情報教育と環境

神戸芸術工科大学における芸術工学と情報教育



1.はじめに

 神戸芸術工科大学は神戸市の西方、神戸研究学園都市に学校法人谷岡学園により平成元年に設立された私立では我が国で最初の芸術工学部単科大学である。
 芸術工学部は環境デザイン・工業デザイン(プロダクトデザインコース・ファッションデザインコース)・視覚情報デザインの3学科4コースから成り、平成5年には大学院芸術工学研究科も開設され、昨年度末には第1号の博士も誕生している。芸術工学においてはデザインの基礎学として専門分化したデザインを芸術と工学の融合という視点から統合を試み、モノよりコトのデザインを重視している。既存の美術大学のデザイン系よりやや工学的要素が大きいが、工学部程ではないところに特色がある。高度情報化が進行する時代に設立されたこともあって、当初より以下に示す「芸術工学の教育目標」の第一に情報教育の重視を掲げている。
  1. 情報化時代のデザイナーとして、コンピュータの本質を理解し、自在に駆使できる。
  2. デザインのすべてのプロセスを見通しつつ、単に形の造形に止まらず、その前提となる企画・調査などのプランニング能力を高める。
  3. 語学力を磨き、異文化を理解する心をもち、国際的視野でデザインを考える。
 今年度10周年を迎えた本学では、当初予測できなかった近年のネットワークの発展に対応しつつ、上記の目標を実現するため、全学を挙げて情報化に取り組もうとしている。


2.共通施設としてのコンピュータ・ラボラトリーと運用体制

 本学の情報環境の核となるコンピュータ・ラボラトリーは開学時より各学科棟とは独立に設置され、当初はIBM 5540(48台+教員卓1台)を2つの実習室に配置する構成となっていたが、平成6年度に第1実習室を更新し、SONY QuarterL30(当初Windows3.1、現在Windows95)を導入、平成10年度には第2実習室を更新し、NEC 98MATE NX (WindowsNT4.0)を導入した。
 二つの実習室ではビデオプロジェクターにより教師卓のパソコンの操作画面を提示することができる。
 コンピュータ・ラボラトリーは施設としては独立しているが、事務組織上は独立しておらず、運用管理のスタッフは当初は教務課員2名により行われていた。平成10年度より情報処理課が組織として発足し、課長以下職員4名により構成されている。
 運用の検討機関としては、平成9年度までは教育用コンピュータ利用委員会が教授会の諮問機関として設置され、各学科・コース代表をメンバーとしていた。基本的にこの委員会はコンピュータ・ラボラトリーにおける教育を対象としていたため、各学科・コースにおける専門のコンピュータ教育を検討することができなかった。
図 学内LAN構成図(平成11年3月現在)
 平成9年度にはインターネット等のネットワークの発展に対応することを目的に、教育用コンピュータ利用委員会とは独立に、情報ネットワーク委員会・ワーキングが設置され、学内LANの導入に向けて具体化の作業が始められ、同年度中に基幹LANが導入されたことに伴い、平成10年度には上記2委員会を統合して情報システム委員会・ワーキングが発足している。


3.芸術工学における情報教育の特色

 本学では開学時より基礎分野(当時は一般教育)を中心にコンピュータ教育に力を入れてきたが、何回かのカリキュラムの見直しの後、現在では概要以下のような科目が情報教育関連科目として開設されている。

(1)基礎教育

 基礎分野とは従来の一般教養科目であり、人文、社会、自然、外国語等と同様に全学科共通の基礎的科目としてデザイン基礎という領域が設定され、1年生を主として共通施設であるコンピュータ・ラボラトリーの実習室を利用して開講されている。これらの科目は履修希望者が多いため、各学科コース毎にクラス指定を行い、偏りや希望漏れ等の履修登録時の混乱を防いでいる。なお、従来はコンピュータ入門(2単位)という初心者向けの科目が開設され、新入生のほとんどが履修していたが、内容を考慮して、入学時のガイダンスに代えることとした。

(2)専門教育

 各学科・コースの専門領域に応じた以下のCAD系の科目が近年、順次開設されている。

建築CAD(2単位):GRAPHI SOFT
CAD・CG演習(2単位):MICRO STATION
アパレルCAD・テキスタイルCAD(2単位):花子・WAVE MAKER
デジタルイメージ I・II(3単位):COREL DRAW

 これらの専門科目のほとんどが前記コンピュータ・ラボラトリーの実習室で開講されており、時間割上の過密化、サーバ上の学生データの増加等、情報処理課としての対応も厳しさを増している。

(3)特色と問題点

 近年の各分野におけるデザインの情報化は急激に進行中であり、常に進化しているハード・ソフトのシステムを導入し、デザイン現場の最新の状況に対応することは大変なコストと労力を要するので、大学側の対応は困難である。また教育目標・内容・担当教員・時間割設定等、カリキュラム編成上も多くの問題を抱えているのが現状である。
 学生にとってはハード・ソフトの体験学習は出発点に過ぎず、単なるソフトの操作習得と機能理解が目的化する傾向が強いが、よりよいデザインを目指す手段に過ぎないことを充分理解させる必要がある。一旦コンピュータによるデザインプロセスを習得し始めると、分野に関わらず、コンピュータを表現ツールとする高度で独自のプレゼンテーションを求めるのがデザイン・芸術系の学生の自然な要求であるため、静止・動画像・3Dデータ・サウンド等、データ負荷の高い処理、あるいは高画質・大画面のプリント出力等、種々のトラブルの発生要因が伴うことになる。
 学生達がデザインの専門技能、特定ソフトの習得に走りがちなことは、それに伴ってコンピュータそのもの、あるいは情報システム自体に関する基本的理解不足、いわゆる一般的な意味でのコンピュータ・リテラシーが手薄になりかねないというアンバランスも懸念されるので、今後は特にネチケットをはじめとする導入時におけるリテラシー教育も充実させる必要がある。
 また、デザイン関係では従来からMacintoshユーザが根強い力をもっており、大学としてまとまった数量用意すべきソフトは就職後に標準的に使用されているMacintosh系のソフトにならざるを得ないが、各学科・コースで共有できるものを選択する必要があり、そのバージョンアップへの対応も充分検討の必要がある。


4.今後の課題

 現在、本学では平成9年度に導入した基幹LANを有効に活用するため、サーバ群の増設、セキュリティの確保をはじめとして、教職員・学生が使い易く、より充実した教育研究につながる運用体制の構築に向けて精力的に検討を重ねている。
 また、この学内LANが本学情報環境の横の梁とすれば、それを支える縦の柱に相当するのが、各学科コースにおけるコンピュータを利用した専門的なデザイン教育のための設備であり、従来その実現が必ずしも充分でなかったこともあり、私学としての財政が厳しくなる時代において、全学的な情報化の再検討を迫られている状況である。



文責: 神戸芸術工科大学芸術工学部教授
  情報システム委員会委員長 中村 茂

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