特集 電子メディア教材を探る

CD-ROM教材からWeb配信型教材へ
立命館大学におけるCALL教材開発


松田 憲(立命館大学文学部教授)
岩居 弘樹(立命館大学法学部助教授)



1.はじめに

 立命館大学では1994年4月より、本格的な学内情報基盤整備が進められてきたが、こうした条件整備を契機に、外国語教育センターにプロジェクト・チームを置いてコンピュータ利用語学学習(CALL)教材の開発を本格的に進めることになった。すでにこれまでに、各種の言語教育用の若干のドリル教材を開発しているが、1995年4月には、海外留学をコンピュータ画面上にシミュレートする CD-ROM 版の英語CALL教材の開発が完了して、この教材を使った授業が始まっている。本稿では、この教材の開発コンセプト、主な機能、および実際の授業での利用状況について報告するとともに、1998年度からの新しい外国語教育システム改革に合わせて開発中のWeb配信型の外国語学習教材の内容についても合わせて紹介したい。


2.CD-ROM 教材の概要

 今回の開発は、まず本学の2回生に照準を当てた英語テキスト(Campus Life at UBC)の執筆、次に教材内容に合わせたビデオ映像や音声データーの収録、さらに、同テキストをベースにしたCALLプログラムをCD-ROM 形態で作成するという3つの主な内容を持っていた。この教材はビデオ・オーディオテープを用いて従来のLL教室で授業展開をすることも勿論できるが、CD-ROM の特性を活かした、コンピュータ教室での授業が最も望ましい利用形態である。具体的な内容は後で触れるが、学習者が任意の箇所で、繰り返し何度でも映像や音声を再生でき、設問への解答の正誤情報が瞬時にフィードバックされる点など、コンピュータ利用教育の利点をできるだけ追求している。プラットフォームとなるコンピュータは、映像音声、写真などのマルチメディアを柔軟に取り扱えるパソコンに設定して、1時間半ほどのビデオ画像と2時間以上の音声データーを2枚の CD-ROM に圧縮保存し、オーサリング・ツール(Macromedia DirectorおよびHyper Card)を用いてプログラムを作成した。
 本教材は、主人公の女子学生が本学の提携校であるカナダのUBC(ブリティシュ・コロンビア大学)に留学して、その体験の中で英語の運用能力の向上はもとより、異文化理解・国際理解や現地の友人たちとの友情を深めるというストーリーにもとづいて組み立てられている。私たちは、主人公の女子学生が海外留学を準備する段階から、現地での講義を受講する際に求められる広い意味での学力を身につけ、課外活動への参加やルームメイトとの友情の交換を通じて、人間的な成長をとげる過程を教材化することに、とりわけ重点をおいた。また、単なる会話教材やドリル中心の教材としないために、主人公の女子学生がクラスでエッセイを書き、プレゼンテーションをすることを求められるなかで、コンピュータ・ネットワークを使って資料を検索したり、多様な民族と文化の共生をめざすカナダの Multiculturalism という思想を学び、世界平和と国際理解をテーマとする優れたレポートを発表する、といった発信型ストーリーを組み込んでいる。また、友人とのディスカッションの中で、日本の伝統文化について紹介し、意見を述べるなど、情報の発信者となることの重要性を学生に学ばせることも、ねらいの一つにおいている。
図1 ユニット1 (カラーページ参照)


図2 ユニット2 (カラーページ参照)


3.開発された教材プログラムの概要

 この教材は、全体を13課で構成した上で、それぞれの課を5つのユニットにわけている。オープニング画面で、スタートボタンを押すと、学習履歴をとるかどうかの問い合わせの画面に入る。問い合わせに「Yes」と答えれば、学生番号や氏名の入力をうながすプロンプトがあらわれる。ここで入力されたデーターは、ドリル部分の正答率や得点情報などを表示させたり、記録したりする場合の、個人識別データーとなる。
 各レッスンの選択メニューに入ると、マウスカーソルを各レッスン番号の上に合わせれば、正面上部のスクリーン枠に該当レッスンの内容を示す静止画像とレッスン・タイトルが表示される。
 学習したいレッスンを選択すると、ユニット選択画面が現れる。学生はここで自分の学習したいユニットを選択する。図1はレッスン1のユニット1を選択したときの画面であるが、ここで学生は、そのレッスンの内容を概説した300〜400語程度の英文を読み、また音声を聞きながら10カ所の空所に入れるべき語句をタイプ入力することを求められる(読解力とディクテーション能力の練習)。画面上部に表示されているカセットテープレコーダーのボタン(Listen と表示されている)をクリックすると、音声再生用のコントロールバーがテキスト画面下に現れるので、このバーのプレーボタンをクリックして、テキストの朗読を聴くことができる。長文全体のネイティブ・スピーカーの朗読を聞き取り、全体の内容を把握した後で、Begin Test と表示されたアイコンをクリックして、10問の聞き取りテストのモードに入る。正誤判定と正答率は即時に表示され、誤った解答に対しては、3回を限度に再度音声を聞き直し、解答を試みることができる。音声は何度でも聞き直すことができ、またヒントというアイコンが現れるので、これをクリックすれば正解が表示される。不正解の場合、自分が何回目のトライであるかは問題番号の左の枠の数字で知ることができる。
 図 2 はユニット2 の画面で、ここで学生は当該ストーリーの中心となっているビデオ画像を視聴しながら、内容を理解しなければならない。音声は、現地録音版とスタジオ録音版とを選択して聞くことができ、また字幕の表示もオン・オフすることができる。字幕は、最初はオフの状態にして聞き取りに集中し、ビデオ画面のなかで聞き取りにくい箇所があれば、Dialog ボタンをクリックして字幕を表示させた上で、映像のコントロール・バーを元に戻して何度でも視聴することができる。ユニット2 の初期画面で、学習したいスキットの番号をクリックした後、カセットレコーダーのボタンのかわりに映写機のボタンをクリックすると、そのスキットのビデオ映像が Quick Time Movie の形式の映像として表示される。この場合も、字幕の表示は任意にオン/オフできる。図 2 は字幕を表示した状態でビデオ映像を視聴している例である。
 ユニット3は、ユニット2で学習したシチュエーションや語句表現の応用練習をするためのユニットである。学生は、AまたはBの役を選んでロールプレーイング練習をするが、この際、自分の台詞をマイクで録音して、モデル音声と比較することもできる。学生はAまたはBのボタンをクリックして自分のパートを選択して、Listen と表示されたボタンをクリックすると、相手役の人物の発声に応答して会話練習することができる。さらに、Listen と表示されたボタンのかわりに Record と表示されたマイクロホンの形をしたボタンをクリックすると、自分の発音を録音してモデル音声と比較することができる。
 ユニット4では、学生はこれまでに学習したストーリーの理解度を多肢選択式のリスニング問題(Comprehension Check )で試される。ここでは5つの多肢選択式の問題が準備されている。問題番号のボタンをクリックすると問題・解答画面が現れて、問題を読み上げる音声が流れる。選択肢は画面ではテキストを表示せず、音声のみで聞き取らせて、正解を選ばせるようにしている。解答が正しければ、Right というメッセージが表示され、得点が画面右下の成績記録枠に表示される。全問を解答すると、画面左下に Log というボタンが現れるので、これをクリックすると自分の成績記録の一覧表の画面に移ることができる。ここで、学生は自己の学習履歴と成績を表示、印刷できる。
 ユニット5では、当該レッスンの内容に関連したエッセイ・レポート提出のためのいくつかのトピックが提示されていて、学生はこの中から一つを選んで英文のエッセイを書かなくてはならない。トピックによっては、学生が資料調査をする際に役立つヒント情報を埋め込んである。ユニット5でのこうしたヒント情報は、多少ともゲーム的な要素を持たせて、学生の好奇心を刺激し自主的な調査、学習への動機づけに役立てたいというねらいを持っている。


4.Web配信型教材の開発

 立命館大学では1998年度より講義科目「世界の言語と文化」を開講するが、これにあわせて、初修外国語の基本的な文法事項や当該言語の地誌情報などを学習できるWeb配信型補助教材を開発している。Web配信型教材は、表現力やレスポンス、マルチメディア性などの点でCD-ROM教材に劣るが、開発時間や費用、メンテナンスの容易さなどの点でCD-ROMに勝っている。
 基本的な文法練習用ドリル教材や理解度チェックのための教材はJavaScriptを利用して作成している。(ブラウザはNetscape Navigator[以下Netscape]を利用する。JavaScriptは、HTMLを補完してインタラクティブなWebページを作成するための簡単な言語で、Netscapeには標準で装備されている。) Web配信型教材の開発当初には次のような問題点があった。
  1. ブラウザの「ソースをみる」を利用すると、ユーザーは「正解」を簡単にみることができる。これは、フレームを利用したり、正解を含むJavaScriptを別ファイル(*.js)にすることで解決できる。

  2. ドイツ語のウムラウトやフランス語のアクサンなどの特殊文字は、日本語と同時に表示させることができない。しかし、例えばフレームを利用して各ページにタグを置き、それぞれの文字コード名を記述することで解決できる。ただし、Windows版Netscapeでは、「Reload」しないと文字コードが正しく認識されないことがある。また、WindowsとMacintoshでは特殊文字のコードが違っているため、両方に対応させるにはこの点に留意する必要がある。

  3. Windows版Netscapeでに特殊文字を入力する場合、Controlキーを使った方法は利用できず、当該言語のキーボードに切り替えなければならない。キーボードの配列は利用する言語によって異なっており、初修外国語の入門段階でこれを導入することには問題がある。そこでJavaScriptを用いた「ソフト・キーボード」を作成してみたが、十分な解決とはなっていない。

 このようにいくつかの問題を残してはいるが、多言語対応型の穴埋め問題と四択問題はほぼ完成しており、これにReal Player(動画や音声を再生するためのプログラム)を埋め込んだ聞き取り練習問題も現在作成中である。
 Web配信型教材は、CD-ROMと競合するものではない。これら二つのメディアの組み合わせた教材の開発がこれからの課題である。また、口頭練習やロールプレーとCALLの組み合わせ、Internetを使った問題解決型の授業など、コンピュータを使ったいろいろな外国語授業が考えられるが、いわゆる情報演習室のような机の配置では実現できないことが多い。コンピュータの利用/補完を前提にした外国語教授法を、教室の形態なども含めて研究する必要がある。


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