私情協ニュース4

第6回情報教育推進のための理事長・学長等会議開催概要



 去る8月2日、青山学院大学総研ビルにて第6回理事長・学長等会議を開催した。当日は、103大学22短期大学より227名の理事長・学長・理事・学部長等が参加した。
 今回は、「ネットワークによる大学コラボレーション」と題して、ネットワークを活用した授業環境の事例、授業支援のためのシラバスデータベースの在り方、教育でのインターネット活用に伴う課題について理解を深めた上で、大学間の連携による授業改善の必要性について研究討議した。
 まず、戸高敏之会長(同志社大学)より、学内LANをはじめとする情報環境の問題は、同会議で話題になったことが国庫補助の実現に大きく寄与してきた。今後は、設備等の充実に加えて情報環境を活用した授業内容の工夫が必要であり、そのために大学間の連携が避けて通れない課題であるとの挨拶があった。
 引き続き、会場校を代表して國岡昭夫学長(青山学院大学)より、大学における情報関連の若手研究者の育成と教育での学内LANを中心としたコミュニケーション技術の育成が重要となってくること、情報設備の更新に対する負担軽減のための国庫助成の増額が不可欠である、との挨拶があった。
 続いて、来賓として文部省村田直樹私学助成課長より、イギリスにおいても大学における情報化が進められつつあり、世界的にも大きな課題となっている。そのような中で、ネットワークを通じて何を実践していくのか、大学間で討議することは非常に重要であり、教育の充実にどのように結び付けることができるのか、今後に向けて大きな課題である。そのことから、今回の会議でテーマとしている大学間のコラボレーションやインターネットを巡る大学運営の問題は、極めて意義があると思うとの挨拶があった。
 以下に、会議の概要を紹介する。


1.事例紹介「大学におけるホームページの活用」

 高辻秀興氏(麗澤大学国際経済学部教授)より、授業にホームページを活用している様子を紹介。
1)ホームページを介して学生と教員との双方向コミュニケーションを図ることにより、授業中にホームページに掲載の教材を使用しての講義・実習を進めたり、2)学生一人一人に課題を与え、回答させて個々人の習得状況に応じた授業が展開できること、3)学生個々人にホームページを作成させてレポートを掲載、グループ学習教材の一部として活用したり、4)授業で使用する関連データ・資料をホームページからインターネットを通じて居ながらにして収集できるようにしたこと、5)膨大な補足資料の配布をホームページから受け取ることができるなど、授業支援としてのイントラネットの紹介があった。


2.話題提供「授業支援のための情報システム」

 授業の自己点検・評価に不可欠な基本情報としてシラバスデータベースを中心とした情報システムの有用性について、試作モデルの紹介を通じて理解を深めることにした。
 まず、井端正臣事務局長からシラバスデータベースの意義について、授業の内容をデータベースの形で学生、教職員に開示することは、大学のアカウンタビリティに照らして当然であり、大学の公的な情報として整備する必要があること、また、教員の教授法改革の情報源として、教室外での個別学習の指導・コミュニケーションの手段として、いわゆる授業支援システムとして大学に導入することが望まれるとした。
 次いで、菅 忠義氏(知的資源開発促進委員会委員長、学習院大学)より、現在、シラバスデータベースの基本モデルを同委員会で開発中であり、その際要件としては、紙面のシラバスにない機能を備えているとのこと。
 具体的には、1)教員、学生、職員に対応したシステムであること、2)音声・動画像等の情報を掲載したマルチメディア対応であること、3)データベースから、教室外において事前・事後学習の指導助言、質問が得られること、4)データベースからインターネットを介して、担当教員のホームページに接続し教材の利用ができること、さらには、他大学の教員、専門家など所有する資料・データをネットワークで入手できるものであることを基本要件とした。なお、これに関連する教務・図書・進路相談・就職など関連情報とデータベースが連携できるよう、同データベースのシステムに拡張性が持てるよう考慮することとした。
 これを受けて、学生が利用するデータベースシステムの試験的なデータベースを丸善(株)の協力を得て公開した。


3.関連情報提供

(1)教育でのインターネット活用に伴う課題

「教育現場の問題、管理運用体制の留意点」
 尾関修治氏(情報倫理教育振興研究委員会委員、中部大学)より、英語教育の中でインターネットを活用し問題となっている点として、文化や歴史観が異なることによるコミュニケーションの難しさ、インターネットを利用した人権侵害、大学のネットワーク管理不備による責任などの指摘があった。私情協の委員会でも対応策のガイドラインを検討しているが、大学でのネットワーク運用管理体制については、不適切なネットワーク利用に対する使用停止などトラブルに対するサポートの迅速化と運用管理の学内規程の整備が必要としていること、さらに教育では、著作権をはじめとする関連法規、電子メールによるコミュニケーションの方法や常識などの情報倫理教育の普及が不可欠であることを挙げている。

「文部省学術情報ネットワークとインターネット接続の問題」
 井上 靖氏(ネットワーク研究委員会委員長、東海大学)より、文部省学術情報ネットワーク(SINET)利用上の問題として、第一に、SINET経由でインターネット接続をしてもなかなか回線がつながらない。また、つながってもデータが途中で紛失してしまうという現象が各地で起きてきている。東京の大手町に二つあるインターネット接続拠点の内、SINETが接続しているのは1.5MbsのNSPIXP1の方であって、もう一つの高速の接続拠点(NSPIXP2)には接続していないため、回線にかなりの支障が生じているので、早急にNSPIXP2に接続すること。
 第二に、米国との接続においても回線速度が遅いため、かなりのデータが紛失しているので、10月予定の高速回線の実現に期待。第三に、SINET接続拠点への急激な増加に、接続拠点である全国共同利用大型計算機センターが限界にきているので、組織的な運営体制の強化を図る必要がある旨を7月に文部省学術情報課に要望したとのこと。

(2)私立大学の高度情報化に対する国の財政支援と大学の情報化投資の実態

 井端事務局長より、まず、高度情報化に対する国庫助成について、設備の導入、ネットワーク・データベースの維持運営、ソフトウエアの整備、データベース・教材ソフトウエアの開発など、教育研究の高度情報化にかかる経費の大半について、国の2分の1助成を得て整備できるようになったこと、本年度も秋にネットワーク維持運営とソフトウエアの申請手続きがあるので積極的に申請されることを要請。次いで、8年度決算による加盟大学の情報化投資額の規模について、8年度の1大学当たりは3億6,308万円で10%の減少、短期大学は5,073万円で10%の増加となった。これは、大学が7年度に学内LANの補助で8年度前倒しでLANの構築をしたことによるもので、大学の6割が増加、4割が減少。昼間学生1人では、大学が7年度の6.2万円から5.5万円に、短期大学は3.9万円から4.3万円となっていることの報告があった。


4.全体討議「ネットワークによる大学コラボレーション」

 まず、戸高会長より次のような説明があった。外国の大学において遠隔授業が進められており、日本の大学に対して学習プログラムが提供されつつある。外国の大学に対抗できるよう大学がネットワークを介して連携し、学習プログラムを提供していきたい。
 連携の内容としては、1)ネットワークを介しての情報技術の相談・助言、2)シラバス情報のデータベース化による大学間利用、3)教員同士による教材・資料の相互利用、学外機関からのネットワーク提供、4)個別学習システムの共同開発、5)自大学にない授業の相互乗り入れ、6)複数大学による共同授業、7)大学関係者間による著作権許諾申請の相談・助言がある。
 当面は、情報技術の相談・助言、教材・資料の相互利用、交換授業・共同授業の一部の連携を進める予定で、それ以外の連携は10年度以降を計画している。具体的な進め方としては、ネットワーク上で協力できる拠点校を募り、段階的に進めることを計画している。費用面では、国の補助金を活用しながら進めることを前提とし、大学が相互に助け合うということで、現在の環境を工夫して実現できると考えている。
 次いで、全体討議に入り、概ね次のような意見交換があった。
インターネットを利用しての教育効果、他えばシラバス情報を乗せてどのように効果があるのか、情報教育の効果も同様に思うが。
 現状で教育効果を問うのは難しい。今までは授業が対面だけであったが、これからは教室外であってもネットワークを介して実現できるようになったので、学生が魅力をもてるような授業環境として前向きに考えることが必要。
学生全員にネットワークを使用できるように準備しているが、ホームページの作成や教材作成の問題が多くなる。インターネット上での著作権問題については通常の著作権法で保護されている範囲を広げるような可能性をとりまとめ提言してはどうか。
 連携事業で考えているのは、著作権許諾申請の手続きの一元化の可能性や相談・助言体制で、著作権法自体の解釈や法律の改正については、ここでは関与していない。
情報化が進んで大学教育に取り入れられことは大変素晴らしいが、反面、ネットワークでしかコミュニケーションをとらない、いわゆる「ネットワークお宅」のような教員が出始めており教育上好ましくない例もあるので心配。
 私情協の情報教育問題フォーラムで今年議論した話題で、バーチャルな世界で教育することの問題点として、教育は物に触れる、直接対面することが基本であって、ネットワーク活用による環境はあくまでも補足的な手段であること。それに偏向してしまうことを避けるように十分配慮しなければならない問題と認識している。


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