特集 SDGs(持続可能な開発目標)と学生主体の教育・学修の取組み

創価大学におけるSDGs教育の取組み

田中 亮平(創価大学副学長 創価大学SDGs推進センター長)

1.はじめに

 創価大学は1971年4月の開学以来、「学生第一の大学」という表現で学生主体教育を重視する姿勢を堅持してきました。建学の精神の一番めには、「人間教育の最高学府たれ」とうたわれています。知識やスキルの伝授という講義型の形式が大学教育の一般的スタイルであった時代にあって、本学は全人的教育を意味する人間教育を、建学の精神の第一に掲げて出発しました。その具体的な表れが、教職員が学生の知的成長と人格的成長の双方に責任をもってあたるという「学生第一の大学」の姿勢にあったと言えます。
 開学以来ほぼ半世紀を経て、本学の学生主体教育は大きく発展してきています。大学名の「創価」とは「価値創造」を意味しますが、今日の時代に即して言えば、大学教育を通じて知的・人格的な成長を遂げた学生が、自己の幸福のみならず、社会に対してもその平和と発展に資すべき価値を創造し、さらにそれを国際的なステージに広げていくことと言えるでしょう。そうした資質を備えた人間を本学では「創造的世界市民」と名付け、その輩出を教育目標に掲げています。

2.学生主体教育を推進する教育プログラムと教育方法

 2014年に本学は文部科学省の「大学教育再生加速プログラム」(通称AP)のテーマⅠ・Ⅱ複合型に採択されました。学生主体教育の強化を目指して「アクティブラーニングの質的向上」と「学修成果の可視化」を事業の両輪に据えました。学生自身が初めに授業に期待する学修成果を確認し、受講途中にその達成状況を改めて点検し、受講終了時に振り返りを行うという「アセスメント科目」を全学部で設定しました。卒業までに3科目で振り返りを行いますが、「問題発見/課題設定」、「建設的他者評価」などの項目ごとに4段階のルーブリック表で学生に自己評価してもらいます。自己の成長を確認しつつ、知識の修得と並んで社会性や倫理性を備えた自立した学修者となることで、「創造的人間」を育成するという取組みになっています。
 同じく2014年に採択されたスーパーグローバル大学創成支援(SGU)では、「人間教育の世界的拠点の構築」をテーマに掲げました。学生の派遣・受入の拡大を通じ、キャンパスのグローバル化を目指す「グローバル・モビリティ」を筆頭に、4つの重点取組みを構想の柱として掲げていますが、いずれも本学の「学生第一の大学」という理念をグローバルなステージで展開し、創造的世界市民の育成を目指す取組みとなっています。

3.SDGsに参画する学生規模と主な授業事例

 以上述べた理念や取組みの蓄積と並んで、本学は国連の諸活動との連携も推進してきました。近年では2016年に国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)との間で「難民高等教育プログラム」の協定を締結しました。日本で暮らす難民に高等教育の機会を与えるプログラムで、現在3名の学生を受け入れて、「目標4:質の高い教育をみんなに」に貢献しています。また2017年には国連開発計画(UNDP)と包括連携協定を結び、講師派遣や共同セミナーをはじめとする啓発事業を促進しています。さらに2018年には国連食糧農業機関(FAO)と交流協定を締結しました。これはSDGsの実現を目指す上で重要な要素となる「食料安全保障」に関して学ぶ機会を提供するためのものです。このほかにも本学は国連と世界の大学等の高等教育機関との連携を推進する取組みである国連アカデミック・インパクトにも参加しています。
 これらの連携にもとづき開催した特別講義などを通じて、国連の取組みに対する理解が深まると同時に、国際的な視野で自律的に学ぶ態度の醸成が期待できます。こうした全学的な学修環境づくりを背景に、特にSDGs達成を意識した取組みが、一方では教育プログラムを通じて、他方では授業内外における学生の主体的な活動によって、展開されています。

写真1 FAO駐日連絡事務所のチャールズ・ボリコ所長の講演

 教育プログラムの例として、全学共通科目として提供されている「世界市民教育科目群」があげられます。そこではSDGsと関わりの深い「平和」「人権」「環境」「開発」の4分野に力点を置いた科目群も含まれています。2018年度は科目群全体で延べ約5,400名の履修者を数え、そのうち上記4分野に限っても延べ約2,100名にのぼりました。これは1学年の学生数と比較すれば、前者は3倍以上、後者は1.2倍を超えています。この分野に対する本学学生の関心の高さを示していると言えます。
 また学部横断型のグローバル・シチズンシップ・プログラム(略称GCP)もあります。6学部から希望者を約30名選抜し、数理処理能力と英語力を集中的に鍛えるとともに、SDGsをはじめとする国際的な課題に対して解決策を考えるプログラムゼミを組み合わせたものです。2年間のプログラム終了時にプロジェクト発表会がありますが、毎年非常に高いパフォーマンスを示してくれます。
 授業外における学生主体のSDGs推進の一例としては、2014年の国連アカデミック・インパクト加入に伴って発足した学生団体ASPIRE SOKAの活動があります。例年グローバル・シチズンシップ・ウィークと銘打ってSDGs 17の目標達成へ向けた啓発活動を展開していて、昨2018年の期間中は「SDGs達成への世界市民としての行動」をテーマに掲げ、計5つの企画を実施しました。このほかにもUNHCR難民映画祭の学校パートナーズとして、ロヒンギャ難民のドキュメント映画の上映会を行うなど、精力的に活動しています。

4.学生主体教育の効果、課題・展望など

 SGU採択後の各種の事業と、SDGsを意識した前述の授業内・授業外の取組みによって、本学の学生主体教育の国際化が着実に進展してきました。近年目立つようになった各種国際会議への学生の積極的な参加にそのアウトカムの一例を見ることができます。例えば2017年には国連本部で開催された「持続可能な開発のためのハイレベル政治フォーラム」の日本代表として本学の学生が参加しました。また年に一度G20各国の女性代表が集って開催されるGirls20 Summitという国際会議がありますが、2018年までの4年間連続して本学学生が日本代表に選出されました。
 国際連合教育科学文化機関(UNESCO)を中心とした「持続可能な開発のための教育」(ESD)に貢献するため、「ユネスコスクール支援大学間ネットワーク」(ASPUnivNet)に昨年本学も加盟しました。教育学部と教職大学院を中心に、地域の小中学校を対象としたセミナーを開催し、ユネスコスクールの啓蒙と、申請を目指す学校の支援を行っています。
 本学は2021年に創立50周年を迎えますが、「価値創造」の理念はSDGsの理念と方向性を同じくしているとの考えから、「価値創造×SDGs」と題した複数回のイベントを計画しています。国際シンポジウムをメインに、多様なステークホルダーとも連携し、学生主体の企画を盛り込んで開催していきたいと考えています。
 これまでのSDGs関連の様々な活動を統括し、連携を強くして活動間の相乗効果を高めるため、このほど「創価大学SDGs推進センター」を設置しました。今後はこのセンターを中心にSDGsの実践に向けてさらに学内外の意識啓発を進めていきたいと考えています。


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