教育・学修支援への取り組み

桃山学院大学における
教育・学修支援ICT環境整備
〜教育を支えるインフラとして奇をてらわずに〜

1.はじめに

 
 

 本学は、「キリスト教精神に基づく世界の市民の養成」を建学の精神とし、「キリスト教精神に基づく人格の陶冶と世界の市民として広く国際的に活躍し得る人材の養成」を教育理念として掲げる、大阪府和泉市に所在する文科系総合大学です。
 本学の母体である桃山学院は、1884年にキリスト教信仰に基づく近代的な教育を目指して、英国国教会の宣教師であるワレン師(Charles Frederick Warren)によって設立された三一小学校と三一神学校をルーツとしています。その後、1890年の高等英学校の設立、1902年の私立中学校としての桃山中学校の開校と発展するなかで、今日、桃山リベラルと呼ばれる自由な学風が確立しました。その後、第二次世界大戦においては戦災にあいましたが、1947年に新制中学校、1948年に新制高校が発足しました。
 本学そのものの開学は、1959年(昭和34年)にキリスト教新教日本伝来100年を期した開学でした。当初は経済学部のみの単科大学でしたが、社会学部・経営学部・文学部(現国際教養学部)・法学部と学部設置を続け、現在では、5学部6学科・4研究科を擁し、所属学生数約6,400人の文科系総合大学に成長しました。開学当初は大阪市にキャンパスがありましたが、大阪府堺市に移転したのち、1995年に現在の大阪府和泉市に移転しました。
 本学におけるICT教育環境は、学長室を始めとする他所管が導入したものを含め、報告者がセンター長を拝命している情報センターが一元的に保守運用管理しています。もっとも、各学生・各教員・各学部の自由度を尊重する桃山リベラルという伝統を踏まえ、情報センターは教育内容への積極的な関与は控え、教育活動の妨げとなるインシデントが発生しないという、安定稼働を業務の最優先事項に据えています。
 なお、本学は2019年4月に大阪市内のサテライトキャンパスに経営学部ビジネスデザイン学科を設置しますが、現時点では設立に至っていないことと本格的な教育活動は、2020年秋に完成予定の新キャンパスで展開予定であるため、本稿での解説は割愛いたします。

2.授業に関するICT環境整備について

 まず、授業を支援するICT環境について概説します。現在、本学においてはBYODやCOPEの様なPC必携化を導入していないことを前提にICTインフラを構築しています(2019年度開設予定のビジネスデザイン学科はBYODで必携化しますが、先述した通り本稿での言及は避けます)。
 現在、本学においては、個々の学生がPCを持参することを前提にできないことを踏まえ、集合型PC実習のためのPC実習室や講義室における教材提示のためのICT活用のみならず、ゼミなどのアクティブ・ラーニングを行う際にノートPCや電子黒板を活用できる教室も整備しています。ノートPCを講義中にも受講生が活用するアクティブ・ラーニングのために、貸出用のノートPCの収納ボックスを設置し、担当教員にボックスの鍵を貸し出すことで、当該クラスの受講生がノートPCを活用できる教室を用意しています。貸出用ノートPCは、学生証を利用した認証システムでログインでき、教室に設置した専用無線LANで学内LANを通じてインターネットにも接続できます。当該教室にはグループ行動が簡単に行える様に可動式の机・椅子を配置し、さらにノートPCで作成したコンテンツを簡単に提示できる様に、電子黒板も設置しています。

写真1 貸出ノートPCと電子黒板の活用

 また、個人のノートPCは使わないものの、教員や受講生が事前に作成したデジタル・コンテンツを対話型で提示するタイプの講義も多いため、可動式の机・椅子と電子黒板のみを設置している少人数教室もあります。
 さらに、通常はPCを使わない少人数クラスで臨時的にAVコンテンツを提示する必要がある場合に備え、ブルーレイやDVD、VHS、書画カメラ、ノートPCを接続し投影することが可能なポータブルシステムを用意し、教員の申し込みに対応して視聴覚事務室の要員が講義前に設定し、講義後に回収することで、必要に応じたデジタル・コンテンツ提示環境を柔軟に提供できる様に用意しています。

写真2 ポータブル投影システム

 さて、本学ではPC必携化には踏み切っていないのですが、文系と言えど Windows PCの操作能力が色々な分野で求められている現状に鑑み、Windows PC操作の環境も整備しています。講義面でそれを支えるのがPC実習室となり、Windows10のPCを用意した実習室を8室用意しています。運用の効率化を踏まえ、実習用PCはネットブートにしています。また、大きな画面を使っていくつかのウィンドウを同時並行で参照できます。携帯デバイスと比較してのPCの優位性を体感してもらえるように、大きめの21.5インチディスプレイを設置しています。さらに、教員のPCの画面を確認できる中間モニタを各デスクに設置しています。この教員画面転写は、授業支援システムWingnetの導入によって実現しています。同システムの機能により、学生個々人が何をしているかを教卓の管理画面で把握しながら実習を進めることにより、一方的な講義とならないようにする環境を整えてあります。さらに、同ソフトウェアの機能により、実習室については、学生のPC使用開始/終了時刻を把握することができ、学生の出欠状況の把握も支援できる環境としています。なお、高額なマルチメディア系ソフトについては、使用頻度と利用実習数を鑑み1室のみのインストールとしているものもあります。
 また、国際教養学部メディア文化専修などの学生達のために、Final Cut, Premiere Elementsやなどで映像製作ができるようにMacintoshを配置してある実習室も1室あります。
 また、講義室におけるICT活用については、大人数を収容する教室について、Windows PCの画面が提示できる大型プロジェクターだけでなく吊り下げ液晶モニタを用意し、教室の後ろや端でも教員が提示するコンテンツを視聴できるような環境を整えています。
 さらに、コンピュータ支援語学教育(Computer Assisted Language Learning, CALL)を援用した英語教育のためのCALL教室も本学のICT環境整備の重要な部分であり、本学外国語教育センターと連携を取りながら環境を整えています。

3.自発的学修に関するICT環境整備について

 次に、学生の自発的学修を支援するICT環境について概説します。本学における自発的学修を支援するICT環境としては、個人的PC操作を支援する自習室・グループでの学修を支援するオープンスペースなどの物理的な環境だけでなく、附属図書館におけるICTを活用したコンテンツ提供という形での環境整備もすすめています。
 個人的にPCを使うためのPCルームは、情報センター内に2室と附属図書館内に1室用意してあります。これらの自習室にも大型液晶ディスプレイを備えたWindows10のデスクトップ機を用意し、ストレスなく自習ができる様にしています。また学生証で認証する機能を持った高速なプリンタも各自習室に用意してあります。附属図書館の中にPCルームを用意した主な理由としては、貸出し手続きをしていない資料であっても附属図書館内に設置したPCルームには持ち込むことが可能なので、多くの紙ベースの資料を比較参照しながらレポート作成ができる、という意味での環境整備という点があげられます。

写真3 図書館内のPCルーム壁面には聖書の言葉

 さらに、情報センター内に、グループ学修ができる様に、可動式の机・椅子と貸出用ノートPCを用意したオープンスペースを用意してあります。このオープンスペースには個々人のデバイスもネットワークに接続できる様に、オープンなWi-Fi環境も整備してあります。
 また、本学においては、学修支援センターや外国語教育センターにも自習可能なオープンスペースがあり、そちらにも貸出用ノートPCとプリンタが用意してあります。これらのオープンスペースにあるプリンタは、他人に自分の出力したものを見られる懸念を解消するために、学生証によって認証した上で出力する様に設定しています。また、出力枚数についてはポイント制を採用し、非常に大量の出力をした学生については、費用を請求することによって不必要な出力を抑制しています。

写真4 情報センター内のグループ学修用オープンスペース

 さらに、学生個々人のデジタル機材活用のため、Wi-Fi環境の整備を段階的に展開しています。現在のところ、図書館の閲覧コーナー等のオープンスペースに、学生個々人のPC・タブレット・スマホ向けのWi-Fi環境を整備しています。
 さらに、デジタル機器の充電ができる環境も整備を進めています。そのため、情報センター・学修支援センター・外国語教育センターに、スマホ等のための充電ボックスを用意し、さらに、生協のラウンジには、Wi-Fi環境だけでなくコンセントを多く用意することによって、デジタル機器の電源の心配なしに自習やグループ学修ができるようにしてあります。

4.ハードウェア以外のICT環境整備について

 本学における教育改善へのICT活用は物理的環境整備にとどまらず、システム的な環境整備とコンテンツ提供も行っています。
 学生の視点から見たICT的な環境としては、まず、学生ポータルとファイル・ストレージがあげられます。
 学生ポータルとしては、現行のシステムは導入後年月が経っており、現在リプレースの検討作業が進んでいるため、説明を割愛します。
 学生向けのファイル・ストレージとしては、学生自身が作った成果物を保存するためのものと、教材提供のためのものがあります。学生自身の成果物の保存のためには、GoogleドライブとOneDriveを学生に提供しています。
 また、教材提供のファイル・ストレージとして、オンプレミスのファイルサーバーを用意し、各教員等に領域を提供しています。この領域は、学内PCからは、ネットワークドライブとしてアクセスすることができ、さらに学生ポータル経由で個々人のデジタルデバイスからもアクセスできるように構築しています。授業中に自分のスマホからこの領域にアクセスすることによって、教員のスライドの細かな字を確認するという使い方をとる学生もいるようです。
 また、教育・学修支援の一環として、自習室の使い方や大学メール・Googleドライブの使い方など、基本的な環境利用法を説明する動画群を作成しています。入学前の学生が予習することも念頭に入れ、YouTubeにアップしたうえで大学のWebサイトからリンクを貼る形での提供も行っています。
 さらに、信頼性のある情報源を提供するため、図書館のwebサイト経由で商用データベースへのアクセスも提供しています。特に、日本経済新聞社のデータベースである日経テレコンおよび日経BP社の日経BP記事検索サービスは、経済学部・経営学部の学生のみならず、キャリア形成のために業界研究・企業研究を行うすべての学生にとって有益であるため、学内限定ではありますが、同時アクセス数制限なしの契約で学生に提供すると同時に、企業・業界研究のための利用法のセミナーを付属図書館主体で定期的に行っています。付言すると、日経BP記事検索データベースについては、学認と連携することによって、学外からの利用も可能にしています。
 Google driveを学生に提供しているところからもご賢察いただけるかと思いますが、G Suite for Educationを学生のICT環境として提供しています。さらに、Office365 Educationについても学生に提供しています。
 LMSとしては、Moodleとmanabaを導入し、希望する教員にサービスを提供しています。どちらにもコアなユーザーの教員の方々がおられますので、その方々を中心とするグループでの普及を陰ながら支援しています。

5.教員を支援するICT環境について

 最後に、兼任講師を含む本学教員の、教育活動を支援するICT環境について概説します。
 ここまで述べてきたように、教員の創意工夫を生かした教育を支援するために、いろいろなICT環境を整備してきましたが、同時に、そのような積極的な教育活動を支援するためヘルプデスクを設置しています。ヘルプデスクは、ICTが不得意な教員でもICTを駆使した教育ができるように支援することをも業務として含み、教育・学修支援の大きな柱となっています。
 また、教育支援環境の重要な点の一つとして個人情報の流出防止があるとの認識の元、そのリスク軽減をも目的として、教員にVDI(仮想デスクトップ)環境を提供しています。
 学外からでも暗号化した通信で学内のVDIにアクセスできる環境を整えることによって、学外に情報を持ち出さずに評価等ができる環境を整え、USBメモリ等の置忘れなどによる個人情報流出のリスクを軽減すると同時に、学外からでも学内の環境を確認可能にすることによっての講義準備の負担を軽減しました。

6.終わりに

 講義中に、スマホを使って学生の意見を聴取する講義が増加傾向を見せているなど、新しい教授法に積極的に取り組む教員の方々の活動を後援することを含めた、各教員の多様な教育を幅広く支える柔軟なICT環境整備と、教育活動を支えるインフラとしての安定稼働をコストパフォーマンスを確保しながらの両立は簡単なことではありませんが、建学の精神を支えるインフラであるとの認識のもと、その両立に今後とも取り組んでいく所存です。

文責: 情報センター長 藤間 真

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