大学の組織的な取り組みの工夫

e-Learningを取り入れた英語教育

野澤 健(立命館大学 経済学部教授)

1.はじめに

 立命館大学経済学部は、2006年度にカリキュラム改革を行い、それまでの経済学科だけの1学科制から国際経済学科との2学科制になりました。これに伴い、国際経済学科では、TOEIC®で550点以上を取ることが卒業要件に加えられました。英語担当教員としては、一層英語力の強化を求められ、その一環として取り入れられたのが、オンライン学修です。
 数多いオンライン教材の中で導入を決めたのは、「ぎゅっとe」でした。導入の決め手となったのは、安価であることの他、学修効果の実績があることと、学修管理が容易であることが挙げられます。
 2006年度の本格導入に先立ち、2005年度後期から試験的導入から始まり、現在も活用しています。当初は、経済学部と経営学部の2学部のみが活用していましたが、現在はこの2学部の他、4学部が正課の一部として活用しています。この間、「ぎゅっとe」には当初なかった機能が加わり、ネット環境も、Wi-Fiやスマホ、タブレットの普及など大きく変わりました。
 ここでは、立命館大学経済学部での「ぎゅっとe」と2013年度から新たに導入したもう一つのオンライン教材English Centralを使った取り組みについてお話したいと思います。

2.「ぎゅっとe」の活用

 オンライン学修の最大のメリットは、時と場所を選ばずに自分のペースで学修できることだと思いますが、このメリットは同時に誰にも監視されないため、全く学修しないという選択肢を与えることになります。そのため、オンライン学修で最も工夫が必要なのは、いかに学修せざるを得ない環境をつくるかだといっても過言ではないと考えています。
 私たちの意思は弱く、ダイエットにしても運動にしても自分にとっていいことだとわかっていても、自分の意思でいつでも止められることを誰にも強制されずに継続するのは、相当強い意志が必要です。学生は強制されることを嫌いますが、嫌でも勉強しないと点数がもらえない仕組みを作りました。
 現在「ぎゅっとe」は、1年次の「英語CALL1」(前期)、「英語CALL2」(後期)の教材の一部として使用しています。2017年度にカリキュラム改革が行われますが、基本的には、同じ扱いになります。オンラインの自学自習教材ですので、全く授業中には学修させず、課題としてのみ扱う方法もありますが、経済学部では90分の授業の冒頭の20分から30分を「ぎゅっとe」の学修に充てる自学自習と対面学修を混ぜたブレンド型を取り入れています。ブレンド型のメリットとしては、授業を担当する先生からのメンタリングがあることと、特に進度の遅い学生にとっては、クラスメートと自分の学修進度の比較ができ、授業外での学修を促進する効果があると考えられる点です。
 経済学部の1年生は国際経済学科の中国語コースを除いて、全員が「英語CALL1」を受講し、「ぎゅっとe」で学修しています。開講クラス数は、20クラスを超えます。4月の入学式前後にクラス分けのテストを行い、2学科ともUpper Intermediate(=UI)、Intermediate(=IM)、Pre Intermediate(=PI)の3レベルに分けられます。経済学部では、「英語CALL1」だけではなく、全ての英語の科目において、統一シラバス、統一テキストを採用していますので、担当者が異なっても同じレベルの同じ科目は、同じ進度で同じことを学修することになります。
 「ぎゅっとe」のレベルのうち、UIは上級コース、IMは中級コース、PIは初級または基礎コースで学修します。800人前後の学生が20数クラスに分けられて、それぞれのレベルで学修しますが、授業担当者は、必ずしもオンライン学修の専門家でもなければ、ICTに長けているわけでもありません。また、担当者は専任の教員ばかりでなく、非常勤講師も多く含まれます。毎学期開始前に、授業担当者を集めて、それぞれの科目の概要と指導法、教材の活用法などを説明する機会を設けていますが、「ぎゅっとe」を導入した当初は、担当者に対しての説明にかなりの時間を要しました。
 各授業担当者に毎回お願いしているのは、決められた期間までにリスニングとグラマーの全問を終了させることと、最低でも1週間に一度は学修の進捗状況をチェックすることです。1週間に一度のチェックは、頻度としては十分ではありませんが、週に一度しか本学の授業を担当していない非常勤講師に、それ以上のことをお願いするのは、難しいという判断からそのようにしました。筆者自身は、週末も含めて学修期間は最低1日に1回担当のクラスの学修状況をチェックしています。
 チェックする項目は主に2つです。1つは解答した問題の数です。「ぎゅっとe」の管理者用画面には学修の開始日と終了日を設定する機能があります。それにより、学修者には終了日までに全問終了するために、今の段階で何問終了していないといけないかを示す理想消化数が表示されます。また、学修状況をビジュアル化した顔が学修者の学修メニューに表示されます。顔の各パーツが学修状況を表し、良好であれば目が大きく開き、笑顔になります。特に目は消化した問題数に遅れがないかを表すため、一目で自分が順調に消化しているかどうかが判ります。

図1 学修状況を示す顔
左:良好な学修状況を表す顔 右:芳しくない学修状況を示す顔

 もう一つの大切なチェック項目は、本当にまじめに解答しているかです。何も考えずに単にクリックだけをして終わらせていないかのチェックです。誰の監視下にもないと思うと、こういう「不適切学修」をする学生がよくでてきます。消化した問題数だけを見るとノルマをこなしていても、実はただクリックしただけということもあります。「ぎゅっとe」には、デジタルカルテというものがあり、個々の学生のログイン回数、正答率、学修時間などを細かく見ることができます。その機能の一つに「学修的節度判定」があり、個々の問題を即座に解答すると不適切学修として記録されます。例えば、リスニングの問題で、音声が流れる前に解答して、次の問題に移ったと思われるような解答時間であれば、不適切学修となります。通常、カルテは白い色をしていますが、不適切学修があると赤みを帯びてきます。不適切学修が著しいと真っ赤になります。このように不適切学修が感知されることを事前に伝えていても、期限に間に合わせようとして、不適切学修をする学生が出てきます。そのような学生の対応として、復習リストの問題を解かせて、それをしない限り学修したとは認めないことにしています。復習リストには学修者本人が、後でもう一度学修したい問題を載せることもできますが、教員設定という機能もあり、不正解すると自動的にリストに載るように設定しています。不適切学修をすると往々にして正答率が下がり、リストに溜まる問題が増えます。不適切学修をした学生には、正解してリストが空になるまで学修するように指導しています。復習リストは、他の学生にとっても不正解した問題に再度挑む機会を与えることになり、学修項目の定着に役立つと考えています。
 真剣に解答させるもう一つの機能は、「クイズ」です。「ぎゅっとe」が開発された当初はなかった機能ですが、「ぎゅっとe」の実際の問題からテストを作成し、「ぎゅっとe」と同じインターフェースで解答させられる機能があります。経済学部では、学修期間の前半と後半に分けて2回クイズを実施しています。出題範囲はそれぞれ全ての問題の中から前半の50%と後半の50%です。作成も簡単でExcelのファイルに問題番号を入力し、アップロードするだけです。クイズは解答者ごとに出題の順序が変わる設定になっていて、一斉に開始してもそれぞれ解いている問題が違うため、周囲の様子を見て解答することが難しくなっています。解答結果もExcelのファイルでダウンロードできます。いい加減に問題を解いているとクイズで高い得点ができませんので、真剣に取り組む動機づけになっているかと思います。
 学修記録の管理のし易さも「ぎゅっとe」の良さですが、マルチアドミン機能は複数のクラスの管理を可能にします。これは、各授業担当者はそれぞれのクラスを管理し、さらにその親となる管理者がいて、すべてのクラスの閲覧権限を持つというものです。全クラスにクイズの問題をアップロードする時や、学部全体の学修結果を確認する時などに有効です。
 最初に述べましたように、「ぎゅっとe」を導入した当初から、「ぎゅっとe」自体も進化していますが、Wi-Fiやスマホの普及で学修環境が大幅に変わりました。今では、駅で電車を待つ間や通学の電車の中でも解答ができるようになりました。2016年後期には、「ぎゅっとe」の音声が自分のコンピュータで再生できないと申し出た学生が複数出ました。その日のうちに担当者にメールで連絡を取り、その日のうちに修正し、翌日からは問題なく学修を続けられるようになりました。このように即座に対応できるのも「ぎゅっとe」のいいところかもしれません。

3.English Centralの活用

 2013年度より、後期の英語CALL2の教材としてEnglish Centralを取り入れました。それ以前も視聴覚教材を使用していましたが、能動的に話す作業を多く取り入れることと、学生が興味のある内容を選べることなどから、印刷された教科書ではなくこの教材に変更しました。
 English Centralとは、映画の予告編、コマーシャル、有名人のインタビュー、演説、レクチャーなど様々な分野の動画を視聴し、その中で使われている語彙を学修し、動画で使われている英語をマイクに向かって話す教材です。動画の長さは1分未満から数分間のものまで様々です。視聴できる動画の数は数千に及び、毎月新着の動画が追加されています。1つの動画について、まず視聴して10ポイント、空欄を埋めて20ポイント、動画の英語をマイクに向かって話して30ポイント、動画で使われた語彙のクイズに解答して40ポイントと、1つの動画で計100ポイント加算されることになります。これとは別に動画の難易度、英語のセリフの量によって異なりますが、英語を口にして話すことによって、スピークポイントが加算されます。どれくらいのポイントが貯まるかは、発音のできによって変わります。発音があまりにも不正確だともう一度同じ個所を読み上げるように指示が出ます。経済学部では1週間に3,000スピークポイント、15週で45,000ポイントを最低でも貯めることを課しています。
 視聴できる動画の数に制限のある無料版もありますが、それでは学修量がまったく足りませんので、学生は、教科書の代わりにプレミアムアクセスナンバーの入った封筒を購入して、English Centralのサイトを開いて、自らのアカウントを作成します。教員もアカウントを作成し、クラスのURLを作成します。そのクラスのURLに学生をリンクさせることで、学生の学修状況をモニターできるようになります。リンクのさせ方は、学生のメールアドレスに招待メールを送る方法と学生にクラスのURLからログインさせる方法とがあります。
 実際、学修が始まると学生はそれぞれの関心のある動画を見て学修するため、共通のテストを行うには工夫が必要です。筆者の担当したクラスでは、共通に視聴、学修すべき動画をEnglish Centralのクラスのサイトにアップロードし、学期中に3回、5週間に1回、その中から音読のテストを出題しています。動画に合わせて英語を読み上げて、自分の話した英語を録音させ、音声ファイルをmanaba(オンライン掲示板のようなもの)に提出させるものです。テストに使用する動画は、オバマ大統領(当時)の広島でのスピーチなど、読み上げるのに相応しいと思われるものを選びました。他の教員は、暗唱してクラスの前で発表させるなどそれぞれ工夫しています。
 English Centralも学生の学修状況のチェックは容易にできます。学生が獲得したスピークポイント数は勿論、学生が視聴したビデオ、いつ視聴したか、学んだ語彙の数、発音が得意・苦手な母音・子音なども見ることができます。ユニークな機能として、学生は自分がクラスの中で何位なのか確認することができます。情報は15分に一度更新され、授業の間に順位に変動があると張り切る学生もいます。
 English Centralの学修について、2016年度後期に筆者が担当者クラスで学生に行ったアンケート結果を簡単に報告します。視聴する動画をどのような基準で決めているかという問いに対して(複数回答可)、難易度という回答が57.9%、テーマ内容が36.8%、長さが26.3%、ポイント数31.6%で、新着の動画を選んだ回答はありませんでした。難易度とテーマで、自分にあった動画を選んでいる一方、ポイントを多く貯められる動画を選ぶ学生も一定数いることがわかりました。動画の英語を読み上げている際に、どの程度内容を意識しているかという問いに対しては、まったく内容は考えていない10.5%、わかる時とわからない時がある84.2%、ほとんど内容は理解している5.2%でした。熱心な学生は、知らない単語や表現が出てくるとメモを取るなど工夫していますが、多くの学生はポイントを貯めたいあまり、内容を深く考える余裕がないのかもしれません。そしてEnglish Centralの学修が好きかという問いに対しては、全然好きではない5.3%、あまり好きではない10.5%、どちらともいえない31.6%、どちらかといえば好き36.8%、好き15.8%と概ね学生からは肯定的な回答が得られています。また、自由記述の欄のコメントには、以下のようなものがありました。

 個々の感想からは、自分の発音が正しく認識されないために、自らの発音を矯正する機会になったことがうかがえます。
 English Centralもパソコンの他、スマホ、タブレットでも学修が可能です。パソコンで学修する場合には、Skypeで使うようなマイクが必要です。

4.e-Leaningの効果

 学生はe-Learning教材だけを使って学修しているのではないので、これらの教材の学修効果だけを取り出すのは不可能です。しかし、決まった量の問題を定められた期間に消化することを強制されることで、学修習慣の形成に役立っているのではないかと思います。2016年度後期の筆者の担当したクラスの学生の「ぎゅっとe」総ログイン回数は、1,809回、平均65回で、総学修時間は31,538分、平均1,126分でした。この数字が大きいか小さいかは、判断が分かれるかもしれませんが、英語の勉強とは授業の予習・復習のことだと思っている学生には、決められた期間内に一定の問題数を消化しなければならないということは、計画的な学修を求められることになっていると推測します。このようにe-Learningの最大の効能は、学修量の確保と学修習慣の形成だと考えています。そして、繰り返しになりますが、e-Learningを成功させるには、勝手に学修させるのではなく、教員による細かいチェック、指導が欠かせません。
 教材の動作環境などについて述べませんでしたが、どちらの教材も現在市販されているコンピュータ、スマホ、タブレットであれば、問題なく使用できます。
 以下に、「ぎゅっとe」とEnglish Centralの無料体験ができるサイトを紹介します。

関連URL
http://gyuto-e.jp/kojin/index.html
https://ja.englishcentral.com/

【目次へ戻る】 【バックナンバー 一覧へ戻る】