事業活動報告 2

2020年度 大学職員情報化研究講習会
(基礎講習コース)開催報告

 本協会では私立大学における職員の職務能力の開発・強化を支援するため、教育の質的転換を目指した企画・提案及び学修成果を可視化するICTの利活用、全学的教学マネジメントの確立に向けた指針の実施に必要なICTの利活用、業務改革に求められるICTの利活用等について、知識・理解の獲得と実践的な考察力の促進を支援することを目的に「大学職員 情報化研究講習会・基礎講習コース」を実施している。
 例年であれば、7月中旬に2泊3日でホテルに宿泊し、集合型研修形式で開催していたが、本年度についてはコロナ禍の影響を勘案し、開催時期を10月まで先送りする方向で検討を進めた。最終的には集合型研修の開催は困難であると判断し、10月7日〜8日の2日間にわたりZoomを利用したオンライン開催とした。当然オンライン開催は初めての試みであり、参加者の参加場所の確保や通信環境について危惧されたが、結果としては加盟校31大学から54名(昨年度比 30%減)の参加者を集め開催するに至った。
 参加者所属部門の内訳は、情報センター部門が24%、学事・教務部門が17%、総務部門が13%、人事部門・学生部門がそれぞれ9%と多く、そのほかにも幅広い部署からの参加があり、年齢別では20代が60%、30代が25%と9割近くを占めた。なお、男女比は男性53%、女性47%であった。(図1・2参照)

図1 参加者所属部門
図1 参加者所属部門
図2 年代・男女比
図2 年代・男女比

1.プログラム構成

 本コースのプログラムではZoomを利用し、全体会では大学を取り巻く環境の変化とそれに対するICT利活用の実例や意義等について情報提供を行い、その後、Zoomのブレークアウト機能を使って、グループ単位で「教育改革」、「学生支援改革」、「業務改革」のテーマの中から1つのテーマを絞り込んだうえで、具体的課題について検討し、解決策の提案・発表という流れで実施した。

2.事前課題

 今年度は、あらかじめ、①「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」(中教審第211号)②「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)」(中教審第213号)B「教学マネジメント指針」(令和2年1月中教審大学分科会)C「大学教育のデジタライゼーション・イニシアティブ(Scheem-D)〜 With コロナ/After コロナ時代の大学教育の創造〜」の実施について(令和2年6月文部科学省)等を参照し、大学の抱える今日的課題について理解することを事前学修として課した。また、参加者自身の目標設定を明確にするため、自大学の活動を振り返り、他大学に紹介する自己紹介シートを作成させ、同じグループのメンバー間で事前にメールで共有させることで、当日のグループ討議がスムーズに進行するように配慮をした。

3.全体研修

(1)開会の挨拶

 冒頭、本運営委員会の担当理事である早稲田大学笠原副総長が協会を代表して挨拶した。同氏は参加者、情報提供者への謝辞、協会の目的およびコロナ禍の中、本講習会がオンライン開催となった経緯等やその有益性について語られ、早稲田大学の事例を紹介しながら、ICTを利活用したオンライン教育と人と人とのつながりを組み合わせたハイブリット教育等について私立大学全体で共有し、助け合うことでニューノーマル時代に対応していくことが重要と話された。

(2)イントロダクション

 「大学改革に向けた職員の役割」と題して上智学院理事長補佐である運営委員会の木村委員長から、大学職員として主体的に取組むための心構えとして、①環境の変化を知る、②社会に目を向ける、そしてB「見える化」、「図る化、データ化」から「見せる化」について紹介するとともに、大学職員が果たす役割について理解と共有化を図った。

(3)情報提供

1)「テレワークができる環境を構築した働き方改革」

原田 章 氏(追手門学院大学学長補佐)

 追手門学院大学は、大阪府茨木市に2つのキャンパス(総持寺・安威)を構える文系の中規模大学である。2kmの2キャンパス間の物理的な距離を埋めるべく、まずはキャンパス間相互の通信を確保することを目的として、ICT環境の整備に着手した。コロナ禍となる2020年度以前から、授業利用を意識した無線LAN網を整備し、働き方改革を意識したファイルサーバのクラウド化・事務決裁システムによるペーパーレス化・オンライン会議システムの導入等を進めてきた。また、教学改革の方策として、LMSの普及(2019年度末で100%)や学生及び教職員のBYODの実施(2019年度入学生より)を推進し、教育におけるICT環境の充実整備をはかっている。今年度は、日常業務に関する整備としてリモート接続ソフトウェアの導入、教学に関する整備としてLMSのクラウド化、動画サーバの活用を推進し、現在に至っている。
 多くの大学で例年どおりの授業を開始できない中、前述のシステムや教職員間のコミュニケーションツールであるグループウェア等を活用して、オフィス以外のテレワークでも仕事のできる環境を早期に実現し、現在も、政府の掲げる「7割在宅勤務」の目標達成に向けても取組んでいる。
 成果としては、「新しい生活様式」に併せた働き方に対応できつつある点、教学面では、教育の質的転換に踏み出すことができた点などがあげられた。今後は、働き方改革が教職員にどのような心的変化(働きがいや帰属意識など)をもたらすのかにも注視しつつ、教職協働の進展や大学のあり方(存在意義)を再考したい旨の説明があった。
 テレワークの導入に躊躇している大学も多い中、働き方改革を意識したICT環境の整備やシステムの導入など、多くの示唆に富んだ内容であり、検討している大学においては導入への明るい道標となった。

2)「テレワーク実践に向けた在宅勤務制度の構築と課題」

須田 誠一 氏(上智学院人事局長)

 テレワークを稼働させるルール作りとして、在宅勤務制度を導入することの可能性を整理し、長時間労働の是正、業務の効率化を通じて、業務の質向上と新たな付加価値の創造に向けた課題など、上智大学の事例が紹介された。
 同大においては、2015年から、効率的に働く意識・風土の醸成とワークライフバランスの向上を目的とした取組みとして、様々な取組みを検討・実施しており、2018年からは在宅勤務制度を導入した。実際に在宅勤務制度を導入したところ、育児短時間勤務者の利用が多かった。在宅勤務を促進していく中で、在宅勤務に「なじむ仕事」と「なじまない仕事」を仕分けていくことは、仕事を効率化する上での課題の洗い出しにもつながり、結果的に全学的な仕事の効率化になる。導入活用に対する効果だけでなく、導入後の付随効果も重要であることが実感できたと紹介された。
 4月の緊急事態宣言後では、在宅率70〜80%であり、現在は30〜40%となっている。在宅勤務の課題(制度の見直し、規程改正)、現場の反応、振り返り、効果など多岐にわたって説明された。将来的に、オフィスに来ないとできない業務はほとんどなくなる。新型コロナは、働き方改革、業務改革の良いチャンスと捉えて、今後、職員の働き方も大きく変わる。「働きやすさ」だけでなく、「働きがい」「やりがい」も得られる改善を、先入観や思い込みを捨て、新しい可能性を探り、「できることをやってみる→改善する」を繰り返しチャレンジしていくことが紹介された。

3)「授業のオンライン化による教育改革と課題」

山本 敏幸 氏(関西大学教育推進部教育開発支援センター教授)

 コロナ禍のような非常時では、平時の業務運営・授業運営は通用しない。ニューノーマルな時代では、デジタルトランスフォーメーションへの転換を目指す中で、縦割り組織・部署で上司が統括しリーダとなってプロジェクトを進める取組から脱却し、フラットな組織の中で局面に応じて対応力を持つ職員がリーダを担い(シチュエーショナル・リーダーシップ)、臨機応変に試行錯誤(アジャイル)しながら、主体性を持って行動する組織体制に変えていくような働き方にしていくことが大事である。決められたことをきっちりこなせるロボットみたいな労働者から、まずは脱却することが肝要である。
 大学の位置づけは、卒業後のキヤリア人生を決める登竜門として、卒後の人生で役立つかも知れない知識で「燃料タンク」を満たす「場」と考えられてきたが、デジタル変革の時代では常にイノベーションが求められることから、このような考え方は通用しない。これまで大学の教育は国内の社会ニーズに対応したものが多かったが、これからはグローバルなニーズ(SDGsなど)に対応した教育が展開されていく。一大学の中で対応してきた教育から、国内外の大学がバーチャルに連携し、立ち向かっていく新しい学びの改革が始まる。そのような転換期において、大学の教員・職員一人ひとりに学生の未来にどのように責任を取るのかが問われてくる。大事なことは、新しい価値創造を大学教育で行っていかねばならないが、自分の置かれている過去・現在・未来の状況を俯瞰しながら、短期間でなく10年程度のスパンで取組んでいただきたい。

4)「意思決定を支援するデータ分析・可視化とレポーティング」

山本 幸一 氏(明治大学教学企画部教学企画事務室)

 意思決定を支援するデータとは何か、データを意味ある情報に変換していくとはどういうことなのか、「データ分析」、「レポーティング」、「意思決定支援」という3つのキーワードにて説明された。
 データ分析について、データ活用には手順として、必要なデータを収集・加工・分析・保存共有するデータライフサイクルがあり、データ加工(データマネジメント)の部分が分析のためには非常に重要となる。「データとは数字を羅列した物であることに対して、情報とは意味のあるものと定義し、数字の羅列を意味のあるものに変える。これが分析の作業であり、IRと呼ばれるものである」と説明された。
 レポーティングについて、具体的な事例として、「研究支援のための重点研究分野の探索や、研究業績の調査」、「教員採用基準として国際ジャーナルへの投稿状況等のデータ使用について検討」、「災害備品の適正配置のため、キャンパス内における最大瞬間人口の把握」、「官庁や政財界へ説明や要望のため、現状および問題点や要望といったものを簡単に説明できる資料が求められること」などが紹介された。
 意思決定支援について、今までの分析やレポーティングの留意点を交え、「データの一側面だけを切り取った事実というものは数字であって情報ではない」、「意思決定支援に必要なデータというものは、そのデータを提供したときに、学長なりが次にアクションを起こす必要があるのかどうかを判断できるデータのことをいう」と説明された。
 最後に、意思決定を支援するためには、数字の羅列であるデータを意味ある情報に変換し、良い分析を行えるようにデータをマネジメントすることが重要であり、分析にあたって何が事実なのか、何を事実として報告するのかを、しっかり見極める必要があると説明された。

5)「サイバー攻撃のリスクとセキュリティ対策の基礎知識」

松坂 志 氏(情報処理推進機構セキュリティ対策推進部標的型攻撃対策グループリーダー)

 大学の教育・研究現場でも入試・成績情報、個人情報、その他機密情報がネットワーク経由で窃取されるなどの事例が頻発化してきており、構成員全員がサイバー攻撃の脅威を理解し、防御行動を意識して実践できるよう、セキュリティ対策基礎知識のポイントについて説明された。
 一つは、人の手によるランサムウェア攻撃について情報が提供された。この種の攻撃では下記の二つの手法が用いられる。

① まず、攻撃者自身が様々な攻撃手法を駆使し、企業や組織のネットワークに侵入し、内部で侵害範囲を拡大、事業継続にかかわるシステムや、機微情報が保存されている端末やサーバを探し出して、ランサムウェアへの感染や情報の窃取を行う。

② 次に、ランサムウェアにより暗号化したデータを復旧するための身代金要求に加え、支払いに応じなければデータを公開するという二重の脅迫を行う。

 この手法で要求される身代金は数千万円から数億円という規模であり、本年6月に海外の大学で発生した事例では最終的に1億円を超える身代金を支払ったとされている。また、海外の病院では、同様の攻撃でシステムが停止したことから緊急搬送が受け容れられずに、患者が死亡する事件も発生している。
 二つは、コンピュータウィルス「Emotet」の脅威について情報が提供された。
 「Emotet」が被害者の個人情報を盗み、感染を拡大していく点は他のコンピュータウィルスと同様である。脅威度を高めているのは「他のウィルスを呼び込み感染させる」という特徴である。追加で何を感染させられるかはケースによって異なり、被害範囲の特定が困難となる。周囲の多くの関係者を巻き込んで情報漏洩などの二次被害・三次被害を経て、最悪の場合には、組織全体が危機的な状況に至るきっかけにもなりうる。
 サイバーセキュリティ/サイバー攻撃の面において、インターネット空間の治安は非常に悪くなってきている。もちろん各組織のシステム部門はしっかりと対策をおこなっているはずで「だからウチは大丈夫」とされる向きもあろうが、現実問題としてサイバー攻撃は多層的に組織全体で戦っていくことが必要とされる。出所が不確かなメールやファイルによる各種ボタンやリンクは絶対クリックしない等に始まり、構成員全員がサイバーセキュリティへの関心と意識をもって巧妙化するサイバー攻撃の脅威と戦っていくことが重要であることが説明された。

4.グループ討議・発表

(1)グループ討議のプログラム内容

 1日目は、前半に行われた情報提供や参加者が調べてきた課題等について情報共有しながら、グループ単位で「教育改革」、「学生支援改革」、「業務改革」の3テーマを一つに絞り込み、解決すべき課題を設定の上、具体的課題解決提案をまとめ中間報告としてメールで提出することにした。
 例年より開催期間が短くかつオンライン開催ということで、時間配分やコミュニケーションの難しさに配慮し、参加者には事前に研修用ワークシートを配付し、「タイムスケジュール」や「今、検討すべきこと」が明確になるようにして進めた。また、各グループには運営委員がファシリテーターとして参加し、議論が煮詰まらないように適宜アドヴァイス等を行った。

(2)グループ討議のプログラム内容

 2日目は、前日に提出された各グループの中間報告をWebに掲載し、相互に他のグループへの感想や意見を掲示板に書き込んでもらい、それを参考に最終提案を作成し、全体会で発表・質疑・講評を行った。

(3)グループ討議

 内容は、5グループ中3グループが「業務改革」であり、「教育改革」と「学生支援改革」が各1グループであった。具体的に提案された課題は、コロナ禍の影響を踏まえ、これからの社会情勢を視野に入れたものが多く、テレワーク、ICT化の推進、オンライン教育、オンライン学生サポート、労働環境の改善等であった。中には「資金調達にクラウドファンディングを検討する」、「大学間連携を行いリソースの有効活用をする」という提案もあった。また「オンライン化やテレワークはコロナ対策だけではなく『働き方改革の一つ』として意識する」という提案もあった。

5.研修事後レポート・アンケート(図3参照)

図3 アンケート結果
図3 アンケート結果

 参加者には、本講習終了後、2週間程度の期間をとり研修事後レポート・アンケートを提出してもらった。

(1)課題解決力

 講習全体を通して「課題解決力」は、発揮・伸長した26%、ヒントを得た72%と全体の98%超の参加者が何らかの“気づき”を得ている結果となった。自由記述においても「グループで討議をして解決していくことに達成感があった」等の声が多かった。

(2)創造的思考力

 「創造的思考力」については、発揮・伸長した19%、ヒントを得た75%と全体の94%を占め、参加者が研修の成果を感じている結果となった。しかし自由記述においては「解決策はできたものの、新しい発想ができなかった」という声が多くあり、これからの課題として「発想力」をあげている参加者も多かった。

(3)ICT・データ活用意識

 「ICT・データ活用意識」については発揮・伸長した37%、ヒントを得た57%と全体の94%を占め、参加者はほぼICTを意識できているという結果となった。本年度は例年に比べて情報システム部門の参加者の割合が多かったが、コロナ禍の影響もありICTを意識する場面が増加していると思われる。

(4)グループ討議について

 グループ討議においての「発言」については、積極的だった49%、発言はした40%とあまりしなかった11%という結果になった。積極的だったと回答した参加者は各グループとも4〜5人程度であり偏りが見られた。また、発言はした・あまりしなかったとの回答が約5割あり、対面に比べてZoomでの発言のタイミングの難しさ、11人構成のグループ討議の課題が浮き彫りになった。「交流と人脈形成」についても、積極的だった21%、対応はした57%、あまり広がらなかった23%と、ある程度対応はしたものの画面越しでは満足にできないという結果となった。
 一方で「課題・企画の検討」については、積極的だった45%、発言はした42%、周りに頼っていた13%であり、Zoomの操作に慣れている参加者も多かったせいかオンラインでも対応できることが判明した。

(5)その他の意見について

 1)情報提供に対する自由記述では、テレワーク、セキュリティ、データ分析に関心を持つ参加者が多く、職場に戻ってからの行動計画ついては、部署が異なるためバラツキがあるが、業務の効率化・ICT化、テレワーク、マニュアルの整備に関する記述が多かった。
 2)研修全体を通しては、「情報提供が役に立った」「もう少し詳しく情報提供を聴きたかった」との良い評価の記載がある一方、「オンライン開催では雑談ができず、交流が深まらなかった」「対面でないため発言しづらかった」「もっと少人数のほうが良かった」「発言者が偏った」というグループ討議への厳しい指摘も多かった。また提案として「Zoomと対面の併用開催」「同部署間でのグループ化」「研修時間中に雑談ができる時間を作る」「グループを5人程度にする」等の意見が寄せられている。

6.次年度以降について

① コロナ禍の影響も受け、初めての試みであるオンライン開催で実施となったが、オンラインでの講習会でも、参加者は一定の成果を感じることができることが判明した。また、ツールとして利用したZoomの操作については、ほとんどの参加者は問題なく利用することができていた。オンラインであるために、移動の負担や交通費・宿泊費等の費用を要することなく参加できたという声も寄せられている。しかし、一部分であるが、通信環境や声の強弱について問題が発生したとの報告もあり、マイクやカメラの事前テストをしっかりとしておく必要を感じた。

② 講習会の運営から見ると、グループの人数はやはり5人程度が望ましく、オンラインだからという理由だけではなく、人数の多さが発言のしづらさにつながっていると思われた。また、対面では存在する「雑談」のような時間が、交流には欠かせないという意見も多く、討議時間も例年に比べて短いため、課題解決に対して“とことん考え抜く”までには至らず、深堀には課題を残した。運営側の体制を含めて次年度以降の課題としたい。

 最後に、コロナ禍というこれまで経験をしたことがない難局であるにも関わらず、多くの地域から参加者が2日間に亘り真剣な討議をしてくれたこと、また、職場に戻ってからの力強い行動計画を示してくれたことに対して、運営委員一同から敬意とエールを送りたい。

文責:大学職員情報化研究講習会運営委員会


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