社団法人私立大学情報教育協会
平成17 年度第2 回物理学教育IT 活用研究委員会議事概要

T.日時:平成17 年7 月28 日(木)午後2時より午後4時まで

U.場所:私情協事務局会議室

V.出席者:藤原委員長、松浦、満田、徐、太田、藤原各委員、井端事務局長、木田

W.検討事項

1.新委員の紹介
本年度より、太田雅久甲南大学教授、藤原勉九州東海大学助教授、寺田貢福岡大学教授が委員に就任されたが、今回太田委員、藤原委員が出席されたことに伴い、それぞれ自己紹介がなされた。

2.報告書の授業モデルについて
はじめに、藤原委員長よりこれまでの経緯について、下記の旨の説明がなされた。学系別教育IT 活用研究委員会(全18 委員会)では、平成18 年度11 月に研究成果を集成した報告書の発刊を予定している。本委員会では、対面授業、実験実習におけるIT 活用モデルを二事例ずつ紹介することにしているが、IT 活用はあくまでも対面授業の補完手段であることを共通認識として形成し、具体的に授業中での理解度補足や学生の学習意欲の持続、向上のための事例を検討してきた。今回は、松浦委員、徐委員より対面授業におけるIT 活用モデル、満田委員より実験におけるIT 活用モデルについて中間報告いただくことにしている。

次に、松浦委員より、授業モデル「ニュートンの運動の第1 法則−慣性の法則−」についての中間報告がなされた。まず、本モデルの講義レベル、講義の範囲、講義の目標、必要な教室設備について説明がなされた。詳細は下記の通りである。

講義レベル:
教養、導入、基礎教育(受講者の多様性を前提とする)

講義全体の範囲:
力学 (物理量の取り扱い、ベクトルの基礎、運動、ニュートンの運動の法則、仕事とエネルギー、運動量)

講義全体の目標:
物理的な関係式の基本的な取り扱い、数量の扱い方の習得。基本的な自然法則を理解し、それに基づいて現実の現象を説明できる。仕事、エネルギーなどの概念の理解。

教室設備のモデル:
黒板(もしくは白板、手書き入力のできるタブレットPC を表示するスクリーン)、演示実験可能な教卓やスペースと大教室の場合はそれを映写する装置、学生の手元PC(ここではコンピュータルームを活用した授業モデルを考えるが、実験室や通常教室であればネットワーク利用の部分を除けば実施可能なモデルとする)。


次に、実際の授業運営に関するモデルについて説明がなされた。松浦委員は、前回の委員会までは対面授業前後のe-Learning 活用モデルについて検討されてきたが、今回は対面授業にもe-Learning を導入し、授業時間内外全てにおいてe-Learning を活用した授業モデルとして刷新いただいた。

授業前のe-Learning では、予習のために講義内容の概要や資料を学生に読ませ、さらに小ドリルや質問を送信させる。ドリルの成績や質問内容は成績に加味しない。

対面授業のe-Learning では、マルチユーザー機能を活用して教員・学生をオンライン上の特定の空間に集合させ、授業の導入部や項目ごとに質問を投げかけ、即時に回答させる。なお、回答の正誤は成績に加味しないが、学生の回答状況や動きが全て画面上で表示される。また演示実験を行う場合には、実験前に予想を送信させ、集計表示後に実験を実施する。ここでも予想を成績に反映することはない。最後に、実験を関する記述式の小テストを実施する。この小テストは成績評価に反映するもので、解説はe-Learning システムに掲載する。小テストは個別に添削して返却できればなお良い。

授業後のe-Learnig では、復習のためのドリル問題を解かせ、さらに学生個々のレベルに合わせた他の項目の学習や既習科目の復習を課す。これらの実施状況も成績に加味する。学生には自己の学習履歴を閲覧できるようにするほか、受講生全体の学習活動状況も表示する。

以上の説明について、下記の旨の質疑応答がなされた。

Q1.マルチユーザー機能を具体的にどのように物理科目に応用するのか。

A1.授業中ある一人の学生を指して質問に対する回答を求めても、指されなかった他の学生は他人事のようにその場を過ごしてしまう傾向が強い。それ故、画面上に質問と選択肢を表示して個々の学生に回答を選択させ、さらにその回答状況を誰からも閲覧できるようにすることで、授業へ参加していることの意識を強めることができるのではないか。

Q2.その場合、例えば学生がある回答を選択した理由なども共有することは可能か。

A2.メッセージの書き込み表示機能を備えているので可能である。メッセージの送信は、参加者全員に送信することも教員や特定の学生のみに送信することも可能である。ただし、学生は恥ずかしがって参加者全員に対してメッセージを送りたがらない。

Q3.演示実験を行う場合、実物を提示して実際に行うこととビデオの映像を見せること、いずれに効果があると思うか。

A3.やはり実際に実験をした方が効果を望むことができると思うが、授業時間の制約上、実験の失敗が許されず現実的に難しい側面もある。また昨今の学生は実験を見せてもあまり関心を示さない傾向が強く、このような状況を踏まえるとビデオでも構わないのではないか。

Q4.対面授業の中にe-learning を持ち込んだ最大のメリットは端的にどのようなことを挙げることができるか。
A4.授業中に学生の考えることをデータ化して集計表示する機能を挙げることができる。マルチユーザー機能を用いることによって、教室で単に物理的に一緒にいるだけではなく、情報の遣り取りを可視化することによって授業に参加していることへの意識付けが高まることが期待できる。

その他に、教育目標をより明確にすべきである、との意見もあった。

次に徐委員より、「Reality のある物理学教育のために」と題して、対面授業とe-Learning のブレンディング授業モデルを報告いただいた。

ここでの授業科目は「力学」とされ、教育目標は「科学は全て実験科学であるという理解に則り、力学の基本法則を理解する。力学の基本法則の理解を通して、自然現象は基本法則によって支配されており、基本法則は普遍的で例外がないことを認識する」ことが掲げられている。より具体的な到達目標は、力学の基本法則を説明できること、単純な力学現象の運動方程式を書き下せること、放物体、単振動の運動方程式を解き、解の物理的意味を説明できること、念力、テレポーテーションなどの超能力が力学の基本法則に反することを説明できることが挙げられている。

授業の一連の流れを示す授業モデルとしては、下記の順序が提示された。

導入用演示実験またはシミュレーション→ 講義→ 例題→ 身近な具体例→ まとめ → 演習

→ 復習と確認のためのe-Learning、掲示板を活用した質疑応答フォーラム

 

さらに、より具体的な授業サンプルとして、「力積」をテーマとした授業をモデルに適応した例を紹介いただいた。また、松浦委員の授業モデルと比較して、e-Learning システムの活用方法が重複していることから、相違点を明確にするため徐委員より、授業サンプルの豊富化と学生アンケートを実施することが提案された。

以上の説明について、下記の旨の質疑応答がなされた。

Q1.この授業の対象学年は何年生であるか。
A1.1 年生を対象としている。

Q2.授業モデルの内容が豊富であり、果たして90 分の授業で全て網羅することができるか疑問である。読者の参考に資するためにも、より現実的な時間配分に沿って授業モデルを見直したほうが良いのではないか。
A2.徐委員自身は90 分内の授業で全て網羅することができるが、指摘の通りより汎用的な授業モデルを紹介するためにも、今一度時間配分は検討する。

最後に、徐委員より講義自動収録システムを導入し授業録画を計画していることから、可能であれば実際の授業をサンプルとして公開しても良いとの説明がなされた。

次に、満田委員より、「学生物理学実験におけるVOD 型テキストの導入と抗議携帯授業との連携強化」について報告がなされた。はじめに本授業モデルの趣旨について、下記の旨の説明がなされた。

昨今物理現象のオンデマンド映像による疑似体験を併用して対面授業の充実を図る試みが増えており、実際に高い教育効果を生み出しているが、一方で学生自身が実際に装置を触れ物理現象を実体験する学生実験は、秀逸な疑似体験によって置き換えられ存在意義が薄れてしまう懸念もある。しかし、教育の質の高度化を図るためには「教員が教える授業」から「学生自身が学ぶ授業」へとシフトチェンジすることが求められおり、学生実験は学生自身が主体的に物理現象を体感し理解を深めていくことから、まさに「学生自身が学ぶ授業」の典型的なモデルであり、その必要性は今後ますます増大していくであろう。

次に、VOD 型テキストの内容について以下の説明がなされた。

このコンテンツは、解説者が自ら装置を動かしながら実験の意義、原理、ポイントを解説したものを撮影し、編集したのちモジュール化した10 分程度のミニ講義の体裁をとっている。数十秒程度の動画を多用して、実験の手順を示しながら時系列に質問を投げかけ、学生に自ら考えさせるよう誘導している。

さらに、これは学内の実験室のみならず、自宅や大学のPC ルームから閲覧することも可能であることから、予習復習のために用いることもできる。

東京理科大学の学生実験では、学生が複数のグループに分かれ並行して実験を実施しているが、TA 等の人的資源が少ないため、学生が実験の手順に対して疑問が生じても個別に指導することが困難である。しかし、実験室からVOD テキストを閲覧することができれば、学生は疑問が生じた都度即座に確認することが可能となり、効果的であると言える。

以上の説明に対して、下記の旨の意見があった。

・ VOD 教材を実際の実験時に活用アイデアは興味深いが、さらに学生が理論的な背景を火解析することができるようなコンテンツも準備でき ればより効果的であると思われる。
・ ファイルサイズが大きいため、ネットワーク環境によってはスムーズなストリーミングができなくなることが欠点である。しかし、帯域を考慮し てファイルサイズを小さくすると、今度は画質の劣化が生じて肝心な場面がぼやけてしまい、どちらを優先すべきかジレンマがある。
・ 趣旨において学生の主体的な学ぶことを強調されていたが、文部科学省の高等教育政策例えば特色GP のテーマとも連関性が強く、さら に大学間の横の繋がりを強めることでは目的が共通しているころから、報告書にまとめる際にはそのことに言及しても良いのではないか。

以上、次回委員会では、今回の意見を踏まえ、報告書執筆を担当されている委員より草稿を提出いただくこととした。