社団法人私立大学情報教育協会
平成16年度第3回栄養学教育IT活用研究委員会議事概要

Ⅰ.日時:平成16年8月30日(木)午後6時から午後8時まで

Ⅱ.場所:私情協事務局会議室

Ⅲ.出席者:武藤委員長、中川、市丸、酒井、小野坂、室伏、井上各委員

      ゲストスピーカー:井上 明 氏、井端事務局長、木田

Ⅳ.検討事項

1. 臨床現場において管理栄養士に求められる技能・知識について

日清医療食品(株)より井上明氏をお迎えし、臨床現場において栄養管理士に求められる知識・技能・態度を企業の立場から提言いただいた。要旨は下記の通り。

はじめに、日清医療食品株式会社(以下日清と略)の概要について説明があった。社員数は約30000名であるが、内栄養管理士の有資格者は869名である。調理士、調理員の数が社員構成の多数を占めているが、その殆どはパートタイマーである。

外食委託の状況として、現在全国の病院の約50%は食事を外部業者に委託しているが、毎年400件ペースで委託する病院が増加しており、将来的には7割近くになることが予想される。日清では、病院に提供している食事の献立の8割を作成し、さらにその65%が標準メニューであり、35%が病院・患者の希望を考慮した個別メニューを提供している。

業務体系としては、各支店内に営業、管理、総務部門のほかに、各事業所全般の指導を担当するスーパーバイザーと各営業所の統轄責任者(例えは対顧客の窓口)であるチーフという職務があるが、管理栄養士は主にチーフを担う人材である。そのため、単に栄養指導能力だけでなく、経営管理能力、給食管理能力も求められる。

次に、顧客ニーズへの対応について説明がなされた。これまではコスト削減のために食事を委託する病院が多かったが、診療報酬の改定等により医療機関の経営が圧迫され、生き残りを図るためにサービス=患者のニーズを重視し始めたことから、食事内容にも重きを置くようになった。そこで日清としても、提供するサービスの多様化を始め、例えばフランス料理店と提携を結んだり産地直送品を調理したりなど、料理の味の工場に努めている。つまり、これまでは病院側から労務管理の一環として委託サービスが求められていたが、今後はサービスの充実、おいしい食事とその企画提案が求められている。

次に、管理栄養士に求められる具体的能力について説明がなされた。管理栄養士は先述した通り、各事業所の責任者(チーフ)を務めることが多い。具体的な業務としては、会社代表としての心構え・意識、指示の徹底、業務の報告、顧客のクレーム対応、採算管理、対人コミュニケーション、PC操作等を挙げることができる。つまり、単に栄養指導的な業務に留まらず、事業所全般業務を運営する能力が必要とされる。また、サービス業としての認識を自覚することも求められる。例えば、食事の味も調理師に任せきりにせず味見をするなど、調理技術に対する感覚や知識を磨くことが欠かせない。

最後に、業務上取り扱う電子データについて説明があった。患者の個人データは、病院側、患者の了解がない限り入手することは困難である。個人情報保護に対して病院側もデータの取扱いについてナーバスであるが、企業サイドでも社内で知りえた情報は、情報の取扱いに関する規定を設け、外部漏洩が厳禁とされている。しかしながら、教育の現場から企業に対して求めるデータなどを教示いただければ、提供を検討することは吝かではない。

    Q1:食事サービスを外注委託する病院が増えているとのことだが、外注しない病院のポリシーは?

    A1:病院の人員規模が考えられる。病院専属の調理士の方がコストが低い場合には、それを優先する病院もあるだろう。また、調理士の腕がよほど良い場合には、外注化しないということも考えられる。

    Q2:病院専属の栄養士と受託業者側の管理栄養士に摩擦は無いか。また受託業者に管理栄養士がいれば、病院の官営栄養士は必要ないのではないか。

    A2:病院に専任の管理栄養士を配属することは法律で義務付けられている。摩擦の有無は、事業者の雰囲気や管理栄養士のコミュニケーション力に左右されることが多い。またNSTはあくまでも病院側の仕事であり、企業側の管理栄養士は参与することはできないが、NSTの補助的役割を今後は担いたい。

    Q3:業務の管理栄養士には給食栄養管理的な技術が要求されているが、そのような技術を大学で教育することは難しいと思われる。そのような研修施設は整備されているのか。

    A3:通常の新人研修は勿論実施しているが、現実の仕事にギャップを感じている人も多い。経営・給食等の専門的な教育はインストラクターによる指導が行われる。また、臨床に関する研修は、将来的に病院と提携して実施したいと考えている。

    Q4::会社にいる管理栄養士は患者と対面すること機会はあるのか。

    A4:病院配膳を行っている場合には面会することはあるが、詳しく話し込むような機会はあまり無い。

    Q5:自社独自の給食管理用ソフトはあるか。

    A5:ある。日清が献立を作成している病院は自動発注、在庫管理等統合したシステムを導入している。

    Q6:電子カルテとシステムの整合性はあるのか。

    A6:ない。特に電子カルテは個人情報保護の問題で、企業が入手することは不可能である。

    Q7:管理栄養士を目指す人に対してどのような情報教育して欲しいか聞くと統計処理との回答が多いが、例えば残食量の解析等どの程度の能力を期待しているか。

    A7:統計・集計はしているが、結果の分析までには至っていない。勿論結果を病院側にも返しており、それを基にディスカッションできることが理想だが、現実には難しい。

    Q8:食事の外注委託を行っている場合、結果的に患者は皆同じメニューになってしまう。例えば患者一人ひとりのニーズに対応した献立作りなど対応されているか。

    A8:勿論一人でも多くの患者のニーズに応えたいと考えているが、現実問題として調理後2時間以内に配膳をしなければならないという制約もあり、多品種の料理を提供することは難しい。しかしながら、先述したように、他企業とのタイアップ、あるいはバイキングの実施によって、できる限り対応していきたい。

 その他意見

  • 今日のようなお話は是非大学の授業でも講演いただきたい。学生のみならず教員の意識改革、現状認識のためにも必要である。
  • 新カリキュラムでは、栄養学では医学色が強くなり、調理の側面は除外されてしまった感が強い。好むと好まざると、今後育つ管理栄養士は理系的な学生が多くなり、一層コミュニケーション力の低下や調理への無関心が浸透していくのではないか。そのため、調理の部分では外部委託が今後一層増えることが予想される。このような状況下で管理栄養士には一体何が必要なのか、企業サイドからも提案いただきたい。