社団法人私立大学情報教育協会
平成16年度第2回法律学教育IT活用研究委員会

 

T.日時:平成16年1月23日(金)午後1時30分より午後3時30分まで

U.場所:私情協事務局会議室

V.出席者:吉野委員長、野口、笠原、高嶌、中村各委員

W.検討事項

1. 今後の委員会活動内容について(自由討議)

(1)前回の議事を踏まえて

平成15年度第1回の議事概要を踏まえ、委員各位より前回の討議内容に関する補足説明や意見交換がなされた。

※今後の学部教育の目標

(ロースクール構想により、法曹家(弁護士・検事・裁判官)の数が増加すれば、彼ら以外にも法律知識を必要とされる事務職・パラリーガルも必要とされるはずである、との議論を受けて。)

  • 関西の大学では、法学部の1回生2回生を対象に法律秘書コースを結構開講しているところもあり、女子学生に人気がある。一般的には女子学生を中心にして各種法律関係の事務所で働きたいという需要はあるような印象を受ける。
  • 最近では弁護士事務所でも、弁護士1人、専任の事務職員1人がチームを組むというケースが多い。ただし、職員が法情報の調査まで行うということは殆ど無い。
  • 例えばロースクール構想から外れた司法書士は、学部生の間では未だ人気は高いが、今後どのように推移していくか。司法書士は管財の代理権を有しているため、法律相談に応じることが可能であり、その点からすれば、今後司法書士試験への需要も低くなるとは考えられず、却って学部教育の受け皿となる可能性もある。司法書士会のような団体と連携して、学生に求めるスキルのビジョンを出していただけると、学部教育として対応しやすい。

※今後の委員会活動について

(サイバーコートシステム標準化のための議論スペースの提供、サイバーコート、模擬裁判を活用した外部の法律家・社会人参画授業など)

  • ロースクールが開講された大学では、学部教育とロースクール教育の機能分担についてどういうような議論があったのか意見を収集するだけでも興味深い。
  • 外部の専門家の導入という話に関しては、今後学部でも消費者法、医事法、女性法、高齢者法等民法が細分化され、全ての分野に対して教員を割り当てることが困難である。このようなシステムがあれば大学、学生にとっても喜ばしい。

(2)教育の品質保証について

事務局より、大学、私情協を取り巻くトピックについて下記の旨の説明がなされた。

「本年度より、日本国内の全大学に対して第三者評価機関による大学評価が義務付けられることとなった。それに伴い、大学は教育内容及び輩出する学生の品質保証について真剣に考える必要がある。
  つまり、大学は学生の一人ひとりの成績や能力を着実に向上させ、社会人として相応しい能力を有した人材を輩出する責任を負っていることを自覚しなければならない。 ただし、教員個人が学生一人ひとりの成績を細かく把握することは不可能であるから、教職員が一体となって、ITを活用した学生指導体制を設ける必要がある。
  教育内容の面でも、教員の授業内容(シラバス、資料等)をWebに公開し、学生のみならず学外の社会人からの評価や意見を取り入れ、通用性を高めるような仕組みが必要である。本委員会としても教育の品質保証を念頭に入れながら、今後活動されたい。」

以上を踏まえ、中村委員より九州国際大学におけるフレッシュマンセミナーの実施とITを活用した学生の個別指導例として、ネットワークを用いた学生のプロファイルシート・データベースの取り組みが報告された。

「プロファイルシート・データベースでは、学生に将来の進路希望を入力させ、そのデータを教員間で共有している。学生の進路希望に対しては、その実現に向けたプロセスの提示や、学生個人専用のディスカッションボードを活用して、教員による進路指導がなされる。それを用いることによって、密度の高いコミュニケーションが成立するが、教員、学生のコンピュータリテラシー、また学生の志望する職種によって、提供可能な情報に格差が生じてしまうなどの問題点も挙げられる。」

 

また、高嶌委員より、下記の旨の意見がなされた。

 

「これまで学生の品質を保証するための条件として、@学生に対して手厚く個別教育する、A成果の出せない学生(専門性を発揮できない)に対して退出宣言することが考えられる。しかし、日本の私立大学の置かれた状況に鑑みると、さらに中村委員の報告にあったような、社会性の涵養も品質保証の一つの条件として追加する必要があるように思われる。またその客観的評価を如何にしていくのかということも考えなければならない。」

社会性の涵養については、その他に、教員が学生一人ひとりの社会性まで面倒を見ることができるのか、あるいは教育責任を負う必要があるのか、全学的にチューター制度を設けるなどして対処する以外に道はないのではないかとの意見があった。

(3)ロースクールと法学部の棲み分けについて

前回の委員会でも意見があったように、従来の法学部における教育目標であった法曹家の育成が、ロースクールに移行したことに伴い、今後はパラリーガルの育成という新たな目標も考えられるが、一方ではロースクールに入学して司法試験に受からなかった学生がパラリーガルになるべきであるとの意見もあり、必ずしも学部教育の到達目標が明確でないのが現状である。今後の学部教育の課題について意見交換したところ、下記のような意見があった。

高嶌委員

「法学部教育がロースクールとは独自の路線を歩むとするならば、論述能力、読解能力、表現力などの基本的教養力の習得と、それに基づいた専門知識の習得を念頭に置く必要に迫られる。しかしながら、これらを両立するためには、従来の4年生の学部教育システムでは難しい。」

中村委員

「九州国際大学の法学部では、企業から、法学部出身の人材に求めるスキルをヒアリングし、それを反映したカリキュラム編成を検討している。実際に、従来の法学部の教育内容と企業の求める教育内容にはギャップがあり、例えば民事訴訟法でも判例解釈の講義内容よりも、執行法などの企業活動に直結した内容を求めてくる。このような路線が他大学でも伝播すれば、自ずと棲み分けはなされていくのではないか。」

(4)今後の委員会活動について

今後の委員会活動について自由討議したところ、下記の旨の意見があった。

高嶌委員

「ロースクールにおける取り組みは多数考えられる。例えば先ほど述べたように各大学の試行錯誤した事例を集めるだけでも興味深い。法学部教育に関しては、学生の品質保証あるいはその前提となる授業内容の品質保証のためのIT活用という方向性を検討すべきかもしれないが、これまでの議論にあったように、法学部における教育内容そのもののビジョンが失われている。まずは教育内容のあり方から再び議論すべきではないか。」

中村委員

「学部教育の方向性については、各大学ともに右往左往しているのだから、そのソリューション方法を提起して、委員会外の教員とも議論可能な場を設けることは可能ではないか。以前の研究集会で発表した後に、参加者から自大学ではe-Learningを導入できない旨の質問を受けたが、そのような大学に対する具体的な提案と意見交換のための場を設ける必要である。」

事務局

「研究集会のような場で委員会外の教員から意見を求めるのも良いが、例えば委員会での議論をWebで公開し、日常活動の中から広がりを作ることは可能ではないか。」

吉野委員長

「これまで自由討議を2回続けてきたが、議論の内容を踏まえて次回以降はより具体的なIT活用事例を委員より紹介いただき、それを委員会外の教員にも公開し、ネットワーク上で質疑を行ってみてはどうか。」

 以上の意見を踏まえ、次回委員会では、笠原委員、中村委員より、ITを活用した教育実践例を報告いただき、その様子をストリーミング配信やオンデマンド配信、または使用した資料等をWebで公開することとした。

今回のキーワード

1.ITを用いた学生の生活サポートのシステム

2.ITを用いた教育の個別化

3.ITを用いた授業の第三者評価

4.学生の創造性育成のためのITの活用