社団法人私立大学情報教育協会

平成16年度第3回物理学教育IT活用研究委員会議事概要

T.日時:平成16年11月27日(土)午後4時から午後6時まで

U.場所:私情協事務局会議室

V.出席者:藤原委員長、川畑副委員長、松浦、満田、志田、徐各委員、

井端事務局長、木田

W.検討事項

1. 報告書のテーマについて

 川畑副委員長、松浦、満田、徐各委員より、18年度発刊予定の報告書における授業モデル(素案)について報告いただいた。なお、授業モデルは大きく講義と実験の2分野に分け、それぞれ松浦・徐委員、川畑副委員長・満田委員が担当する。

(1)松浦委員

 講義でのIT活用モデル、特にe-Learningを導入する際に注視すべきポイントを取りまとめた。

○全体的な方向付け

基本的なポリシーとして、対面授業の充実化を図ることを目的とする。e-Learningはあくまでも対面授業の効果増進を図るために利用する。

○ ブレンディング教育でのデザイン

対面授業とe-Learningのブレンディング教育のパターンとしては、以下の3つを挙げることができる。

  1. e-Learningは対面授業の予復習や課題の提示、解答収集
  2. e-Learningは一般的な学習+対面授業の予復習
  3. e-Learningは授業のノウハウのオンライン化、対面とWebで特徴ある教育ノウハウを反復する。

ただし、3については高度な教育技法を持つ教員でないと難しい。

○ 学習動機の維持・増進

e-Learningは学習動機の維持が難しいので、動機の維持及び増進させる仕組みがなくてはならない。そのためには学生の内的動機を向上させる面白いコンテンツの準備、あるいは成績評価を伴う外的要因が必要である。

○Webの特徴を生かしたコンテンツ

テキストのように始めから最後まで読み通さないと理解できない線的な構成ではなく、躓いたら即時に後戻りできたり好きなところに飛べるネットワーク的な構成が必要である。また、わかりやすさと興味を惹くための動的表現、コンテンツに対する学習者のフィードバックも考慮しなければならない。

○ 学習者全体の活動の見える学習の場

手法としては、学習者全体の理解状況で、個人の理解度の位置を示すことと、同時にログインしている人の活動を意識させる仕組みが考えられる。後者は特にプロジェクト学習で効果的である。

○ 学習目標の設定とその支援

LMSの利点として、中長期的な学習目標の設定と達成度を表示できることが挙げられるが、途中で中弛みしてしまう学習者も現れるので、学習履歴に応じて目標やスケジュールを修正できる機能も必要である。

○ ドリルによるe-Learningの流れと対面指導の流れとの接合

予備知識の伝達のためにe-Learning、自ら思考させるために対面授業と切り分けると、両者の間に内容及び展開のズレが生じる。それを補うための仕組みとして、予習復習ドリルが必要である。予習ドリルでは、学習内容に興味を持たせるコンテンツ、復習ドリルでは理解の定着を促すヒントを繰り出すコンテンツが必要であろう。

上記提案について意見交換したところ、下記の旨の意見があった。

  • この提案では事前事後学習を想定したe-Learning導入モデルであるが、対面授業の中での活用方法について何か考えはあるか。

    ⇒インタラクティブな仕組みを備えている点で、対面授業中でも用いるモデルを考えることはできる。しかし、やはりPCルームで授業を実施しても臨場感が出ないので、現在は実験室で講義を行っている。

  • 予習や課題を提示した場合、その回収・分析方法についてはどのように考えているか。

    ⇒現在試みているのは、紙ベースの記述と回収である。Webベースで予習を課した場合、計算問題などであれば自動採点も可能であるが、記述式の問題について言えば、紙同様目視する必要がある。

(2)徐委員

IT活用の具体的モデルを検討する前に、現在の物理教育に関する問題点を整理し、問題解決のための教育方法を吟味する必要がある。

 まず、佐藤学氏によると、初等中等教育について下記のような問題点と改善策が提起されている。

  1. 学力は個性でよいか。
  2. ドリル学によって基礎学力は定着するか。
  3. それは新しい時代の要請に応えるか。
  4. 習熟度別学習指導は落ちこぼれた学生に教育効果があるか。

    ⇒いずれも効果の無いことが教育学での常識であり、欧米でも採用されない。
  5. 学習結果と学習能力。 ⇒到達度は必ずしも低下していない。
  6. 学びによる到達の低下は、学校で教える内容の低下に結果。
  7. 基礎的な知識や技能は、反復学習のドリルによる習得ではなく、経験を通して機能的に習得。
  8. 学力は基礎から上に積み上げて形成されるのではなく、逆に上から引き上げられて形成されていく。
  9. 全員が100点を取ることを目指す教育は失敗する。
  10. 成績は正規分布する。山を右へ、幅を狭めることを目指す教育
  11. 低学力の子供ほど一人で解決しようとする傾向がある。
  12. プロジェクト型学習とプログラム学習。
  13. 構成主義学習観
  14. 何ができるようになったかではなく、学習するという経験、学習のプロセス自身に価値がある。 

以上の状況を踏まえた上で物理教育の問題点を考えると、週1コマの時間割は、学生の教育効果を思案した結果ではなく、単に効率性に基づいた編成であり、このことから抜本的に改革する必要がある。また、科学は全て実験科学であるから、演示実験、学生実験のできる環境を整備する必要がある。

具体的に問題解決するためには、物理のリアリティ、経験を重視する前提のもとに、協調学習を通じた学力の底上げが必要である。そのために、例えばITを活用した協同学習空間の提供、物理の基礎学力をチェックするためのe-Learningサイトを準備する必要があろう。

理想的な授業パターンとしては、「導入用演示実験、シミュレーション→講義→身近な例→演習→まとめ」というように、経験と理論を絶えず照合するような進行が必要である。

次に、川畑委員、満田委員より、それぞれ実験におけるITを活用した授業モデル案について報告いただいた。

(3)川畑委員

ここでは、一年生を対象とした物理学実験を対象とした、事前学習のためのIT活用モデルを報告する。学生に対して実験の予習レポートを課しているが、テキストの丸写しが横行しており、内容を理解しないまま実験に取り組み、実験後のレポートで初めてその意義に気付くケースが多い。そこで、事前に実験内容及び手法を把握させるための教材として、Web上にvirtual Laboratoryを構築した。具体的には、テキストと同内容の文章をhtml化したものと、実験の様子を収録した動画から構成されている。現在は偏光、マリュ―の定理など一部のコンテンツが完成しているが、他の実験テーマのコンテンツも鋭意製作中である。

上記報告について、下記の旨の意見交換がなされた。

  • 例えば社会での適応例についても同時掲載すれば、学生の理解度はより増すのではないか。

→例えば偏光であれば、携帯電話での応用例などを紹介することにより、学生の興味を惹くことに成功している。身近な応用例を提示することは、学生の動機付けに有効である。

  • 予習レポートや課題についても、Web上から提出可能にすればより学生の進捗を確認することが可能では無いか。

→ 現在は準備していないが、今後検討したい。

(4)満田委員

2年次以降の学生実験は、実験テーマに従って複数の小グループが同時並行して実験行うため、学生が実験の手順に疑問を持った時などはTAの対応が困難である。そのため、実験の一連の流れを確認できるVOD型実験システムを開発した。

 実験の手順に関する教材は、テキストベースよりも視覚的効果に訴えた方が学生の理解を促進する。また、Webベースで閲覧可能にすることで、事前、事後、また実験の最中でも逐次操作方法を確認することができる。そのため、学生がTAを呼ぶ頻度も減少した。

 しかしコンテンツの容量が5GB近くあることから、自宅で閲覧する場合には広帯域のネットワーク接続でないと困難なことが欠点である。

(5)今後の方針

事務局より、中教審大学分科会の「我が国の高等教育の将来像(中間報告)」において、学問分野別のコア・カリキュラムの作成が謳われたことに伴い、18年度の報告書においてもコア・カリキュラムを意識して、それぞれの授業の教育目標と、目標達成に向けた学習方略としてのIT活用方法を提案いただきたいとの説明があった。

それに基づき、次回委員会では、今回の報告内容に教育目標を設定した上で、その実現に向けた授業モデルを各委員より報告いただくこととした。なお、授業モデルの主たる対象学年は,初年度の物理学講義及び物理学実験とするが、教養課程・専門課程の厳密な棲み分けにはこだわらないこととした。

なお、担当未定であった志田委員には、物理学講義における授業モデルについて担当いただくこととした。