教育・学習支援への取り組み

LMS導入を契機とした
全学的学習支援の取り組み
〜北海学園大学〜

1.はじめに

(1)本学について

 北海学園大学は1952(昭和27)年に創立し、「開拓者精神」を建学の精神に掲げる北海道で最初の4年制私立大学です。札幌市の中心部から地下鉄(校舎直結)で5分程度に位置する都市型総合大学として5学部・6研究科を有し、学生総数は8,439名(学部生・大学院生)、教員数229名となっています(いずれも2017年5月1日現在の数)。

(2)初期LMS導入時の失敗

 本学では2008年にPC教室にシンクライアントシステムを導入して全てのPC教室を同一環境とし、統一した学習環境を整備しました。同時に、全学統一のLMS(名称CLES=富士通製「Course Navig改」)を導入し、ICTを利用した教育方法の浸透を目指しましたが、利用を教員個人に任せて、サポート支援はほとんど行わなかったため、コストをかけた割には全く普及しませんでした。また、学部単位でのLMS導入も行われましたが、学部内での普及も進まず、LMSは一部の教員が利用する特殊なシステムとなっていました。

(3)目的の再確認と新LMS稼働

 当時の本学におけるLMS導入の目的は、「組織的なICTを利用した教育の推進」、「ICT普及による教育方法の改善」、そして「自学自習環境の整備(学習時間の増加・確保)」でした。この目的の実現のためにはLMSに対する理解と利用者を増やす取り組みが必要でした。そこで2009年度から2010年度にかけて情報システム運営委員会(当時)において当初の導入目的を再確認し、利用する教員・学生の目線に立った新しいLMSとして、2011年4月に新LMS(名称GOALS=富士通製「Course Power改」)の稼働を開始しました。併せて、学長のリーダーシップの下、協議会(構成員は学部長や機関長など)での度重なる議論を経て、ICTを利用したあらゆる学習支援を行う事務組織(名称:学習支援システム課/専任職員5名構成)を立上げ、将来に向けたサポート体制の充実を図りました。
 本報告では2008年の失敗事例の反省を踏まえ導入した新LMS導入の取り組みから現況、またそれを契機とした本学における全学的な学習支援に関する取り組みの一端について紹介いたします。

2.利用者ニーズの把握から始めた取り組み

(1)LMSに対する教員のイメージ

 まず、学習支援システム課では、導入した新LMSを多くの教員に利用してもらうためにアンケートを実施し、教員の一定の指向を読み取ることにしました。また、同時に一部教員に対して聞き取り調査を行い、膝詰めでの聞き取りによって多く情報を得ることができました。そこではLMSの活用以前に、「長い間続けてきた自分の教育スタイルを変えたくはない」「対面授業だけで十分通じる」などそもそもの話もあれば、「興味はあるが忙しくコンテンツを作る時間がない」、「敷居が高く一人で始めるには限界がある」など、きっかけや少しの後押しがあれば普及する要素があることが分かりました。

(2)授業で困っていることは何ですか

 さらに、具体的に授業での利用を想定した内容で聞き取りを行った際にいただいた声としては、①学生の基礎知識にバラつきがある、②授業の理解度が把握できない、③資料配布が手間である、④90分では授業時間が足りない、もっと伝えたいことがある、⑤授業時間外(授業前・後)にもっと勉強してもらいたい、⑥小テスト等の事後処理に時間がかかる、⑦学生から受けた質問の回答内容を他の学生にも還元したい、などがありました。
 教員から様々な声を集めることができたので、次の一手として「教員一人ひとりの課題を解決するための方法としてのLMS利用」を提案していくことにしました。

3.LMSが普及した理由

(1)個別の利用提案による教員の意識変化

 そこで、学習支援システム課職員が全教員を対象に授業見学や個人の研究室を訪問し、授業内外における課題を探り、教員とともにLMSを利用した解決策を探っていきました。ここでのポイントとしては多くの教員が利用イメージを持っていないので素材や考えを持ち帰り、数日の間にLMS上に仮想のコンテンツイメージを作成し、その上で再度研究室を訪問するということです。このような個別対応に併せて、個別相談を随時受付け、さらに学部説明会や利用方法の勉強会を適時開催し、学内での理解醸成に努めました。この活動により教員の苦手意識やLMSに対する理解などが浸透していき、次第に利用する教員が増えていきました。

(2)既存システムとの連携による効率化

 教員の手間をできる限り省くためには、既存の各システムの連携が不可欠と考え、学習支援システム課、(株)金沢総合研究所、富士通(株)、PFU北海道(株)の担当者間で徹底的に議論を重ね、低コストで使い勝手の良い連携システムを開発しました。具体的には事務系業務システム(名称ACTIS=金沢総合研究所製「大学総合情報システム改」)、WEB履修システム(名称G-PLUS!=富士通製「Campusmate改」)と新LMSを半自動化で連携し、開講されているすべての講義情報(科目名・曜日・時限・担当者・履修情報)を管理者サイドで実装できるようにしました。この結果、教員は新LMSにアクセスさえすればすぐに利用でき、履修する学生の情報も随時リンクされていくので面倒な設定作業をしなくて済むようになりました。

(3)ヘルプデスクの設置

 さらに、全学的取り組みとして継続的に推進するために、学習支援システム課の下に、既存のPC教室の受付を業態変更したヘルプデスク(業務委託職員8名構成)を設置し、教員へのサポート体制を整え、教育用コンテンツ(講義資料、レポート、小テストなど)の作成を代行することを周知しました(写真1)。

写真1 ヘルプデスク案内掲示(教員向け)

4.新LMS等の利用推移と現況

 結果として、稼働1年目の2011年度から、専任教員の利用率が54.1%(115名)、稼働2年目で65.7%(140名)と利用者は順調に増加し、2016年度には79.5%(182名)と約80%が利用するようになりました。また、非常勤講師の利用も2011年度には33名の利用でしたが、2016年度には112名の利用と増加しています(図1)。

図1 年度別利用教員数及び専任教員利用率

 登録されている教材数も順調に増加しており、資料提示機能をメインに使う教員が多いものの、年々利用者の習熟度が上がり、学生の利用を促進する工夫も行われてきました(図2)。

図2 年度別教材作成数

 利用例として「ミクロ経済学基礎」では、授業後に理解確認テストを提示し、学生の自学自習を促しています。ここでのポイントはただ提示しているだけでは学生はLMSを利用しないのですが、LMSに提示している教材を一つひとつ取り組むことで定期試験にも対応できるようになる、ということを伝えることです。実は、LMSと学生との間を埋める言葉が重要なポイントです。このことで学生は合格点に達するまで繰り返しチャレンジするようになり、結果的に定期試験の正答率が高まるなど、ICT導入の良い点が見えてきます(図3)。

図3 LMS内の教材管理画面
(教員権限:各講義終了後の確認テスト結果、課題画面)

 2016年度からは教員の動画教材に対するニーズの高まりを受けて映像配信システム(メディアサイト製「Mediasiteシステム」)を導入し、LMSとの連携を図りました。導入初年度から337件の動画教材が作成され、スムーズな稼働となりました。このシステムはデバイスを問わず視聴することができ、反転授業や振り返り学習に利用しやすいことから、本学のアクティブ・ラーニングの推進に寄与しています。
 利用例として「マーケティング戦略」では、事前課題動画を学生に視聴させ、授業中に15分程度の補足と復習をした上でグループワークを行い、その結果を報告させ担当教員が解説を行っています(図4)。

図4 LMS内の教材管理画面
(教員権限:Mediasiteシステムによるリフレクション動画)

 一方、2013年度には、新LMSの機能では対応しきれないマルチ言語学習を推進するために語学教育用のLMS(VERSION2製「Glexa改」)を導入し、2015年度からは、学生同士がネットワーク上で英語の発音について相互評価できる共同学習用の機能を追加、学生同士がよりインタラクティブに学べる環境を整えました。また、Glexaと連携して利用できる語彙収集支援ソフトLexinote(VERSION2製「Lexinote改」)を本学教員と(株)VERSION2が共同開発をし、ネットワーク上での自学自習を支援しています。学生は、このシステムを利用することで、自分が過去に学んだ語彙を可視化することができ、自動的に其々の理解度にあわせた確認テストを受けることができます(写真2)。

写真2 Lexinote学生画面

 ICTを利用した授業の増加に伴い、学生の利用も順調に伸びており、2011年度には月平均2,987名のアクセスでしたが、2016年度には月平均6,030名のアクセスに達しています。これは全学生の約72.2%にあたります(図5)。

図5 年度別学生利用者数(年間・月別)

5.新LMSと他のシステム間連携による相乗効果

 新LMSは、同時期に導入した全学ポータルシステムと連携し、WEBメールシステム、図書館システム等ともにシングルサインオンで繋ぎました。また、入学時に新入生約2,000名に対してネットワークリテラシーの教育、ポータルサイトや新LMSの利用方法をガイダンスすることで、教員・学生の双方から現行システムは日常的なものとなり、授業以外にも、授業改善アンケート、新入生アンケート、教育研究交流会の映像配信・教育開発ニュース配信、受講クラス希望調査、プレースメントテストなど数多く利用されるという相乗効果を生み出しています(写真3)。

写真3 アンケート学生手引き

6.まとめと今後の課題

 全学的なサポート体制を充実することによって、新LMSの利用を推進したことを契機に、学内でのICTに対する理解が飛躍的に進み、その他の学習支援システムの利用も促進できたことは一定の成果であると考えています。しかし、2015年度に実施した学生生活実態調査をみると、1週間、1科目あたり平均1時間以上学修する学生は、全体の20%未満となっており、新LMSの利用が自学自習時間の確保に寄与しているとは言い難いのが現状です。また、新LMSは科目単位の学習成果しか把握できないことから、教育課程全体として学習成果の可視化ができないことが課題となっています。
 今後は、教育課程全体を通じた学習成果の把握のために2016年度から実施している全学アセスメントテストの結果や学生個人の成績を、新LMS上の学習成果と連携した統合システムを検討し、4年間の学生生活を通した学生の成果の可視化を試みたいと考えています。

文責: 北海学園大学
  学習支援システム課長 中本 一康

【目次へ戻る】 【バックナンバー 一覧へ戻る】