情報教育と環境

中京大学における情報教育と環境



1.はじめに

 本学は文学部、社会学部、法学部、経済学部、経営学部、商学部、情報科学部、体育学部の8学部ならびに8大学院研究科博士課程からなり、この他に全学共通基礎科目を担当する教養部がある。このうち、情報科学部は1990年に開設され、UNIXワークステーション(WS)がTCP/IPで接続され、WSを使って情報科学と認知科学の教育が行われている。他7学部では、Windows95をOSとするPC(personal computer)を使った情報教育が実施されている。本稿では主に後者に焦点を当てて、本学の情報教育環境について紹介する。
 本学の情報教育は1987年にさかのぼる。本学は名古屋キャンパスと豊田キャンパスからなるが、両キャンパスそれぞれに、NEC-PC98、50台のコンピュータ演習室を開設し、MS-DOS、一太郎、Lotus-123、MS-BASICの実習を始めた。その後、演習室・機器の増設を行ってきた。1991年にはApple-Macintoshを置いたACL教室も開設した。
 このように、本学では比較的早い時期から情報教育を実施してきたが、残念ながら、その後のインターネットへの導入に遅れを取ってしまった。そこで、1995年に本学のシンボルタワーとなる地下1階地上9階建てのセンタービルの完成に即して、その5階に情報センターを設け、専任の職員を配備し、学内ネットワークの整備に本格的に着手することになった。また、情報教育専用の演習室を増設し、情報センターの管轄とした。さらに、これを機にOSをMS-DOSからWindows3.1に変えた。これは2年後にWindows95に変更されることになる。
 メインフレームコンピュータを持たず、PCから出発したため、過去のしがらみもなく、自由な発想で先進的な情報システムを構築することができた。
 1997年には豊田キャンパスに情報センター豊田分室を設け、名古屋地区と同一の環境が提供されることとなった。
 現在、名古屋キャンパスに386台、豊田キャンパスに220台のPCが情報センターの管理下で情報教育に供されている。


2.システム構成

 名古屋キャンパスは1.5Mbpsの専用線で名古屋大学大型計算機センターと接続されており、SINETおよびインターネットにつながっている。名古屋キャンパスと豊田キャンパス間も同様に1.5Mbpsの専用線で接続されている。キャンパス内はATM、シングルモード(SM)光ファイバケーブル、ルータ、マルチモード(GI)光ファイバケーブル、ハブ、ツイストペアケーブル、情報コンセントの順を経て、各研究室、実験室、事務室等に至る。セキュリティ対策のため全システムを教学系と事務系に分け、両者の間にはファイアウォールを設けてある。将来の発展にも柔軟に対処できるネットワークシステムとなっている。図1が本学のシステム構成を簡単にまとめたものである。
 情報センター設立当初、コンピュータ演習室内のPCは全て、UNIXワークステーションをファイルサーバーとしてNFS(network file system)を構成した。それまで、補助記憶媒体としてフロッピーディスク(FD)を用いていたが、耐久性に欠けることからトラブルの元となっていた。NFSによるファイルサーバーの設置はこのFDを一掃し、ファイルを一元管理するものである。ファイルサーバーの存在により、ユーザはどの教室からでも自由にファイルにアクセスできるようになった。FDはもはや過去の遺物である。
 ファイルサーバーにはDDSテープドライブによる自動バックアップ装置を付け、障害対策が施されてある。このお蔭でユーザは安心してファイルをサーバーに保存できる。管理者側の負担も格段に軽減されている。
 プリンターもネットワーク接続されており、平均10台のPCから共有して使用している。
 WindowsNTはUNIXと同様のファイル共有機能を持っており、しかも、より安価にシステムを構築できること、Windows95 PCとの相性が良いことから、現在はファイルサーバーをWindowsNT機に移行している。
 情報教育用の教室は名古屋キャンパスでは7室、豊田キャンパスでは3室ある。他に自習室が名古屋キャンパスで2室、豊田キャンパスに1室ある。自習室は授業の有無とは無関係に朝9時から夜8時まで学生に開放している。コンピュータの習熟には、学生が主体的に自由に機器を使える環境を整えることが不可欠であり、この自習室の教育的役割は非常に大きい。各部屋はセキュリティ確保のため、カードキーによってドアを開閉するようにしており、学生は学生証と引き換えにカードキーを受け取って入室する。
 演習室教壇には学生機と同じ型のデスクトップPCがある。他に、OHPやビデオ機器も敷設されており、これらのPC、OHP、ビデオ、教員が持ち込んだノートPCなどの画像出力をプロジェクタに選択して映写できるようになっている。
 ゼミナール室A・Bにはノートブック型PCが各25台ある。施錠ロッカーから取り出し、机の情報コンセントに接続して使用する。ノートPCもNFS接続されるので、使用環境はデスクトップと変わらない。この方式は、通常教室でも情報コンセントさえ設置するだけで情報教育が可能になるというメリットがある。その他、名古屋キャンパスには、主に大学院用教育施設としてプロジェクトルームがある。主に人文・社会科学系の大学院生・教員のために統計計算、各種シミュレーション、大規模データベース実習など、高度の情報処理を目的としている。高速のUNIX-WS1台を演算サーバーとして、Windows 95 PC、PowerMacintosh、X端末をWSのクライアント機としている。このWSは作業用記憶領域として十分な大容量磁気ディスクを内蔵している。クライアントの機種の相違はX WindowエミューレーションによるGUIの統一によって解消している。
図1


3.情報センター

 情報センターは1994年に設置されて以来、学内ネットワークの整備、コンピュータ演習室の管理など本学の情報化の指導的役割を担っている。現在、大学内部の事務処理の電算化も進行中であるが、情報センターは、その推進役でもある。
 ユーザーIDの発行、ハードウエア・ソフトウエア保守、利用の手引きの作成、ユーザー指導、ユーザー相談、メーカーとの交渉など雑多な日常業務もこなさなければならず、専任スタッフの存在がシステム運営に不可欠であることは言を待たない。現在、課長1名、係長2名、専任職員1名、派遣社員1名、パート職員5名、学生アルバイト22名の体制である。


4.情報教育

4.1 全学共通基礎科目

 情報関連科目としては、情報科学の基礎を教える「情報科学」、実際のコンピュータ操作を学習する「コンピュータ処理論」がある。前者の「情報科学」は講義課目である。後者の「コンピュータ処理論」でPCを使用した教育が行われており、内容はコンピュータリテラシーとプログラミングである。コンピュータリテラシーとして、PCの電源投入に始まり、Windows95の操作、タイピング、MS-Wordによる文書処理、MS-Excelによる表計算などの実習が行われている。近年は、これに、電子メール・WWWブラウザの教育が加わっている。プログラミング教育にはVisual BASIC、C言語が使用されている。
 情報処理以外にも特に言語教育にPCを使う授業も増加している。
 コンピュータリテラシー教育が一巡すれば、今後はPCの操作の習熟から、コンピュータの動作原理の学習、プログラミングによるPCの主体的活用、大規模データベース実習などに移行すると推測される。

4.2 学部固有の情報教育

 情報センターのPCを使う科目として、次のようなものがある。文学部英語学科の「コミュニカティブライティング」、「英語科教育法」、「演習」、文学部心理学科の「普通実験演習」、「演習」、社会学部の「情報処理基礎A・B」、「調査研究法」、「演習」、経済各部の「演習」、経営学部の「ビジネス英語」、「会計情報システム」、「経営モデル分析」、「演習」、商学部の「情報処理I・II」、「コンピュータ会計」、体育学部の「体育情報処理論I・II」、「スポーツ研究法」など。
 PC利用の多様化に伴い、学部固有の情報教育が今後ますます進展すると予想される。


5.利用状況

 自習室は学生が課題処理のために使用している。WWWによる就職情報の摂取にも頻繁に使われており、利用効率は非常に高い。満員のため、待ち行列ができるほどである。演習室の利用効率も非常に高い。
 本学では、主にセンタービル内の教室を利用し、「オープンカレッジ」と名づけて一般市民にも学習の機会を提供しており、演習室も情報処理学習に利用されている。内容はコンピュータリテラシーから高度のプログラミングにまで及んでおり、受講者の評判も良い。


6.運用上の諸問題と今後の課題

 情報センター運用上の最大の悩みはハードウエア・ソフトウエアの進歩が激しく、システムが5年も経ない内に時代後れになってしまうことである。これは、PCの陳腐化による需要喚起という情報産業の戦略の影響をまともに受けているためでもあるが、世の趨勢として抗しきれないものがある。ハードウエアの価格は下落傾向にあるが、ソフトウエアの費用は増加傾向にあり、財政的負担を招く要因となっている。このため、情報センターとしては、システムを古いバージョンに固定せざるを得ない。しかし、逆に、アップグレードを行った場合には、教科書やプリントなどの教材を見直して改定する必要が生じ、教員の負担が増えてしまうという二律背反的事情も存在する。学生には最新の環境を提供したいところであるが、以上のような点のバランスを考慮せざるを得ない。
 PCの標準設定を故意あるいは無自覚に変更され、特に初学者に戸惑いを与える場合や使用不可となる場合も少なくない。これは、もともとWindows95がマルチユーザのためのOSでないことによる。プログラムを個々のPCにインストールせずに、起動時にサーバーからロードするようにシステムを設計するのも解決策のひとつであろう。情報倫理教育も必要である。
 悪質ハッカーによる攻撃もある。従来、この問題については、大学のいわば「不祥事」として、学内で隠密裏に処理されることが少なくなかったのではないかと思われるが、世界的にコンピュータ犯罪は増加しており、単に1大学だけの問題ではない。大学間で協力して対処すべき問題である。この問題を取り扱うための場が設けられることが必要であろう。
 今後の課題としては、学外からのアクセスサービスの提供、事務処理の電算化、学生全員へのID発行、学生情報の一元化によるサービス向上、ホームページの充実・更新などが挙げられよう。多くの課題が待ち受けているが、強いリーダーシップを発揮して解決していきたいと考えている。



文責: 中京大学
  情報センター長 森 孝行
  教養部助教授 山本 茂義
  情報センター課長 崎元 正

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