手の方との対話を重ね、プロジェクトプランをプレゼンテーションした

2015年後期|3つの街区ビジョン

  • 地域リーダーへのヒアリングから、2030年、2021年、2018年、街区リニューアルのニュースを区切りとする3つのビジョンを描いた

2016年前期|ビジョンからシンボルプロジェクトへ

  • ビジョンを具現化するシンボルプロジェクトを創案し、実施した
■中山間地域(広島県廿日市市佐伯 玖島地区・浅原地区)

2015年前期|茶摘みツーリズムの体験と交流アイディアの創案

  • 地域資源の掘り起こしのためのツーリズムを体験し、地域の方との対話を重ね、プロジェクトプランをプレゼンテーションした

2015年後期|地域アニメーション制作の実験、コミュニティカフェ、たきび交流会と農業ツーリズムの試行

  • 前期プレゼンテーションのプロジェクトをいくつか試行した

2016年前期|ボランティア食堂の出張交流会とその活用策の創案

  • ボランティア食堂のサークルを、交流を活性化する資源ととらえ、共同プロジェクトをおこなった
■過疎地域(広島県北広島町 大朝地区)

2015年前期|自立する地域へ向けての課題の摘出

  • 地域の担い手の方や町役場職員と対話を重ね、プロジェクトプランをプレゼンテーションした

2015年後期|商店街リノベーション活動への参画とコミュニケーションアイディアの創案

  • 前期プレゼンテーションと掛け合わせ可能な、商店街のプロジェクトに参画した

2016年前期|商店街リノベーションに関する対話とボランティアマネジメントのしくみの創案

  • 商店街プロジェクトへの参画をよりいっそう強め、そこに見る課題の発見と解決を試みた

4−(3)サービスラーニング型授業

 3年次では、2年次で修得した課題解決手法を、教員が同伴しない自律活動で地域貢献します。2016年度は、のべ70名の学生で17のプロジェクトの地域貢献活動を行いました。多くは、2年次のPBL型授業を通して発見した課題、解決策としてのプロジェクトプランを持ってあがった形で、企画立案、学修計画から最終報告までの流れをすべて自ら学生がセルフマネジメントし、実習日誌の報告をもって実習を認めていく方式です。サービスの受益者(対象者)となっていただく地域は、PBL型授業の実習を受け入れてくださった同じ地域の中で、カウンターパートナーとして、実習受け入れを依頼して協力いただいています(写真3)。

写真3 3年次科目「イノベーション・プロジェクト」のようす
表2 「イノベーション・プロジェクト」における主なサービスプロジェクト
■都心(広島県広島市西区JR西広島駅周辺)

2016年前期|

  • 地域ブランド確立のための連絡組織づくり
  • 来街者からの意見収集のしくみづくりと広場利用の社会実験
  • 己斐学生ビューローの立ち上げ・定着のプロセスデザイン
  • ゲストハウスの西広島駅周辺の最適実装化に関する研究
■中山間地域(広島県廿日市市佐伯 玖島地区・浅原地区)

2016年前期|

  • 食と農を通じた中山間地域と都市の交流
  • 地域資源のリデザイン効果の、玖島・浅原への還元
  • 新たな農作物栽培を通したコミュニティ形成支援
■過疎地域(広島県北広島町 大朝地区)

2016年前期|

  • 大朝レシピ作成を通したシビックプライドの形成

5.地域側から見た地域連携

 「これまで社会課題を暗いテーマとして受け止めていたが、この学修を通じて、それらは解決可能だ、わたしが解決したい、と強く思うようになった(人間環境学部3年生)」、「何もないと思っていた自分の地元が大好きになった。地域に関わる仕事に就きたい(商学部2年)」、変化を起こした学生の声を多く聞きます。なおかつ、重要な発見がありました。学生がアクティブラーニングを通して、学修と成長の機会を得るのが大学から見た地域連携です。逆に地域側から見て、大学は真には何が提供できるのかを推し量る必要があります。
 その解のひとつが「アクティブラーニング」そのものにあるとの発見です。地域は、学生との共同作業を通して、その能動性の規範を得ます。地域こそ今、能動的な学習を行うことによって、突破できる課題があるのだ、と。学生が真摯に取り組む姿勢やエネルギーが、実習を経て地域に伝染するさまを、多く見ることがありました。学生は、学習のフィールドをお貸しいただいたその返報に、能動性の規範を提示しながら、態度と姿勢で地域をイノベーティブに変えていくようです。

6.大学がアクティブラーナーになるとき

 コースの志向は、2018年度設置の新学部に引き継がれることが予定されています。コースはすなわち、文部科学省の助成を受けてなした初動であり、プロトタイプであったととらえることができ、大学が真の「COC地(知)の拠点」となることが、いよいよこれから本格化します。
 「地(知)の拠点」とはキャンパスを意味するのではなく、消防署が消防消火センターとしてその現場が署の外にあるように、地(知)の拠点の現場は地域にあり、キャンパスは教員と学生の準備と待機のバックヤード(知識庫)に過ぎないと任じるほうが、より地域志向に合致します。そしてその地域志向の貢献経験があってこそ、地域人材を地域に送り出すことができるのだ、とも。
 地域の、すべてのステイクホルダー(関係者)がアクティブラーナーであるべきであり、さらには、大学は、自らのあり方としてそれを率先垂範する、すなわち、大学がアクティブラーナーとなるときこそが、地域イノベーションが本格化するときだと言えます。これからの地域イノベーションを促進していく「地(知)の拠点」として、COC事業の成果を十分に発揮して、地域イノベーション人材育成機関としての大学の役割を継続していきます。

関連URL
[1] http://www.shudo-u.ac.jp/

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