事業活動報告 No.2

平成28年度
分野連携アクティブ・ラーニング対話集会の結果報告

I.開催の目的

 教育の質的転換の課題として、これまでの知識伝達型授業から、自ら問題を発見し解を見出し実践できる力を育む能動的学修(アクティブ・ラーニング)への転換が不可欠である。能動的学修は学生の主体性を前提とするので、本気で学びに立ち向かう「気づき」を働きかける組織的な教育プログラムの構築が望まれる。未来を背負っていく学生に最良の学びの場を提供し、教育の質保証を目指すためにICTの活用を含むアクティブ・ラーニングの授業方法と評価、授業環境と授業支援組織、教員の教育指導能力の開発、学位プログラムを中心とした科目編成などの教学マネジメントの在り方について多くの教員の方々と理解を共有する中で研究し、実践されることを目指す。

II.開催のねらい

 対話を通じて課題を発見し、課題解決に向けた学びを主体的・協働的・創造的に展開していくアクティブ・ラーニングの手法とそれを実現していくための授業運営の工夫と組織的に推進していくため教学マネジメントの工夫について理解を共有する。今年度は、これまでの対話集会での議論や個々の大学での経験を踏まえ、成功・失敗の要因と改善対策を整理すると共に、分野の壁を越えて知識を組み合わせる創造型教育の必要性、学位プログラムを実現していく上で避けて通れない授業科目の調整・統合、教員の意識改革などの本質的な課題について理解の促進を図ることを目的に、昨年度の9グループを以下の7グループに再編成し研究を展開した。

分野連携グループの構成

III.開催プログラム及び開催結果

1.被服学・美術デザイン学の分野連携グループ

開催日時

平成28年12月4日(日)14:00〜17:00

開催場所

大妻女子大学(千代田キャンパス) 参加者31名

話題提供

① 学修成果を可視化し質保証する試み

井澤 幸三 氏(大手前大学メディア芸術学部)

② 学生主体の学びを創造するTBL(チームベースドラーンング)の試み

佐近田 展康 氏(名古屋学芸大学メディア造形学部)

③ 作品の相互評価情報を効果的に共有するモバイル活用の提案

宮田 義郎 氏(中京大学工学部)

倉 みゆき 氏(東京家政大学家政学部)

意見交換の内容(特徴的な意見)

<アクティブ・ラーニングに関するテーマ>

① 地域と連携するプロジェクトを通じて、成果物を展示・公表し外部評価を受けるアクティブ・ラーニングの取り組みが進められているが、分野が連携して多面的な視点で考察する取り組みにまで至っていないことが認識された。

② 学生同士が成果をスマホで発表し、評価を受けるツールとして「グーグルフォーム」などのICT機器を活用することの有効性が確認された。

<教学マネジメントに関するテーマ>

① 他分野の教員と連携授業を進めるには、共通のシラバスの作成、授業内容の明示、共通の授業目標を目指す姿勢が重要であることが認識された。

② 地域や企業と連携したアクティブ・ラーニングには、協定や調整に教員の負担が大きいことから、煩雑な事務手続きなどを大学がサポートする体制が必要であることが確認された。

③ 分野連携アクティブ・ラーニングを実施するには、多分野の教員の協力が得られにくいことが課題であり、教学マネジメント改革を行う中で教員中心の授業科目編成から学位プログラム中心の科目編成に転換していくことの必要性が確認された。

被服学・美術デザイン学の
分野連携グループ

2.経済学・経営学・会計学・心理学・数学の分野連携グループ

開催日時

平成28年12月10日(土)14:00〜17:00

開催場所

法政大学(富士見坂キャンパス) 参加者65名

話題提供

① ICTを使った反転授業の体験

平野 照比古 氏(神奈川工科大学情報学部)

② 「問題解決型の総合力をつけるための分野横断型の学びの進め方」の提案

横山 恭子 氏(上智大学総合人間科学部)

③ 「知識を組み合わせる新たな会計教育モデル」の提案

金川 一夫 氏(九州産業大学経営学部)

意見交換の内容(特徴的な意見)

<アクティブ・ラーニングに関するテーマ>

① 知識の定着を目指すアクティブ・ラーニングでは、ファシリテータの活用、反転授業、グループ学修による相互評価などの取り組みが進んでいるが、知識の活用・創造や成績評価方法の取り組みは進んでいないことが確認された。

② アクティブ・ラーニングの指導法として、事前と事後の評価をレーダーチャート化し、どのような能力が伸張したかを明示することが効果的である。また、ルーブリック評価では、評価基準を前もって学生に示し、評価結果を迅速にフィードバックすることが学修意欲の向上に効果的であることが認識された。

<教学マネジメントに関するテーマ>

① 分野横断の連携教育には、ディプロマポリシーに基づいた科目編成が必要となる。学長のトップダウンによる方法が考えられるが、学生、職員、教員による「学生参画型教育改善」の取り組み例もあり、一つの進め方として認識された。

② 分野横断の連携教育を進める上で科目統合などが課題になるが、一つのプロジェクト型授業の中で関係教員の協力を得て実施することが現実的である。その際に、学修成果を学生自身が確認できる評価方法を取り入れていくことやファシリテータの活用が必要であることが認識された。

経済・経営・会計・心理・数学グループ

3.社会福祉学・社会学・教育学・統計学分野連携グループ

開催日時

平成28年12月11日(日)14:00〜17:00

開催場所

早稲田大学 参加者39名

話題提供

① 今までのアクティブ・ラーニング体験の振り返り

山路 克文 氏(皇學館大学現代日本社会学部)

竹熊 真波 氏(筑紫女学園大学文学部)

竹内 光悦 氏(実践女子大学人間社会学部)

② 「災害対策・復興支援・地域再生」をテーマにした分野横断型教育モデルの提案

干川 剛史 氏(大妻女子大学人間関係学部)

竹内 光悦 氏(実践女子大学人間社会学部)

意見交換の内容(特徴的な意見)

<アクティブ・ラーニングに関するテーマ>

① 能動的な学びを展開する手法として、学生に社会で起きている実データを用いて収集・分析・考察させ、学んだ知識を社会現象とマッチングすることで、知識の活用・創造に結びつける取り組みが効果的であることが認識された。なお、実データを多面的な視点で捉えられるよう分野連携の取り組みが課題である。

② ルーブリック評価で用いるレベルの表現が抽象的で学生や教員間で理解が異なることから、評価レベル内容の具体化を工夫するため、教員間で意識合わせを行い、理解の統一を図る必要があることが認識された。

<教学マネジメントに関するテーマ>

① 分野連携授業の取り組みとして、複数教員のオムニバス授業から始めることが効果的であり、学生には多面的な視点をもたせることができ、教員間には授業の透明性が図れることで、授業改善に役立つことが認識された。

② 学外連携によるアクティブ・ラーニングの取り組みが可視化されていないため、学内での教員の活動が理解されていない。教員は学外活動を可視化する努力が必要であり、大学は学外活動を認める仕組みを教学マネジメントントの中で構築する必要性が理解された。

社会福祉・社会・教育・統計学グループ

4.法律学・政治学・国際関係学のグループ

開催日時

平成28年12月18日(日)14:00〜17:00

開催場所

明治大学(駿河台キャンパス) 参加者41名

話題提供

① 戦争と平和を議論するアクティブ・ラーニング

林 亮 氏(創価大学文学部)

② アクティブ・ラーニングで学ぶ政治学の基本概念―正義とは何か

川島 高峰 氏(明治大学情報コミュニケーション学部)

③ 「市民性の涵養を目指した法政策フォーラム型授業」の提案

加賀山 茂 氏(明治学院大学 法学部)

意見交換の内容(特徴的な意見)

<アクティブ・ラーニングに関するテーマ>

① アクティブ・ラーニングや反転授業の運営方法として、グループ討議での映像教材の活用、各自のリアクションペーパーによるプレゼンなどの方法が効果的である。教材作りが教員の負担となることから、映像教材やビデオ教材作成ソフトの利用が不可欠である。

② 知識の活用を目指すフォーラム型授業は効果的と思われるが、仕組み作りには時間がかかるため、熱心な教員でチームを構成して取り組みを始め、可能なレベルから大学内の合意形成を促進して行くことが望まれる。

③ ネットを活用する取り組みの方法として、ネット上にすべての講義内容や補足資料を掲載し、学部生、大学院生など幅広い学生が主体的にネット上で議論できるようにすることが効果的であることが理解された。また、ネット授業をオープン化して複数大学が参加できるようにすることが課題である。

<教学マネジメントに関するテーマ>

① 創造型の授業に取り組むためには、カリキュラム変更を伴わない実験的な授業ができるようにすることが必要で、ネットを活用したフォーラム授業などが効果的と思われる。ネットを用いることで時間や地域の制約なく、多様な人たちとグローバルな学びが可能になると思われる。

法律学・政治学・国際関係学のグループ

5.物理・化学・機械工学・建築学・経営工学・電気通信工学・土木工学・生物学の連携グループ

開催日時

平成28年12月23日(金)14:00〜17:00

開催場所

法政大学(市ヶ谷田町校舎) 参加者48名

話題提供

① ICTを活用したアクティブ・ラーニングの振り返り

筧 宗徳 氏(福島大学共生システム理工学類)

② 分野横断型PBL教育の取り組みと今後の展開

青木 義男 氏(日本大学理工学部)

③ 学位プログラムを目指した理工系教育の進め方

角田 和巳 氏(芝浦工業大学工学部)

意見交換の内容(特徴的な意見)

<アクティブ・ラーニングに関するテーマ>

① 全てをアクティブ・ラーニングにするのではなく、座学で知識を修得させる、PBLで応用力を養うなど、専門分野の授業でアクティブ・ラーニングの使い分けを定義して おくことが重要であることが理解された。

② 能動的学修ができるようにするには、初年次にやる気のある学生に実習などによる基本技能の習得、資格取得を目指すカリキュラムの枠に入らない授業を自主的に受けられるようにする。その中で、分野の異なる学生同士でグループを設け、問題発見・課題探求を通じて自分の強みを自覚させることが認識された。

③ 機械、生物、物理など一つの分野だけでは解けない問題が生じており、経営や法律を含めた分野を横断したPBLの学びや教員間の連携が求められている。

④ ルーブリック評価は、教員による判断の差異、達成度の表記方法について解釈の違いなどの問題があり、教員・学生の意見を通じて毎年PDCAを継続することで精度が向上されるのではないか。

<教学マネジメントに関するテーマ>

① 大学間で実施する分野を跨いだPBL教育では、一つの授業科目で知識を深め応用する能動的学修には限界があることに気づき、4年間を通じたカリキュラムの中でアクティブ・ラーニングの成果が見えるように教育内容の最適化を図ることの必要性が認識された。

② 知識の定着から知識の活用ができるようになるには、カリキュラムマップに科目を整理し、科目内容を質保証することを通じて全学的に教育プログラムを見直す必要があることが認識された。

6.英語・コミュニケーション関係学のグループ

開催日時

平成28年12月25日(日)13:00〜16:00

開催場所

早稲田大学(早稲田キャンパス) 参加48名

話題提供

① 「内容言語統合型授業(CLIL)による専門教科と語学を結び付けた教育」の取り組み

吉田 研作 氏(上智大学言語教育研究センター)

② 「グローバルネットワークで共修学習を行う異文化交流授業(COIL)」の取り組み

山本 英一 氏(関西大学外国語学部)

③ 「ICTを用いて多様な価値観の共有を醸成する学びの仕組み」の提案

松村 豊子 氏(江戸川大学メディアコミュニケーション学部)

意見交換の内容(特徴的な意見)

<アクティブ・ラーニングに関するテーマ>

① 学問を社会化し、解が一つでない問題に取り組ませるには、分野横断フオーラム型授業が効果的であることが確認された。ただし、このような教育方法に取り組むには教員間で意識の共有化が必要であることが理解された。

② フリーライダー対策としては、グループ活動に入る前にお互いを理解させ、仲間意識を持たせるチームワーク作りが重要である。その上で、グループ活動後に役割や貢献度を相互評価していくことの効果が確認された。

<教学マネジメントに関するテーマ>

① 授業の可視化には、教員の抵抗があるので、チームティーチング形式を取り入れることでお互いの授業を理解し合い、振り返り改善させる効果があることが認識された。

② 教養科目と専門科目の連携の実現には、カリキュラムポリシーを伴う教学マネジメントの取り組みが必要になる。このような取り組みの理解を促すために、ICTを活用して授業を公開し、可視化することでエビデンスとして積み上げ、理解を得て行くことが必要であることが確認された。

英語・コミュニケーション関係学のグループ

7.栄養学・薬学・医学・歯学・看護学・体育学グループ

開催日時

平成29年1月22日(日)13:00〜16:00

開催場所

帝京平成大学(中野キャンパス) 参加者70名

話題提供

① 健康維持・増進とケアを分野連携で多面的に考える授業の提案

② 知識の創造を目指した分野横断型授業の提案

片岡 竜太 氏(昭和大学 歯学部)

意見交換の内容(特徴的な意見)

<アクティブ・ラーニングに関するテーマ>

① 医療系で実施している多分野連携PBLは、専門的な視野から広い視野で考えられるようにすることと、グループ内で自職種に関する説明を代表して行うことで学びに責任を持たせるという効果が確認された。

② 多職種連携教育における評価は、「協同する能力」を評価対象とするため、グループ評価と個人評価を分けて行う必要がある。その際、ルーブリックを指導ツールとするために、学生の理解が得られるよう対話する中で評価していくことが課題として認識された。

<教学マネジメントに関するテーマ>

① 教員間連携を進めて行くには、授業内容の可視化は不可欠であり、授業は学生のためのものであるとの観点で、授業内容を相互に公開し、教学マネジメント改革の中で授業改善に取り組んでいく必要があることが確認された。

栄養・薬・医・歯・看護・体育学グループ

【目次へ戻る】 【バックナンバー 一覧へ戻る】