情報教育と環境


情報教育の環境と教育の情報環境の統合

東京工科大学における全学情報基盤整備



1.はじめに

 東京工科大学は、1986年に工学部の単科大学として発足した。電子工学科、情報工学科、機械制御工学科の3学科でスタートし、1994年に情報通信工学科を加えた4学科体制となった。発足当初より、情報教育、コンピュータ教育重視を標榜し、インターネットに関してもWIDEの八王子NOCとして先進的な取り組みを行ってきた。1999年4月にメディア学部を開設し2学部体制となり、理工系総合大学としての歩みが始まった。メディア学部開設を機に、情報教育環境と教育の情報環境を一体化し全学情報基盤を一新する整備が行われた。整備は現在なお続けられているが、1999年3月末には基幹部分の整備を終え、運用段階に入った。ただし、ソフトやコンテンツの充実が計られ、充分に成熟したシステムとなるには、今後、長期の時が必要である。
 ここでは、新しく整備された全学情報基盤の要点を紹介する形で東京工科大学の情報教育環境を紹介する。ただし、全学情報基盤整備がメディア学部の情報環境整備と重ねて行われたことから、メディア学部に焦点を合わせた紹介となっている。全学情報基盤すべてを網羅するものではない。


2.整備の基本方針

 全学情報基盤整備は、情報教育をどうこうするというより、教育・学習環境を徹底して情報化する、メディア化するという基本方針で取り組まれた。プログラミング教育や各種演習などの情報教育にも工夫が凝らされてはいるが、充実した情報環境の中で教育を受け、学習することすべてを含めて情報環境の一環としてみるという考え方である。
 全学情報基盤の基本コンセプトは次の3点に集約される。  基本コンセプトに基づき全学情報基盤の整備作業が以下の要点に留意しつつ進められた。
  1. 全システムをトータルに設計し、構築し、運用する。
  2. 工学部、メディア学部、事務局それぞれが互いに共通に使用する部分、それぞれが専用に使用する部分、それらがそれぞれの目的に合い、互いに有機的に連携するよう計画・整備する。
  3. 無理のない限り共同利用、共有化を進め、無駄を省き、経済的な整備・運用が計れるようにする。
  4. 効果的な利用・運用が計れるよう、十分な要員の確保とスペースの適切な配分を行う。
  5. 長期計画のもとに、十分な維持費用を確保し、適切な更新計画を用意する。
  6. 既存の設備の有効利用を進め、また、既存設備からの移行手順を明確にする。
  7. 新規に開発すべきソフトウェア、コンテンツを明確にし、必要な経費を確保する。
  8. 教職員のトレーニングコースを設け、全員が必要な技能を習得できるようにする。


3.ノートPCとギガビットイーサーネット

 メディア学部の全学生は、学習ツールとしてノートPCが必携である。東芝DynaBook SS3300(モバイルPentiumII266MHz、64MB主メモリ、6.4GBハードディスク、11.3型TFTカラー液晶、LANカード等)にWindows98、MS-Officeスタンダードをのせた機種を大学推奨とし、大学特別価格でブックストアで購入できるようにした。メディア学部新入生480名のうち約90%が推奨機を購入し、残りの学生はすでに所持していたノートPCを利用するという状態である。現在、「コンピュータ操作演習」を通してリテラシー教育を行っているが、学生達は意欲的に取り組み、評判は上々である。DynaBook SS3300はB5サブノート型であり、モバイルスタイルでの利用が行える。キャンパス内モバイルはもとより、自宅とキャンパス間のモバイルも可能であり、いずれ、学生達が新しい利用スタイルを工夫してくれるものと期待している。しかも、メインマシンとしても使える性能を持っており、各種演習も可能なものはこのノートPCを用いて行う予定である。
 ノートPCをモバイルコンピュータとして、また、ネットワークコンピュータとして効果的に機能させるためには、ネットワーク環境の充実が必要である。情報基盤整備の最重要課題のひとつとして、バックボーンをギガビットイーサーネットに一新させた。そして、教室、研究室、図書館などあらゆるところから自由にLAN接続を行うことができるようにし、大量のマルチメディアデータの転送にも対応できるようにした。新しく情報ネットワークセンターを設け、ネットワークの運用機能を充実させ、各種サーバを集中管理し効率良く多様な利用に対応できるようにした。インターネットとの接続も現在はWIDEだけであるが、本年10月には他の商用ISPの回線も利用できるよう作業を進めている。教職員・学生による自宅や外部からのダイアルアップ接続利用の急増に対応するためINS1500を2回線増設した。


4.サイバー教室とメディアロビー

 ノートPCを携帯した学生達がネットワーク環境に結ばれて、授業を受け、自学自習し、そして、友と語らい遊ぶ、そのための場を随所に設けねばならない。そのような場の一つが大小あわせて14ヶ所に設けられたサイバー教室である。聴講席すべてに情報コンセントと電源コンセントが設けられている。高速のLANを通じて、すべての学生達のノートPCと教師のノートPCがセンターに置かれたサーバにつながる。教師と学生達はLANとサーバというパスで結ばれる。そして、液晶プロジェクターやAV機器によって強化された直接のコミュニケーションというもう一つのパスによっても結ばれている。この二つのパスはPCの画面をプロジェクターで投影する機能によって一体のものとなる。教室は、授業時間以外は学生達に開放されている。サイバー教室を代表するのが480席を擁するメディアホールの大教室である。
 学生達がそれぞれのスタイルで学び、楽しむ場が図書館棟に設けられたメディアロビーと図書閲覧室である。メディアロビーのカウンターでは、CD-ROMドライブやMOドライブなどの機器を借りたり、高機能なマルチメディアPCを利用したり、色々な相談にのってもらったりすることができる。貸出機器には無線LANカードがあり、図書閲覧室ではノートPCを無線LANに接続することができる。


5.教育・学習支援ソフトやコンテンツの開発

 目的としたサイバー教室やメディアロビーの機能を実現するには、教育・学習支援ソフトやコンテンツの開発、整備が必要である。これには、教員達の教育現場に密着した着実な努力が不可欠である。また、これらの努力を蓄積し、互いの研鑚を交流し合っていくためのプラットホームが必要である。現在、これらに関わる計画の実行に着手したところである。プラットホームとしてはNTTソフトのCALsurfを第一候補として作業を進めている。
図 東京工科大学全学情報基盤


6.おわりに

 学生所有ノートPCの問題点として、ソフトの購入に関わることがある。大学が購入するサイトライセンスのソフトを学生所有のPCにインストールするわけにはいかない。学生は、教科書と同じように自前で購入することが求められる。教科書は数千円であるが、ソフトはアカデミックプライスでもかなりの負担になる。そこで、在学中という期限付きの使用権、いくつかの機能を使えなくした学習用バージョンなどの方法で教科書並みの値段にして頂きたいものである。
 オールインワン型のノートPCは省スペースPCとして世の中に完全に定着したといってよいであろう。しかし、日本独特ともいえるB5サブノートのようなモバイル型ノートPCは、まだ位置づけが揺れている。キャンパスPC、PC文具として大学教育を手始めとした教育現場で使われ、独自の位置づけを見出していくことになるのではなかろうか。そのためにもソフトの購入条件の改善が急がれる。



文責: 東京工科大学メディア学部教授
  全学情報基盤整備委員会委員長
横井 俊夫

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