社団法人私立大学情報教育協会
平成16年度第3回英語教育IT活用研究委員会議事概要

Ⅰ.日時:平成16年9月11日(土)午後2時から午後4時まで

Ⅱ.場所:私情協事務局会議室

Ⅲ.出席者:北出委員長、安間副委員長、鈴木、小林、原田、山本、ルースベン=スチュワート、淡路、田中各委員、
        井端事務局長、木田

Ⅳ.検討事項

1. 鈴木委員による授業事例紹介

鈴木委員より、東海大学教育開発研究所のおけるマルチメディア対応教育支援システムの開発プロジェクトについて報告された。このプロジェクトは、私立大学教育高度化推進特別経費から研究助成金を得て、英語教育におけるIT活用(e-Learning)とコミュニケーション促進を目的としたものであり、2000年~2003年の間に実施された。

東海大学教育開発研究所では、主に初等中等教育における教育改革を目的としているが、付属大学、短期大学、高校数の多いことから中等教育~高等教育の英語教育を一貫させるため、また大学ではリメディアル教材として使用するために支援システムの開発に至った。

これまでの従来の教育方法は、教員の一方通行であり、また教育方法の改善に関して言えば、主に教員どのように教えるかということに焦点が絞られていたが、鈴木委員は学生中心の教育、つまり学生が自律的に学習するため教員は如何に学生をサポートすべきか、という思想をシステム開発の主眼に置いた。そのために、まず授業中の教員による講義を減らしたが、知識伝達についてはCALLで補充し、ICT(Information Communication Technology)を活用して学生自身にコミュニケーションを促進することに務めた。

次にCALL教材について説明がされた。この教材は、Flashを用いたCD-ROM教材であり、構成としては情報が多層化され、学習者が自分の好きなところを好きな時に学習することが可能である。コンテンツは、男女二人の会話に基づき、内容、構文理解することを目的としているが、好きなタイミングで英文テキスト表示したり、日本語訳を聞いたり、発音の練習のために学習者自身の音声を録音することが可能である。また、クイズ機能も付属しているが、学内で使用する場合にはLAN経由で学習者個々の得点がサーバーに送信されるため、理解度の把握が可能となる。さらにはフォーラム機能、教員に対する質問も送信することができる。

次にWeb上の仮想クラスについて説明がされた。このクラスは、Cgiスクリプトを用いて作成され、授業日誌、質問コーナー、アンケート、リンク集、宿題、練習問題テスト、ディスカッション機能がある。例えばディスカッション機能は、普段発言の少ない学生も積極的に書き込むケースが見られるが、放っておくと学習に関係の無い勝手な議論を始めてしまうため、教員が逐次介入することにしている。また、学生に対してだけではなく、付属高校、中学の教員の研修課題としても活用している。

以上の説明に対して、下記の質問がなされた。

Q:学生は自宅からもCALL教材にアクセスすることはできるか。

A:認証を済ませばアクセスすることは可能である。ただし、音声録画は学内のみ保存可能である。

Q:学生の自立的学習を教員が支援するためには、チームティーチングを必要と思われるが、どのように実施されているか。

A:中高向けの職員研修でも、チームティーチングの必要性を説いている。実際に、CALL教材を作成するには、そのためのマテリアル数も膨大となり、とても教員一人の手に負えるレベルではないため、教員間でオンライン上でコンテンツを共有する必要がある。しかしながら、現状では、教員が個人個人で個別に教材を作成してしまい、必ずしもチームティーチングが確立しているとはいえない。

Q:この教材を使用するための講習会等は実施しているのか。

A:職員研修の一環で使用方法も説明している。40代以下の教員は1回説明すれば操作手順を覚えるが、年齢層が高くなるにつれ、習得に時間が掛かる。また、現在は研究所内のサーバーで運営しているため、使用者数も限定されているが、今後湘南キャンパスのサーバーにデータを移行する予定であり、それと同時に使用者数も増加することが見込まれる。

2.淡路委員による授業事例紹介

淡路委員より、Contents Management Systemの「Xoops」を活用した授業事例を報告いただいた。

Xoopsとは、モジュール化されたBBS、リンク集等を統合したシステムであり、サーバー環境として、Linux、Apache、MySQL、PHPを要する。インストールはサーバーにパッケージをアップロードすれば、ブラウザ上で可能となる。また、使用モジュールや画面レイアウト、ユーザー登録、モジュール別のアクセス権限も、管理者が自由に設定可能である。

具体的には、プロジェクトベースの授業である「情報英語」において活用しているが、この授業では授業時間外にschMOOze univarsity(http://schmooze.hunter.cuny.edu/)にアクセスさせ、英語によるコミュニケーション、調査等を課して、その成果や進捗をXoopsを用いて報告させている。対面授業は週1回実施しているが、そこでは通常の講義ではなく、学生のschMOOze univarsityでの学習方法についてコンサルティングしている。

以上の質問に対して、下記の質問がなされた。

Q:Xoops自体のアップデートの頻度はどの程度であるか。

A:マイナーなアップデートは頻繁にあるが、重要なアップデート(セキュリティ関係)は2003年には2度あった。

Q:情報英語の授業コンセプトはどのように学生に提示しているか。

A:この授業は2年生以上の選択科目であり、シラバスにも特殊な授業と記載しているが、登録する学生は殆どシラバスを読んでこないので、最初の授業で説明することにしている。

Q:hotpotatesとも連携可能なモジュールを追加することができるようだが、hotpotates内のログはサーバーに保存されるか。

A:hotpotatesとの連携モジュールは2年前に開発した。クイズの作成は、Xoops上では不可能であり、予めhotpotates上で作成したものをアップロードして、Xoops上で回答させる。回答した結果はメールで送信されるとともに、Xoopsのデータベースにも書き込まれることから、管理することは可能である。

Q:学生がXoops上でレポートを編集する際に、スペルチェッカーや辞書エンジンを付加することは可能か。

A:フォームはブラウザに組み込まれたものなので、プログラム上不可能である。

Q:このシステムは、少数の学生に対して肌理の細かい指導ができるが、学生数が多くなると教員一人の手には負えず、個別指導することは不可能となり、学生も学習意欲が低下してしまう。教員が丁寧にフィードバックを返すからこそ、学生は自主的に学習すると思われるが、学生の進捗はどのように測っているか。

A:週1回の対面授業がペースメーカーとなっている。学生の進捗に応じて、遅れている学生には学習方法をカウンセリングしたり、進んでいる学生には新しいタスクを課したりするなどの対応を執っている。

Q:学生は授業時間外にはどの程度学習しているか。

A:具体的な時間は把握していないが、学生に聞くと相当の時間を割いていると答える。例えば、一旦エンジンが掛かると延々と学習する学生もいる。

2.その他

事務局より、高等教育を取り巻く文部科学省の動向および私情協の今後の取り組みについて下記の旨の説明があった。

大学の第三者機関による評価を受けることが義務化されたように、今後社会から高等教育に対して教育の質保証が要求される。例えば、医歯薬学分野では、コア・カリキュラムにより、大学卒業までに必要とされる技能や知識、行動目標が明文化され、さらに大学間のカリキュラムの標準化が図られている。つまり、そこでは学生が大学卒業までに身に付けるべき最低限の知識・技能を担保することが要求されている。また、工学系の授業科目に対しては、JABEE(技術者教育認定機構)により、高等教育機関で実施されている技術者教育プログラムが、社会の要求水準を満たしているかを認定するために、教員、学生に対するヒアリングやテスト問題に対する審査など、シビアな評価制度が実施されており、将来的には認定を受けた大学に対して補助金が傾斜配分されるなどの措置も執られることが予想される。さらに、中教審大学分科会の高等教育の将来像(中間概要)でも、学問分野別にコア・カリキュラムを作成することが指摘されている。

学系別教育IT活用研究委員会では、18年度に報告書の上梓を予定しているが、本委員会でも大学の英語教育で保証すべき教育内容や学生の身に付けるべきスキルを整理いただいた上で、そのための手段としてITを如何に活用するかを提言いただきたい。

以上の説明に対して、下記の旨の意見があった。

  • 高等教育の多様化に伴い、中等教育においても英語教育の方向付けに困惑しているのが現状である。例えば高等教育において、コア・カリキュラムが明確化されれば、中等教育における到達目標も明確化され、さらには中等〜高等教育への橋渡しも円滑化されるのではないか。
  • コア・カリキュラムによって、学生の到達目標や行動目標が明確化されれば、本委員会でもITを活用した教育方法、必要とされるコンテンツの標準化に関する提案をより具体的に行うことが可能になると考えられる。それに従い、大学間の連携も促進されることが期待される。
  • 最終的に、大学の英語教育がどこに目標を設定し、その目標の到達のためにどのような教育を行うべきかを考えない限り、単にITを活用する事例を紹介するだけでは教員に対する影響やインパクトは薄いと思われる。
  • 英語教員であれば、誰もが学生に対して最低限身につけて欲しい知識水準を想定していると思われる。例えば、委員間だけでもそれを抽出すれば、ある程度の標準化を図ることはできるのではないか。
以上を踏まえ、次回委員会では、委員各位より、コア・カリキュラムを想定して、自身の考える教育目標と身に付けるべきスキル、またその到達のために必要と考えるコンテンツをリストアップし、それを持参いただくこととした。