特集

ノートパソコン利用を考える(事例8)


成蹊大学工学部経営工学科



1.経 緯

 本学科では、1年生よりコンピュータ利用技術およびプログラミング技術の習得を目指して、これに関連する科目を必修科目として設けている。そのような状況の中で平成5年度より、主に新入生に対してノートパソコン団体購入の斡旋を始めた。その理由として以下のことがあげられる。

(1)団体購入斡旋の理由

  1. 大学のパソコン教室は全学部全学科共通で使用するため、日中の時間帯は授業による占有利用が多く、開室時間の関係から学生の十分な自習時間がとれない。

  2. プログラミング技術の習得には個人差があり、それを補うために自分自身のパソコンの購入を考える学生と、より深い理解を目指して個人購入しようとする学生が現れる。また、卒業研究着手に向けて計算処理を目的としたり、プレゼンテーションや論文作成を目的としてコンピュータを活用する場面が多くなるため、本学科の多くの学生が4年次生までにパソコンを個人購入している。

  3. 個人購入された機種がデスクトップパソコンの場合、操作やエラーの質問を受けても、機種による微妙な差異や、学生の操作不慣れのため、その状況説明が学生から教員にうまく伝わりにくく、適切な指導が難しいケースもある。また機種によっては講義材料として配布するファイルを扱えないというケースも出た。

  4. 学生のみならず、父母からもパソコンの必要性の質問や購入斡旋の依頼が多くなった。パソコンの個人購入に関する相談は、予算やどのような仕様の機種を選べばよいかに加えて、勉強以外の家庭での用途なども含まれる場合もあり、教員が相談に割かれる時間も多くなった。

 これらの問題を解決するために、ノートパソコン団体購入の斡旋に踏み切った。ノートパソコンを選択したことにより、3. にあげたようなトラブルの際も大学に持参して相談を受けることが可能になり、教員側も適切な対応ができるようになった。また学生の金額的な負担を少しでも軽減するため、フリーのコンパイラやエディタなどを紹介・配布することによって、自宅においても大学と同様にプログラミング演習を行うことができるようになり、1. や2. についても良い効果が期待される。また大学への携帯のし易さから、教員への相談のみではなく、学生同士での相談も行われるようになり、互いの修練に貢献し合っている様子も見られるようになった。
 団体購入の開始当初は70人ほどの購入者があり、その後も毎年30〜40人程度が購入してきた。昨年度からは工学部の他学科や他学部の一部にも対象を拡大している。現在、上記のような対応は本学科のみとなっているが、購入者が今後大学全体に広がっていく場合を考慮すると、団体購入のあり方やその効果などを考え、大学全体として対応できる体制を整えていく必要があると思われる。

(2)実施単位

 ノートパソコンの斡旋対象は学部1年次生からである。現在は、貸し出しの体制はとっていない。


2.利用範囲

 学生が購入するため、利用範囲は自由である。キャンパスでは学部共通のパソコン教室内にまとまった台数のパソコンが用意されており、印刷も自由にできるため、個人のノートパソコンがキャンパスで活用される機会はまだ余り多くはないようである。


3.費用負担

 購入費用はすべて学生が費用負担している。ただし、業者の選定の際に複数の業者に競争をさせているために市場価格よりも安く購入できる。またプリインストールソフトの講習会や、ヘルプデスクを学校まで業者が出向いて実施できるかどうかについても問い合わせ、業者選定における考慮点としている。


4.活用内容と効果

 すべての計算機関連の実験科目を中心に、主として自宅での学習に用いている。プログラミング学習用にフリーのエディタやコンパイラなどを担当教員が準備し、WWWブラウザによるアクセスで自由にダウンロードし、自分のパソコンにインストールできるようにしている。他の科目についても、自宅や図書館等でのレポート作成、ならびにデータ整理等に積極的に用いられている。生産システム関連の実験科目では、データ整理を中心に利用されている。この実験科目では最終授業日にこれまでのまとめの発表を全員の前で行う。この際にノートパソコンを利用して発表を行っている。さらに、卒業研究発表も本年度よりパソコンを利用してプレゼンテーションを行うこととした。したがって、自宅で発表練習を行うことも可能になる。以上のように学内・自宅を問わず同じパソコンを利用することができるようになり、自分で管理することから深く理解することができるようになる。


5.支援体制

 現在のところ、全学的な支援体制はない。今後は全学的な購入斡旋の場を提供してもらったり、業者主催のノートパソコン利用講習会に対する教室の提供や、ノートパソコンの利用形態についての教員への教育研修を考慮して欲しいと考えている。


6.ノートパソコンの保守管理体制

 これまでは計算機関連授業を行っている若手の教員が操作上の質問、故障に対するアドバイスを行ってきた。来年度よりノートパソコンを中心として上記アドバイスを行うことが可能な助手を配置し、対応が取りやすくなる予定である。また、故障に関しては、昨年度より購入時にオプションで動産保険をかけられるようにした。これにより、通常の保証以外に過失による故障の場合も、その内容により在学中(4年間)無償修理もしくは僅少の免責額での修理を可能としている。


7.ネットワーク環境・運用管理体制

 ネットワークは大学全域にわたり設備されているため、基本的には管理体制を分散している。大学の基幹LANに関しては情報処理センターが管理し、各学部学科の支線LANについては各部署が管理している。ただし、各部署での管理はその技術をある程度以上身につけている者がボランティア的に行っているのが現状であり、業務としての認識が大学として早期に行われることが期待される。共通教育向けの計算サーバ、メールサーバ、WWWサーバおよび全学部共通で使用するパソコン教室については情報処理センターで管理を行い、各支線LANに接続されるワークステーションやパソコンは各部署で管理している。ユーザ管理業務に関しては情報処理センターが全学生にユーザIDを発行しており、毎年度の初めに情報リテラシー教育のための講習会を全学生向けに行っている。学科独自のシステムについては実験担当者がすべてのユーザ管理を行っている。
 現状では、学生が持参したノートパソコンを学内でインターネットに直接接続できる環境は設けていない。学内LANへの学外からの接続は、個人的に一般のプロバイダ経由で行う。現在、システム保守と教職員の職務上の利用を目的に、ISDNによる学内LANへのリモートアクセスを可能とするよう準備しているが、学生にこれを一般開放できるだけの回線を確保できる見込みはたっていない。


8.問題点・今後の課題

 この数年で学生によるパソコン教室の利用は急増している。学部・専門を問わず、勉学上あるいは就職活動のための情報収集、電子メール利用が日常的に行われるようになり、それに対応して大学の講義でもパソコン実習が多くなっていくため、今後ますます利用者は増大していくものと考えられる。その一方で、これらのパソコン環境は定期的な更新が必要であり、費用的に利用者の増加に十分に対応していくことは難しく、学生数に対してかなり制限された台数での設置しか望むことはできない。それを補うのが学生自身によるノートパソコンの導入であると考えている。在学年数からみても学生の移り変わりとともにパソコンも適切に更新されていくことになり、大学としてはその時代に要求される通信容量を持った学内LANを整備し、ノートパソコン持参の学生たちに開放していくことを主にサポートしていけば良い。その際の開放形態として新しい形態が考えられる。従来のような有線LANでは配線経路の必然性などから教室のレイアウトに大きく影響してしまうため、無線LANを導入していき、キャンパス内であれば、場所を問わず自分のノートパソコンを学内LANに接続できるようにしたい。パソコンはもはや単独の装置として利用するだけでなく、ネットワークに参加した上での用途が広がるものであるとの認識から、学内LANの整備もそのような利用状況を見込んで考えていく必要がある。



文責: 成蹊大学工学部経営工学科
  教授  渡辺 一衛
  助教授 甲斐 宗徳

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