特集

ノートパソコン利用を考える(事例9)


秀明大学
(旧 八千代国際大学、平成10年4月より名称変更)



1.経 緯

 文科系の学生にとって唯一の武器といってもよい、今後ますます重要性を増すコンピュータの習得は、履修科目で埋まっている受講の合間をぬったコンピュータ実習室での利用だけでは足りない。パソコンの習得は、工学的な実験・演習と異なり、学生個人による試行錯誤や習熟が必須であり、自宅でも十分練習する必要がある。一般社会でも身近にパソコンがない状態でパソコンに習熟した人は希であろう。過去のコンピュータ教育では、コンピュータが個人所有できる金額のものではなかったので、大学内だけでのコンピュータ教育が当然のこととして行われてきた。しかし、個人がパソコンを所持することが当たり前になってきた現在、学生にもパソコンを所持させる必要がある。そのような考えから、本学では1991年度に希望者のみにパソコンのセットを廉価で斡旋することにした。その結果、成績等を見るとパソコンを持っている学生と持っていない学生の間には明確な差があった。確かに学生にとっては費用がかかるが、工学部などの実験費や施設費の納入金に比べればそう高いものではないと思われる。また、そのような納入金による設備等は学生のものではないが、パソコンは自分のものであり、それによって大切に扱い活用しようという気持ちになるし、個人的なことにも使用できる。これらの経緯や考えを踏まえ、ノートパソコンを全員に購入させる必要があるとの結論に達し、1992年度より全学の学生が必携となった(1997年までは政治経済学部のみの単科大学、1998年度より国際協力学部を設置)。


2.実施概要

 今年度(1998年度)購入例を紹介すると、ハードは本体(CD-ROM、モデム内蔵)とプリンターである。基本的な選定の方針は、1)すぐ陳腐化しないように最新機種、2)持ち運び容易な軽量型、3)ブラインドタッチが可能なB5版サイズ以上、である。授業や合宿への持参、留学時の携帯のためにはデスクトップ機では不可能である。また学生が将来自分でデスクトップ機を購入した場合も携帯用として活用できるため、当初よりノートパソコンを選定してきている。ソフトはワープロ、表計算、プレゼンテーションの各ソフトとそれらの学習ソフトである。この他にタイプ練習ソフト、ウイルスチェック駆除ソフト等である。購入パソコンの導入教育は1年生必修の授業である「コンピュータ演習」の初めの数回を使って行っている。入力速度を上げて効率よく使えるようにするためと、OA病から目を保護するために、タイプ練習ソフトを使用してブラインドタッチもマスターさせている。自宅でも練習できるため、1ヶ月後の実地試験では毎年、約8割の学生がマスターしている。この割合も自宅で毎日、練習できる環境がないと達成が難しい。また各種学習ソフトの方は、週に1回のコンピュータの授業ではなかなか全員が理解するところまでいかないために、それを補うための自学自習ソフトである。OSやソフトのバージョンアップについては、費用がかかるので、それは学生の判断に任せている。


3.納入業者のサービス体制

 パソコンセットの台数がまとまった数になるので、数社で競争入札すると市場にない大幅に廉価な価格で購入することが可能である。一括払いができない場合は分割払いもできるようになっている。学生が購入したパソコンセットは学生の指定場所へ業者より直接、納品される。故障した場合は、業者の秀明大学専用窓口に学生自身で送るか、学内の売店の窓口で受け付けている。修理は1年度目は無償であるが、2年度目以降の故障に備えて希望者のみ保守契約を結んでいる。また故障時のために大学の方で貸出機を数台用意している。国際協力学部では学生全員が1年間英国に留学するが、全員パソコンを持参している。英国での故障時のサポートはメーカーの現地法人が行っている。


4.教育における活用

 全学部対象に1年次の「コンピュータ演習」(必修)でコンピュータリテラシーを教え、その他の情報科目でも使用している。情報科目には次のものがある。1)「コンピュータ概論」(必修)、2)「コンピュータ演習」(必修)、3)「コンピュータネットワーク」(必修:国際協力学部、選択:政治経済学部)、4)情報処理論、5)プログラミング、6)情報科学特講、7)データベース(国際協力学部のみ)、8)経営情報システム論(政治経済学部のみ)、9)情報数学(政治経済学部のみ)。情報以外のいくつかの科目でも使われている。ゼミによっては卒業研究や電子メールによる連絡等に活発に活用したり、合宿で全員に持参させている。2年次以降の全科目のレポートと卒業論文はパソコンで作成して提出することを義務づけている。コンピュータ教育、情報教育という点では当然ながら大変大きな効果がある。ほぼ毎年、国の情報処理技術者試験に合格する学生も数名いる。また、職場でパソコンの必要性を痛感している父兄も多く、子供がパソコンを習得することへの期待感が高まっている。今まで習得する機会がなかったので、この際に購入したパソコンで子供と一緒に(あるいは子供から)学ぼうという例もよくある。学生にノートパソコンを携帯させるメリットをまとめると、次のようになる。1)自宅、その他を問わず使用でき、授業だけでなく個人的なことにも使えるので確実に身に付く。手許でいつでもパソコンを使えるということが習熟するための一番の早道である。2)入学時に最新のものを購入するため、変化の激しい情報社会において最新のものを使ったり教わったりできる。大学のパソコンでは毎年入れ替えという訳にはいかない。3)ゼミや他の科目でもパソコンを使った卒業研究や授業ができる。また卒論などもパソコンを使って作成でき、書き直しが容易に何回でもできるので質を高められる。4)休講掲示などの大学の電子掲示板を自宅で見ることができ、学生サービスの向上につながる。5)変化の激しい情報化社会・知識化社会に適応できる。


5.大学側の支援体制

 学生への支援として、コンピュータセンターに学生相談窓口を設けている。また授業での更なる活用のために、センターで希望する教職員向けに講習会を随時行っている。内容はワープロ、表計算、インターネット、プレゼンテーション、Windowsなどである。課題は講習会の日時を希望者全員の希望に合わせるのが難しい点である。また高年令の教職員の低い参加率を高める方策を考える必要もある。


6.ネットワーク環境

 本学のLANに学生向けに電子掲示板が開設されており、休講掲示を自宅のパソコンで見ることができる。今後はさらに、様々なサービスを提供できるようにしていく予定である。学外からのインターネットの接続料金については、大手プロバイダに基本料金なし、完全従量制の「秀明大学特別コース」を設定してもらっており、本学の学生は低額で利用できる。接続法や利用法は「コンピュータネットワーク」の授業で行っている。また、コンピュータ実習室のLANは、教員機や学生機の画面や音声、また書画カメラやビデオ画面を中継できるようになっているが、学生のノートパソコンを接続して教員がチェックしたり、全員に中継できるようにもなっている。


7.今後の課題

 学生のレポート提出や学生への各種連絡の電子化が課題である。このためには教職員の意識改革も必要である。さらに多くの授業で学生のノートパソコンを活用できるようにするためには、教員自身がより深くコンピュータを活用できるように教員を支援していくことも重要である。また授業だけでなく日常のあらゆる面で活用できる能力を学生に得させるための方策も必要である。これらのためにはサポートスタッフの充実も欠かせない。環境面では学内LANの安全性を損なわずに、学生のパソコンを接続できる情報コンセントを設けていくことも課題である。



文責: 秀明大学国際協力学部教授
  コンピュータセンター長 宮澤 信一郎

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