私情協ニュース2


委員会報告

会計情報教育における情報メディアの活用とその実情

―アンケート調査結果の概要報告を中心にして―



1.はじめに

 近年のコンピュータを中核とする情報メディアの驚異的発展を踏まえて、当委員会では、21世紀における会計情報教育の可能性を模索しようとするプロジェクトをスタートさせた。「情報メディアと会計の統合問題」は、将来の会計教育におけるカリキュラムや教育方法のあり方に重要な影響を与えることは明らかであり、多くの教育・研究者の英知を集結する必要があると思われる。
 そこで、その端緒として日本会計研究学会第57回大会において、自由論題ミニテーマとして「情報メディアを活用した会計教育」という二つのセッションが開催され、深い関心を持って参加した会員に対して予備的なアンケートを実施した。このアンケートでは「情報メディアを使った会計教育の経験の有無やその内容」について簡単に回答いただき、会計教育分野における研究・教育者の全国的なネットワーク構築の可能性について検討した。
 さらに情報メディアによる会計教育の経験を持っている研究・教育者に対して、次のような再アンケートをお願いし、概略的ながら調査結果を得た。本稿はこの調査結果の概要を公表するとともに、そこから見出される会計情報教育における情報メディア活用の実情について考察することを目的にしている。


2.調査および調査結果の概要

 再アンケート調査の概要は次のようなものである。自由記入部分を多くした調査表を発送し、以下のような調査結果を得た。

(1)調査

期 間: 平成10年10月1日〜11月30日
対象数: 53通郵送。回収は31件(回収率 58.5%)
目 的: 21世紀における会計情報教育の可能性を模索するための現状の把握とその分析。さらに、将来の教育担当者(日本国内、国際間)のネットワークの構築の検討。
利用法: 当面、分析結果をアンケート回答者間で共有し、近い将来インターネット上等で公開予定。(アンケートの公開を望まない人については、公開不可についても訊ねている。)

(2)調査結果

 情報メディアを活用している授業科目を中心にして訊ねた結果、現在進行している授業科目を挙げて回答した教員が26名、授業科目の総数としては43科目であった。代表的な科目としては、コンピュータ会計、会計情報論、会計情報システムなどの科目が多く、簿記論、会計学、原価計算などのオーソドックスな科目は少なかった。
 受講生数については、100名以上の講義が9科目あり、その他は実習が可能な40名程度の講義が多かった。配当年次については、1年から4年まですべての学年の学生が受講できる科目が6科目あったが、1年から2年までの前半の学年で受講する科目が16科目、3年から4年の後半の学年で受講する科目が21科目であった。
 活用している情報メディアとしては、複数回答で挙げてもらったところ、市販のアプリケーションを活用している科目が33科目とかなり多かった。その他に、教員が自製したプログラムの活用とインターネットによる資料の活用が15科目ずつあった。
 また、複数の情報メディア(例えばインターネットによる資料と市販のアプリケーションによる加工など)を活用している科目も見られた。
 利用環境については、パソコンがすべての科目で利用されており、ワークステーションとの併用も7科目あった。
 最後にこうした講義に対する支援体制について質問したところ、多くの大学に存在する情報センター等の部門による支援を挙げる教員が17名いた反面で、全く支援がなく独自に行っている教員も6名も存在していた。また恵まれた支援体制としては、予算補助や院生等による支援を挙げた教員7名ほどあった。


3.おわりに−アンケート結果からの考察

 以上のような調査結果から次のようなことが考えられる。
  1. アンケートからは、マルチメディアを利用した会計教育に関しては、各教員が手探りで対応している姿が浮かんでくる。
  2. 大学や学部という組織的対応より、個人的レベルでの対応が主で、その意味では各教員の会計情報教育に関する意識や能力に相当依存している状況が推察される。
  3. しかも、財政的な面や人的支援の乏しい中で、各教員がいろいろと模索し、新しいものに挑戦している姿が浮かんでくる。
  4. 内容面では、データを会計情報にいかに加工するかに主眼を置く教育(会計情報加工型教育)と、既存の情報をいかに収集・分析し、判断を下すかに主眼を置く教育(会計情報利用型教育)とに大別される。
  5. マルチメディアを利用した会計教育の失敗、反省例もあり、新しいことに取り組む場合の難しさを示したケースもあった。また、このような教育に会議の意見を呈する教員もいた。
  6. 利用している講義科目名では、いわゆる伝統的な「簿記原理」とか「会計学」といった授業よりも、演習のような少人数科目での授業や「会計情報論」などの比較的新しい科目での実験が多く見られた。
  7. 全体的にネットワーク活用が遅れている印象があった。
 本委員会において上記の考察をさらに深めるため、現在検討が進められているところである。


会計学情報教育研究委員

委員長 明治学院大学 経済学部教授 高松 正昭
委 員 東北学院大学 経済学部教授 大森 國利
千葉経済大学 経済学部教授 阿部 錠輔
中央学院大学 商学部長 椎名 市郎
東京情報大学 経営情報学部助教授 武井 敦夫
名古屋学院大学 商学部教授 岸田 賢次
関西大学 総合情報学部教授 黒葛 裕之
関西学院大学 商学部助教授 木本 圭一
甲南大学 経営学部教授 河崎 照行
九州産業大学 経営学部助教授 金川 一夫
日本大学短期大学部 商経学科教授 白川 良典


 


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