教育・学習支援への取り組み

園田学園女子大学における
ICTを活用した取り組み

1.はじめに

 園田学園女子大学は兵庫県南東部で大阪市に隣接する尼崎市に位置しています。典型的な都市型キャンパスであり、キャンパス内は正門から続くけやきアベニューや桜などをはじめとした緑豊かなキャンパスであり地域に開かれた大学を目指し、地域の憩いの場でもあります。
 園田学園女子大学は1938年にその前身たる園田高等女学校が設立されました。創設者である園田村村長中村龍太郎は地域の女子教育振興を図るという熱い思いを抱き、戦時下ながら建学を成し遂げました。本学建学の精神である、「捨我精進」は創設者自ら実践し、「園田高等女学校の教育方針」に掲げられ、現在まで脈々と受け継がれています。
 学校法人園田学園としては同様に尼崎市内に中学校・高等学校、そして中学校高等学校より徒歩5分大学より10分範囲の位置と神戸市内の2カ所に幼稚園を擁しています。
 2014年度にはスポーツ施設「みらい」を建設、2016年には陸上競技専用のトラックを用意しこれまでのスポーツに強い大学としての充実も図っております。
 現在本学は、人間健康学部(1,126名)に総合健康学科、人間看護学科、食物栄養学科の3学科2コース、人間教育学部(372名)に児童教育学科の2学部4学科を設置しています。また、本学短期大学部(学生237名)としては幼児教育学科、生活文化学科の2学科2コースを設置しています。

2.ICT機器とコンピュータ環境

 本学では大学・短期大学部共通の組織として1985年に、情報教育センター(以下、センター)を設置し、学内のICT環境の運用・整備、情報教育に対する研究及びその補助を行っています。情報教育センター内にはe-Learningシステムを管理する、そのだインターネットキャンパス(以下SIC)を設置しており、日々の学生の自己学習の機会の提供を行っています。
 本学の情報教育センターは、学内のネットワークの運営保守管理、機器の整備保守管理、コンピュータ実習室の運営、専属の社会人ティーチングアシスタント(以下TA)、及び学生(スチューデントアシスタント)による質問対応と授業内での補助を行っており、実習室400台、事務・教員向け350台をその管理対象としています。また、学生が講義で利用する電子黒板3台、iPad、Surface、アンドロイドタブレット各50台を用意しています。ノートパソコン・デジタルカメラ・ヘッドフォン・ビデオカメラなどの貸し出しも行っております。
 コンピュータ環境では本学情報教育センター設立時の理念から学生一人ひとりが自分のパソコンを使うように、自分専用の環境を自由に利用可能となるように、実習室のどのコンピュータでも自分専用の環境を利用可能な移動プロファイルシステムを利用しています。
 情報教育センター内の情報実習室は、講義などの利用がないセンターの開放時間は常に自由に利用が可能です。その開放時間も土曜日や長期休み期間もセンター利用可能で、かつ平日は20時30分、土曜日は16時30分まで開放しています。開放中は、前述したTAが学生のコンピュータ関連の質問に対応しています。
 全学生は入学年次に必修科目の基礎情報の講義を受講し、その中で基本的なコンピュータについてやE-mailについてのだけでなくWord、Excel、PowerPointなどのオフィスソフトの利用を学びます。標準的なオフィスソフトだけでなく、画像、音声、動画などの映像編集や、基礎的なプログラミングソフトをとおしてプログラミングの基礎原理についても学習しています。基礎情報の講義はe-Learningと対面授業を利用して学習するため、学校だけでなくインターネットに接続可能であれば、24時間常に学習可能なシステムとなっています。
 前述したe-Learningシステムは、情報教育センター内に併設されるSICによって管理・運営されています。SICは1998年に基礎情報教育のe-Learning提供を開始しました。その後生涯学習、専門教育、高大連携も開始し、毎年およそ1,900名程度が利用するシステムとなっております。当時の「学生がだれでも、いつでも、どこでも、どれだけでも自主的に勉学に励めるように」という理念を引き継ぎ運営されてきました。
 SICでは、必修である基礎情報処理を学ぶだけのシステムでなくその構成が3つに分かれており、基礎情報棟・専門棟・高大連携の3つに分かれています。専門棟では、各講義のないように合わせて学内の様々な教員が作成した教材や授業動画をコンテンツとして用意しており、それぞれの講義を受講した学生が基礎情報同様にいつでも振り返り学習が可能となっています。
 高大連携部門では、毎年プログラミングの基礎やホームページ作成を大阪や兵庫の高校と連携を取り、e-Learningを通して講義を行い、単位認定も行っています。

3.ICTを利用した取り組み

 本学では学生が本学で学んだ知識を知恵と変える力が経験値であると考え、教育改革を進めてきました。そのなかで、本学の地域に開かれた大学という観点から、2013年より文部科学省の「地(知)の拠点整備事業」に採択され、地域連携推進機構が設立されました。
 知識を知恵へ変えていく経験値教育をとおして学生が、地域との関わりあいの中で経験を積むことを狙いとしています(図1)。そして、経験値の評価を学生の主観にのみ頼るだけではなく、関わった地域社会からフィードバックしていただくことを目的に「経験値評価システム」を導入しています(図2)。経験値評価システムは、学生の学外活動に対し、活動をともに行った学外の方に評価いただくものです。そして本学では2016年より地域志向科目「つながりプロジェクト」が第2学年の必修科目となり、つながりプロジェクトでは20前後のプロジェクトに大学の全2年生が学部学科混合でグループに分かれます。グループごとの課題に応じた学外活動へ学生が出て行き、その評価を地域の方々から受け、それを自ら確認し成長するという、評価のフィードバックから、本学の「経験値教育」へとするというPDCAサイクルを経て学生が学士に必要とされる社会人力の育成を行っております。このシステムは地域の方からも自由に接続し、評価をできようになっています。

図1 経験値教育の概念図
図2 経験値評価システム

 「つながりプロジェクト」のグループには特にICT機器を利用したグループがいくつか存在する。小中学校へ赴き実際にICT機器を利用し、授業体験の機会をへて授業への取り組みとして、電子黒板やタブレット、プロジェクターなどを上手く利用し、デジタル教科書を利用した授業を行っています。また、今年度は、小学校における2020年から始まる学習指導要領に盛り込まれたプログラミング教育への地域貢献として、タブレット機器で行うビジュアルプログラミングを計画しています。プログライング教育を行う準備と環境がない小学校へ本学からの持ち込みのロボットを使うことで、学生がプログラミングの考え方を小学生と小学校の先生へ「教える」という計画です。教育実習とは違う機会に、「教える」という行為を通し学生自身への学びにするという授業を計画しています。

4.SonoRIsシステム

 また、本学では教務改革・講義改革として大規模教室における出席管理に取り組みました。大規模教室での出席確認はその収容人数が多く、個別の出席の確認が困難であるため、近年様々な大学で学生証による出席システムへの認証や専用機械で番号登録を行うなどが行われてきました。また、アクティブ・ラーニング型授業への転換が行われている昨今、大規模教室でのアクティブ・ラーニングへの手法と、そういった講義を支えるICT機器の導入が必要となっていています。そこで本学では2015年度より赤外線を利用した受講管理システムSonoRIsを導入しました(図3)。SonoRIsでは、学生に配布された赤外線端末を利用することで、学生の講義時の出席管理を自動的に行い、教員による出席確認にかかる手間と時間を減らすことで講義時間を効率的に行っております。それだけでなく、赤外線端末にあるボタンを利用することで学生から教員へのフィードバックへの利用も行っております。この受講システムは講義内での質疑応答やアンケートなどを一括取得することで、講義を一方的に教授するものから、学生からの働きかけを誘発する双方向に情報をフィードバックするアクティブ・ラーニング型への転換として利用されています。

 
図3 SonoRIsの画面

5.ICT機器をより身近い存在へ

 このような、アクティブ・ラーニング型の授業への対応に学内では2013年度にアクティブ・ラーニングルームを、2015年度にはラーニング・コモンズを用意しそれぞれの部屋を学生が利用可能となっています。アクティブ・ラーニングルームでは教室の側面にスクリーン兼用ホワイトボードとプロジェクターの組み合わせを4式設置し、持ち込みのPCやスマホなどからプロジェクターへの投影をしながら、ホワイトボードへの直接記入や電子ペンでのデジタル入力が可能となっており、教室内で最大5グループが別々の討論が可能となっています(写真1)。設置している机と椅子も自由自在に可動できるノードチェアを用意することで、議論や討論を中心としたフレキシビリティを必要とする講義にも対応可能です。ラーニング・コモンズでは持ち込みのスマートフォンやタブレット機器・PCの接続を最大で100台を超えると想定し学内にある無線LAN設備も増強しております。

写真1 アクティブ・ラーニングルームの使用例

 講義での利用では、前面のプロジェクターで講義パワーポイントを表示しながら、側面のディスプレイに参考資料を提示しておくなどの利用も行われています。
 2016年度からはラーニング・コモンズを本学図書館の1階に設置し、テーブル型のコーナーを6つと発表練習などを念頭に置いて利用可能なボックス3つを用意し、学生が自由に利用可能な環境を用意しています。これらのテーブルコーナーにはディスプレイが用意されており、持ち込みのPCやスマートフォンなどから自由に投影可能になっています。ボックスコーナーではプロジェクターによりホワイトボード型スクリーンに投影し発表練習や電子ペンを利用してデジタルデータの入力なども可能となっています(写真2)。

写真2 ラーニング・コモンズ

 このようなアクティブ・ラーニングルームやラーニング・コモンズでのICT機器の利用は高く、このような、ICT機器の常用は特定の教室に限らずその他の一般教室でも重要になっていくと考えています。
 このような学内の教室だけでなく、食堂、ラーニング・コモンズや自習スペースなどの共用スペースには情報教育センターより設置した5箇所10台のデジタルサイネージを設置し、学内の掲示情報・休講補講をいつでも確認可能となっています。

6.おわりに

 このようなICT機器の利用が拡大するにしたがって、見えてきた課題がいくつかあります。

 本学では、現在ラーニング・コモンズ、アクティブ・ラーニングルーム、食堂と教室付近の廊下に無線LANのアクセスポイントを設置し、学内の無線LAN環境を構築しています。しかし、この10年でスマートフォンが普及し、通信環境がこれまで以上に重要になってきています。特に、本学ではe-Learningシステム、経験値評価ステムといつでもつなげられる環境が重要であるシステムが多いため、それらのネットワークおよび、そのバックボーンの増強は必須であると言えます。
 最後に本校執筆の機会を与えていただいた私立大学情報教育協会に感謝申し上げ、原稿の結びとします。

文責: 園田学園女子大学
  情報教育センター 松 秀樹

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