私情協ニュース3

平成9年度学内LAN管理者講習会報告



 平成9年度学内LAN管理者講習会は、8月7、8日の2日間、工学院大学新宿校舎を会場として開催した。今回は、3回目に当たり初級管理者の希望は減少し、より高度な技術あるいはネットワーク政策を含めた高度な管理者の育成が急務との判断で、初級コースの定員を50名に抑え、替わりに管理者コースを設けたり、選択プログラムとして4テーマを設定するなど、プログラムに工夫をこらした。結果は初級コースの応募者が2倍に達したのをはじめ、各コース共定員を超過し総参加者数は258名となった。特に初心者コースは、実習を主体としており受け入れの対応に苦慮した。会場をご提供いただいた工学院大学には、電源やネットワーク環境の補強工事を含め多大なご尽力を賜った。また、賛助会員各社には実習用機材の提供や支援スタッフの派遣にご協力を頂いた。
 時間の制約から、当初計画したプログラムで消化できなかった部分も残したが全体的には充実した講習会であったと評価できる。今回は、会員大学以外の国立大学等や賛助会員以外の企業からの講師や機材の提供など多くの方々のご支援を頂いた。あらためて感謝申し上げます。


文責: 東海大学 井上 靖



初級コース

第1日目

「ネットワーク管理の領域と業務」
「必要最低限度のサービス」

 大塚秀治委員(麗澤大学)が担当し、学内LANの運用管理経験2年未満を対象とした管理初心者には、ネットワーク管理とは何かを知る講習会、既に管理を行っている人には、管理業務の再確認、再点検、スキルアップとなる講習内容であった。
 特に、利用されるネットワークを運用する段階となり、システム面での管理に加えて、利用者支援など人間的側面での業務が重要となってきており、人間ネットワークの管理もネットワーク管理領域の一部であると指摘された。また、業務の拡大につれて、管理者育成(技術教育、管理者倫理規定の整備、管理者の倫理教育など)も重要な課題であろう。

「学術ネットワークの現状と動向」

林 英輔氏(山梨大学工学部)にSINETを中心とした学術情報ネットワークの現状について講演していただいた。
 講演の要点は以下の通りであった。


文責: 明治大学 町田 富夫


第2日目

「ネットワーク接続演習」

 私情協の調べによると加盟大学の約70%が既に学内LANを整備している。この傾向をとらえ今年の講習会はLAN構築ではなく運用を中心に実施した。
 パソコンを学内LANに接続するをテーマに、坪内伸夫委員(京都産業大学)が講師を担当して、ネットワークケーブル作成実習、Windows95パソコンを使ってネットワークインターフェースの取付け、ドライバのインストール及びIPアドレスの設定を行い、1台のパソコンでネットワークを使えるまでの実習であった。初めての方には難しく慣れた方には物足りなく感じられたことであろう。この辺りは来年には改善したい。
 実習の最後に外部との接続がうまくいかないというトラブルが発生した。原因は我々講師側にあったが、経路に関する設定ミスなどに対するIPネットワークのもろさを図らずも再認識する講習となった。初級コースとしては難易度が高かったが、このようなトラブルも良い経験となるだろう。
 この実習の後、Macintoshの設定を予定していたが、あいにく時間ぎれとなり説明できなかった。期待されていた方には申し訳なかった。次年度までにはコースの時間配分も考慮して運営する所存である。次のURLは随時更新しているので参考にしていただきたい。
http://www.kyoto-su.ac.jp/people/staff/tubo/mac/


文責: 京都産業大学 坪内 伸夫



中級コース

第1日目

 以下の2つのテーマに沿って、本研修会の運営委員である後藤邦夫委員(南山大学)に講師をお願いして、講習形式で行われた。

「通信プロトコル基礎理論」

 日頃、利用し管理しているネットワークの基本的な知識・技術を体系的に理解し、トラブルの対応などに活かすことを目的に、以下の内容について講習が行われた。

  1. OS17階層モデルの概要と、そのTCP/IPへの適用
  2. TCPパケットの構成を、事前に送付された宿題をもとに、内容の読み取り方など具体的な管理手法とともに解説。
  3. トラブル解決の一つの手法として、telnet等のコマンドを用いたアプリケーションの動作を確認する方法などの紹介。

「関連技術情報の取り入れ方」

 ネットワークを管理運営するにあたって、必要とされる技術情報、特にセキュリティに関わるものを中心として、入手先の紹介とともに、それらの読み方、利用上の注意点などが解説された。
 RFCに代表される技術情報の利用方法をはじめ、ip-connection,CERT,JP-CERTなどからのセキュリティに関する情報の入手、危険性判断、必要対策の実施方法についての解説があった。
 両講習を通じて、ネットワーク障害、セキュリティ向上への日頃からの対応がネットワーク維持管理を担当するものの責務であることが強調され、真剣に受講する参加者の姿勢が印象的であった。


文責: 同志社大学 尾崎 善則


第2日目

「ネットワークセキュリティ概説」

松尾 雅弘氏(JPCERT/CC(コンピュータ緊急対応センター))より、最近設置されたJPCERT/CCについてその概要や、インターネットの急速な普及に際してあとを絶たない、最近のコンピュータ不正使用の急速な増加状況について報告があった。
 この不正使用には不正侵入、情報搾取、破壊、運用妨害等があり、その被害が急速に増えている現状が示され、それに対する対応策や情報の取得について日本でも専門の機関(JPCERT/CC)が設立され活動を始めていることの紹介がなされた。それと同時にインターネットに接続するということは、このような不正使用についてしっかりした対応を考えておかなければならないことを確認した。

「ルータによるアクセス制限」

 緒勝 徹氏(CISCO)より、ルーターによるアクセスの制御をどのようにして行うのか、その役割やポイントになる制御方法をルータについての最新情報とその活用法について紹介された。

「セキュリティ向上のためのフリーソフトウェア使用法」

 後藤委員より、インターネットを利用する上で何らかのセキュリティは重要であること、また、このセキュリティについての基本的な考え方とそれを実現するための方法について具体的な事例を通して解説された。
 そして、ハードもさることながらソフトによる効果的なセキュリティを実現する方法については、市場で商品化されているものは大変に高価であるが、最近ではフリーウェアやシェアウェアでも良いものがあると述べられ、そのうち主なものを紹介された。


文責: 嘉悦女子短期大学 宮本 勉



管理職コース

「外部委託によるネットワーク管理手法」

 杉町 宏氏(立命館大学)により解説がなされ、外部委託での考慮すべき事柄について、多くの項目と実例を挙げた内容であったので、十分な理解が得られたものと思われた。ここでは、すべてのネットワーク管理運用業務を外部委託可能としているわけではなく、企画立案など相当の見識を依然として学内で確保し続ける必要性があるとの指摘がなされ、今後のLAN管理者講習会の重要性が明らかにされたものとも考えられる。

「ネットワーク関連補助金制度の説明」

 井端事務局長により、LANの整備拡充を行う上での補助金制度の注意事項についてユーモアを交えた説明がなされた。いくつかの質問から、この補助金制度とその現状については、必ずしも広く理解が得られていないことが伺われ、今後とも継続的に行う必要性が感じられた。

「ネットワーク上の問題点」

 井上 靖委員長(東海大学)、井端事務局長よりそれぞれ解説がなされた。井上委員長は学術情報ネットワーク(SINET)での輻輳問題とその解決に向けての文部省への働きかけなどが測定結果の紹介と合わせて報告された。本年10月からの日米間の回線速度が45Mbpsへと改善がなされるが、国内での改善は早急には望めないなどが説明された。しかし、来年度には改善の可能性があるとのことであった。
 井端局長からはネットワーク上の不正利用問題などのいわゆるネチケットに関連した現状の紹介と、ネットワーク規程の整備に関わるモデル作りへの私情協としての取り組みについて、状況が報告された。ネットワークの整備に夢中になり、利用に伴って発生するトラブルへの対応が遅れがちなことから加盟校への福音となることが期待される。


文責: 福岡大学 鶴岡 知昭



共通選択プログラムA

「ユーザーサービス1」

 後藤委員より、IP接続が安定していてもメール,WWWなどの基本的なサービスを安定的に維持し運用することは結構難しい、そのサービスを安定的に実施するためのノウハウについて報告された。
 また、具体的にプロキシー、WWW、Sendmail、DNS等の設定に付いての設定から運用までについてのノウハウについても報告された。
 ハード的にはPC、UNIXでの取り扱いを中心に、さらに、最近のWindowsNTの動向についても紹介を行った。

「ユーザーサービス2」

 大塚委員(麗澤大学)より、インターネットの接続の基本は専用線での接続であるが、学生や教員の自宅から接続する方法としてダイアルアップIP接続がある。この接続については各大学でもどこまでサービスをを行うかが問題になりつつある。特に、全学生にIDを付与している大学が増加するに伴い自宅からのサービスの希望が多くなっていく傾向にある。これにどのように答えるべきか、その場合の設備や運用方法、設定等の問題点等について報告があった。


文責: 嘉悦女子短期大学 宮本 勉



共通選択プログラムB

「ネットワークトラブルの発見と対処法」

 本講習の受講者の半数以上が初級コースの「ネットワーク接続演習」を受講されており、講師である鶴岡委員(福岡大学)より、そこで発生した外部との接続不具合についての解説があり、その経験をベースに本題の講習を展開されたので、非常に分かりやすく有益な講習であった。具体的には、UNIXに標準的に装備されているいくつかのネットワークツールと管理用フリーソフト及び監視プログラム等により擬似体験学習を通して講習された。最後の質疑応答でも初級コースでの接続不具合の問題に質問が集中した。

「アウトソーシング運用のテクニック及び私学助成の効果的活用」

 林 隆史氏(会津大学)より「外部委託によるネットワーク管理手法」の事例紹介、そして、井端事務局長より「ネットワーク関連補助金制度」の説明が行われた。前者は会津大学におけるアウトソーシング運用の事例紹介で、当大学はコンピュータ科学をスローガンにした大学であり、ネットワーク及びそれに絡むシステム管理と研究教育支援の業務を業者へ委託しており、1人月当りの委託費用が割高であるとのことであった。後者は高度情報化推進のための私学助成の現状とその効果的活用について説明があった。また、大学設置基準第21条(単位)の学修時間における外国のネットワークを活用した学修モデルについても紹介があった。


文責: 岡山理科大学 市田 義明

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