特集 電子メディア教材を探る

マルチメディア型コースウェアの開発と開発ツール


立田 ルミ(獨協大学経済学部教授)



1.はじめに

 獨協大学は外国語学部、経済学部、法学部の3学部からなる文科系大学で、学生数は大学院生も含めて約9,000名である。コンピュータは1968年12月に導入され、それ以来コンピュータ教育を行っている。1996年9月に全学的にネットワークを再構築し、約400名の教職員全員がネットワーク対応のコンピュータを1台ずつ持つことになった。このような環境のもとに、筆者のゼミでは1981年よりコースウェアのプロトタイプの開発を試みており、現在はマルチメディア対応のコースウェアを開発している。コースウェアは学習ソフトあるいは教育用ソフトとも呼ばれ、CAI(Computer Assisted Instruction)で用いるためにコンピュータで処理可能な形に作られた教材を意味している。これらのコースウェアは、コンピュータの利用形態が変化するとともにその形も変わってきている。
 コンピュータ支援授業システムであるCAIシステムの開発の歴史は古く、1958年にIBMが、IBM 650を利用したCAIシステムの研究開発に取り組んでおり、これがCAIシステムの幕開けとされている。1960年代の米国では、あらゆるレベルでの教育を改善しようとする国家的関心が急激に高まってきたため、CAIシステムの開発にも資金が大量に投下され、その結果CAIシステムも急激に発展したのである。


2.イリノイ大学におけるコースウェアの開発

 1960年代の初期にはビッツア(D.Bitzer)が中心になって、イリノイ大学の開発したイリアックI(Illiac I)を用いて、PLATO Iを開発した。その後、ランダム・アクセス・スライドを教材としたPLATO IIを開発している。筆者が1992年にイリノイ大学を訪問した折りには、獣医学部でこのランダム・アクセス・スライドを教材としたシステムがまだ動いているのを見せてもらい、感激したのを覚えている。その後、PLATO III、IVと開発が続いた。このシステムを開発するに当たって、CERL(Computer-based Education Research Laboratory)が設置されている。
 前述のような社会的背景の下に様々なコースウェアがアメリカの大学で開発されたが、特にイリノイ大学では2,000以上のコースウェアを開発し、1987年にそれらをNETとよばれるネットワークの上に載せて学生の自習用として利用してきた。筆者はそれらのうち特に優れたコースウェアを、教育学部の大学院の授業でデモンストレーションしてもらい、またCERLのEster R.Steinberg教授や、化学のコースウェア開発としてアメリカでも有名なStanley Smith教授にデモンストレーションしてもらったりした。CERLの開発したコースウェアはよく設計されたものが多かったが、ハードウェアの進歩とともにそれらのコースウェアをバージョンアップすることが難しくなり、CERLそのものも1994年6月に解散している。化学のコースウェアだけはStanley Smith教授が更新を続けられ、1992年に見学したときにはCD-ROM化されており、学生は廉価でCD-ROMを購入して教室やその他の場所で自習していた。さらに1994年に見学したときには、これらのコースウェアはインターネットの上に載せられており、アカウントのある受講生が任意の場所で自習できるように改良されていた。勿論成績管理もできるようになっており、先生のアカウントから入れば、学生の自習状況とテストの点数が即座に分かるように改良されている。
 このようなコースウェアは、現在ではCD-ROM対応のものとネットワーク対応のものに別れている。


3.CD-ROM対応のコースウェア

 パソコンでも簡単にマルチメディアが取り扱えるようになったので、マルチメディアを教育の道具として利用するために、様々な教育用ソフトウェアがアメリカ合衆国をはじめとして、世界各国で開発されてきている。特にアメリカでは、大学と企業の共同研究により様々なコースウェアが開発され、現在盛んにCD-ROM化されている。これらのCD-ROMは、内容、利用のしやすさ、価格に関して、ABCの評価が与えられた書物が出版されている。
 筆者のゼミではマルチメディア対応のコースウェアのプロトタイプをいくつか開発してきたが、開発ツールとしてはMMD(Macro Media Director)とVisual Basicを主に用いている。ここでは、いくつかの開発ツールを紹介する。

(1) MacroMediaDirector(MMD)

 このソフトウェアはMacroMind社が開発したソフトウェアで、日本語版はシステムソフト社で作成されていた。現在はMacromedia社が版権を買い取り、MacroMediaDirector6として販売されており、日本語版は6Jとして168,000円で販売されている。教育用価格は95,000円である。このソフトウェアにはハードキーがついており、それがないと作動しないようになっている。また、Director Multimedia Studioとして、3D画像作成、音声処理ソフトと共にパック販売されている。1998年2月現在の価格は、アメリカのオンラインショップで995ドルであるが、日本語版は188,000円である。
 MMDは、テキスト、静止画、動画、音声、映像を、他のソフトウェアと連動して取り扱える。このソフトウェアでは、演劇のように一画面を舞台と考えて、そこに様々な登場人物・背景を好きな時間だけ好きなように登場させることができるようになっている。画面上には、キャスト(テキスト、静止画、動画、音声、映像)を順番に出力できる。これらのキャストをどのように画面に出力させるかで、コースウェアを作成する。また、台本の役目をするスコアに、キャストをどの位の間(フレーム)どのような速度で出力するかを書くことができるようになっている。このフレームにスクリプト(Lingo)を書くことが可能で、これによりキャストをより効果的に出力できるし、対話型のコースウェアの作成が可能となる。木目の細かいコースウェアを作成するとなると、スクリプトでプログラムを作成しなければならないが、機械語やアセンブラ言語レベルの言語でマルチメディアを制御するよりははるかに労力が節減できる。このソフトウェアで開発したものをプロジェクターにしておくと、MMDがなくてもMacでもWindowsでも実行可能である。

(2) AuthorWare

 AuthorWare社が開発したオーサリングシステムで、現在MacroMedia社に版権が移り、Macromedia Authorware 4となっている。日本語版は248,000円となっており、エデュケーション利用でも148,000と高価である。
 これを用いてコースウェアを開発するには、デザインアイコンを選択して、フローラインに貼りつければよい。ちょうどフローチャートを描くのと同じ感覚で、コースウェアを作成可能である。また、作成した部分をひとまとめにしてグループ化できるので、サブプログラムの感覚で利用できる。開発中のコースウェアの任意の部分にフラッグを立てることにより、その部分だけを実行できるので、デバッグするのに非常に便利である。問題に対する反応をどのように入力するかについては、テキストエリア、マウスクリックエリア、オブジェクト移動、プルダウンメニュー、キー入力、プッシュボタン等の作成が可能であり、また条件設定、時間設定、回数設定ができるようになっているので、多種多様な問題作成が可能である。
 Authorware Intreractive StudioとしてDirector 6やBackstage、xRES、SOUND、PATHWARE LEとともにパッケージとして、1998年2月現在2,999ドルでオンライン上のショップで販売されている。これらを用いて、インターネット上でインタラクティブなコースウェアも開発可能になる。
 MMDを用いて、インラインスケートのコースウェアを獨協大学の和田智専任講師と開発したものを、図1に示す。

図 1 インラインスケートノコースウェア
(カラーページ参照)


4.ネットワーク対応のコースウェア

 ネットワーク対応のコースウェアを作成するツールとしては、次のようなものがある。

(1) Flash

 Macromedea社が開発したもので、現在バージョン2である。Flashで作成したものをAftershockを用いて変換すると、Javaの中でアニメーションやグラフィックがプラグインなしに実行される。また、アニメーションは、RealAudioとRealVideoに対応している。日本語版の2JはWindowsとMacのハイブリッド版となっており、39,800円である。また、エデュケーション版は32,000円となっている。ホームページ上に画像やアニメーションを作成するのに簡単なツールであり、インタラクティブ・ボタンを簡単に作成できる。これらのものは、ブラウザのウィンドサイズに合わせて拡大・縮小されるので、非常に便利である。また、作成された画像サイズは、GIFファイルで作成されたものより小さくなっている。

(2) ホームページ作成ツール

 ホームページ作成ツールとしては、IBM社の開発したホームページビルダーがよく使われており、一太郎に組み込まれている。Dream WeaverはMacromedia社の開発したもので、マルチメディア対応のホームページを作成し、管理するツールである。Microsoft社の開発したFrontPageもホームページ作成と管理を行う。その他、Netscape社のNetscape Communicatorにもページ作成機能がついているし、Word97にもページ作成機能が付加されている。

(3) 著作権フリーの素材集

 インプレスが出している“スーパーデジタル素材集”をはじめとして、リットーミュージック社のShockwave素材集、インプレス社のデジタル素材ライブラリ、ASCII社の3D Art Engineなど、多くの著作権フリーの素材集が販売されている。それらはいずれもそれほど高価ではないので、コースウェアを作成するときに利用できる。MIDIやWAVのファイルもあるので、音声も利用できる。また、ネットワーク上にもフリーで利用できる素材集が置かれているので、それらも利用している。
 筆者は、これらのツールが開発される以前の1995年に、イリノイ大学の客員教授として滞在中に日本文化紹介のコースウェアを作成した。このホームページを図2に示す。
 現在の開発済みのコースは次のようになっており、静止画やビデオ映像、音声を載せている。

  1. Chapter One: What Is the Tea Ceremony
  2. Chapter Two: A Tea Ceremony Experience
  3. Chapter Three: Scrolls and Students Interpretations
  4. Glossary of Terms
  5. References for Further Readings
  6. Links to Other Web Pages on Japanese Culture
 このコースウェアはイリノイ大学芸術学部のWebサーバー上に置かれているので、獨協からでも更新可能である。現在はこれらのコースウェアを土台に、文部省化学研究費の補助金を得て“Image of Japan“というコースウェアを開発中である。
図2 日本文化紹介のコースウェア
(カラーページ参照)


5.おわりに

 イギリスでは、高等教育全国委員会が1997年7月に“学習社会における高等教育”という報告書を出している。この中で、Communications & Information Technology(C & IT)の最大限利用のために、1999/2000年までに全ての高等教育現場と社会人教育カレッジのネットワーク化を果たし、さらに他の関連機関の接続も近い将来に完成すべきであると勧告している。
 また、文部省では1998年12月18日に大学審議会で、遠隔授業の大学設置基準における取り扱いについて答申している。その中で、マルチメディアをはじめとする情報通信技術の活用は、高等教育の充実に新たな可能性を開くものとして大きな効果を期待できるものであり、それが高等教育機関において円滑に実施されるための条件整備を積極的に図っていくことが求められていると述べられている。
 このように、今後ますますネットワーク対応の質のよいコースウェアの開発が必要となるが、質のよいコースウェアを開発するためには、コースウェアの設計をその教科の専門家とともによりよく行わねばならない。しかし設計に時間をかけすぎると、ハードウェアや開発ツールがどんどん変化していくので実態と合わなくなってしまう。その辺の兼ね合いが難しいところである。これらのことを踏まえて、今後ともコースウェアの開発を続けるつもりである。


特集:電子メディア教材を探る
 本誌の今年度の特集は、Vol.6 No.1で紹介したように教室だけではなく、学内のいろいろな場における「マルチメディア環境」を見た。No.2では、「ネットワーク時代の教育」の展開と具体例のいくつかを探った。今回はさらに具体的にして、教育実践の場で用いる「電子メディア教材を探る」。コースウェアの開発、CD-ROMかWebか、板書がどう変わるか、どう授業に活かすか、現場の経験を皆様にシェアして、一緒に考えたい。


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