教育・学修支援への取り組み

帝京大学におけるICTを活用した
教育・学修支援
〜板橋キャンパスでの取り組み〜

1.はじめに

 帝京大学は、1931年に設立された帝京商業学校を前身とし、1966年に開学、2016年に創立50周年を迎えました。2017年度現在で10学部と10研究科、三つの付属病院を擁する総合大学です。
 帝京大学の建学の精神は次の通りです。
 「努力をすべての基とし偏見を排し幅広い知識を身につけ国際的視野に立って判断ができ実学を通して創造力および人間味豊かな専門性ある人材の養成を目的とする」
 これに則って、「自分流」という教育の理念のもと、自ら考え、行動し、個性を発揮しながら未来を切り拓く人間力の育成を目指しています。
 キャンパスは板橋、八王子、宇都宮、福岡の4キャンパスです。本稿においては、ICTを活用した教育・学修支援の基盤としてのLMSと講義ビデオ収録配信システムについて概説した後,板橋キャンパスにおける取り組みを紹介します。板橋キャンパスには、医学部、薬学部、医療技術学部の三つの学部があります。

2.LMSと講義収録配信システム

 帝京大学では2002年にLMSとしてWebCTを宇都宮キャンパスに導入しました。2006年からは全学利用を開始し、全学LMSとしてBlackboard Learn R9.1を4キャンパスから利用しています。全学LMSは、宇都宮キャンパスにあるラーニングテクノロジー開発室が管理運用をしています。
 一方、講義の収録とビデオ配信を行うシステムは、キャンパスごとにmediasiteを導入しています。これらの関係を図1に示します。八王子キャンパスと宇都宮キャンパスではLMSとビデオ配信システムを連携させて,次のことが行えるようになっています。

図1 LMSと講義ビデオ収録配信システム

 それに対して、板橋キャンパスの講義ビデオ収録配信システムは、独立したシステムになっています。これについては後述します。
 八王子キャンパスと宇都宮キャンパスでは、教務システムのデータからLMSのコースを作成し、個々の教員がLMS上でアクティベートすることで利用可能になります。また、出席登録システムからの出席情報を読み込んで授業に出席した学生が自動的にコースに登録されます。これにより、学生は授業に出席した翌日からLMSのコースにアクセスできるようになっています。

3.医学部でのLMSを活用した予習復習テスト

 医学部では2012年度に一部の授業において、LMSを用いた予習復習テストを試験的に導入しました。2013年度からは、第1学年から第4学年までの講義形式の全授業(約1,500時限)において、この予習復習テストを実施するようになりました。
 これらは1回の授業ごとに5分程度で実施可能な予習テストと復習テストを作成し、それぞれ授業の前後に受験させるものです。当初、予習テストは授業の冒頭5分で実施していましたが、2014年度にLMSへのアクセス障害があってからは、授業前日から授業開始直前までに一回受験する設定にしています。一方の復習テストは、講義当日の放課後より定期試験前までとし、複数回実施可能としています。復習テストについては90%以上の正解率を達成するまで受験するよう学生に求めています。
 予習テストと復習テストで出題する問題は、正誤問題、穴埋め問題、多肢選択問題の三種類です。問題は授業担当教員の方々に表計算ソフトで作成したテンプレートに入力して提出してもらい、ラーニングテクノロジー開発室においてLMS上にアップロード、設定しました。LMSに直接入力するのではなく、表計算ソフト上で作問できることが、予習復習テスト実施における教員の負担軽減に寄与しています。
 予習復習テストの導入前後で定期試験の平均点の有意な上昇、標準偏差の減少傾向、単位未認定者数の有意な減少が見られ、この取り組みにより大きな教育的効果が見られました。この取り組みについては、本協会平成29年度ICT利用による教育改善研究発表会において、山本貴嗣教授が「医学教育におけるLMSを用いた予習復習テストの全講義への導入と試験成績の推移」と題して発表を行っていますので、詳細はそちらの資料をご参照ください。

4.LMSを活用した国家試験問題演習

 医療系学部においては、学生たちは最終的に資格を取得するための国家試験に合格する必要があります。そこで、いくつかの学科において国家試験対策の演習にLMSを活用しています。
 本節では医療技術学部診療放射線学科の事例を紹介します。診療放射線学科では、従来、紙による国家試験対策問題演習を行っていました。しかし、問題の多様性が確保できずに、問題のターンで正解を覚えてしまうといった課題がありました。そこで、2015年度から国家試験の過去問を用いた問題演習をLMS上で行うようにしました。LMSへの過去問の入力は、ラーニングテクノロジー開発室が担当しました。
 LMSを使った問題演習では、約2,000問からランダムに抽出した100問を出題したり、選択肢の順番をランダムに並べ替えて出題したりすることにより、問題のパターンで正解を覚えてしまうことなく、実質的な問題演習ができるようになりました。診療放射線学科では、参考書を参照して自分で調べながら解答するような演習と、参考書等を使わずに力試しをする演習を組み合わせて行っています。解答結果は指導の際の指標として学生のレベルを把握するために用いており、基準点に達していない学生は面談やチュートリアルを実施してフォローをしています。こうした取り組みが国家試験の合格率向上に貢献しているようです。

写真1 LMSを活用した国家試験対策問題演習の様子

5.講義自動収録・配信システムの概要

 板橋キャンパスでは、キャンパス内の42教室すべてに講義収録システムを設置し、講義の自動収録を行っています。先に述べたように、このシステムはLMSとは連携させずに学内でのみ利用できる独立したシステムとして運用しています。そのため、収録した講義はキャンパス内の指定されたコンピュータ教室でのみ視聴することができます。このシステムは2012年度に導入され、2013年度から本格的に運用されています。
 図2に講義自動収録配信システムの構成を示します。授業を含めた教室の利用予定は、教室予約システムで管理されています。そのデータを講義収録配信サーバに転送して講義収録のスケジューリングを行います。授業開始時間から授業終了時間の8分後までを自動収録し、自動的に配信サーバにアップロードします。アップロードはバックグラウンドで行うので、アップロードが完了する前に次の授業の開始時刻になった場合でも、収録をスタートできます。アップロードが完了すると、教室予約システムから転送したデータを基に、科目名、教員名、科目コードなどのメタデータを自動的に付与し、アクセス権を設定して視聴可能な状態になります。

図2 板橋キャンパス講義自動収録配信システムの構成

 講義ではプロジェクタを使用する場合と黒板を使用する場合があります。そこで、図3に示すように、スクリーンの上げ下げの状態によって自動的に作成するコンテンツのタイプを切り替えます。

図3 作成するコンテンツタイプの切り替え

 管理者は事務室から講義ビデオ収録配信サーバにアクセスし、管理ポータルを利用できます。管理ポータルでは、各教室の収録状況、学生の閲覧状況を監視・管理できるようになっています。

6.講義自動収録・配信システムの利用状況

 写真2は開放時間のコンピュータ教室の様子です。赤丸は講義ビデオを視聴している端末です。図4は年度別視聴学生数です。2013年度の本格運用から視聴学生数が増加し、現在では3,000名以上の学生が利用しています。板橋キャンパスの半数以上の学生が利用していることになります。授業中に理解できた学生は利用しなくてもよいことや、医療系の学科では講義がほとんどなく実習が主体となる学年があることなどを考慮すると、かなり多くの学生が利用していると言えます。

写真2 コンピュータ教室での視聴の様子
図4 年度別視聴学生数の推移

 図5に月別視聴数の推移を示します。最近2年は、年間で25万以上のアクセスがあり、このデータからも活発に利用されていることがわかります。年間で見ると、前期定期試験のある7月や後期定期試験のある1月にピークが見られます。ただし、個々の講義ビデオの視聴時期は、視聴数の70%以上が講義日から一週間以内であり、講義直後の復習によく利用されていることもわかってきました。

図5 月別視聴数の推移

 学生からも本システムが有用であると言う声が聞かれています。学生にとって講義ビデオの視聴は義務ではなく、自ら視聴するわけですから、講義ビデオが学生の主体的な復習に有効に利用されていると言えます。
 アクティブラーニングで実施される授業も増えていますが、すべてをアクティブラーニングで行うことは現実的ではなく、講義とアクティブラーニングを組み合わせた授業も多いのも事実です。今後も、授業時間内にかなりの数の講義が行われると考えられ、講義自動収録配信システムが学生の主体的な学修へ寄与し続けることでしょう。

7.おわりに

 ICTを活用した教育・学修支援の事例としてLMSと講義収録配信システムの活用例を紹介しました。他のキャンパスも含めて、LMSや講義収録配信システムの利用が広まり、停止できない重要な教育情報基盤となりつつあります。
 2017年度から、全学LMSとしてBlackboard Managed Hostingのサービスを利用することとし、2017年9月にオンプレミスからの移行が完了しました。これにより、災害やセキュリティ対策が施されたデータセンターにおいて専門スタッフが管理するサーバを利用する形になりました。従来よりもLMSの可用性やセキュリティが高まり、安定した運用が期待されます。

文責: 帝京大学ラーニングテクノロジー開発室室長
  渡辺 博芳

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