特集 データサイエンスと教育

広島大学情報科学部におけるデータサイエンスと
インフォマティクスの統合的学部教育

木島 正明(広島大学 情報科学部学部長)

平嶋   宗(広島大学 情報科学部副学部長)

1.はじめに

 本学部は、入学定員80名、教員32名、1学部1学科(情報科学科)2コース(データサイエンスコース、インフォマティクスコース)の新学部として平成30年4月に開設されました。物事をデータ・情報に焦点を当てて分析・解釈し解決策を案出するデータサイエンスと、その解決策を実行可能なものとするために対象となるデータ・情報を表現・処理する仕組みを実装するインフォマティクスは、社会の高度情報化を推し進める上での両輪となる知識・技能です。近年、これらの知識・技能を備えた人材に対する社会的要請が高まっており、その要請に応えることを目指したデータサイエンスやインフォマティクスに関する新しい学部教育の試みも様々に行われるようになってきていますが、この両者の統合の試みはこれまでのところ見当たりません。広島大学情報科学部では、データサイエンスとインフォマティクスに共通の基礎素養を2年間学んだ上で、3年次において共通の専門科目を残しつつ、データサイエンスもしくはインフォマティクスのいずれかを選択し、それぞれについてより専門的に学ぶことのできる二つのコースを設けることで、データサイエンスとインフォマティクスの統合的学部教育を具現化しています。
 以下本稿では、本学部の統合的教育課程と人材育成像、実施体制、本学において情報科学部が担う役割、および今後の課題について報告します。

2.統合的教育課程と人材育成像

 図1に本学部の教育課程および人材育成の概形を示しました。2年次までは、情報科学の基礎としてデータサイエンスとインフォマティクスの共通の素養を学びます。3年次においては、データサイエンスもしくはインフォマティクスの二つのコースのいずれかを選択した上で、データサイエンスとインフォマティクスを連携させる専門科目群(情報データ科学演習Ⅰ〜Ⅳおよびビッグデータを必修とする)を共通で履修するとともに、それぞれのコースで専門的な科目を履修することになります。特に共通の専門科目である情報データ科学演習では、実データに基づいたデータ処理分析や回路や組込みシステムの設計などを行うことで、データサイエンスとインフォマティクスの両方に関連した知識・技能の修得を目指します。
 この教育課程を通して、下記のような人材を育成します。

図1 情報科学部の教育課程と人材育成像

○ コース共通の人材育成像

○ データサイエンスコースの人材育成像

○ インフォマティクスコースの人材育成像

3.実施体制

 データサイエンスコースに14名、インフォマティクスコースに18名の教員が所属しており、既存の学部(総合科学部、工学部、教育学部、法学部、経済学部、理学部、医学部)及び研究施設・センター等(原爆放射線医科学研究所、情報メディア教育研究センター、高等教育研究開発センター)に配属されていた専門家を文理融合的に結集するとともに、データサイエンスの専門家を新たに加えた構成となっています。

4.選抜試験

 本学部では、多様な選抜試験を設けており、一般入試(前期日程、後期日程)、AO入試(総合評価方式Ⅱ型、国際バカロレア入試)、私費外国人留学生試験(前期日程、後期日程)に加えて、文理融合の理念のもと、一般入試前期日程をA型(文系)とB型(理系)に分け、A型については数学4教科(数Ⅲを課さない)受験を可能とする形で文系受験生への門戸を開いています。なお、A型受験者には微分積分に関する基盤科目を必修化することで、入学後の対応を行っています。

5.全学的位置づけ

 本学部は、広島大学におけるデータサイエンス/インフォマティクス教育の中核を担うことが期待されており、開設初年度の現時点において、データサイエンスおよびインフォマティクスの基礎を一通り学ぶ全学向けのプログラムとして、「基本統計特定プログラム」、「基本情報処理特定プログラム」をそれぞれを提供しています。さらに、基礎教養としてデータサイエンス/インフォマティクスの知識・技能を学ぶ全学的な仕組みに加えて、それぞれの分野の専門教育と連携を取りながら学ぶ仕組みの開発を主導することが期待されています。

6.まとめと今後の課題

 データサイエンスの専門家とインフォマティクスの専門家が結集し、統合的な教育プログラムの下で協調しながら教授する体制ができたこと、そして、文理融合的な入試のもとで多彩な学生を集めることができたことで、本学部におけるデータサイエンスとインフォマティクスの統合的学部教育を実現する目処が立ちました。今後これを実のあるものとしていくための努力を進めるとともに、大学院教育につなげることが本学部としての課題になっています。


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