特集 ICTで業務改革

ICTを活用した近大流業務改革の取組み
―背景・経緯と展望

牛島 裕(近畿大学 総合情報システム部事務部長)

1.はじめに

 本学は14学部48学科、大学院11研究科を擁する総合大学で、西日本を中心に6キャンパスがあり、2019年5月現在の学生数は34,572人です。大学に加えて、2つの病院、併設する通信教育部、高等専門学校、短期大学(2校)、附属高等学校(7校)、附属中学校(6校)、附属小学校、附属幼稚園(2校)の学生・生徒、教職員、医療従事者などを合わせると、学園全体で6万人を超える規模です。
 本学では、2003年度から学園全体の統合ネットワーク構築と基幹システムのオープン化に着手しましたが、以来17年の歳月が過ぎようとしています。本稿では、本学が取組んだ業務改革とその背景・経緯を紹介します。大学関係者各位にとって、多少なりともご参考になる部分があれば幸甚です。

図1 学校法人近畿大学WAN構成図

2.学園全体を統合する基幹システムを模索

 2003年度に着手した学園統合ネットワーク構築は、学園全体を統括する基幹システムのための基盤整備でした。それまでのシステム導入を根本的に改め、データセンターに学園全体で利用するパッケージを導入することで学園全体の業務標準化・効率化を実現しつつ、バージョンアップによるシステムの永続利用と経費削減とを同時に目指す構想で、西日本を中心に40を超える拠点を抱える本学にとっては生き残りをかけた挑戦でした。業務整理とシステム選定・導入を委託するため、コンサルティングを導入し、全学的なプロジェクト体制で臨みました。

3.止むなくパッケージをカスタマイズ

 コンサルタントが選定・提案したシステムは、財務会計と教務学生を対象とした大学向け統合パッケージ、および導入実績の多い人事給与・勤怠システムでした。しかしながら、業務フィッティングの過程で何れのシステムもカスタマイズせざるを得ないという結論となりました。また、選定された財務会計システムの諸元では、医学部・病院を含む法人全体の調達等を処理することが困難である理由から、医学部・病院の調達・出張・経費等は別システムとし、財務会計本体へ月次連携を行う方式としました。加えて、看護師など複雑な勤務形態を扱う医学部・病院の勤怠管理システムは別途導入することになりました。
 つまるところ、本学規模でも問題のない処理能力を持ち、学校法人会計に準拠しつつも病院・水産研究所などの収益事業部門があり、各キャンパス・拠点ごとに会計単位が設定され、会計単位ごとの予算・実績を厳密に管理できる大学向け財務会計パッケージは無かったということでした。人事給与についても、各会計単位とその内訳、収益部門か否かなどにしたがって人件費予算・実績を管理する人事部の業務要件は、パッケージにとって極めてハードルの高いものでした。教務学生についても機能不足は否めず、東大阪キャンパスの全学部が開講科目・教員・教室などを共通項目として扱えると同時に、学籍・成績については学生の所属する学部以外、参照も更新も不可とする学部間セキュリティなど難易度の高い機能実装も必須要件となりました。
 これらの業務要件を満たすためのカスタマイズは、大規模で原型をとどめないレベルとなりました。この結果、当該システム群はパッケージとしてのバージョンアップ適用外となり、当初の目標に反して永続利用が望めないシステムとなりました。
 2004年度から当該システム群の運用を開始しましたが、その運用は波乱に満ちたものでした。旧システムで処理結果を検証しつつ、カスタマイズしたシステム検証を並行して行うなど、走りながらの運用でした。運用強化のため新たにSI'erを迎え入れましたが、人海戦術と気合いで乗り切ったというのが正直なところです。

図2 本学システム化の経緯と今後

4.教務学生パッケージ導入の再挑戦とAWS移行

 SI'erと本学担当者の尽力、様々な対策などで2年の月日が流れました。システムは何とか安定稼働に至りましたが、サーバの耐用期限が迫り、早急に老朽化対策を立案しなければならない状況となっていました。SI'erを交えて関係所管と検討を重ねた結果、以下の方針で臨むことになりました。

 財務会計システムは、改めてパッケージ再選定・評価を行いましたが、本学要件を満たすパッケージは今回も見つからず、止む無く現行システムをマイグレーションする選択となりました。
 教務学生システムはパッケージ再選定・評価を行った結果、®GAKUEN/UNIVERSAL PASSPORT(以下、「GAKUEN/UNIPA」と略)を最終候補に選定しました。前回の轍を踏まぬよう、パッケージに合わせた業務整理を徹底し、目標を共有する方針で臨むことにしました。

表1 GAKUEN/UNIPA導入時の基本方針

 2009年度にVMwareによるプライベートクラウド環境をデータセンターに構築し、2010年4月に開設された総合社会学部でGAKUEN/UNIPAのテスト運用を開始しました。新学部で問題なく運用できた実績を踏まえ、2011年4月に理工学部・薬学部・建築学部(理工学部から新学部として独立)、2012年4月に東大阪キャンパスの残り5学部と奈良、和歌山キャンパスにおいても移行、GAKUEN/UNIPAを先行導入していた広島・福岡キャンパスは2014年度にプライベートクラウドへ集約し、2017年度にはAWS移行とバージョンアップ(ver.1.3からver.1.5へ)を行いました。講座制の医学部も業務フィッティングを行った結果、GAKUEN/UNIPAでの運用が可能と判断され、2018年4月に移行しました。この結果、6キャンパス全てがGAKUEN/UNIPAに集約できましたが、教務学生の基本部分はパッケージ適用できた一方で、学部間セキュリティと収納パターンの多い学費はアドオン、本学の複雑な入試制度とシラバス編集・一般公開はパッケージ対応ができず、従来システムの外付け・連携対応となりました。

図3 GAKUEN/UNIPAの全学統合

 移行・集約と並行して、教務学生データの一元管理にも取組みました。東大阪、奈良、和歌山キャンパスでは、ホスト時代の学籍・成績データをサーバに蓄積して証明書発行に利用していましたが、その全件を検証してGAKUEN/UNIPAに取り込みました。対象は1991年3月以降の東大阪・奈良・和歌山キャンパス全卒業生(学籍約10万件、成績約900万件)で、現在GAKUEN/UNIPAには卒業生・在学生を合わせると20万人を超える学籍・成績データが一元管理されています。
 GAKUEN/UNIPA導入過程で業務と運用の標準化を徹底した結果、移行後の運用は安定しました。前システムと比べ、年度末・年度初めの繁忙状態が改善されたことが何よりの成果でした。

5.学生・保護者へのサービス拡大

 GAKUEN/UNIPAの安定稼働と業務効率化により、学生サービス拡充に取組む余力が生じました。GAKUEN/UNIPAはパッケージとして豊富なポータル機能を有していますが、これらを順次開放・利用することができるようになった訳です。
 IC学生証による出欠管理、休講・補講など学事全般の掲示・メール配信、レポート課題の提示・提出など、学生・教員・教務担当者が日々行うやり取りはその大半がポータルシステムUNIPA上で完結するようになり、学事全体の効率化にも繋がりました。
 生協の教科書販売所にできる長蛇の列は、新学期の風物詩といった感がありましたが、Amazonとの提携を機に、UNIPAシラバスの教科書ISBNにAmazonの当該図書ページへリンクする機能を実装しました。これに危機感を持った生協は、予約制・販売ブースの複数設置など、教科書販売に工夫を凝らし、結果として長蛇の列は解消しました。生協の売上も堅調で、学生は利便性が向上しました。
 学生部が実施する学生生活実態調査で、スマホ普及率が100%に近づいた2014年10月には、UNIPAのスマホブラウザ版を導入しました。その後、アプリへの要望が高まり、GAKUEN/UNIPAの提供元である日本システム技術株式会社(通称JAST)のアプリ開発に協力し、完成した公式アプリを2017年10月に導入しました。
 東大阪キャンパス整備計画「超近大プロジェクト」で完成したアカデミックシアターには24時間利用可能な自習室が設置されましたが、女子学生が夜間に安心して利用できるよう、UNIPAアプリに座席予約機能を追加しました。女子専用自習室は、予約した本人のIC学生証でしか自習室への入室ができない仕組みとなっています。

図4 アカデミックシアターとUNIPAアプリ

 証明書自動発行システムは、前システムの時代から導入・運用していましたが、卒業生や就活学生の利便性向上を図るため、2016年4月から各種証明書コンビニ発行サービスを開始しました。
 保護者へのサービス提供にも取組み、2016年度には保護者ポータルを開設しました。リアルタイム出欠状況照会のほか、成績や進級・卒業判定結果などを公開と同時に確認できるなど、利便性の向上により保護者ポータル利用者は年々着実に増加しています。また、2019年度には、学費をインターネットバンキングで振込めるサービスを開始しました。まずは東大阪キャンパスでのテスト運用としましたが、他キャンパスへの展開も検討しています。

図5 保護者ポータルと利用状況

6.図書館・電子カルテ等もパッケージで集約

 図書館システム、医療情報・医事会計システム、附属中高校務システムもパッケージ利用・集約化の対象としました。図書館システムは、全6キャンパスが同一パッケージをAWS上で共同利用しており、附属病院の医療情報・医事会計システムは、大幅にカスタマイズした旧システムから脱却してパッケージに移行し、奈良病院との共同利用となりました。附属高中の校務システムも、7校のうち4校がAWS上で同一パッケージを共同利用しています。
 また、校友会の委託を受けて、50万人を超える会員情報を校友管理システム(スクラッチ開発)で運用していましたが、運用強化と利便性向上のため、雛形を利用して構築されたSalesforce上のプラットフォームへ2016年度に移設しました。

7.人事給与・財務会計にサービス型ERP

 人事給与システム(勤怠管理を含む)と財務会計システムは、カスタマイズしたシステムをマイグレーション等の手段で命脈を保っている状態のままでした。次期人事給与システムとして株式会社ワークスアプリケーションズ(以下「WAP」と略)の®COMPANY HRを評価・検討することになりましたが、立命館大学が同社の企業向け会計システム®COMPANY ACに学校法人会計の機能追加を行って導入する決定をしたことは大きな刺激となりました。WAPとの交渉結果、新製品®HUE(以下「HUE」と略)にも学校法人会計の機能追加が確約され、人事給与・財務会計ともにサービス型ERPであるHUE導入を決定しました。
 HUE HR(人事給与・勤怠管理)は2018年4月に一部機能を先行稼働し、ワークフロー化によって紙の申請書を廃止しました。本番稼働は2020年4月の予定で、HUE AC(財務会計)は2021年4月稼働に向けた導入プロセスを進めている最中です。

図6 AWSによる全学認証基盤

 認証基盤についても集約化・標準化に取組みました。2003年度の学園統合ネットワーク構築時点では、各キャンパスにアカウント管理システムを設置しましたが、現在AWS上に統合され、人事給与システム、教務学生システムを源泉とした自動更新となりました。セキュリティと利便性の向上にも取組み、学認対応、2段階認証機能を備えたSSO(シングルサインオン)などの機能実装を行いました。これらの取組みは高い評価をいただくこととなり、国立情報学研究所の「GakuNin IdP of the Year 2017」に選定されました。
 Gmail化は2011年度から着手し、各拠点や学部のメールシステム更改時に順次移行を実施して、計画中の1拠点を除いたGmail化が完了しています。

8.業務効率・コミュニケーションのさらなる向上へ

 業務効率および業務コミュニケーション向上に特化した取組みにも言及します。
 2010年度のプライべートクラウド構築時に、教職員ポータルとしてWAPの®Ariel AirOneを試験導入しました。当時は、各部署内のスケジュール共有とコミュニケーションツールとして様々なポータルシステムが先進的な部署で個別に運用されていましたが、これらを統合する核にできないか、との意図がありました。

図7 教職員ポータルの学園展開

 学園全体の事務効率化を主導する総務部が牽引して、®Ariel AirOneの全学展開と機能拡充が推進され、現在では学園教職員ポータルとして日々の業務に不可欠のツールとなっています。利用されている機能は、スケジュール管理、施設設備の予約、ファイル管理、伝言メモなどのほか、各種申請や決裁書も従来の紙媒体からワークフロー化されました。
 また、業務コミュニケーション活性化・効率化のため、2015年度にはWEB会議システム「V-CUBE」、2016年度には「slack」が導入されましたが、今では学園全体の事務職員を中心に広く普及しました。この結果、他拠点を含めた定例会議なども「V-CUBE」で行われるようになり、法人内出張が減少することで出張経費の削減にも繋がりつつあります。

図8 WEB会議・コミュニケーションツール

9.業務改革はもはや「日常業務」

 ICTを活用した本学の業務改革への取組みを紹介してきましたが、失敗を恐れず(内心はとても怖い)、なり振り構わず(格好悪いけど)、やれることは全てやる(でも初心は忘れない)、といった正に近大流の取組みです。未完の部分も多く、終わりのない道程ですが、次の世代にバトンを渡しながら継承されるものです。
 「文部科学統計要覧」を参照すると、1990年度に比べて、学生数は一定化傾向、教職員数は増加傾向が顕著です。大学サバイバルが継続中であり、教職員の業務は質・量ともに増加していることが窺えます。改めて、業務改革は「日常業務」化したと認識する必要があると考え、本学の事例報告とします。

図9 学生・教職員数の推移(1990〜2018)
典拠:「文部科学統計要覧 平成31年版 11. 大学」
(文部科学省サイト内)を基にグラフ作成

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