体育学・スポーツ科学の教育

大阪体育大学における動作分析教育を中心とした情報処理教育


淵 本 隆 文(大阪体育大学体育学部助教授)



1.はじめに

 大阪体育大学では、学部生を対象とした情報処理教育を平成2年度に2年生の必修科目としてスタートし、平成9年度から1年生の必修科目として行っている。コンピュータは、当初からMS-DOSベースのものを用い、PC-Semiの環境で授業を行ってきたが、平成10年8月にWindows NT4.0によるネットワークを整備し、新しい環境で授業を開始したばかりである。授業内容は、ワープロ、表計算、統計処理を中心に行っており、できるだけ体育やスポーツに関連する課題やデータを取り扱うように心がけている。大学院を対象とした授業では、あらゆる分野で強力な武器として情報技術を活用できることを目的として、MS-Excel上でのVisual Basic のプログラミングを教えている。平成9年度に情報処理センターが開設し、全学生を対象とした情報処理教育の環境が一段落したところである。
 体育・スポーツの専門分野における情報技術の活用は、「動作分析法」や体育学演習(いわゆるゼミ)の中で行われている。体力測定のデータを分析したりアンケート調査の結果を解析するための統計処理、力や筋活動(筋電図)をはじめとする生体反応などのアナログデータを分析するデジタル変換処理、身体や器具の動きを動作学的、力学的に分析する画像処理などがある。ここでは、体育学で情報技術を活用した教育として特徴的な授業「画像処理(動作分析)」をとりあげて紹介する。


2.動作分析教育の目的

 動作分析教育は、体育学科にある体育科学コースの「体育学演習」で主に行われている。体育大学の学生は、ほとんどがスポーツ選手やダンサーなどである。選手やコーチは専門とする種目の成績を向上させるために切磋琢磨しているわけであるが、そのトレーニング法の根拠として動作分析の結果が強力な武器となる。近年、競技力向上のためのスポーツ科学に頻繁に取り入れられている方法である。選手は一人一人特徴を持っており、それぞれの特長に合わせたトレーニング法が必要となる。経験と勘だけに頼るのではなく、選手の特徴を客観的に捕らえる一つの方法として動作分析を教えている。


3.動作分析の手順

 動作分析の流れは図1に示した通りである。処理の対象となるデータはビデオ映像である。まず、人の動きをビデオカメラで撮影させる。3次元的な分析を行うときには2台以上のカメラで同時撮影する。授業では、通常、1秒間に60フィールドのデジタルビデオカメラを5台使用しているが、非常に早い動きを分析するときには1秒間に200フィールドの高速度デジタルビデオカメラを用いる。撮影後、テープの映像に通し番号を写し込みながらダビングをする。この通し番号は各フィールドに書き込まれるため、時間の測定が容易になるとともに、各フィールドの区別が付くようになる。この映像をテレビ画面に映し、スーパーインポーズボードを用いてパソコン画面を重ね合わせ、身体各部の座標をデジタイズする。このデジタイズシステムは5台あり、MS-DOS環境(NEC PC-9801BXなど)で構築し、ソフトはDOS-BASIC(N88-BASIC)を用いて作成した。解析ソフトもDOS-BASICで作成し、Windows3.1環境で使用している。必要に応じて随時更新を行っている。

図1 動作分析の手順

図2 一流短距離選手のスティックピクチャー

4.動作分析の内容と授業の進め方

 「体育学演習」で行う動作分析内容は、次の通りである。
  1. フォームの観察:デジタイズした座標を元にスティックピクチャー(図2)を作成し、各試技間や選手間で比較をする。
  2. 時間:フィールド数を数えることによって時間を測定する。
  3. 距離:キャリブレーションマークを撮影しておくことによって、距離を計算する。
  4. 速度と加速度:変位座標を時間で微分することによって速度や加速度を算出する。
  5. 角度、角速度、角加速度。
  6. 合成重心位置:頭、胴、腕、脚などの質量比や部分の重心位置を示す係数を利用することによって身体全体の重心位置を計算する。
  7. 関節に働く力とモーメント:部分について、力とモーメントの運動方程式を立てることによって計算する。
 学生は、まず研究計画と実験計画を立て、撮影を行う。時々、シャッタースピードやフォーカスの設定を間違えたり、キャリブレーションマークを撮影し忘れたりするが、そのときは実験をやり直しさせる。デジタイズの仕方や解析ソフトの使用方法を覚えるには時間がかかるが、覚えてしまえばどんどん分析を進めていけるようになる。しかし、解析理論については、説明してもなかなか理解できない。そこで、体育学科にある体育科学コースでは、3年生を対象に「体力・動作分析法」という授業を設け、フォームの観察、移動距離や時間の計測、速度、角度、角速度などの算出を、コンピュータは使用せず、定規、分度器、電卓、トレース用紙、グラフ用紙だけで行わせている(図1)。分析内容に多少限界はあるが、処理過程を理解させるには良い方法である。


5.問題点と今後の課題

 最大の問題点は、いつまでMS-DOSマシンの保守ができるかということである。Windows95対応のシステムがいくつか市販されており、本学にも2台設置しているが、ハードとソフトを合わせると1台200〜300万円近くになる。5台を揃えるのは容易なことではない。市販のソフトでは、解析内容に限界があり、いずれにせよ自作のソフトが必要となる。体育学演習にはTA制度がなく、操作法の説明やトラブル時の対応など大変であるが、大学院担当のTAや大学院生に時々面倒を見てもらっているのが現状である。新しいOS対応のシステム開発が今後の課題である。リテラシー教育としての情報処理教育の場合は、1名のTAが補佐する制度があり、現在の所不便は感じていない。全学的な課題としては、学部生が学内サーバを通じて電子メールを利用するシステムを作ること、情報処理センターのコンピュータの数が現在18台と少ないので、これを増やすことである。


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